ワンピースでワクワクさん 作:ゴロリ
気付いたらワンピースの世界にいて、目の前に悪魔の実があった。
「食うえ。何が出るか楽しみえ」
不細工な天竜人がその後ろにいて、悪魔の実を食べるよう進めてきた。
この段階で俺に宿主たる子どもの記憶が入ってきた。両親の記憶はなく、物心ついた頃から天竜人の奴隷だった。賢い子で、どうすれば殺されないか常に考え、天竜人の機嫌を取るのみならず、乳母や先輩奴隷にうまく甘え、時には利用し、時には切り捨てて生きながらえてきた。
その結果、5歳にして天竜人の子どもの一番のお気に入りとなり、悪魔の実を食べることを許されたようである。
「ありがたき幸せにございます」
俺は状況を理解し、笑みを浮かべて悪魔の実にかじりついた。
「うっ、ごほっ。少し喉に詰まりました」
ものすごく不味く、吐き出しそうだった。咳で誤魔化した。
さて、能力はなんだろう。
お? なんか自由に物を変えられる気がする。いや、変えると言っても制限はある。こう、削ったり、くっつけたり、溶かしたりはできるけど、魔法のように変化させられるわけではない。加工はできるけど物理法則は無視できない感じかな?
いや、器具なしに加工できる時点で物理法則無視しているわけだけども。
「おい、どんな能力だえ。なんかやってみるえ」
「えーっと、例えばこの髪の毛を……」
俺は自分の髪の毛を指で撫でる。髪は抵抗なく切り裂かれ、束がパサッと落ちた。
「おおっ! すごいえ! 切り裂く能力かえ!」
「さらにこんなことも。髪の毛と髪の毛の先っぽを近づけて、くっつけて」
「おおっ」
「こう、くっけてカールさせて、また別の髪の毛をくっつけてカールさせて」
「な、何ができるえ」
「にんにんにん。にんにんにん。にーん」
ワクワクさんの真似をしてみた。でも特に何かが作れるわけじゃない。というかこんないきなり意味のある物を作るのは無理だろう。
「それは何だえ?」
「特に意味はありませんが螺旋状の長い髪ができました」
「は? つまらんえ。期待させてこれはないえ。鞭叩きの刑だえ」
「え?」
「うん? 文句あるえ?」
「あっ、ありがたき幸せにございます!」
失敗。俺は鞭に打たれることになった。
が、相手は不健康な子ども。そこまで痛くはない。痛がる演戯は必要だが。痛がらなければ大人などを呼んでさらにきつい一撃を味わわされることになるだろう。
「さあ泣くえ! 醜い声で泣くえ! 奴隷!」
「ア゛ーッ! イグイグイグーッ!」
こうして地獄の奴隷生活が始まった。
俺は奴隷と言っても家事よりガキの遊び相手としての仕事が多かった。例えば馬ごっこなら、天竜人のガキはゴツい男の奴隷を馬と呼んで乗り、俺はひょろい男を馬としてあてがわれて乗ることになる。そこでレースが始まり、当然ガキがレースに勝つ。俺はガキを褒め称える。それでもガキは罰ゲームとして俺を鞭で打つ。しかし俺は文句など言えるはずもなく、「お助けをー」と命乞いする。「だったらゴキブリを食べるえ」と言われたら笑顔でゴキブリを食べる。
もちろん家事をしないわけではない。パシリなどはしょっちゅうある。他の奴隷を鞭で打てと命じられることもある。ただ、遊び相手の時間の方が圧倒的に長い。
俺は従順な奴隷のフリをしつつ脱走の計画を練った。
俺は能力で遊び道具を作ることを求められていたので、海楼石の手錠を普段はつけていなかった。その道具を作る過程で能力の効果を確かめた。
まずは切削。石だろうがなんだろうが、体に触れている物体はわけなく削ることができた。鉄板に指を突き出せばほぼ抵抗なく貫通した。ただし油断すると切断部で自分の指を切ってしまうことも分かった。体から離れている物体も削れるが、距離に応じて削るのが遅くなる。約1m離れるとほぼ削れない。しかし訓練により加工速度や加工距離を改善できる。
溶接。物体と物体とつなぐことだが、体からの距離が離れるほど遅くなる。溶接速度はほぼ一瞬だがイメージがしっかりしていないと中途半端にしか溶接されていなかったりする。
鋳造。流体を自由に固めることができる。粘土や金属のみならず、水も。氷を作ることができるということだ。恐ろしい能力だ。ただし、体から離れるとスピードは遅くなるし、型無しで正確に固めるのはとても難しい。
