「こちらコブラ、聞こえますか?」
「ええ、聞こえているわ。どうしたの翔くん?」
「敵の数とか聞いてないんですけど・・・・・」
「そうだっけ?」
白々しい。
とりあえず、飛べと言われたから説明も受けずに飛んだのに。
「現在、ヤク2機がここ、東京に向けて飛行している。もちろん、空自がスクランブルをかけたけど現場に向かった機は2機とも全滅」
「・・・・・」
何度も思うが、ヤクの戦闘力とは恐ろしいものだ。
かつて、世界中の空軍が壊滅したのもうなずける。
「ブルー、敵機を補足したか?」
「ううん、まだ」
早くも自分の名前に順応してくれたのか普通に返事を返してくれた。
少なくともその名前を嫌ってはいないようだ。どこか、安心してしまう。
「エリーさん。敵機は?」
「もうすぐ射程距離に・・・・・・ッ!!」
いきなり無線の向こうの空気が変わる。
すぐに緊張に張り詰めた声が返ってきた。
「コブラ!!目標ロスト!目標ロスト!」
「なっ、ブルーッ!!」
必死に周りを見渡す。右か左か。
レーダーから消えるとしたらステルス機か?いや、それならさっきまで捕捉で来たのはおかしい。と、すれば残りは。
「「下!」」
ブルーと同時に叫ぶと機体を右にブレイクさせる。
横を機関砲弾が掠めていく。
「くっ!!」
右にいきなり機体を動かしたことで生じたGに歯を食いしばって耐える。
「ブルーッ!もう一機はどこだ?」
「6時方向から来てる」
挟撃でもされれば、逃げ場がなくなる。だが、一つあいつらは大きなミスをした。
「攻撃した後が単調だっ!」
最初にバルカン攻撃をしてきた素早く回り込み、照準。ロックオン。
翼下から90式空対空誘導弾が一発発射され、敵の無防備な腹に突き刺さる。
黒い機体からいくつもの火球が生まれ、爆散。
「よしっ!いっき・・っておわっ!」
機体が突然、左にブレイク。自分の操縦では無い。
次の瞬間、けたたましいビープ音が機内にコックピット内に響き渡り、ロックオンされたことを告げる。すかさず、フレアを吐き出しミサイルを回避する。
「油断、ダメ絶対・・・ユーハブ」
「お、おう・・・アイハブ」
操縦桿に重さが戻る。
「敵は旋回して戻ってきてる・・・・次で決めよう」
相手は遠くにいて、一見すれば黒い点だ。旋回を終え、こちらに向かってくる。
こちらも機首を向け、敵の正面につける、ヘッドオン。
「ッ・・・・」
ビープ音が再び機内を満す。
敵がミサイルを発射するまであと2秒も無い。間に合うか。
F-2の機関砲と敵のミサイルが発射されるのはほぼ同時だった。
ンンドォオオオ!!
空中で二つの爆発が生まれた。
◇
ドォォォン・・・
今遠くで大きな音が聞こえた様な・・・・
キャー!!
だが、そんな゛彼女゛の疑念はフロアを満たした歓声によって打ち消されてしまう。
それに応えるべく彼女は声を張り上げた。
「みんな!おはよー!!」
レイ!レイ!レイ!レイ!
