渡すタイミングを逃したプレゼント。
一周年パーティー後に地下で光秀に渡そうとしたが、なんとなく渡せなかった。
今日も残り三時間。
光秀と一緒に研究室へ戻ると三成が完成したらしい論文を印刷していた。
そういえば他のみんなが隠し事をしている中で三成だけは本気で研究室にこもっていたな。
「ふたりはパーティーに参加するつもりとか……なかったんだよな」
再び向かい合わせて座るふたりを眺めながら、なんとなく問いかける。
光秀は印刷された論文に目を通しながら「まぁな」と答えた。
「これがあったからな」
「俺も締め切りを控えてましたから」
光秀と三成がそれぞれ教えてくれる。
パーティーより仕事を優先させるのは二人らしい事だと思う。
むしろこのままだと光秀は本気で誕生日を忘れてそうだ。
「一周年パーティーに出て欲しかったのか?」
「そんなことはない」
少し茶化すような光秀の言い草に俺は慌てて首を振る。
「仕事を優先させるのは当たり前のことだ。俺でもそうしてる」
「だろうな」
どんな理由があろうと仕事よりパーティーを優先させることなんてありえない。
むしろそんなのは光秀じゃない。
三成が印刷を終えた論文に光秀が目を通していく。
そのそばで俺は少しだけ暇をもて余していた。
今日も残り二時間半。
プレゼント、いつ渡そう。
俺は椅子に座り頬杖をついて嘆息を漏らしていた。
そんな俺を見かねてか三成がコーヒーをいれてくれる。そして俺の耳元でささやいた。
「プレゼントですか?」
やはり三成は察しが良い。
俺はマグカップに口を当てながら軽くうなずく。
「あと二時間ですね」
三成の言葉に再びうなずいた。すると三成はわかりましたと言いながら俺のそばを離れる。
「明紫波、後は俺が院長の元へ持っていきますから貴方は帰りなさい」
「は? いきなりなんだよ。これは俺が持ってくっつったろ?」
「早く帰りなさい」
「なんで命令口調なんだよ」
「 は や く か え り な さ い 」
有無を言わさぬ迫力で三成は光秀の仕事を奪い取ってくれた。
ありがとう、三成。
俺は心の中で礼を言いつつ研究室を後にした。光秀は釈然としない顔だけど、とりあえず帰る方向で動いてくれるらしい。
医大を出て駐車場へ向かいながら光秀は俺に目を向ける。
「寮まで送りゃいいか」
光秀の問いかけに俺は無言で首を横へ振る。
すると光秀は頭をかきながら「そっか…」とつぶやいた。
途中コンビニへ寄りながら光秀のマンションへ移動する。
今日も残り一時間。
「時間遅くなったけど飯食うだろ?」
玄関で靴を脱ぎながら言った光秀は荷物をリビングへ置いてキッチンに入ろうとする。
俺はそんな光秀の背中を眺めつつ、自然とその目を手元に落とした。
渡すタイミングがわからない。
「真琴ー、ビール飲むだろー」
悩む俺の前に缶ビールが大量に並べられる。
そういえば今夜も熱帯夜だとかで暑かったな。喉もそれなりに乾いている。
よし、とりあえず飲んで考えよう。
「酒の肴できたぞー……って、おい真琴」
やがて戻ってきた光秀が俺を見て眉を潜めた。
どうした光秀?
首をぽてんとかしげた俺の目の前で光秀はテーブルに皿を置く。
そしてからになったビールの缶をガサガサと集め始めた。
何をちんたら片付けなんてしてるんだ。
「みつひれそこにすわれー!」
光秀に命令しながら時計に目を向ける。
あと五分もないじゃないか。
「ばかめみつひれ!あとごふんしかないらんか!」
「……おー、意味わかんねーなー」
命令を聞いた光秀は俺の隣に座った。残っていた缶ビールを開けながらテレビに目を向ける。
「こっちみろばかやろ!」
光秀の顔をつかんでこちらを向けさせると袋を押し付けた。
もう時間がないじゃないか。
「……なんだこれ」
「プレゼントの他にあるか!」
「お、おお……なんかわかんねーけどありがとな」
よし、光秀が受け取った。
時計を確認すると今まさに零時になろうとしている。
「光秀、誕生日らぞ」
忘れてないだろうなと問いかけると光秀がなるほどとつぶやきながら不敵に笑った。
「プレゼント、もう一個くれるんだろうな?」
「んむ?」
なんの話だ?
光秀の言う意味がわからない俺は酔って赤らんだ顔のまま首をかしげた。