逆に、固体を流体に戻すこともできる。ただし金属にこれを使った場合液体金属の熱で火傷する危険が大。とても危険。
また、加工できる対象には人体も含む。己自身を切り裂き、またくっつけることもできる。見た目は何事もなかったようにくっつき、血が流れなくなるが、下手をすると激痛が伴う。上手くやればあまり痛くない。
能力の強化は密かにやりたかったので、主に夜に行った。が、ガキに鞭で打たれる時に、実戦を想定した人体の加工もやってみた。例えば、鞭で打たれる箇所の流体(身体中の水や空気中の水蒸気)を一瞬固め、衝撃の直後に流体に戻す。これが防御の練習になる。または、鞭で打たれた箇所を接合し、痛みを流体で流す。治癒の練習になる。もちろん痛がらないとガキは怒るので表面の傷は残す。
さて、逃げる方法だが、まず問題なのが爆発する首輪。しかしこれは、鍵穴を使って水で氷の鍵を鋳造すれば開けられる。次の問題は見張りをどう切り抜けるか。奴隷の見張りと政府の役人の見張りがいるが、どちらも屈強で俺が戦って勝てる相手ではない。隙を見て逃げるのも無理。ただ、他の奴隷を解放し、一緒に逃げればなんとかなるかもしれない。だが、見張りから逃れてもさらなる問題にぶち当たる。ここはレッドラインの上にあるマリージョア。街から逃げても崖しかない。崖を万一降りられたとしても海しかない。大人数で逃げるなら、天竜人が崖を降りるために使っている装置を奪い、船も奪うことになるだろうが、そんな大掛かりなことをして何人死ぬことになるやら。俺のようなガキが生き残られるのだろうか。もっと確実な方法が欲しい。
奴隷に憑依してから2年ほど経った。そろそろ脱出を、と思っていたある日、俺はガキと共にシャボンディに降りることを許された。レッドライン降下及び島までの航海という最大の問題があっけなく片付いたのだった。
ガキの父親の天竜人、また数々の奴隷と共に歩きながら買い物することになった。俺は周囲の状況を確かめた。役人の配置。屈強そうな奴隷の配置。周囲の様子。海軍の配置。港までの距離。海賊の有無。誰の首輪を最初に外すべきか。どのタイミングでやるべきか。
やがて一行は奴隷市場に入った。大変繁盛しており、各国の貴族、王族、大商人などが若い娘や屈強な男を狙ってセリを楽しんでいた。先に他の天竜人も市場に来ていたようで、市場の外に屈強な奴隷達が並んでいた。
奴隷市場の会場内は人でいっぱいだから、俺も会場の外で主人の帰りを待つことになった。天竜人の護衛は政府から派遣されている役人に任せられ、俺達奴隷の見張りはたった一人の役人になった。
チャンス。またとない大チャンスだった。
重要なのは協力者の選別。一人は決めていた。ゾオン系のゴリラの能力者。ロリゴ。俺の能力によるおもちゃ作りの助手をしているおっさん。頭が悪く臆病だが力は強い。俺のことをワクワクくんと呼び募っている。
しかしロリゴだけでは頼りない。次の一人。俺は屈強な魚人に狙いを定めた。シャボンディ諸島はそれほど広くないので、海軍に人海戦術で探されたらすぐに見つかってしまう。俺はこの島を出る必要がある。しかし大きな船は目立つ。仲間に魚人がいれば大きな船がなくとも引っ張ってもらえば航海ができる。
不意に、ロリゴが俺に近づいてきた。
「ワクワクくん、トイレどこだと思う?」
「その辺の草むらでやったらいいんじゃない?」
「そっか。ありがとうワクワクくん」
ふと、俺は気付いた。小便に含まれる水分。氷の鍵を作るチャンス。
「ロリゴさん、僕もおしっこがしたいので一緒に行きましょうか。あの辺へ」
俺は魚人の近くを指差した。
「え? でもあんまり人の近くでやるのは失礼じゃない? くさいから」
「気にしなくていいでしょ。どうせ僕も彼も薄汚くてくさい奴隷なんだから」
「それもそっか。さすがはワクワクくんだね」
俺とロリゴは魚人の近くへ歩いていく。魚人が俺達をにらみつける。俺は視線を無視して草むらへ。一瞬見張りの役人がこちらを見る。しかしアソコを丸出しにすると小便だと理解したようで視線をそらした。