自分の名前を連呼する声まで聞こえてくる。
人垣分け入るように進みながら何気なく窓の方を見た時だった。
「ん?」
◇
『・・ラ・お・・う・・して』
まだ、飛んでいた。
どうやら賭けには勝ったようだ。
『コブラ!応答して!』
「はい、こちらコブラ。どうぞ」
無線機の向こうから安堵したような雰囲気が伝わってくる。
「心配したわよ。レーダーから一時消えちゃうし、撃墜されたのかと思ったわ」
「それは心配をおかけしました」
「焦ったわよ。君が撃墜でもされたらこの後の処理が・・・・・あっ、聞かなかったことにして」
「えぇ!?そっちですか!!」
「え?何聞こえない、無線の不調かしら?一旦無線切るわね~」
「逃げるなぁ!すべてうやむやにしようったってそうは問屋が」
ブツという音とともに無線が切られた。
この先あの上司と仕事するのかと思うと目の前が暗くなる。
「機影。6時方向」
慌ててレーダーを確認するが、映っていない。
「ブルー何も映ってないぞ」
「レーダーには何も映ってない。目視」
機体を反転させてから目を凝らす。
「俺には見えないぞ」
「けど、いる」
さっきの至近弾の爆発でレーダーが不調を起こしたのか。
「厚木タワー。そちらで何か探知しているか?」
しばしの間をおいて返答が返ってくる。
「こちらでは何も探知していないが・・・どうした?」
「いや、何でもないんだ」
後部座席にいるブルーに視線で、帰ろう、と訴えかけるがその瞳は蒼空の彼方に向けられている。
「行くか」
スロットルを開き、ブルーが見つめる先へと機体を進めながら翔は考えた。
「(レーダーに映らない機体。スカイだけが見えて俺らには見えない・・・待て・・この状況どこかで)?」
「あ」
ブルーが見ているものの正体が分かった瞬間、背筋に戦慄が走った。
気付けばスロットルを再び全開にしていた。
「きゃっ!翔!燃料!燃料が!」
「知るか!!」
ブルーが見ていたモノ――ヤクの強襲用重爆撃機、通称「ゴースト」
ヤツラは光学迷彩みたいなもので機体を視界から消すことが出来る。それは文明の利器であるレーダーからもだ。まさしく幽霊。
しかし、欠点はある。その光学迷彩は長くは維持できない。効果が切れ姿を現し、再び消えるまで若干の時間が必要だ。
その弱点を突き過去に撃墜した民空がいる。
確か、名前は・・・・
「翔!」
ブルーの声にハッとし、レーダーを見る。レーダー探知圏内ギリギリのところに二つの反応が光点となって映し出される。
「間に合うかっ!?」
それはもはや神にしか分からない。
◇
空港は突如として現れたヤクにパニックになっていた。
空港職員の避難誘導を多くの人々無視し出口に向かったため、逆につっかえて出るに出れない状況に陥っていた。
「おいっ!早く行けよ!!」
「うるさいわね!」
そんな怒鳴り声があちこちから聞こえてくる。
黒い点だったものは次第に輪郭をはっきりさせ見る者に絶望を与える。
「レイ様!レイ様!どこですか!?」
自分を呼ぶ声がする。
だが、どこだか分からない。その声も怒鳴り声に掻き消されてしまう。
「ぐすっ・・うう・・お母さん・・・ぐすっ・・・」
だけどレイの耳には不思議とその声だけはっきりと届いた。
声の方向に目を向けるとまだ、小学一年生くらいの男の子がすすり泣いているのが見える。
「どうしたのボク?」
駆け寄りながら遠慮がちに声をかける。
少年はくしゃくしゃになった顔を上げ、こちらを不思議そうに見た。
「おねぇさぁん・・・ぐすっ・・だれぇ・・・?」
一瞬、どう名乗ればいいのか分からなかった。
「(世界の歌姫?いやいや、自負しすぎでしょ。そこらの歌手?なんか安っぽい・・・・)」
ってこんなこと考えてる場合じゃなかった!
強引に引っ張っていこうと手を引くが少年は動かない。
「どうしたの・・・・」
振り返ると少年はヤクを見ていた。
いや正確には゛ヤクの遥か後方゛を見ていたのだ。
レイもつられてその方向を凝視するが少年が見つめるべきものなど空しか見当たらない。
「お姉さん見えないの?あの青い飛行機が」
青い飛行機?
ドオオオオオオン!!!
聞き返そうとしたその声は一際大きな音に上書きされた。