Fateプリズマ☆ロード   作:ひきがやもとまち

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大分久方ぶりの更新となって申し訳ありませんでした…。
書く予定のストーリーは覚えてたんですけど、文章を忘れてしまい、試行錯誤してる内に時間がかかり過ぎてしまった上に、何か微妙な出来になってしまいました…無駄に長いですし。

せめて原文の文章を読み直してから書くべきだったと今更ながらに反省しております…。必要があれば原文バージョンで書き直すとして、流石に待たせすぎてしまったので投稿だけは先にしておくことをお許しいただければ幸いです。


15話「先生・・・・・・私は、普通の女の子に戻りたいです・・・」「つまり復活フラグですね(ルビー)」

 ――月が遠い。

 雲は晴れ、夜の闇は青みを帯びる。

 じき黎明。

 長かった夜を、これで終わりとするため最後の戦いの夜。

 

 魔術師達にとってのラストバトルが始まる当日の昼間のこと。

 私立穂群原学園初等部にあるクラスの一室は、重苦しい空気に一部包まれていた――。

 

 

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

『『う、うわ~・・・・・・なんか空気悪・・・て言うか、重ッ!!』』

 

 

 一人の聖杯少女と、もう一人の“元”聖杯少女(器)とが決戦の日の当日に学校で同じクラスだったから近い席に着き合って、黙り込んだまま目線すら合わせようとしないものだから周りのクラスメイト兼友達としては気にせずにはいられない。そんな状況を作り出す結界の中枢コアに気づかぬ内になってしまっていた二人の少女たち。

 

 美遊・エーデルフェルトと、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 昨日までは大分距離が縮まって仲良くなっていたように見えた二人が、何故だか朝来たときには重苦しい空気と沈黙に包まれていたのである。

 

 夜に神秘ぶつけ合いしてるから、昼間の一般人たちに知られたら催眠術か口封じかの二者択一されてしまう魔術師たちの事情など知るよしもない一般人の女子小学生からみれば、まったくワケガワカラナイヨという結論に辿り着いて混沌化してしまうのは仕方のないことだったのだから―――。

 

「うーむ・・・・・・どうにもこれは・・・・・・なんか雰囲気悪いな・・・」

「うん・・・イリヤちゃんと美遊さん、ケンカでもしたのかな?」

「昨日の昼までは、ちょっとずつ美遊さんもうち解けてきた感じだったのに、いったい何が・・・?」

 

 イリヤたちのクラスメイトである女子生徒三人、栗原雀花、桂実々、森山郡奈亀が二人から少し距離を置いて対応を話し合う声すら、聞こえているのに意識する気になれないほどナニカに心囚われ黙り込んでいる夜時間限定での魔法少女たち。

 

「うォーッス、イリヤ!! 本日はご機嫌ハウアーユー!!!」

「おはよう、タツコ・・・・・・雲がとっても綺麗だね・・・・・・」

「オーウ、ソーバーッド!? なんだよ元気ねーなぁ!

 朝からそんなんじゃ放課後まで保たねーぞ! なぁ、美遊?」

「――うるさい。少し静かにして」

「・・・・・・・・・・・・はい・・・・・・・・・(T_T)/~」

 

 そして仲良し四人目の友達であるメンタルうじ虫なのにKYだから自覚なき特攻をしてしまいがちな体育会系格闘少女、嶽間沢龍子がいつも通り自爆特攻して仲間たちのもとへと泣きながら戻ってきて慰めてもらうオチがつく。

 

「・・・・・・タツコ・・・・・・勇者だな、お前は。勇者と書いてバカとも呼べるが」

「ち、ちくしょう・・・、誰か俺に優しくしてくれ・・・・・・! イリヤの返事もなんか文学的で頭よさそーな気がして悔しかったし!!」

「はっはっは、よしよし。この脳ミソまでウジ虫め。アレは別に文学的じゃなかったぞ、タッツン」

 

 コントじみたやり取りが横で繰り広げられてることにも気づいていながら、気にはしないで夜の魔術師事情のことだけで頭一杯な二人の少女たち。

 

 ・・・・・・余談だが、異なる平行世界における同じ名前の同じ地域にある同じ学校の高等部において、イリヤの兄である被災経験もちなサバイバーズギルドで、おまけにファザーコンプレックスまで兼ね備えていた正義の味方志望の少年にも、同学年の女友達に近い関係を持つ者たちに似たような三人組と一人の格闘少女がいて、魔術勝負の横で似たようなコント展開を繰り広げている似て非なる平行世界も存在したりはするのだが・・・・・・余談である。

 

 と言うより、世界を隔てる次元の壁を越えるための魔術研究こそ、すべての魔術師たちの悲願である【根源の渦】へと辿り着ける大魔術のため、それが出来れば苦労はしない。万能の願望器である聖杯でさえ最初はそれを目的として生み出されてたくらいだし。

 

「ミユキチのやろー、そろそろデレ期かと思ったのに、またツンに戻りやがって!

