Fateプリズマ☆ロード   作:ひきがやもとまち

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久々の更新なのにロードらしさを意識するあまりプリヤらしさが壊滅してしまいました。ごめんなさい。やはり全く異なる作風の二つを組み合わせるのは難しいぜぃ。


8話「いろいろな意味で負けました(凛さんたちがね?)」

 午前0時5分。冬木市深遠川にかかる橋の下には、見事なまでに無様な姿で傷ついた体と心を休めている敗残兵たちの姿があった。

 

「な、なんだったのよ、あの敵は・・・」

 

 ボロボロのズタズタになった遠坂凛が、魔力切れによるスタミナ切れでへろへろになりながら、息も絶え絶えにそう呟く。

 

「ちょっと、どう言うことですの!? カレイドの魔法少女は無敵なのではなくて!?」

『わたしに当たるのはおやめくださいルヴィア様』

 

 凛と同じ理由でボロボロのズタズタで体力も切れかけているはずなのに、どう言うわけだか元気いっぱいカレイドステッキ・サファイアに八つ当たりしているのはルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。

 北欧の名門出であり、実力は高いが反比例してプライドも高くなる典型的なお嬢様キャラであり、こういう敗戦時には一番荒れるのも彼女のようなタイプの特徴である。

 

 ーーそれでいて延々と敗北を気にして強くなろうと努力する真のプライドの所有者は惑星ベジータの王子ぐらいなものなのだから、プライドというのもよく分からないなーー

 

 そう考えているのは、彼女たちの敗けっぷりを橋の上から見物していたから無傷のロード・エルメロイⅡ世ことヴェルベット・ウェーバーである。

 

 ーーが、はっきり言って彼女に言わせてもらうなら。

 

「おまえたちが悪い」

 

 今回の敗因は、この一言に尽きるのだった。

 

「実力よりもクラス同士の相性がものを言うサーヴァントを相手に回して、魔術戦闘オンリーで正面から仕掛けるなんて、お前らは一体どこの猪武者な騎士王様なんだ?」

 

 彼女の言葉には容赦というものが一切ない。当たり前だ。

 十年以上もの長きにわたって何千何万と繰り返しあの時の聖杯戦争を違う形で再現したシミュレートを実行し、同じ数だけ死んできた身だ。敗戦と戦死について、彼は一家言もっている。無論それは、彼女になった程度で損なわれるほど脆いもので決してない。

 

「ぐ・・・そ、それは・・・ですが! 遠坂凛より先にカードを回収しなければならないこの状況を鑑みれば、巧緻よりも拙速を尊ぶのは必然的な成り行きではありませんこと!?」

「・・・いつからカード回収任務がカード回収レースに宗旨換えしてたのかは置いておくとして、だ。ぶっちゃけ、お前らに巧緻さって存在してたの?

 てっきり、真っ正面から突っ込んでいって正面突破しながら敵を関節技でぶち殺す作戦もどきを、数少ない実現可能な戦術だと思い込んでる脳筋お嬢様連合だとばかり・・・」

「「失礼にもほどがある!(ありますわ!)」」

 

 夜空に向かい、額に青筋を浮かべながら怒鳴り声を張り上げて遺憾の意を表す野人お嬢様二人組。

 彼女らの傍らにはそれぞれ一人ずつ幼い少女が身体を癒していて。

 

「ごめん、凛さん・・・。私も脳筋だと、ちょっとだけ思ってた・・・」

「・・・ノーコメントで」

 

 視線をどこか遠くに見やりながら呟く彼女たちの声は、幸いにも保護者を自認する二人の猿人類には届いていなかった。二人はますますヒートアップしていき、対照的に疲れを倍加させられていくロードはテンションが上がらずダダ下がりを繰り返していく。

 

 イリヤは放置状態な上に何も知らされてすらいないため、暇つぶしにルビーとの会話を楽しみだして、美遊は今回の敗戦で使わなかったゲイボルクについて思いを馳せ、「ランサーって対魔術師戦に特化した最強の暗殺者だと思うんだけど、どうして誰も暗殺に用いないんだろう?」と、ちょっとだけ危ない思考に至り始めていた。

 

 兄への思いがロードより下になり、愛に生きるヤンデレ英霊を宿すことに成功した彼女には倫理観とかあんまり無くて、結果良ければすべてよし。結果的にヴェルベットと結ばれるなら多少の重傷や重病ぐらい、献身的に看病できる口実として受け入れようと割り切っていたのだ。色々とヤバい気がするが、ヤンデレとは元来そう言うものである。

