哀しい人に憑依した   作:極大成功教の信者

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色んな原典の複合からなる主人公(憑依)です。本当に円卓関連の話はフランス人の小説以外にもケルト的な伝説を元にした民謡とか多くて困る。しかもそういうのは設定結構バラつきありますし。
基本的にはオリジナルの円卓の話で終わると思います。原作参加はないかなと思ってましたけど、取り敢えず完結させて余裕があったら書きます。



第1話

 

 

何処までも広がる白亜の王国。

それは少年王と騎士達の夢見た理想。民が望んだ安寧である。

誰もが笑い、小さな幸せを見出す日常。脅かされることのない平穏な毎日。望んだものはそう大きくなかったが、世界が新たな理に書き換えられていく中、それに抗う神代の残り香。特異点とも呼べた、この滅びが渦巻くアルビオンにおいては遠過ぎた幻想だった。

 

 

ただ独り私だけが、いや、もしやしたら花の魔術師も知っていたかもしれないが、この国の終わりを理解していた。

名高き裏切りの騎士と叛逆の騎士。其処から始まる悲劇。音を立てて崩れ落ちる騎士達の結束、元々秒読みだった滅びの来襲。

 

この結末は変えられるのだろうか。

いや、無理だろう。であるならば、どうか1人でも多くの者が幸せであるようにと願おう。所詮は私は矮小な人間。人は救えど国は救えない。

結末を変えられる者がいるとすれば、我が王に他ならない。

彼こそがブリテンの希望なのだから。しかして私には未来を伝える事など出来ようもない。どうか道を踏み誤ることのないようにと祈りを捧げ、時に影からその道を支えよう。

ゆえに今こそが私の忠義を示すときなのだ。

 

 

 

誰もが王を賛美した。滅私奉公、何よりも国と民の繁栄を願う彼はまさに理想の聖王であった。

王の威光に目が眩んだ騎士達は今日も忠義を尽くす。誰もが真実に気づかず、もしくは気づいてなお、王ならば超えて行くと本気で信じている。

 

 

 

しかし、そんなものは間違っている。

滅びは必定なのだ。

 

王とて人だ。神ではない。王ならば、とそんな無責任な信頼はあり得ない。我らも王の道に殉じるのだからと言ったところで限度があろう。

休むことなく平和のために戦い続けるのが王として当たり前だと。笑わせてくれる、そんなわけがないだろう。

 

王も王だ。

彼は何も分かってはいない。完璧であろうとするあまりに国の限界も、騎士達の苦悩も、何一つ分かっていない。あまりの合理主義に騎士達の理想論と相反する事も理解しているかどうか。

 

 

 

ゆえに私は言わねばならない。この致命的な間違いがどうにか正されることを願って、清廉にあり過ぎた王に、畏れ多くも諌言を。

 

「ーーーアーサー王は人の心がわからない」

 

 

 

♦︎♦︎

 

 

 

物心ついた頃には父も母もいなかった。

父は私が生まれる前に死に、母は私を産んですぐに亡くなってしまった。誰にもその出生を祝福されなかった子供、それが私である。与えられた名は「哀しみの子」。親の愛の代わりに私は生まれながらに謂わゆる前世というものの記憶があるだけ。

 

王子でありながら身寄りのない私は母方の叔父であるコーンウォールのマルク王の元で育てられた。

 

マルクは私に優しかった。

それが親の愛を受けることのなかった私を哀れんでのことと言うのは幼心で理解出来た。しかし、その優しさがかえって私を傷つけた。

決して私は己が独りだということを哀しんだことはない。周囲は皆が憐憫の目を向けるが、一切私が気にしていないのだから止して欲しい。独りでも強く生きていこうという私の意志がまるで間違ったものかのように感じるのだ。私が独りであることが間違っているかのように思ってしまうのだ。

 

独りではいけないのだろうか、親のない私は可哀想なのだろうか。

 

そんな誰かの決めつけに従いたくはなかったが、周りがそういうのならときっとそうなのだと折れたのは、余りに私が力のない幼子だった証拠だろう。

 

マルクの元で力を磨き、私はやがて彼に仕える騎士となった。

 

 

 

♦︎♦︎

 

 

 

文武に優れ、誰よりも慈悲深い騎士がある。

それはコーンウォールのマルク王に仕える、誰よりも哀しく美しい男であると。

 

アイルランドの騎士、モルオルトは音に聞いた男を前にしていた。

コーンウォールに対し朝貢を要求した彼はマルク王に拒絶され、決闘の場に立たされていた。

ルール無用の殺し合いである。己が勝てば朝貢関係をコーンウォールに認めさせる。己が負ければ断固として拒絶、それはおろか殺されるかもしれない。

 

騎士としての力量に確かな自信を持つモルオルトは相対する男を注意深く観察する。

長い真紅の髪に閉じられた双眸、その貌は儚げで吹けば消えてしまうような気さえもした。しかし、彼は確かに強者であることを認識していた。この決闘の場において緊張など欠片もしていないように見える。それは自身の絶対的な力に裏打ちされた自信なのか、それとも無神経なだけなのか。