 もつれか!? もつれた痴情がただれてるのか!?」

「それ意味わかって言ってる? ――お、ヴェルッチも到着したみたいだな」

「マジか!? よし今度こそ行くぜ! うォーッス、ヴェルッチ! 本日はご機嫌ハウアバウトユー!!!」

 

『『回復するの早っ!?』』

 

 新たに教室へと入ってきた三人目の魔法少女もとい、デミサーヴァント少女ことヴェルベット・ウェーバーちゃん。時計塔の名物講師ロード・エルメロイⅡ世が大師父の気まぐれかなんかでTS幼女化した姿のご登場である。

 

 身体が幼くなっているとは言え、自身が受け持っている教え子の少年少女たちの中には、呪詛に近い魔術を単なる生態としてクラスメイトに向けて撃ち放って、呪いが命中しても気付くことなく相手が嫌がるあだ名を呼び続けられる、仲が良すぎる超問題児で超優等生な天才バカと直弟子の臭いフェチ少年をはじめとして、教室内で魔術戦おっぱじめる問題児ばかりで溢れかえっていたエルメロイ教室を7年にわたって存続してきた実績を持った存在なのである。

 

 魔術の最高学府でも持て余すほどの『天啓の忌み子』とかと比べれば、たかが日本の小学校で仲違いしかかってるように見えなくもない女子小学生コンビ二人の諍いなど、文字通り魔術の如くアッサリと解決してくれるに違いない。

 

 そのはずだったのだが―――。

 

 

「ああ、レディ・ガクマザワ君か。こういう場合はMorning.と返すべきが礼儀なのかな?

 それとも場が教室であることを踏まえてGood morning, class.とするべきなのか・・・・・・」

「う、うォォォッ!? や、ヤベェ! 英語だ! 英語で返されちまった!? ど、どどどどうしよう!? どうすればいい!? こういう場合はえーとえーと・・・イエス!イエス!オーケーオーケー!!」

「おい、落ち着け。バカが丸出しになり過ぎて、タッツンが人としてアウトになりかけてる」

「・・・もはや、ここまで来ると才能だな・・・。この何度やられても学ばずに挑んでいくタッツンの特性を使ったら、あたしら一儲けできるかもしれない・・・」

「それは人道的にも龍子ちゃん的にも、雀花ちゃん的にさえ完全アウトになると思うよ!? 法律とか色々な理由的に!」

 

 という大騒ぎを経てからしか会話が始められない辺り、たしかに倫敦に置いてきた自習プリントの山と戦い続けてるだろう教え子たちと似ていなくもないのだが。

 しかし今回ばかりは、流石のロードⅡ世先生も分が悪かったらしい。

 

「あー、すまんヴェルッチ。このバカは置いとくとしてだ。・・・イリヤたちが“ああなってる原因”について何か心当たりとか知ってたりしないかな?

 アンタって確か、イリヤの家の隣に引っ越してきたって藤村先生が言ってたし、なんか知らないかなって――」

「・・・ああ、その事か。私も気にはなっていたのだが・・・・・・申し訳ない。今朝あったときには既にああだったため、私にも原因はさっぱりわからなくて困っていたところなんだ」

 

 沈痛そうな表情で語られた内容に、聞いてきた側もそれ以上言葉を続けることが出来ず、「そうか・・・」とだけ言い残して、何かしら対策を立てるかどうかの話し合いの場へと帰って行くクラスメイトの女子生徒たち。

 

 それを見送った後、幼女姿となった今のロードは軽く溜息をついてから自分の席へと着席する。

 『神秘の隠匿』は時計塔に所属する魔術師たちにとって最大の禁忌とされている行為なのだ。容易く何も知らない一般人である少女たちに、魔術師たちが夜の時間に行っている暗闘に関係した出来事の情報など教えられるものではない。

 まして形ばかりとは言え、時計塔の一級講師というロードの立場からすれば尚更だ。

 

 とはいえ今回の問いばかりは、如何に名探偵などと囃し立てられている彼だった過去を持つ彼女にも無理な話であった。

 

(わからない・・・・・・何故だ? ピースが何か抜けているということなのか・・・?)

 

 何かと自慢話を語りに来たがる友人みたいな何かになった石油王から、『根掘り葉掘り血管から内蔵まですべて捲き散らかすのが探偵の義務』などと舌鋒鋭く言われたことがある身だったとして、コレばかりは無理なのである。

 

 何故ならば―――

 

 

(やはり“メイド服姿”を見られたことが、そんなにイヤだったのだろうか?