 

『まぁまぁヴェルベットさん、落ち着いて。

 実際、大抵の相手なら圧倒できるだけの性能はありますが、それでも相性というものはありますよ。さっきのアレなんかは、その代表みたいなものでしょう。

 さすがにランクAの魔術障壁が突破されるなんて、誰も想像してない展開じゃないですか』

 

 ルビーの言うことにも一理あるにはある。先ほど戦って負けた相手、おそらくはキャスタークラスのサーヴァントなのだろうが、まるで要塞みたいに堅固な魔術障壁を敷いていた。ほぼ確実に現代では失われた神代の魔術大系のひとつ魔力指向の制御平面だ。

 

 現代でも使われている魔術の一種ではあるのだが、根本的に魔術基盤が異なっているのでまったくの別物と考えてしまって問題あるまい。

 現代魔術の常識が通用しない相手に、現代の魔術師たちが挑むのだから確かに予想だにしない手段を用いて不意打ちをかけられては、負けるのも撤退するのもやむを得ないのだが、しかしである。

 

 冷酷な言いようになってしまうが、それが戦であり戦争であり、聖杯戦争であるのも事実ではあるのだった。

 

「戦いにおいて速さを尊ぶのは、陣というのが刻一刻と位置を変えていくものだからだ。

 位置を掴んだときに叩いておかないと、取り逃してから後悔しても遅いから速やかに敵を倒すのであって、陣地内に立て籠もって出るに出られなくなってるクラスカードで召還されたサーヴァント相手には既存の正論は意味を成さない。捨ててしまえ、そんなゴミくずは」

「「ご、ゴミくず・・・」」

 

 歴史と格式と伝統を愛し、尊重している二人のお嬢様には割と本気で大ダメージを与える言葉だったのだが、ロードにとっては挿して感銘を受けるような代物でもない。単に自分の主君が言ってたことを自分なりに解釈して当てはめてみただけのことである。

 あの偉大すぎる上にデタラメすぎた暴君のチャリオットを使えば何とかなるかとも考えていたロードだったが、現実にて気を目の当たりにして考えを改めた。

 ルビーの言ではないが、確かにアレは相性が悪い。悪すぎる。ライダーのクラスで正面決戦を挑みたい相手では全くなかったのだ。

 

「確認するのだが、お前たち。研究開始から数百年、十代以上にわたって魔術の研鑽を行ってきた歴史ある名門がセカンドオーナーとして管理している土地で、仕掛けられた防衛魔術を無効化させてから当主本人さえもを攻撃可能とする雷撃を天候操作魔術で行使できるか?」

「「・・・は?」」

 

 突然に突拍子もない内容をーーそれも無茶振りにも程がありすぎる内容で質問された二人の名門魔術師お嬢様はポカンと間抜け面をさらし、「いいから、一先ず考えてみろ」と促され、今までの実績を鑑みた上で一応考えるだけ考えてやるかと上から目線で予測していくとーー

 

「無理ね」

「無理ですわね」

 

 二人同時に異口同音の答えが返ってきた。

 然も有りなん、と頷くロード。実際、無茶ぶりすぎることは誰よりも彼女自身が自覚していた事でもある質問だったのだから当然だ。

 

 天候魔術は只でさえ成功例が少ない上に、現代では精霊や妖精など気候に関する神秘の多くが劣化している。天候の変わりやすい湖水地方で雷雲の発生しやすい状況が揃ってでもいなければ、現代の魔術師たちでは束になっても太刀打ちできない。

 むしろ、あの性格の悪い石油王の魔術使いでさえ、それだけやって「後押しするのがやっと」だったのだ。才能は彼以上でも、手段を選び手順を守り、奪わず殺さず略奪も簒奪もしない彼女らの方法論では、到達するのに相応の修練と時間が必要不可欠となる術式でもあった。・・・無論、天才である以上いつか必ず辿りつきはするのだろうけれど・・・。

 

 

「それを極大規模で行使できる魔術師だぞ、アレは。自分の恋敵ごと城を焼き払ったという魔女の火を本当に使えるオリジナル様だ。到底、現代に生きる人間の魔術師が魔術戦を挑んで勝てる相手じゃないだろうさ」

「ちょっ!? それってまさか・・・!」

「もしや・・・魔女メディアですの!? 竜使いとしても有名な彼女がキャスターとして現界していると!?」

 

 無言で頷くロード。思わず空を仰ぎたくなる二人のお嬢様。

 確かにそれなら自分たちが負けるのも道理だわ、と。

 

 神代の時代の魔術師相手に現代の魔術師が挑んで勝てる道理はない。それは魔術師たちの常識として彼女たちも知ってはいたのだが、それでも魔術師とはピンキリなものだ。神代の魔術師=現代の名門魔術師一族の後継者である自分たちが勝てない相手とは限らない。いや、勝てる!絶対に!

