HAPPY END   作:KYO

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HAPPY END

俺には双子の妹が居る。

二卵性なんでそんなにそっくりに似るわけではないが、それでも確かに顔のパーツは良く似ている。実際、幼い頃は一覧性かと見紛う程に似ていたらしい。

しかしそれはあくまで外見だけの話。男女の差もあるが、何よりの違いが存在していた。

…それが、才能の差だった。

 

 幼い頃から俺は妹の夏樹に勝てた事がない。

 俺が好奇心で始めた様々な事、その全てに夏樹は俺の真似をする様に興味を持って、俺と同じ様に始めた。

 そしてその悉くであっさりと夏樹に追い抜かれていく。夏樹は酷く優秀で、俺の才能はそれの劣化コピーとも言えない程のレベルだった。

 最初は何だったか流石に覚えていないが、俺が記憶している限りで一番古いのがサッカー。

 実際はサッカーは言えないただの球蹴り遊びだったのだが、興味を持って参加した夏樹はあっさり俺を追い抜いて仲間達のエースになっていた。

 そんな感じで勉強、将棋、オセロ、手品、料理…好奇心で始めていた筈のそれらの事は、いつの間にか夏樹を超えられる物を探すという行為へと変わっていた。

 例え睡眠不足が慢性化するまで猛勉強しても、体を壊してしまうまで運動しても、その差はただ開くばかり。結局は全て夏樹が俺を追い抜いていき、残るのは惨めさ。そして、夏樹への怒りや憎しみ。顔つき等が明らかに違ってきたのもこれらが原因だろう。

 なにせ妹は容姿端麗。双子の俺もそうなるはずだったんだろうが、無理を繰り返した体はガタガタ。目の下の隈も慢性化しているほど。

 そんな環境でも、それなりに妹を大事にしていた俺は、まだ兄だったのかもしれない。

 

 記憶している限りで最初に言われた、今の俺を象徴するやりとりある。

 相手は母親。夏樹にお使いに行ってもらおうと考えていたらしく、財布を持っていた。

 

「夏樹は?」

「知らない」

「じゃあ冬也でいいわ。お使い行って来て」

 

―――じゃあ冬也でいい。今まで何度言われた台詞だろう。

 

「夏樹は…居ないか。じゃあ冬也でいい」

「なっちゃーん!…え、いない?じゃあとーやでいいや」

「夏樹さんは…なら代わりに冬也さんに」

 

 代わりに冬也。じゃあ冬也。冬也でいい。仕方ないから冬也に。冬也でもいいか―――

 俺の身の回りの人間がみんな、俺の事を『夏樹の代わり』をして見ている様に感じた。

 そんなわけが無いとは言い切れない。実際俺は友人が殆ど居なかったが、話しかけられることは多かった。…夏樹の代わりとして。

 確かに性格も外見も違ってきているが、多少細工をすればまた外見だけそっくりな様にもなれないことも無い。

 それに俺も夏樹も万能型だ。…俺は中の下で止まり、夏樹は上の上まで上り詰めるという違いはあるが。

 だからだろう。ある程度器用なら問題ない場合は、『夏樹の代わりに』俺が頼られる様になっていた。

 ―――誰も俺自身を見ていない。いや、家族は見ていただろう。特に夏樹は俺を俺として、懐いていた。だからこそこんな状況でも、ひん曲がった根性でも兄として居られたのだ。

 

 ある日、夏樹が右腕を骨折した。

 骨折といっても酷いものではなく、傷も残らないし骨が脆くもならない単純骨折。でも日常生活に問題が出るのは当たり前だ。

 そこで俺は、母親に言われた。

 

「夏樹を手伝ってあげなさいよ?夏樹の右腕の代わりに」

 

 成程、存在の代わりではなく、部分的なものの代わり。まるで夏樹のスペアみたいな物だな、と俺は感じた。

 それは学校で似たような事を言われ続けて、次第に重い言葉に感じてくる。

 スペア。代わりの存在。夏樹の予備―――今までの生活を考えると、まさしく俺の存在そのものを差している。

 この時から俺は徐々に夏樹の兄ではなく、夏樹のスペアとなっていった。それと共に、憎しみも増大していく。

 

 中学時代、夏樹は事件に巻き込まれた。

 こいつは勉強や運動や容姿もさる事ながら、人を惹き付ける才能まで持ち合わせている。

 それが原因でちょっとしたイザコザに巻き込まれて―――左目の視力を失った。みんな悲しんだ。

 

―――なんでこんな良い娘が、なんで夏樹ちゃんが、こんな可愛い子なのに、なんで、なんで―――

 

そして時々聞こえてくる様になる声。

 

―――冬也が失明すればよかった。冬也なら男の勲章とか言って笑って過ごせるのに。冬也が『夏樹の代わりに―――』

 