 イリヤ君の方でも、アレだけの行為に及んだ相手と顔を合わせづらいというのは理解できる話でもあることだし。・・・そのはずなのだが・・・)

 

 

 そう。ヴェルベット・ウェーバーことロード・エルメロイⅡ世には、イリヤと美遊との間で精神的不和が生じている原因となった事件の存在そのものを全く知らないまま、自分が記憶している二人一緒の最後の記憶を基準に考えてしまっていたから、今一現状と噛み合わない気がして困っていたりしたのでありましたとさ。

 

 なにしろ、時系列順に考えると彼女がイリヤと美遊の関係が悪くなる前に出会った記憶では、イリヤが熱出して学校休んで美遊がメイド服姿をドアップで晒してエロゲーヒロインみたいなセリフを叫んで、イリヤがR指定まではいかずともR16ぐらいは年齢指定されそうなテンションとノリでイベントをこなすため我を失って美遊に襲いかかってたシーンが最後なのである。

 

 イリヤが自分でも知らない力暴発させて、美遊が傷ついたイリヤを見て自分一人で戦う決意を固めた日の夜にロードは、アーチャーが気まぐれでイリヤの中から引きずり出されてしまったナニカを討伐して聖堂教会との対立を避けて時計塔の平和を守るためローカル正義の味方活動で忙しかったため同行しておらず、ようやく終わって到着したときにはイリヤの魔力暴発でアサシンが吹っ飛ばされて跡形もなくなり、イリヤが逃げ出し、イリヤを追って凛たちも撤退した後だったため誰一人残っておらず、無人の鏡面空間が崩壊するギリギリまでイリヤたちを探し求めて歩き続けただけで終わってしまっていたりする。

 

 なにしろ《対魔力スキル》最弱に近いアサシンのサーヴァントで、しかも宝具による分裂能力《ザ・バーニャ》によって数こそ増えるが個々の能力値は通常のアサシンよりも更に弱くなってしまった《百の貌のハサン》に向けて長年ため込まれ続けてた魔力が暴発した訳だから・・・・・・そりゃまぁチリ一つ残さず灰燼に帰すだろう。ステータスの数値差的に考えて、当然の帰結として。

 

 何というか、なんだかんだ言いながらも面倒見がいい性格が災いして、無駄な上に最重要部分を完全に見逃し、しかも見てないシーンの直前にある最後の記憶とのギャップ激しすぎて混乱させられまくるという、凄まじく第三者から見れば空回り状態にあるのが現在の名教師ロード・エルメロイⅡ世先生でありましたとさ。

 

 所詮は隠れ潜むしか能のない暗殺者如きと言われたことのある英霊。

 ルール破って、その土地由来の実在したかさえ不明な幽霊を仮初めの疑似契約で実体化させれた場合には、逆に正面切っての戦いになるためロードの到着まで持ち堪えたかもしれなかったのだが・・・・・・。

 

 まぁ、遍く過去を見通す『目』を持っていて、異なる異相の未来から過去を類推できるギルガメッシュをサーヴァントとしてマスター契約してる者には本来、成立しないはずの矛盾だったのだけれども。

 

 言うこと訊かないし、訊いてくれても気紛れで使う時を決めるから役立つか解らないし。

 要するに大体全部、AUOのせいで今に至ってると。平行世界では、よくある事だし今更過ぎる事になった後だけれども。

 

(だが、何か引っかかる・・・・・・重要なピースを見落としてるような気がしなくもない・・・・・・何だ? 何が足りない?)

 

 

 ――こうしてロードも答えが分からず、自問自答している間に時間は過ぎ去り、昼に成り。

 夜までにはまだ時間があるけど学校は終わって家路につく放課後ティータイムとも呼ばれていたことのある、部活動やってない生徒たちにとっての帰宅時間をも過ぎた頃。

 

 

 

 

「・・・・・・はぁ・・・何やってるんだろう、私って・・・・・・」

 

 

 トボトボとした足取りで、イリヤスフィールは自宅へと通じる帰宅路から少しハズレて夕日に照らされた冬木大橋を歩きに来ていた。

 

 学校が終わった後、しばらく待ってから生徒がいなくなった時間を見計らい、自分の通う初等部と隣にある穂群原学園高等部のグラウンドに凛を呼び出し、クラスカード探索の任を降りたい旨を伝える『退魔法少女願い』を提出して受理されて、特に契約した訳ではない一方的に宣言してただけだったサーヴァント契約を一方的に破棄宣言されてお役御免となり、それを横で気配消しながら聞いてた美遊にも伝わってしまって『私一人でやるから、あなたは戦わなくていい』と断言もされてしまい、なんとなく手持ち無沙汰なまま家に直行する気になれなくなって、この場所まで道を迂回して来てしまっていた。