小便を出しながら、一部指に付着させて凍らせる。ある程度の体積の円柱系にしていく。
「ふーっ。さっぱりした」
ズボンをあげるロリゴ。俺もズボンをあげる。ポリポリと首をかくフリをして鍵穴に氷を近づける。氷を流体に戻しながら鍵穴を小便水で満たし、再び氷の固体に戻す。
緊張の一瞬。
鍵を回す。動かない。反対側に回そうとしても動かない。
氷の鋳造が大きすぎたのだろう。これは予想できたことだ。表面をある程度流体に戻す。そしてもう一度ひねる。
カチッ。
「あれ? なんの音?」
ロリゴがこちらを見る。首輪が外れたとは思ってもいないだろう。
「ロリゴさんの首輪から音がしたような?」
俺は逆にロリゴの首輪に注意を向けさせる。自然な形でロリゴの首輪を外すために。
「えっ? や、やめてよう! 冗談は」
「まあまあ。ちょっと見せてよ」
「うーん。心配だなあ」
ロリゴは俺にも見えるように座り込んだ。俺は近づき、鍵穴に鋳造で作った鍵を近づける。その鍵を鍵穴の中で再び流体に戻し、再び鍵に戻す。
「すいません。そこの魚人のお兄さん。見てもらいたいことが」
俺は魚人に話しかける。魚人はチラとこちらを見た。
そのタイミングで、鍵をひねる。カチッ。ロリゴの首輪も外れた。
「なっ!」
「えっ」
「静かにね」
俺は人差し指を唇に当てた。
魚人が慌てて見張りに視線を向ける。見張りはまだ気付いていない。こちらを見てもいない。
「魚人のお兄さん。あなたもロリゴくんの首輪を見てくださいませんか? もう少し顔を近づけて」
「う、くっ。……いいのか?」
魚人は大きな目で俺を見る。俺はゆっくりうなずいた。
魚人が俺に首を近づける。カチッ。魚人の首輪も外れた。
俺はすぐ横にある魚人の耳にひそひそと語りかける。
「僕は能力者ですが逃げる足も航海する力もありません。脱出に協力して欲しいのですが」
「人間のガキが俺を? …………いや、いいだろう。恩にきる」
「ワクワクくん、もしかして」
「ロリゴさん、大きな声は出さないでくださいね。何でもないことのように歩いて逃げますよ」
「あ、ああっ。ありがとう! でもっ!」
「あっ」
ロリゴは獣人形態に変身し、俺を無視して全力で走って逃げ始めた。
あの野朗、早々に裏切りやがって。自分だけ生きられたらいいとか思ってやがったか。
「うわっ!」
「ゴ、ゴリラ! でっかいゴリラ!」
誰かがロリゴを見つけて叫ぶ。皆の視線がに集まる。
あのクソ腹黒ゴリラめ。死んでしまえ。
「おいおいゴリラ! どこへ行く! 首輪で死にたいのか!」
見張りがロリゴに気付き、走って追いかける。俺達の首輪が外れていることは気付いていない。ロリゴの首輪が外れていることにも。いずれ気付くだろうが。
とかく、もしかして今は逃げるチャンスか?
「じっとしてろ」
不意に魚人が俺を抱き上げる。片手で軽々とだった。そしてダッと踏み込むと、頭にびゅうと風が吹き付けた。とんでもない加速ということだ。
この魚人、人間離れしている。いや、魚人だからすごいのは分かるのだが、だとしても信じられないくらい身体能力が高かった。
「ぎゃー! 魚人だー!」
「化けもんだー!」
そのためか、こちらもロリゴに負けず注目されてしまった。幸い見張りはこちらに来ておらず、まだいるであろう市場とも距離が取れたが。
「子どもを抱えてるぞ! 人攫いだー!」
「海軍来てくれー!」
うっ、住民め余計なことを。
「そのまま港まで連れて行ってください。海軍に捕まると奴隷に戻されてしまいますので」
「チッ」
あーあ、魚人がものすっごい不機嫌になってしまった。怖い。
住民は海軍を呼びに行ったが、住民が海軍を呼んで海軍がやってくるよりもこの魚人が走る方が速い。道中海軍に待ち伏せされることはなかった。
魚人は人通りの多い漁港を避け、密林から海に飛び込んだ。着水の瞬間、俺は全身の力が抜けてしまい、大量の水が口から入ってきた。これを飲み込めば命が危ない。
咄嗟に口の中の流体、また周囲の流体を凍らせて防いだ。
「うっ、冷たっ。なんだあ?」
魚人が慌てて俺を手放す。俺と周囲の氷がプカプカ海に浮かぶ。
口の中に氷が入っているので俺は話せない。