 

 ・・・そんな意味不明で根拠の所以が誰にも理解できない理由で勝利を確信したまま突貫し、敗北を喫した今回の敗戦ではあったが、相手の正体さえ分かっていたなら今少し対策の立て用はあったのだ。

 さすがの彼女たちも、知名度補正だけでも神代の時代ではトップクラスに属している魔女メディア相手に真っ正面から小細工なしで挑んだりはしない。魔術勝負を挑んで勝てる相手では絶対にないからだ。

 

 とはいえ、

 

「見た目から判断したのだから、実物を見るまで正体が分からなかったのは私の責任ではあるまい? そもそも聖杯戦争において真名は秘するものだ。真名が割れたら負けが確定する英霊というのは存外多いからな。今回のこれは、真名さえ分かっていたら慎重に相手をする英霊筆頭と呼ぶべきだろうな。

 とどのつまり、お前たちの想定が甘すぎた。敗北した理由はこれに尽きるだろうよ」

「「ぐ、ぐぐぐぐぐ・・・・・・!!!!!」」

 

 歯ぎしりしながらロードを睨む二人であったが、構いやしない。

 如何に時計塔が誇る才媛二人とは言え現時点ではバリュエの主家バリュエレータの頂点に立つロード・バリュエレータこと、イノライ・バリュエレータ・アトロホルムを前にしたときほどの圧迫感は感じない。

 ましてや彼女言うところの「俺の馬鹿弟子」蒼崎燈子と比べれば月と赤子だ。話にならない。

 

 ーーまぁ、あの化け物と人間の魔術師を同列に扱ってしまえば誰でも同じ扱いになるのであろうが・・・。

 

 ちなみにだが、ロードがルヴィアよりロード・バリュエレータを恐れる一番の理由は、彼女がルヴィアの生家エーデルフェルト家の属するトランベリオ派の有力者一族の当主であるからだ。

 エルメロイが貴族主義なのは先代が亡くなるまでは時計塔でも指折りの大貴族だったからで、新世代を率いてはいるが権威も財力も損失した今のエルメロイは実質的にトランベリオ派に近かったりする。

 二世自身の振る舞いは保守にも革新にも阿ねらない中立でもあるので、貴族主義の首魁であるバルトロメイからは「お前、うちの派閥でも飯食ってんじゃないの?」と、日頃からいろいろ言われてたりするので面倒事は避けたいのだ。

 

 念のために付け足しておくと、うっかりでも本当に鞍替えした場合には待っているのはマストダイ一択だからそのおつもりで。

 

 

 組織に属する組織人にとっては人事上の優劣は人格や能力、才能よりも重視し尊重されて然るべきものである。

 彼女になってもロードはロード。彼だった頃の小市民ぶりは抜けてはいない。

 

 ーー余談だが、如何にもな貴族令嬢風を吹かせたがるお嬢様キャラ、ルヴィア・ゼリッタ・エーデルフェルトが属しているトランベリオ派の通称は『民主主義派閥』と言う。

 単に勢力図を分かり易くするための類別に過ぎず、才能勝負の魔術社会で本当に民主主義を実行する気などサラサラないのであろうが、それでも彼らの勢力に刹那主義的思想を持った「今このときを駆け抜ける以外にやることなどありはしない」と言い切ったロード・バリュエレータのような人物が多く在籍していることも事実である。

 あと、成り上がりが多いです。ここ重要ですので、テストにはでません。だしたら社会的に拙いから重要なのです。

 

 

「言っておくが、エルメロイ教室の「天啓の忌み子」は、この魔術を現代に生きる魔術師が再現して見せたときに術式の構築時における効率の悪さと、儀式魔術として成立させている魔術師の数を正確に言い当てた上で、問題のある人物を人数と番号で指摘してしまったらしい。視力を魔術で強化してやっと見ることが可能となるほどの遠方から、一目見ただけでな」

「「・・・!!!」」

 

 二人の天才の表情が苦痛と屈辱に歪む。今まで信じて疑わなかった自己の才能が自惚れかもしれない可能性に直面させられたからだ。

 