 『夏樹の代わりに』この時そう聞こえた俺は、もう全てを諦めた。俺は、夏樹のスペアでしかないんだと。

 いっそ自殺でもしてスペアを無くしてやろうかとも考えた。でも、自殺なんかして今まで努力して続けてきている『夏樹に勝てるもの探し』が全て無駄になるのは恐ろしい。

 なにせ俺にはそれしか残せる生きた証が無いのだ。せめて一つでもあれば納得も出来たが、一つも無い現状じゃ悔しくて惨めで自殺なんて出来ない。

 ならばもういい。俺は『夏樹のスペア』として、いつか見つかるかもしれない『夏樹に勝てる事』が見つかるまで生き続けよう。

 もし見つからなくても、俺が『夏樹のスペア』として死ぬことが出来たら、生きた証は残せるだろう。

 今全てを諦めて何も残さず死ぬ《BAD END》か、希望を目指し証を残して死ぬ《HAPPY END》か。俺は、後者を選んだ。

 ならばまずやる事は、スペアらしく―――左目のスペアを献上するまで。移植すれば視力が復活するのは分かっているから。

 

「なんで!なんで冬也が!?」

「お前は女の子だが、俺は男だ。男なら勲章扱いになるらしいぜ」

「そんな―――」

 

 夏樹は猛反対した。だろうなと思った。

 しかし少し予想外だったのが、母親がそれをあっさり受け入れた事だ。よくよく考えてみればこの母親は優秀な夏樹を甘やかし、スペアの俺に厳しかった。

 父親は反対してくれていたが…成程。どうやら俺は家族にまでスペアと思われていたのか。

 その日から、家族も嫌いになった。

 

 夏樹に目を移植して暫くして、夏樹は視力は低いものの眼が見えるようになり退院した。

 俺はもともと体がガタガタだったせいか、入院が長引いてしまった。でもそんな事はどうでもいい。自殺以外で、生きた証を残して死ねるなら今すぐ死んでも文句は無かったから。

 この入院期間内に院内感染か何かで死んだら、『夏樹に左目を残して死んだ』というい証を残す事ができる。というか、つまりは自殺じゃなければ何でもいいのだ。いや、スペアとしての役目が終わったなら自殺しても問題は無いか?

 

「お見舞い、来たよ」

「来なくても良いと言ってるだろうに」

「でも…」

 

 俺が入院してる間、毎日の様に夏樹はお見舞いに来た。退院した後も、俺の近くに居るようになった。

 罪悪感からだろう。でも、所詮スペアなのだから気にしなければ良いのに。

 確かに不便ではあるが、そこまで大した問題ではないのだ。気にしないで過ごしたほうが『本体の精神安定』にはいいだろう。

 そう思い夏樹を説得し続けて…高校入学の頃に、ようやく以前と同じ様な距離感に戻った。最も、罪悪感は消え去っていないみたいだったが。

 

 高校に入学して、初めて俺の感情を一部とはいえ理解してくれる友人が出来た。

 

「優秀な弟妹を持つと苦労するモンだよな」

「ああ、全くだ」

 

 友人…健二の弟は頭の出来が良いらしく、「目指せ東大!」を合言葉にひたすら勉強しているらしい。

 対する健二の成績は中の下、俺と同じくらいと来たものだ。そりゃ確かに苦労もする。

 ある意味、プレッシャーに関しては俺以上かもしれない。俺が負けてるのは同い年の双子の妹だが、健二の弟は一歳下なのだから。

 それでも健二は俺の様に壊れていない。ま、それはコイツが弟よりスポーツが得意だからだろう。俺のように全てにおいて負けているわけではない。

 正直、羨ましかった。

 

 ある日、たまたま何の用事も無いという事で久しぶりに夏樹と一緒に下校していた。

 あの人がどうした、ああしたらこうなった…人生を楽しんでいる様な顔で色々話してくる夏樹に、以前ほどの憎しみは感じない。

 勿論完全に無くなっているわけではない。でも、所詮俺はスペアだからそんな事を感じてもしょうがないと思い始めていたからだ。

 

「でね、そしたら…って、聞いてる?」

「聞いてるよ。で、そしたらどうしたって?」

「あ、うん。でね…っ!冬也!!」

「えっ―――?」

 

 突如夏樹に腕を掴まれたかと思えば、前の方に投げ飛ばされる。

 投げられた勢いのまま前のめりに倒れ、瞬時に首を夏樹へ向けて文句を言おうとした瞬間―――

 

 俺が普段見えない『左側』から突っ込んで来ていた車が、夏樹の体を撥ね飛ばした。

 

 わからない。わけがわからない。何をなにを―――こいつはナニヲシテイルンダ?

