ワンピースでワクワクさん   作:ゴロリ

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サカズキとモリアの暗躍

 --マリンフォードの某所--

 

「また魚人討伐に向かった軍艦が沈没させられました。やつらは強すぎます。特にこの2人。大罪人フィッシャー・タイガーと海峡のジンベエ」

「頭の痛い問題だ」

 

 センゴク元帥にとある将校が任務失敗の報告をしていた。将校は狼狽し、元帥も疲れた表情だ。

 ふと、背の高い男が入ってきた。傍らには若い娘を連れている。メガネをくいくいと挙げる仕草が目につく生真面目そうな娘だ。

 

「水中では鬱陶しい魚人も陸ではただの人。頭を使ってみましょうや。センゴクさん」

「サカズキか。その子は?」

 

 センゴクに促され、サカズキは少女を己の前に出す。

 

「CP9の娘じゃ。親から諜報員の教育を受けちょる。優秀な娘だと言っちょった」

「まさか」

 

 センゴクは大きく目を見開いた。15歳程に見える少女。彼女に魚人を誘き出させる危険な任務をさせようというのか。

 サカズキはセンゴクの表情の変化を読み取ったが、引きはしない。娘の方もセンゴク、サカズキという大物を前にして凛とした表情を崩さない。諜報員としての才能はあるのかもしれない。センゴクはそう思った。

 

「この娘に奴隷のフリをさせて、魚人共を陸におびき出す。心配はいらんじゃろ。政府から推薦されたのがこの娘だったけえ」

「しかし」

「ほら、挨拶せい」

 

 サカズキが娘の背中をトンと押す。

 が、娘は不意に眉をしかめ、後ろのサカズキを見上げた。

 

「触らないでください。セクハラです」

「は?」

 

 センゴク、サカズキ、報告していた将校、同時に固まってしまった。

 優秀な諜報員のはずがこの程度を我慢できなかったというあべこべさ。あのサカズキに物怖じせずセクハラと言いつける度胸。衝撃だった。

 

 サカズキ、センゴク共にぷるぷると震え始めた。

 

「な、何!?」

「く、くふっ、ぷぷぷっ」

 

 ただしサカズキは怒りのために、センゴクは笑いのためにだったが。

 

「チッ、スパンダインめえ。不良品を……」

「その発言は許容できんな。海軍の人間が人を物扱いするとは」

「うっ。ぐっ。……すみません、センゴクさん」

「少女に謝るべきだな」

「な、何ですと!?」

 

 サカズキは驚きのあまり叫んでしまった。しかしセンゴクは真面目な顔でサカズキを睨んでいる。

 サカズキも一応一般常識はある。今回自分の旗色が悪いと自覚した。

 

「く、くうう。す、すまんかったな」

 

 サカズキは怒りを堪え、唇を震わしながら少女に頭を下げた。

 その光景に報告していた将校は唖然とし、センゴクはまた笑った。

 しかし、娘はさらに爆弾を投下する。

 

「いくら海軍中将でもセクハラはいけませんよ。気をつけてください」

「な、何ィ!?」

「ぷぷぷっ、わーっはっはっはっはっは!」

 

 センゴクは耐え切れずとうとう声を張り上げてしまった。

 

 

 --某劇場--

 

 

 ヒューはシンドリーという女優のボディガードになっていた。

 

 半年ほど前にワクワクの元を離れ、海賊の船長としての人生をスタートさせていた。カルマナとメルセーデも彼の船に同行し、相変わらず退廃的な生活を送っている。ヒューは本格的な活動の前に、義腕の性能を向上させたいと考えていた。そこでワクワクに紹介されたのがホグバックという医者だった。天才医師として各所に引っ張りだこのホグバックは、呆れるほどの大金持ちであり、ヒューの手持ちの金では義腕の依頼を受けてくれなかった。ただし、と別の条件を提案してきた。

 