 

 あるいは異なる平行世界に生きる血の繋がらない義理の兄たちが、ほぼ全パターンで道に迷ったときには何故だか冬木大橋に来たがってた縁が影響した結果だったのかもしれなかったが、今この世界を生きるイリヤに別世界の実家と結婚した衛宮家の事情など全く知るはずもないので気にせずトボトボ歩くことだけ続けていって・・・・・・町の近くまで来てしまった。

 

『イリヤさん、イリヤさん。さすがに遠出しすぎなのでは?』

「・・・え? あ、本当だ。気付かなかった・・・私、こんな所まで来ちゃってたんだ・・・」

『もー、しっかりして下さいよ。今朝セラさんに“もう夜で歩いたりしない”って約束したこと忘れたんですか? 

 “戦いの中で己の未熟さを自覚して戦いから逃げ出して後悔している魔法少女”っていうのは定番ですけど、さすがに夜のオフィス街を小学生美少女が歩いて苦悩するのは感心しません。それは別ジャンルの魔法少女です。そして大抵は闇落ちします。だからダメ』

「うん、ごめんルビー・・・・・・あと、さっきから何の話をしてるのか私には全くワケガワカラナイヨ・・・・・・」

 

 微妙に解ってそうな、解ってなさそうなズレてる気もする返答を小声で返しながら、周囲の人たちに不審がられない辺りをグルリと、イリヤは見渡す。

 

 普通の日常を送る普通の人々。ほんの数週間前まで自分が属していた世界で、今また戻ってきた『普通の人間でしかない女の子』がいるべき平凡な現実・・・・・・。

 

 スーパーで買い物をしているお爺さんがいる。本屋の窓ガラスから欠伸をしているバイト店員さんが見える。

 喫茶店で高校生同士のカップルが肩を寄せ合って仲よさそうな姿に軽く嫉妬させられそうになり、夫婦喧嘩している男女に美少女が仲裁して全力での殴り合いが始まって、奥さんの右フックが旦那さんの顎に決まって噴水に落ちていく姿が視界に入――――って、ちょっと!?

 

「え? いや、ちょっと待ってちょっと待って! 今なんかおかしな光景が割り込んでなかったかな!? 平凡な日常風景に紛れ込んでちゃいけない何かこう・・・神秘の無駄遣い的なナニカみたいなものが!?」

 

 流石の傷心中なイリヤであっても、無視するのは無理がありすぎな被害甚大の日常風景の一部がぶっ壊されてく光景を前にして、大声でツッコまずに入られなくされてしまう異常現象。

 コーヒーショップの窓ガラスが割られ、テーブルは引っ繰り返され、その上に乗っていた料理の皿が飛んできて、皿にあったまま食べていないパスタのソースが―――イリヤの顔面めがけてジャストミートしに来てる。パスタだけに。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁッ!? 服が汚れて顔までベタベタになるーッ!!」

 

 間一髪、足の速さと逃げ足の速さでは大抵の相手に勝てる自信があるイリヤの悲鳴と共に発動した、超人的な横っ飛び回避によって無事に制服と顔と髪の毛を油汚れから守り切り、帰ってからセラに怒られずに済ませることを成し遂げたイリヤスフィール。

 

 だが、今の叫び声で相手に気付かれてしまったようだった。

 可愛らしい服を着てピンク色の髪色をしている、とても可愛い女の子・・・・・・だと思われるけど何か違う気もしなくもない不思議な美少女(?)がイリヤを見つけて「あれあれ~?」と驚いたように声を上げ。

 

「あっれー? 君ってたしかマスターと仲良くしてる女の子の友達だよね? 何でこんなトコロにいるのぉ?」

「い、いやあの・・・何でこんなトコロにいるのかと聞かれましても・・・」

 

 イリヤ、しどろもどろ。どうやら見たことある気がした相手の顔で合ってたらしい。

 少し前に、今さっき辞めてきたばかりの非日常空間で、翼の生えたデッカいライオンさんみたいなナニカの背に凜たちと一緒に一纏めにされて運ばれていった記憶があり、そのときの御者さんがこんな顔した美少女騎士さんだったような気がしたようなしなかったような・・・って、かすかな希望に縋って回れ右する寸前までいった寸前に起きた出来事だったため、完全に油断してましたとさ。

 

「あ、そういえば君への自己紹介はまだだったよね? ボクの名はアストルフォっていうんだ!