 『本体』が『スペア』を助けた?ふざけるな、本体が死んだらスペアなんて存在意義が無くなる。生きた証も何もあったもんじゃない。

 頭が痛い、吐き気がする―――でも、夏樹《本体》を助けなければ!!

 

 周囲の人間等の助けもあって、早いうちに病院へ運び込まれた。

 でも、生き残れるかはわからない…不安が俺を襲う。

 夏樹が生き残れるか。でも、不安の理由は、『俺の存在意義』であって『夏樹自身の心配』ではない。

 俺にとっては既に夏樹は妹ではなく、ただの本体。家族で無いならスルーしても良かった程の憎しみが未だ俺には宿っていたのだ。

 

 警察に事故の状況を話して欲しいと言われた頃には、両親や夏樹の友人が病院へ集まっていた。

 俺とは違って随分愛されてるな―――そう思いながら、みんなの嘆きを聞きながら警察に状況の説明をする。

 

「なんで―――」―――俺が代わりに轢かれなかったのか。

「どうして―――」―――スペアのくせに無事生き残ってるのか。

「こんなことなら―――」―――俺が代わりに死ねばよかったのに。

 

 頭が痛い。吐き気がする。奴らの嘆きが『役目を果たせよ』と俺を攻め立てている様に感じてしまう。

 実際、言ってる訳では無いというのに。

 

 警察に事情を話し続け、惹かれた理由―――俺を庇ったせいで轢かれた事を説明した時、それを聞いた夏樹の友人が泣きながら叫んだ。

 

「何であんたが代わりに生き残って、夏樹がこんな事になってるのよぉ!!」

「お前、何を言ってるんだ!?落ち着け!!」

「返して!!夏樹を返してよぉ!!」

 

 思わず笑い出してしまいそうになった。まさしく俺が考えていたことと同じ事を言われてしまったからだ。

 全く、スペアが生き残って本体がこんな状況なんて、俺にどうしろというのか。

 生きていてくれれば、まだ何とかなるかもしてないが―――

 

 そうしていると、手術室のドアが開いた。夏樹の手術に執刀していた医師が、手術の成功を伝えて、悲壮感に溢れていた周囲は安堵に包まれた。

 かくいう俺も安心していた。これで死んでしまっていたら、俺は何も無いまま終わってしまいかねなかったから。

 夏樹が死んだらスペアなんて必要ない。なら、俺も死んで楽になろうと考えていたから。役目を果たせないなら、自殺して今までの努力がみを水の泡にしても大した差は無いだろうから。

 でも、なつきは生き残った。俺なら確実に死んでいる。やはりあいつは神からも愛されているのではなかろうか。

 

 しかし、その空気は、すぐに再び絶望へと染め上げられた。

 曰く、緊急で臓器提供が必要。延命は二週間、それ以上過ぎると障害が発生する可能性が高い、と。

 

「ははっ…ははは…あっはっはははははははははははははは!!!!」

 

 笑い声。俺の笑い声。来た、これが最後の俺の役目。提供が必要な臓器はまだわからないが、どうやら俺はHAPPY ENDで終わる事が出来るようだ。

 臓器提供が成功する事は確信している。以前の眼球提供の時に、他の臓器でも適合する事は聞いていたからだ。どうやら最後には神も俺の事を見てくれたらしい。

 

「何…笑ってるの、冬也」

「ははは…あぁ、よかったじゃないか母さん、俺を犠牲にすれば夏樹は生き残れるぜ。いつも通り、昔からずっと続いてきた様に、『夏樹の代わりに』俺を殺せよ」

「ちょっと、何を…」

「何って何だよ。俺は昔から続けてきた『夏樹のスペア』としての仕事をしようとしてるだけだぜ?それにこれならお前の願いも叶うじゃないか。『夏樹を返せ』って、俺に言ってただろう?」

 

 嬉しい。楽しい。ようやく楽になれる。これで『妹を助ける為に自分を犠牲にした』という最高の生きた証を手に入れられる。俺のスペアという存在理由を達成する事も出来るし、これで俺は楽になる事が出来る。

 

「お前、本気で言ってるのか!?」

「当たり前だろう健二?まあ今まで散々探してきた『夏樹に勝てるもの』が結局見つからなかったのは残念だが、これで自殺なんて惨めな思いをせずに死ねる。生きた証も残せる。『夏樹のスペア』をしても役割も果たせる。いい事尽くめじゃないかっ!」

 

 さあ、俺を殺して臓器を夏樹に渡せ。ん?ああ、そうか、流石に病院で生きた人間を殺して臓器を手に入れるのは問題があったか。

 なら簡単だ、目の前で俺が自殺してやるから、新鮮なうちにさっさと臓器を取り出してくれよ?余った物は他人に渡しても焼いてもいいぜ。

 それじゃあ―――

 

 ―――これで、俺の物語はHAPPY ENDだ。

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