 エルメロイ教室の「天啓の忌み子」ことフラッド・エスカルドスの話は、噂で聞いていた。所属する教室が違いすぎるので直接あったことはないが、規格外の才能を持った化け物であると言う噂を。

 

 彼を過小評価していたつもりはないし、事実として彼女たちはフラッドのことを自分たちと“並び立つかもしれないほどの”脅威として認め、ライバルとして敬意と敵意と対抗意識を抱いていたのだ。

 

 だが、それは今呆気なく崩れ去った。跡形もないほどに、徹底的に壊滅的に、草木一本残らぬ焦土のように。

 

 才能が違いすぎる。圧倒的すぎる。化け物過ぎる。規格外過ぎる。なんだその怪物は? 本当に人間なんだろうな?

 

 そんな思考に囚われたらしい二人に、ロードは「ようやくか」と内心ため息をつきつつも端的なアドバイスを残しておく。

 

「斯くも世界は広く、底が知れない。魔術師たちは神秘を操り、探る者であるが故に自分の知っている神秘以上のモノはないと盲進しがちだ。まず、その固定概念から捨てろ。

 敵を見ろ、相手を見ろ、自分を見ろ、友を見ろ、隣に立って共に歩まんとする相棒を見ろ。そうすれば自ずから自分たちになにが今必要かを考えるようになる。信じることと盲進することは別物なのだと言うことを忘れるなよ。以上だ」

 

 言うだけ言って、今日は何一つしていない少女は疲れ切って身体を休めている敗残兵たちに背を向けて去っていく。字面だけで見ると酷すぎる行為だが、致し方ない。

 

 ーーなにしろ彼女の手駒であるサーヴァントたちが自分勝手に動き回って誰一人ついてこなかったのだから。つか、居場所すらよくわかんね。デミ・サーヴァントでマスターでもあるから探知機能がいまいち性能悪いのは何とかならないものかといつも思ってしまう。

 魔術除けのアミュレット程度の対魔力しかもたないライダーのサーヴァント征服王イスカンダルを宿した彼女にとって、陣地作成して待ちかまえているキャスターは鬼門中の鬼門なのだ。通常の聖杯戦争だったら動き回るからどうとでもなるし、遭遇率も減る。

 しかしながら此度のヘンテコリンな聖杯戦争もどきだと、サーヴァントは待ちかまえての迎撃戦が基本らしい。キャスターが生き残っている間は慎重を喫したいのが彼女の嘘偽らざる本心だった。

 ただでさえ忠誠を誓った主の力を宿しているのだ。これで自己の乏しい才覚でもって知略を尽くして敗けでもしたら今度こそ立ち直れなくなってしまう。やらねばならぬ事を成せなくなるのはごめんだ。

 

 それぐらいなら、負けても逃げきれる余裕を持った味方に敗北を経験させて学ばせて、考えるための良い切っ掛けにでもなればいいなと無策に特攻していくのを見送るぐらいはするのである。

 エルメロイ教室ではいつものことだ。失敗も敗北も全員日常的にやっている。同じ教室の生徒と教室内で魔術戦やりながら。一発でも掠っただけで常人やロードは即死モノの魔術を撃ち合いながら。

 

 ーー案外と近くに住んでた、エルメロイさんちの化け物ども。

 

 

 

「とりあえずは即席魔術師の二人に、戦闘時に必要となる簡単な魔術と効果的な使い方でも教えてみたらどうだ? 属性をもって生まれてくる魔術師にとって、向き不向きは意外と重要だぞ? 才能があっても性質的には全く向いてない魔術なんかもあるからな。話し合って分かり合った末に方針を決めていけばいい。話を進めるならそれからだろう」

「「・・・・・・」」

 

 黙り込んだままの二人にロードは、軽く微苦笑を浮かべながら懐かしそうに、そして悲しそうに笑って、

 

「ーーなにも、カード回収の短い期間しか一緒にいてはならないと言う決まりもない戦いだ。秘匿がどうたら言うのも今更過ぎるしな。関係を育んでおいて損はないし、むしろ一方的に自分が得するだけかもしれないぞ?」

 

「・・・自分が絶対と思い込んでた悩みを頭ごなしに否定されて落ち込むのも、後から見たら感謝の念しか沸いてこない思い出になることだったあるんだからな・・・。

 本当に人生って何が起きるのか分からなくて、予想してても裏切られるから、つまらなくて面白いんだよなぁ・・・」

 

つづく


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