01
「ちくしょう・・・・なんでこんなに・・寒いし・・・遠いんだ・・・」
冷たい風が吹く中、彼―大谷翔は学校に向けて自転車をこいでいた。
彼が住んでいるアパートは基地に向かう交通の面を考えて厚木近くのマンションにした。だが、失敗だったのはこれから通う高校は厚木からほど遠い場所に位置していたのだ。金が無い彼には電車と言う便利な乗り物さえ乗る事は許されず、こうして一生懸命ペダルをこいでいるのである。
・・・ん?前回の報酬はどこに行ったかって?
゛数日前゛
唐突に俺は厚木基地のすぐ横にある民空の事務所に呼ばれた。
「お願い!お金貸して!!」
待っていたのは、エリーさんの土下座だった。
・・・は?
「・・・・・・・いや、どういう事ですか」
室内はロクに掃除もされてないのか、ほこりがそこかしこに溜まり、作業スペースであろう机にはカップ麺がうずたかく積まれ、ふしだらな生活を送っている事は一目見たら分かる。
「いやー掃除はいつも゛かすみちゃん゛が掃除してくれてるんだけど、今は中東に行っててさぁ・・・・」
「いや、そうじゃなくて、なんで金が必要なんですか?」
「いやはや、深くて深くてふか~い事情があるのよね」
話を聞く限りどうやら、エリーさんが使える金には制限があるようだ。
・・・・なぜ制限が掛かっているのかは問わないことにする。
で、金を借りようにも在籍している民空の社員は他方面に出張中であり借りようにも借りられない。そこで、新しく来た翔に白羽の矢がたった訳だ。
「・・・・・」
額を強く床に押し付け頼み込む姿を見ていて居たたまれなくなった俺は、
「いくらですか?」
これが初戦で得た報酬が忽然と消え去った理由だ。
「はぁ・・・・」
自分のお人好しさに呆れてしまう。自分が食うに困れば本末転倒だ。
思考に没頭していると目的の建物らしきものが見えてきた。学生服を着ている生徒がちらほら見えているのでまず、間違いないだろう。
自転車を降りて押しながら校門をくぐり、すぐ横にある自転車置き場に自転車を置く。鍵は普段つけっぱなしだが、最近物騒らしいので念のため抜いておく。
ねぇ、あの子誰?
さぁ?
まさか転校生?
ないない!この前だってあんなことあったんだよ
おそらく、自分より歳は2つ上な女子がこちらを指さしてきていた。本人たちはひそひそ話しているつもりだろうが、こちらにはしっかりと伝わっている。
・・・・これだから嫌なんだよ。
彼女達に聞こえないように軽く舌打ちし、校舎に入る。
中は、どこを見ても真新しく、木の臭いが鼻をつく。最近、改装工事が行われたらしいのでそのためだろう。
左右を見渡し、゛職員室゛と書かれたプレートを見つける。
おそるおそる中を覗き込むと、そろそろHRが始まるからだろうか。職員がせわしくなく行き交っている。
「すいません、小村先生はおられますか?」
中年の男性教員が彼の言葉に反応し、「あそこにおられます」と言い奥の方の机を指差す。
遠目から見てもかなりの美人だ。どこか落ち着いた雰囲気のある女性だが、機械音痴なのだろうか。必死に目の前のパソコンと格闘している。
「あ、あの・・・」
声をかけたものの・・・
「あ、あれぇ?なんで保存できないの!?ファイルの種類?知らないわよぉ・・・」
珍しい。ここまで、機械音痴なのは珍しいのではないのだろうか?
こちらが戸惑っていただろうか。すぐにこちらの存在に気付き怪訝な顔を向けられた。
「何か用ですか?」
「あの・・転校してきた大谷なんですけど・・・・」
相手は記憶を探るのか視線を彷徨わせ「あっ!」と言った。
・・・・・まさか忘れられてた?
「君が転校生ね!ごめんなさい忘れっぽい性格だから・・・・」
勢いよく椅子から立ち上がり彼女は時計を見た。
「あら、もうこんな時間なのね。そろそろHRが始まるから行きましょうか」
促されるまま職員室を出ようとした。
そんな時だった。
その゛会話゛が聞こえてきたのは。
・・・・あれが、民空?ただの子供じゃない。
どうせ勉強もロクにしてなかったんでしょうね。じゃないと民空なんてところに行かないだろうに・・・・・
話している教員の話し方には憐みが混じっていた。
゛民空゛という得体のしれない職業についているからなのか。
「・・・・・・なにも分からないくせに」
「ん?どうしたの」
だから、俺は゛日常゛が嫌いなのだ。
「別に何でもありません」