 

「ああ、私は哀しい。このような争いに意味はなく、ただただ傷つき、血を流す。それがこの世の無情でしょうか」

 

腰に差した剣を抜き、正眼に構えられる。その流麗な動作は敵ながら見事と言わざるを得ない。モルオルトでさえ、感嘆の息を漏らした。

やがて閉じられていた眼が開き、黄金の瞳がこちらを射抜く。その様子にぞわりと背が冷えた。

 

「脅えているではないですか。剣を下ろしなさい、アイルランドの騎士よ。私は人を傷つける事を愉しむようなことは出来ないのですから」

 

なんと、己の僅かな恐れさえも見抜いたというのか。

これは本当に優れた騎士なのだろう。疑念は確信に変わった。

モルオルトも構えていた剣を鞘から抜き、向かいの騎士へと向ける。

 

「アイルランドの騎士、モルオルト。コーンウォールに名高き騎士よ、いざ尋常に勝負!」

 

「コーンウォール、マルク王の騎士、トリスタン。どうか無用な血は流さぬように」

 

一拍おいて、2人は地を蹴る。

激しい金属の撃ち合う音がこだまし、オレンジ色の火花が舞った。

 

突進の勢いのまま剣をぶつけ、鍔迫り合いとなる。数瞬の押し合いを経て、トリスタンは刃の上を滑らせるように斬り下ろしの一撃を放つ。しかし、それはモルオルトの肩を浅く裂くだけに止まる。相手も同じ考えか、振られた剣にトリスタンも脇腹を裂かれた。

傷を庇うことなく一歩を踏み込み、返す刀でさらなる迫撃。東洋剣術の燕返しに近い、斬り下ろしからの斬り上げ。鋭いV字を描く剣閃に、若干オーバーな動作でモルオルトは後ろへ跳んだ。

 

「上手いな、その若さでよくやるというべきか」

 

「私は嬉しい、貴方がただの愚か者でないことが。私の力も理解いただけた。出来ればそのまま諦めて頂きたい。繰り返しますが私は無用な血は流したくありません」

 

「それは叶わぬ相談だ。私も国の誇りを背負って此処にいる」

 

残念だ、そう言った彼は握っていた剣を鞘へと戻し、代わりに背にある弓を手に取った。

しかし、不思議な事に矢筒は見当たらない。

 

「本当に残念です。どうか苦しむことのないよう、安らかに」

 

矢もないというのにトリスタンは弓弦に手をかけ、引く。

 

モルオルトは咄嗟に剣を盾のように己の首を庇った。

甲高い音が響き、剣に罅が走り僅かに表面が欠けた。

 

「よもや矢のない弓とはな。魔弓とは随分と珍しいものだ」

 

内心、冷や汗を流しながらモルオルトは冷静に分析する。あの弓は非常に危険だ。なにより矢が見えないというのは恐ろしい。眼を離せば射られているなど冗談ではない。

 

「まさか防がれるとは思ってもいませんでしたよ」

 

モルオルトとて防げたのは奇跡に近いと思っていた。なにやら不吉な予感に駆られ、咄嗟に庇ったに過ぎない。二度目も防げるかと問われれば無理だと答えよう。二射も首を狙うとは限らないのだから。

 

再びトリスタンが弓弦に指をかけた。

モルオルトは眼を見開き、彼の一挙一動を注視する。眼の向ける位置から何処に矢が来るかを読むしかない。無駄に距離を取ってしまったが悪手だった。策もない突貫は自殺行為となってしまう。

彼には難しいと分かっていても再び矢を防ぐことしか出来ない。だが、裏を返せば防ぐ事さえ出来れば己の勝利は確実だ。どれだけの弓兵だろうが己の最速の突貫に合わせ弓を引く事は不可能なはずだ。

 

「ああ、本当に私は哀しい。こうしてまた生命を刈り取らねばならぬとは」

 

トリスタンが弓弦を弾くと風の刃はモルオルトの肉体をバラバラに斬り刻んだ。

 

「…………は…?」

 

驚愕の表情のモルオルトの首が宙を舞う。

真紅の飛沫が辺りを染めた。鉄の匂いが充満し、肉片が大地を汚す。

 

「ああ、早とちりが過ぎました。我が魔弓、フェイルノートは矢ではなく、風の刃を放つ弓。剣一本で防げるものではありません」

 

悲痛な面持ちでトリスタンは告げる。

聞くものはいない。相対した騎士は既に絶命している。

 

慈悲深き彼はただその場に立ち尽くし、彼の冥福を祈った。

 

 

 

 

 





主人公の持つ知識はあくまでトマス・マロニーの「アーサー王の死」と軽くwikiで調べた円卓知識だけです。型月とか知らない系主人公です。

サー・トリスタンというと弓のイメージ強いですが、剣士としても一流以上とされる事が多いです。デュランダルやジョワユースと同じ素材、製法のカテーナという剣を持っているとか。
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