「シンドリーちゃんと俺が一対一で会話する自然な状況を作れ。ロマンチックな場所にしろよ。ことが上手く運んだら義腕どころか全身最強のサイボーグにしてやってもいいぞ。フォスフォスフォス」

 

 ヒューは内心うげーっと嫌な気分になった。しかしシンドリーという言葉に興味がわいた。ワクワクが何度か「シンドリーちゃん欲しい」と口にしていたのを覚えていたからだ。

 ヒューは海賊である。望みは美女とのロマンチックな夜と冒険の興奮。ワクワクが一目置く女を知り、ともすれば味わい、ワクワクに自慢すれば嫉妬に狂うおかしな顔が見れるかもしれないと思った。よってシンドリーに近づくためにボディガードになった。

 なお、ワクワクがヒューにシンドリーの名を聞かせたのはわざとだった。ホグバックに義腕を依頼するときっとシンドリーを要求されるので、その時にボディーガードにでもなって死亡フラグを折ってくれないかなと思っていた。

 

 ヒューは体力があり気立てがよくイケメンでもある。シンドリーはすぐにヒューを気に入り、一目置くようになった。

 そしてある日、2人は甘い夜を過ごす。

 

 ヒューは賢者タイム中に思った。

 やってしまったな。これじゃあホグバックに義腕を依頼するどころか彼に殺されそうだ。

 ただし気持ちよかったので後悔はしていない。女優だけあっていろいろと凄かった。

 

 ヒューはシンドリーが自分に依存し始めていることに気付いた。それも、私だけを見て、という独占欲の方向である。しかしヒューはハーレム派。どんな女も彼を縛ることはできない。

 

 面倒なことになる前にこの島を去るか。そんなことを考えながら、ぼうっと舞台を眺める。

 不意に、シンドリーに異変が起こる。バランスを崩し、舞台から落ちた。

 観客から悲鳴が上がる。今回の舞台の高さは建物の4階ほどもある。

 ヒューは慌てて飛び出す。彼の動きは人間離れしており、一般的な人間には絶望的な距離を楽につめていく。

 

 しかし、不意に何かにつまずいた。

 

「こ、こんな時に!」

 

 こけそうになるヒュー。しかし火事場の馬鹿力と驚異的な反射速度で体制を直しつつ駆ける。

 が、また何かにつまずいた。

 

「いや、これは……」

 

 慌てて足元を見る。黒い何かが自分の体を押していた。

 

「きゃああああああ!」

 

 もう間に合わない。頭から落ちていくシンドリー。ヒューは残酷な現実から目を逸らし、歯を食いしばる。

 

 バキャアアアアン。

 

 衝突でものすごい音がした。骨と地面のぶつかりあいとは思えない。舞台の骨組みの金属部に当たってしまったようだ。

 

「きゃあああああ!」

「シンドリーちゃああああん!」

「大丈夫かああああ! シンドリーちゃああああん!」

 

 近くの観客が次々と舞台へ押し寄せる。

 このままでは観客で体の取り合いになり、万一助かる命が失われてしまうかもしれない。

 ヒューは再び力をみなぎらせ、シンドリーへ駆ける。

 

「えっ」

 

 しかし、そこでシンドリーの立っていた4階立て相当の舞台が傾いた。それも観客の方向に。

 

「うわあああ!」

「ぎゃああああ!」

 

 右往左往する観客達。ヒューも人ごみに揉まれ、思うように進めない。

 そして、舞台が地面に衝突する。

 先ほどとは比べ物にならない轟音が響き、土煙が舞う。どれくらいの人が亡くなってしまったのだろう。プロデューサーや舞台の設置担当者は顔を真っ青にした。

 

「キシシシシシシシ。どれ、シンドリーがいるのはこの辺か?」

 