 何を隠そう、彼の名高きシャルルマーニュ十二勇士に出てくる騎士の一人さッ! エッヘン!!」

「そ、そーですか・・・・・・」

 

 いったい何を隠しているのか解りようがないほど堂々と宣言されてしまった、自分が普通じゃないし今の時代の人間でもない発言。

 

 さっきまで自分が望んで棄ててきた非日常の魔術師達による殺し合いワールドに戻ってこなくて良くなったことに、胸の痛みを感じていた自分だったけれども、コイツと偶然出会ってしまっただけで「やっぱり戻れなくなって良かった気」が少しだけしてきてしまうほど・・・・・・神秘を秘匿する気一切なさ過ぎなお気楽サーヴァント、アストルフォは今日も元気に待機命令無視することなく三分で忘れて街へと繰り出し騒ぎを起こしまくっておりましたとさ。 

  

「え、えーとぉ・・・あ、アストルフォさんこそ一体どうしてこんなトコロに・・・?」

「暇だったからね! ボク、家でジッとしてるのって苦手なタイプなんだよねバカだから! だからお散歩してたんだ!

 そしたら今さっきそこで女の人と男の人が喧嘩になっちゃって、ボクが間に入って仲介して上げた訳!」

「そ、そうなんですか・・・」

 

 なんとか話と意識と論点をズラそうと、テキトーに思いついた話題を口にしただけのイリヤスフィール。

 自分も知らない未知の力が宿っているかもしれないという恐怖から逃げ出すために、昨日ワケが分からないまま味方の美遊たちごと傷つけてしまって周囲一帯を爆発させてしまえるような恐るべき力があることなど考えたくもないイリヤとしては、なんとか自分が気にしている話題からハズレてくれればそれで良かったのだ。――そのはずだったのだけれども。

 

 

「だからボクは二人に言ってあげたんだよね。

 “思いっきり喧嘩して、憂さを晴らせばいいじゃないか!”ってね♪ そこで君が来たってワケ」

「やめて!? 今の私にピンポイント過ぎる過去話をするのは、お願いだから辞めようよーッ!?」

 

 

 無自覚に無悪意に、特になにか考えて言っている訳でもなく、ただ『人間大好き』を理由に良いも悪いもなく、『友達だから助けるのは当たり前』な天衣無縫の元男の娘騎士で現TS男の娘騎士アストルフォの生き方は今のイリヤにとって光り輝いていて、光輝きすぎてて眩しかったから全速力で逃げ出しました。本日二度目の逃亡です。

 

 

 

 

 

「・・・はぁ、はぁ・・・・・・、危なかった・・・。あやうく罪悪感で死んじゃうところだったよ・・・」

 

 明るすぎる天衣無縫の騎士の無垢な笑顔が、今日ばかりは恐ろしすぎたので逆方向に脇目も振らず全力疾走して逃げ出した先で、戦いから逃げ出して魔法少女を辞めたイリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、壁に手をつき息を荒げながらも、戦い以外からも逃げ出したばかりの身を休ませていた。

 

『まったくです。まさかリアル男の娘の英霊なんて存在が実在するなんて! これでは小学生美少女で魔法少女という地位の優位性が危うくなってしまうじゃないですか! 最近では、そういう趣向の方々も多い世の中だというのに! イリヤさんにとって大ピンチな人でしたよ本当に!!』

「ルビー・・・さっきはソッチの心配について考えてたから、さっきは一言も喋らなかったんだ・・・・・・あと、そういうピンチだったら私的には大歓迎したいところなんだけど・・・?」

 

 落ち込んでいる暗い瞳のまま、白い目付きで魔法のステッキ待機モードを見下ろす器用なマネをやって見せながらイリヤスフィールは、落ち込んでるとき特有のマイナス思考によって、都合の悪い部分を自分以外のせいに押しつけてしまう考え方に基づいて考えたことを言ってしまう。

 

(そういう人たちが、あの人の方に集まってくれたら私の方には、マトモな趣味の人が来てくれるかもしれないし・・・・・・)

 

 といった思考法に基づく意見を、である。

 そしてイリヤは英霊じゃないので固有結界はないけど、妙な特殊スキル持ちの人間ではあり、どっかのロードと同じく《幸運値》のステータスが変なときだけ無駄に低くなる場合があるらしく。

 

 

「・・・・・・む? そこに隠れ潜んでいるのはアサシンかと思ったが、マスターが気を遣ってやっている娘か。このような所でなにをしている? どこぞの国で反乱でも起こさせるためプロパガンダに励んでいたのか?」

「しないよ!? そんな事しないよ! 私は普通の人間で、戦う覚悟とか理由なんてなかった女の子なんだから、そんなこと出来る訳ないんだからね!? むしろレベル上がってるし!!」

