ただし、リハビリ回でもありますので短めです。久しぶりなのに御免なさい。
キャスターとの敗戦および全面潰走から24時間が経過した未遠川。時刻は深夜の0時。
敗軍の将遠坂凛とルヴィア・ゼリッタ・エーデルフェルトに率いられたイリヤスフィールと美遊・エーデルフェルトの四人は、キャスターへの雪辱を果たすため作戦を練った上で復讐戦に臨みに来ていた。
・・・・・・イリヤの遠距離攻撃における火力不足は解消されないまま、美遊の飛行魔術は代案で解決できたけどそれ以外に変化はしないまま、前回ボロ敗けを喫した相手に禄な情報収集もしないまま、味方同士で手の内すら開かすこともなく・・・・・・。
「大丈夫! ぶっつけ本番で勝つのが魔法少女の正しい勝ち方なんだから!」
「成せば成る! 勝てると信じて突き進んだ先にこそ勝利の栄光があるのですわ!」
「・・・いいけどさ~、別に。でもそれ、魔法少女モノじゃなくて魔法バトルアニメの勝ち方だよね?」
「・・・二人とも、理論派を気取っているだけで中身は脳筋だから・・・」
冷静にツッコむ幼女二人と、「考えるな!信じて突き進むのだ!!」な女子高生二人。・・・どっちが年上かよくわからん・・・。
ーーそして。
「接界完了! もう負けは許されないわ! 一気に片をつけるわよ!」
「2度目の負けは許しませんよ!」
『了解!』
再戦開始! リターンマッチだ!
ーーそんな地上で行われている英霊を宿せる魔法少女二人の戦いを地上五〇〇メートルの高度から悠然と見下ろし、杯を交わしながら見物している者たちがいた。
「何ともはや、醜猥なる眺めよ・・・」
街に有るものでは満たされなかったのでAmazonを使い、高級ワインを取り寄せさせた金色のサーヴァントが血の色をした液体を干しながら辛辣な口調で、
「いかに雑種とはいえ、少しばかりは名を馳せた猛者どもが使っていた宝具の担い手たちであろうに・・・・・・それが揃いも揃ってあのような贋作の始末に明け暮れるとは。嘆かわしいにも程があるな。そうは思わんか? 墜ちた騎士王よ」
ゆったりとした態度と姿勢で飲み干した杯を差しだし、ブリテンを統べる暴君に酌を注ぐよう要求し、相手の形の良い眉毛を逆立てることに成功する。ーーしてしまう・・・。
「ふん。笑わせるな金色。戦いに美醜など関係ない。勝利こそが戦いを正当化し、華麗に脚色して流血から民の眼を覆い隠す。
徹底した統治の為の戦い、自由なき自由を与えるための蹂躙こそ王の生業。貴様の華やかさを戦に求める愉悦こそ余計なものなのだ」
ふつうの魔法少女モノでは絶対に口に出してはいけない台詞を不機嫌そうな表情でつぶやく、黒い騎士王のサーヴァント。
その結果。
「あ? 今なんと言ったパチモン」
「なんだ? やる気か金ピカメッキ。殺すぞ?」
「おい、やめろお前ら。下よりもはげしい死闘を空で始めてくれるな、本当に・・・いやマジで」
喧嘩の仲裁には定評があると言うか、日常茶飯事と言うべきなのか。
問題児オンリーなエルメロイ教室、通称『メンドクサそうな生徒はエルメロイ先生に押しつけよう教室』を束ねるエリート問題児育成の達人ロード・エルメロイⅡ世が間に入らざるを得ない事態に陥るパターンを延々と繰り返される羽目になってしまっていた。
・・・そろそろ生身の肉体だけではなくて、エーテル製の身体でも胃を心配しなくてはならなくなるかもしれなかった。
二人の暴君は神秘の船ヴィマーナの船上から月見酒の肴としてイリヤたちの戦いを見物に来ており、ロードは二騎の暴君サーヴァントが暴走して美遠川を破壊しないよう止めるために付いてきてたのである。
(まったく! つくづく暴君という奴らは扱いづらい英霊ばかりだな! どんな些細なことからでも即殺し合いに発展させようとする!
コイツ等と比べたら、まだあのバカの方がマシだ! 百倍はマシだ! 一万倍ぐらいはマシだ! マシってだけで良いって言ってるわけじゃないんだけどな!)
罵倒するフリをして、さりげなく自分の主君プッシュを心中でしておく忠臣ヘタレ魔術師の元少年ウェイバー・ベルベットこと現美少女小学生魔術師ヴェルベット・ウェーバー。
この平行世界だと冬木市で聖杯戦争がおこなわれた過去はないはずだったけど、変な形で王の宴(モドキ)は再現されてはいた。変な形ではあるけれども!