口の中の海水を流体に戻し、身体から数センチ程の氷も流体に戻す。さらには上方の氷も溶かしていく。逆に底の氷や前後左右の氷は伸ばしていき、船のような形にする。
上体を起こし、口の中の海水を吐き出す。
「ぶはあ、はあ、はあ。痛い」
口の中と周囲を凍らせたこと、また流体に戻したことで肌がボロボロになった。とても痛い。
「それがお前の能力か? 水を凍らせることが」
「厳密にはこれ以外もできます。削る、くっつける、固める、液化させる、などなど」
「なんだそれは。複数の能力など可能なのか?」
「おそらく周囲の物質のくっつき具合を変化させる能力なのだと思います。とてもくっついているなら固体になり、くっついていないなら液体や気体になる。削るというのは、結局物体の表面を物体から離していく作業です。離すとはくっつき具合を減らせば可能です」
「うん? 分かったような分からんような。まあいい。これからどうする?」
「できればこの船を、シャボンディ諸島ではない島まで運んでもらいたいのですが」
「まあいいだろう。だが氷は冷たすぎる。つるをロープにして引っ張れるだろうか」
「あっ、僕も寒いんで、暖房用の葉っぱとかもお願いします」
「ふん。まあいいだろう」
魚人はそう言うと再び陸に上がった。
周囲の植物を見定め、頑丈そうなつるを手刀で切り裂いた。また、巨大な葉っぱを切り取り、抱えて持ってきた。
魚人は俺に葉っぱを渡し、つるを船に巻きつけていく。
俺は氷の船を若干溶かし、つるをめり込ませ、その部分の海水を氷にしてつるを船の内部に入れた。
「便利なもんだな」
魚人は関心したように言った。
「ところでお前、故郷はどこだ?」
「分かりません。物心ついた時には奴隷だったので」
「何!? ……チッ」
魚人は舌打ちすると、眉間にしわを寄せて腕を組んだ。
しかし、ふと口を開いた。
「別の島に降ろしたところで、子どものお前が海軍から逃げながら生きていけるとは思えん。俺と一緒に来るか?」
「あっ、はい。お願いします」
「チッ」
え? なぜ舌打ち?
「いや、何でもない」
魚人は俺に、船を球体状にし、中に入るよう言った。魚人島に行くためだと言う。俺はうなずいた。
俺は直系1mほどの空間の外側に厚さ30cmほどの氷の球面を作った。魚人島は深さ一万メートルにあるからこれでも潰れてしまうかもしれないが、その時はもっと氷を厚くすればいいだけだ。問題ないと思われる。
魚人はつるのロープを引っ張り海中を潜り始めた。
氷や俺の周囲の空気が浮力になっているはずだが、そんなものは感じさせないほど勢いよく進んだ。
やがて陽の光が弱まっていき、何も見えない深海となった。かと思えば巨大なちょうちんアンコウがいて見えた。
アンコウのみならず、巨大な魚や海王類がそこかしこにいた。そのうちうなぎのような魚がこちらに襲い掛かってきた。俺は心臓が飛び出るかと思うほど緊張した。
が、魚人が何やら腕を振るうと、海流が巨大な魚に突っ込んでいき、魚を殴るようにふっとばした。それを見て周囲の魚も逃げるように去っていった。
この魚人、強すぎる。もしかしてフィッシャー・タイガーか?
顔はあんまり覚えてないし、3Dと2Dの違いもあるけど、そう言えばこんな顔だった気もする。
そのまま順調に深く深く進んでいった。気圧の違いで頭が痛くなってきた。また、時折、ピシッと氷に音がなったが、そのたびに周囲の氷を増やしたり、亀裂部分を流体に戻してから固め直した。
ふと、進行方向に光が見えた。
「あれが魚人島だ。ヤルキマンマングローブの根っこから光が差していて、ああやってあそこだけは太陽が照っているように明るいんだ。島全体がしゃぼんに覆われていて空気もある」
「なるほど」
いや、科学的にどうなのかと思うけどね。水圧に耐えるシャボンとか、光る根っことか。
「お前は俺の旅の恩人ということにしておく。魚人を助けたために人間に嫌われ、俺と共にこの島へ逃げてきた」
「はい」
「知り合いの人魚にお前の面倒を見てもらうよう頼んでみる。俺はこの島では多少名の知れた冒険家だ。俺のことを聞かれたら適当に話を合わせろ」
「はい」
そうして俺達は魚人島に入っていった。