 舞台の外側。5mを超える巨大な男がつぶやいた。声に呼応するようにコウモリの形をした影がシンドリーの元へ近づいていく。

 彼こそがこの事件の首謀者。七武海の一角を任される豪傑にして影を操る能力者、ゲッコー・モリア。影を操りシンドリーを狂わせ、頭から落下させ、ヒューの邪魔をし、シンドリーが落ちた後には舞台の骨組みを壊し観客の側に倒した。今からシンドリーの死体を手に入れ、ホグバックの元へ持っていくつもりだ。そうしてシンドリーをゾンビ化してホグバックにプレゼントし、ホグバックを己の味方に引き込む。不死身のゾンビ軍団を手に入れるため。

 

「う、うん……」

 

 ところが、シンドリーは生きていた。4階の高さから落下し地面に頭を打ちつけたにも関わらず。

 

「く、首が痛い。背中も。くううっ」

「キシシシシシシ。頑丈な女だな。でもお前には死んでもらう」

「えっ。あっ」

 

 モリアの影がハンマーの形となり、シンドリーに襲い掛かる。

 頭蓋骨陥没で死亡。それがモリアの思い描いた一瞬先。

 ハンマーに殴られ、その勢いで顔を再び地べたに打ち付けるシンドリー。

 

「いたたたたっ。痛い痛い痛い。なんなのこれ。何が起きてるの?」

 

 しかし、シンドリーはまたしても死んでいなかった。

 

「なんだあいつ。素人じゃないのか? 能力者か?」

 

 モリアが手こずっている間に土煙が晴れていく。影を見られたくないモリアは計画を先延ばしにすることにした。

 

「あんな女くらいいつでも殺れる。次の機会までせいぜい余生を楽しんでおくんだな。キシシシシシシ」

 

 モリアはそう呟いて舞台から去っていった。

 シンドリーを救ったのはワクワクが施した骨と靭帯の強化のためだった。ワクワクは以前、彼女のファンを装って彼女に近づき、子どもであることを利用して抱きついていた。この時に能力を仕掛けていたのである。

 骨はほぼダメージなし。しかし、落下の衝撃で関節や内臓は深刻なダメージを受けた。神経も無事ではない。シンドリーは半身不随になった。車椅子生活を余儀なくされ、女優業は引退した。ファンには涙ながら別れを告げた。

 

 ところがどっこい。この事態に大喜びしている男が一人。

 

「フォ、フォスフォスフォス! なんてことだ! なんてことだ! 俺以外の雑魚医者には到底無理だが、俺ならば、世界で俺だけが、シンドリーちゃんを治すことができる!」

 

 ホグバックだった。半身不随のような治療は彼の得意分野。半身どころか、全身を別の動物の細胞に挿げ替えても副作用なく生存させられる自信があった。

 ホグバックは意気揚々とシンドリーに会いに行き、己が一人で、無料で、シンドリーを元に戻すと提案した。シンドリーは泣いてホグバックに感謝を伝えた。その行動にホグバックはまた感動し、うれしさのあまり泣いてしまったのだった。

 

 ホグバックが手術の準備をしている頃、ヒューがホグバックの元へ訪れた。

 

「すまねえな。彼女を守れなかった」

「フォスフォスフォス。まあ気にすんな。災い転じて吉となるってやつだ。俺は今、シンドリーちゃんの主治医なった。フォスフォスフォス。毎日二人っきりで話し合ってるんだぜぇー。羨ましいだろ! フォスフォスフォス。羨ましいだろ!」

「そうか。よかったな」

「ふん。今の俺は機嫌がいいからな。シンドリーちゃんの手術が終わったらお前の義腕を作ってやってもいい」

「本当か?」

「金は払えよ」

「ああ」

 

 ふと、ヒューが真面目な顔になった。

 

「と、それよりも重要な話があるんだ」

「なんだ?」

「今回の事件だが、何者かによる殺害未遂の可能性がある」

「何ィ!?」

 

 声を荒げるホグバック。驚きのあまり手元の試験管を落としてしまった。

 

 ヒューは手にひん曲がった鉄の棒を持っていた。

 