 

 天衣無縫の騎士に続いて、隣家に住んでる憑依英霊少女と契約したサーヴァント・パート2と遭遇する羽目に陥ってしまっていた。

 今度は黒く染まった高潔なる騎士王だった暴君様である。

 

 実はイリヤ主観だと、この二人が顔合わせて話をするのは初めてであり、記憶に残る一番新しい遭遇だと、河原でキャスター倒した直後に背後から襲われそうになって、イリヤの中から英雄王がナニカを引きずり出されて記憶がアヤフヤになった時が最も新しい思い出しかない相手だったりするのが、世界中で最も有名な聖剣の担い手の騎士王さまだったりするのである。

 とは言え、今日は最初からバイザー無しで素顔さらしての登場ではあったけれども。

 

「――って、セイバー!? どうしてここに・・・って言うかその両手に抱えてる紙パックの山はなに!?」

 

 ただし、今日はバイザーだけでなく黒い鎧も無しで、格好いいダークスーツ姿だったけれども。

 ダークスーツは格好いいのに、胸いっぱい抱えてるハンバーガーの入ったロゴマーク入り紙パックの山が台無しになっちゃっているのだけれども。

 

「ムグムグ・・・これは中々の味だな。・・・モグモグ、そのチーズ味も寄越せ。ごっくん。

 私という完璧な秩序を敷く王が、この場へ来た理由は一つだ。

 サーヴァントの使命としてマスターの指示を待っているだけでは刺激が足りない、腹も減った。

 故にジャンクフードの王様のようなパンケーキが何時まで経っても追加が届かないので王自ら赴いてやっただけの事、下らんことで私の昼マックを邪魔するな。

 店員、ナゲット5個も追加で持つがよい。モグモグ」 

 

 要するに、昼飯作ってくれる保護者の帰りが遅いから勝手に買い食いしに来た、と。そういう事を、この完璧な秩序を敷く伝説の聖剣の担い手王が黒く染まった姿は言いたいらしい。

 ・・・・・・人々の抱いた幻想、崩壊待ったなしの台無し感が凄まじすぎる、夢もヘッタクレモない姿であった・・・・・・。

 

「そういう貴様は、この様なところへ何をしに来ている? 戦う覚悟や理由を持たない自分に今更気づいて怖じ気づき、戦友を一人置き去りにして逃げ出してでも来たのか?」

「~~~ッ、なに・・・を、言って―――」

「まぁ、良い。体はともかく、心が弱い者は見ていて辛い。

 心弱き貴様が戦場に立ち続け、敵に心砕かれ膝を屈した醜態を晒すとき、私がその惨めな首を頂こうという欲求に駆られないとも言い切れないのでな。逃げるというなら早い内に超した事はなかろうよ・・・・・・モグモグ。

 店員、ナゲット十個追加だ。次は黄色いソースでな」

「~~~~~~ッ、―――――ッッ!!!」

 

 そうして、臣下が死のうと民が苦しもうと涙一つ流さなくなってしまった完璧さを求める暴君からの、優しくない正しい言葉に急所を穿たれ、今のイリヤは再び逃げ出した。

 ・・・・・・マックのハンバーガーに対してだけは、涙は流さずとも涎は垂らしてたみたいだったけれども・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・、今日は、いったい、なんなのよ・・・! まったく、もう・・・・・・っ」

 

 三度目の逃亡によって疲労困憊し、顔面蒼白になって壁に手をつき、息も絶え絶えに苦しそうな吐息をする普通の女の子に戻ってきたはずの小学生イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 

 ・・・・・・その割には、今までで一番サーヴァントという不思議現象の塊との遭遇率が高くなりすぎてる気がするのだけど・・・・・・気のせいだとイリヤは思いたい。というか信じたい。

 自分は普通だ、特別な力なんてない、あんなトンデモナイ破壊が起こせる力なんて自分の中に有るわけが無い、怖い、恐ろしい―――逃げたいッ!!