ちなみにだが、アスオルフォは一カ所にジッとしてられない性格だから置いてきた。ゲーム類一式とバカ征服王が好物としていたオススメ料理店の料理をしこたま置いてきたから戦闘終了までは保つであろう。・・・正直この二人とバカ一騎を同時に相手取ってツッコミ合戦やれる自信は伝説のロードにも無い・・・。
「・・・しかし、なんだな。美醜だの真贋だのはどうでもよいとしても、なんとなくあのキャスターを見ていると不愉快な心地になってくる気がするな。
ーーー具体的には恥ずかしい衣装を着させて配下の兵どもに、バックの体勢で縛り上げて回させたいような、そんな気分だ」
「おい? 常人の倫理からは外れた魔術師相手とはいえ一応教鞭を執ってる人間の前でそういう表現は使うな。最古参の天才バカだと子供の時からいるんだからな」
「小娘の言うとおりだぞ、墜ちた騎士王よ。そのような雑事は庭師の仕事だ。我が治めていたウルクではそうであった」
「庭師が強姦してたのかよ!? 超古代の性倫理観ヒドすぎるな!!」
ロードは叫んだけど、実際にヒドい。たとえば目の前で酒飲んでる金ピカ王の親友。
生まれた当初の彼は、金ピカの増長をたしなめるために女神アルルが粘土から創造して毛むくじゃらの野人で、動物並の知能しか持たない獣同然の存在だったのだが、ウルクの都からやってきた娼婦が誘惑して交わり、三日三晩どころか6日と7晩の間ずっと交わり続けたことで過剰だった精力を吐き出し終えて獣人から人間へと昇格している。
・・・あらためて考えてみると、ものスゲー子供に教え伝えたりしてはいけなそうな物語だった。率直に言って金ピカの親友もウルクからきた娼婦も「どんだけー・・・」である、性的な意味で。
挙げ句、目の前の優男な金ピカは親友と戦うためにウルクで待ちかまえていて、三日三晩殴り会い続けた末に決着がつかないまま親友になったとかいうドラゴン○ールも真っ青の超王道すぎるバトルもの展開をした経験があるという熱くなるときは滅茶苦茶熱くなりそうな王様だというのだから、本気でウルク人はスゴすぎる。
できれば金ピカには彼らを基準に現代日本人を計って欲しくはないものである。割と真摯に本当に。
「ほう? あの銀髪の小娘・・・おもしろい戦術を考えつくものだな。戦術的発想においては今のところ理屈屋な聖杯娘を上回っているようだ」
男二人(片方は元男だが)のやりとりを無視して眼下を見下ろしていたセイバー・オルタは、軽く感嘆の声を上げてイリヤの散弾を反射で弾かせての弾幕戦術を賞賛する。
名君から暴君になったことでランク落ちしてはいても一国の王として十分と言われる元カリスマ:Bランク所有者であり、現在でもEランクを保持したままになっている、軍団を指揮する希有な才能持ちである。
歪であり人の評価基準が他人とやや異なっているため、彼女は彼女なりの理由からイリヤに対して好感をもったらしい。
そんな黒く染まった騎士王自体には興味が薄かったが、英雄王は英雄王で娯楽の種を見つけていたのか「ふん」と鼻で笑うと、ヴィマーナの高度を下げて降下させ始める。
「どうやら雑種の処理も終わりつつあるようだ。魔女めの最期に我の尊き姿を見上げる権利ぐらい与えてやるのも一興と言うものか」
「ほう? 王自ら下々の者たちと同じ目線の高さまで降りてくると?」
「図に乗るな雑種の騎士王モドキ! 我には我のやるべきことがあるというだけの事だ!
ーーーあの、黒髪を頭の左右から垂らしている奴・・・会ったことはないはずなのだが、妙に気に食わん。どうやら次の戦いが始まりそうでもあることだしな。
一生ものの赤っ恥衣装を身につけているところを購入したばかりの一眼レフカメラで撮影して永久保存してやろうかと思った。ただ、それだけだ。邪推は許さん」
なんか色々と混ざっていて微妙な状況だったが、そんな中でもロード一人だけは真面目な顔して戦場全体を見渡していた。
“あのときの無様な醜態の恥を濯ぐために”
“あの頃より少しだけでもマシになれた自分を誉めてやれるようになるために”
“死んだと思わせて敵を謀り、闇の中から不意打ちの一撃で首をはねようとした暗殺者の刃から未熟な自分を守ってくれた王の背中に報いるために”
「・・・この程度の功績で、あなたの幕下に加わるのに相応しい資格が得られないのは百も承知だ。それでも才能のないボクには、こうして少しずつ積み上げていって到達するしか道はないんだ。
見ていてくれなくてもいいから、見ている価値を手に入れられたときには快く迎え入れてくれよボクの王。あの時みたいに背中を力一杯叩きながらさ・・・。
お前にとってどうだろうとも、やっぱりあれはボクの人生を変えた一撃だったんだから・・・・・・」
つづく