「これは現場に落ちていた土台の一部だ。ここは倒れる時に力がかかって曲がったのだろう。だがここはなんだ? まるで刃物に切り取られたような鋭利な痕」

「お前が切ったんじゃないのか?」

「違う。信じてくれ」

「事件性があるなら海軍に調べさせた方がいいだろう。そいつは現場に返してこい」

「それは分かるが、俺にはまだ証拠がある。俺自身、シンドリーを助けようとした時に黒い影みたいなやつに邪魔されたんだ。見間違いじゃない! 二度もやられたからな! そしてこの切断痕! 非常に計画的で執拗な犯行だ! 俺は確信したね! 犯人はタダ者じゃない! そして未だにシンドリーを狙っていると!」

 

 ヒューは護衛を続行する気でいた。事件性があるのできっと海軍が動くのだが、彼等の能力は信用できなかった。何より、自分を軽くあしらい女を殺そうとした相手を許せず、自らの手で殺してやろうと思っていた。

 

 主治医であるホグバックは、シンドリーの骨が異様に硬化されていることに当然気付いた。ヒューを完全に信用したわけではないが、事件の匂いがする。気が気でならない。彼は以前よりもさらにシンドリーに付きっ切りで活動するようになった。

 地元の海兵に護衛を要求したが、それだけでは信用できず、金に飽かせて名のある賞金稼ぎも雇った。ヒューも彼等と共にシンドリーを守ることになった。

 しかし、この海兵が仇となった。モリアは七武海であり、並の海兵より遥かに高い地位にある。海軍に密かに手を回し、海兵の中に刺客を交ぜ込んだ。

 

 刺客は見張りの立場を利用し、屋敷の奥へ悠々と歩く。シンドリーの部屋だけはホグバックとシンドリー以外立ち入り禁止であり、鍵がかかっていた。しかし、モリアの影で鍵は開けられてしまう。

 

「お、お前! 何のつもりだ!」

 

 叫ぶホグバックを無視し、すばやくシンドリーに接近。ナイフで心臓を一突き。

 が、突くより前にシンドリーに蹴り飛ばされた。

 

「じょーだーんじゃなーいわよーう!」

 

 シンドリーと思っていた相手はオカマだった。それも背がシンドリーより頭2つは高い。何故見間違がえたのか自問してしまう。

 

「アン、ドゥ、クルァ!」

「チイッ」

 

 オカマの攻撃を裁きながら本物のシンドリーを探す。この部屋の中にはいるはずだ。

 その時、不意に刺客は右頬に衝撃を受けた。

 

「なっ」

「こっちもいるぜ。オラ!」

「ぐばっ」

 

 ホグバックがオカマに負けない動きで刺客を攻撃していた。

 

 まさか、こいつも偽者か。

 

 気付いた時にはもう遅い。刺客は2人からタコ殴りにされ、捕まった。

 ホグバックの姿に偽装していたのはヒューだった。ホグバックは自身を手術するために自身の型をいくつか作っていた。そのうちの1つの少し変え、ヒューが被ったのだった。

 

 刺客は金で雇われた殺し屋だった。雇い主は不明。しかし海軍に指示できる立場にあるらしい。

 元々人を信用しないホグバックは、さらに疑い深くなってしまった。念には念を。ホグバックは生存確率を上げるために改造手術に手を染めていく。

 

 対するモリアは高額で雇った殺し屋の失敗に驚愕し、怒り狂った。

 

「舐めやがって! この俺を誰だと思ってやがる! 今度こそは必ず殺してやる! シンドリー!」

 

 雪辱に燃えていたモリア。しかし、落ち着くと気付いた。この状況で上手くシンドリーを殺しても、ホグバックの前に出て「シンドリーをゾンビにしてやるから仲間になれ」と言えばどうなるか。この取引のためにシンドリーを殺したと疑われてしまうだろう。

 根本的に方法を変えるべきかもしれない。

 モリアは計画を一旦白紙に戻した。

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