 

 そういう恐怖心が理由になって怖さから逃げ出してきたはずなのに・・・・・・何故だか逃げ出した後の方が、後ろから追っかけてきて過去へと引きずり込もうとする力が大きくなりまくってるような気がするのは気のせいなんだと本気で信じたい。

 

 なんか、このままだと死者達に囚われたまま、面倒なところに引き込まれそうな予感がして仕方が無い。

 サーヴァントだって死者である事には変わりなく、幽霊か英霊か反英霊かは、大勢の人々という他人達が勝手な幻想を押しつけてくれるかどうかだけの違いでしか無い。

 たとえばケルト神話の大英雄が、全身タイツの槍男でも英霊だと思ってくれる人が多ければ英霊カテゴリーに入れられてるのと同じように・・・・・・。

 

 

「――ほう。何やら妙な気配がすると思ったが・・・・・・征服王の家臣が贔屓にしておる幼童であったか。なんだ、偉大なる我の威光に目を輝かせるため馳せ参じたか? 無理もないことだが、愛い奴よ。はっはっは」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 そして最後に一番面倒くさそうなサーヴァントに遭遇してしまった、今日最後で一番の不幸なイリヤスフィールちゃん。

 出会った回数はほかの二人と同じぐらいなんだけど、もう三人目だし同類なのは間違いないし。今更驚いて慌てても、どうにもならない事は完全に熟知させられちゃった後だし。

 こうなるとイリヤに残された選択肢はシンプルに、二つに一つしか道は無い。

 

 ・・・・・・今すぐ全力で逃げるか? 面倒くさくなると承知で話を聞くか?

 不毛すぎる二者択一だけが、サーヴァント相手には太刀打ちできない普通の女の子でしかなくなった今のイリヤに選べる道だったから・・・・・・。

 

「フ・・・しょせんは食も雑種の一生も、我にとっては変わらず娯楽。そんなものも楽しめぬなら人間がさもしい証拠。――よかろう。

 我と相対した以上は存分に楽しむ義務を与える。王の食事に相伴することを許す」

 

 そして、やっぱり面倒くさそうな事態に巻き込んで来やがった!

 しかも冬木市内でも値段が高い事で有名な、超高級お寿司屋さんの前で!!

 

(どうするの!? 逃げる!? いいえ・・・・・・逃げる以外に選択肢は他にないわ!

 だって私は普通の女の子だもん!

 昨夜のアレみたいな事ができる私なんて、私じゃない―――っ)

 

「金なら、我が払ってやろう。

 ・・・・・・それとも我が招く栄誉を賜わした宴を拒否する無礼を働くか・・・・・・?」

 

「喜んでご一緒させていただきます!!」

 

 

 そして結局、巻き込まれると。

 イリヤは知らなかったが、金ピカの唯我独尊AUO様とエンカウントしてしまった時点で、逃亡不可能な強制イベントに巻き込まれており、相手の都合も神秘の隠匿も一切気にせずゲートでバビロンして、昨夜のアレクラスの爆発起こせる宝具の大量連射を脅しに使ってこれる暴君英霊様に普通の女の子が我を通そうなんて言うのは命知らずにもほどがある蛮勇の極みだったのだから・・・・・・。

 

 

「へい! らっしゃい! 大トロお待ち! アワビお待ち! 赤貝二枚お待ちぃッ!!」

 

 そして始まる、怒濤の高級寿司屋で高額メニューのオンパレード。・・・庶民には色々と嬉しいけど苦しくもある状況です。

 異なる平行世界で生きてる、西洋のお城で見た目に相応しいお姫様な生活送っている自分自身だったら別として、この世界で中流家庭に生まれ育ってる庶民のイリヤスフィールには立場的にチト辛い。

 

「遠慮はいらぬ。王の隣で食を楽しまぬなど万死に値する」

「は、はぁ・・・・・・えっとそのぉ・・・」

「それとも何やら、つまらぬ些事に捕らわれ食事も楽しめぬ程さもしい心情にでもなっておるのか?」

「つ、つまらないって・・・・・・」

 

 さすがにイリヤスフィールは、その言い草にはカチンとくるものがあった。

 確かに自分たちから見て強すぎる相手にとっては、その程度の事かもしれない。だけど自分だって、そして美遊だって必死になってやってた事で、逃げたのだって別に戦いが怖くなっただけじゃなかったし・・・・・・

 

「そ、その・・・最初は正直、興味本位って言うか面白半分だったって言うか・・・・・・。

 魔法少女なんて言っても、やってることは命がけの戦いで、私は本当に死にかけてた事に気づかされて・・・・・・今頃になってミユが言ってた思い出して・・・・・・私には“戦うだけの覚悟も理由もありはしなかったんだ”って言葉が突き刺さって・・・・・・、考えが甘かったって思い知らされたから・・・・・・だから!!」

 

 

「足りぬな。それは自ずから考えた答えではなく、見つけ出した答えであろう?」

 

 

「・・・・・・ッッ!!!」

 

 

 隣に座ってアワビを頬張っていた黄金の英霊から放たれた言葉の刃が、イリヤの心の心臓に穴を開ける呪いのように、美遊の言葉以上に深く穿ち貫かれた瞬間だった。

 

「幼童ならば、それらしくしか出来ぬことを気にかけるのは傲慢というものだ。

 雑種の娘よ、お前はどちらだ?

 貴様が今述べた理屈は、貴様が選んだ意思での選択によるものであったか?

 思考を放棄し、命運の流れを言い訳にした名も知らぬ他者の傀儡としての選択であったか?」

「わ、わたしは・・・・・・私が選んだ道は・・・・・・っ」

 

 ―――どっちだったのだろう?

 自分で望んだ事のはずなのに、胸が痛い・・・・・・この選択は本当に自分で選んだ答えだったのか・・・?

 ただ大好きなアニメの中で主人公達が思い悩んでいたときのセリフや苦悩するシーンを、言い訳として今の自分に当てはまっているものを見つけ出してきて、口にしていただけだったかもしれない・・・・・・。

 

「――疑問が生まれたか。ならば良しとしよう」

「え・・・?」

 

 イリヤの心を見透かしたように黄金の英雄王は、笑いながら言葉を続ける。

 

「ウルクの民ならば、お前ぐらいの年頃には心根が完成している者も多かったが、この時代の雑種にそこまでは期待するだけ無駄な徒労というものよ。

 だが、いずこかの異相で我と契約せし幼童は、忠臣に値する者としての記憶を座に持ち帰るだけの価値を示した。

 お前も征服王の臣下の友とならんと欲する者ならば、その程度のことはやってのけよ。

 ・・・・・・でなければ、貴様が認められぬ事を気にかけておる小娘に置いていかれるだけで終わるぞ?」

「―――ッ!!」

「盲信を打ち破る礎として試練は与えてやった。

 幼童に相応しき、それらしい試練をな。励めよ、小娘」

 

 

『毎度、ありがとうやんした―――ッ!!!!』

 

 

 颯爽と背を向けて去って行く黄金の若者に、亭主一同深々と頭を下げて最上級客並の感謝を込めて、巨万に近い富をたった一食だけで置いていってしまったお大臣様に捧げ、他の客は唖然とし―――イリヤ一人だけが沈黙したままナニカを深く考え込んだ後、ゆっくりと席を立って店を出る。

 

 自分が何をすべきかは分かっていない。自分が何者なのか、この力がなんなのかも分かっていないし、怖くて怖くて仕方がないのも何一つ変わっていないけれど―――一つだけ分かった事がある。

 

 

「・・・・・・いったん、家に帰ろう・・・・・・」

 

 

 ――ただ、それを選ぶには僅かに足りない。自分の中で整合性が取れてない、納得がいってない。自分で選んで出した答えじゃない。

 だからこそ、今は帰る。家に帰ってお風呂に入って――考える。

 

 今の自分の始まりの場所で。力を与えてもらった場所で。この戦いが始まった場所で、もう一度―――戦いに参加する理由が自分にあるのかどうかを考えたい。

 

 そう思う気持ちが自分の中に生じた事だけは分かっていたから―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――そして、その頃。

 

 

「イヤッホゥ! イリヤちゃ~ん!! お・ひ・さ~~~ッッ!!!

 ママが一時帰宅して帰ってきたわよ~っ、だから今はこうしてスキンシップを―――って、あら?

 イリヤまだお風呂に入ってなかったのかしら? おかしいわねぇ~。セラ、イリヤは今どこにいるの? もう帰ってきてる時間のはずでしょ?」

「奥様・・・申し訳ございません。

 先ほど隣の屋敷に住んでいる女の子から、“うちの連中がお宅のお子さんを引っ張り回していたらしく帰りが遅くなってしまいました”という連絡がありまして・・・・・・。

 今さっき、未遠川の近くにある高級寿司店を出たばかりとの事でしたので、ご帰宅には今しばらく時間がかかるのではと・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 

 

 ―――こうして、久しぶりに一時帰宅してきたイリヤのお母さんは、いったん戻ってきた自宅から一端外に出戻ってきて、再びタイミングを見計らって帰宅できるよう、今度はメイドのセラに連絡してくれるよう携帯電話も渡してもらってからリテイクしに行きましたとさ。

 

 時間軸の順番が少しでもズレたら成立しなくなる重大なイベントが、起きるか起きないかで人の運命というものは結構変わる。

 そして自らが体験した時間軸での出来事以外には、人は己の持っていたかもしれない現在のために捨て去ってきた可能性上の現在を知ることは出来ない。

 

 存外に近くに落ちていたかもしれない、奇妙な可能性上の分岐した平行世界を、人も英霊もほとんどの者は気づく事なく今日も昼の時間が終わり―――魔術師達の夜が訪れる。

 

 

 

 

「さぁ・・・覚悟はいいわね。ラストバトルを始めるわよ!!」

 

 

 

つづく

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