ワンピースでワクワクさん 作:ゴロリ
追っ手が来れないように、エレベーターのワイヤーを切ってから次のエレベーターに移る。階段も潰しておいた方が安全だが、時間がかかりすぎるから諦めた。とは言え、エレベーターに比べると階段の方が何倍も時間がかかるだろうから、階段で追いつかれることはないと思われる。もし相手がCPゼロだったりしたら追いつかれるけど、彼等は月歩を使えるからエレベーターも階段も関係ない。
とかく、エレベーターを降り、乗り継ぎ、降り、乗り継ぎ。と繰り返していく。
衰弱している人やケガ人はよろよろと動くから乗り継ぎに時間がかかる。エレベーターのブレーキも彼等のダメージになっているようで、動きはさらに遅くなっていく。
とは言え、巨人のおっさんよりはずっと速く降りてきている。おっさんは遥か上にいて見えない。一番頑張ったのに一番危険なおっさん。かわいそう。頑張って追手より先に降りてきてもらいたい。
20回くらい乗り継ぐと、大砲の発射音、着水音、爆発音が聞こえてきた。やばいな。戦闘は既に始まっている。
長方形のでっぱりの先に行き、海を見下ろす。高さがあるのでシャボンディ諸島どころかマリンフォードさえ見える。戦闘はシャボンディ諸島とレッドラインの中間あたりで起こっていた。
乗組員はおそらくエレベーターに一番乗りだった屈強な奴隷達だろう。エターナルポースがない以上シャボンディ諸島を目指すしかないので、ここの海軍と衝突するのは仕方ない。ある意味屈強な彼等が一番乗りで正解だったかもしれない。
問題はマリンフォードからやってきている軍艦だ。まだシャボンディ諸島まで半分くらいの距離しか来てないが、デカいのが10隻くらい見える。こいつらと戦闘になったら終わる。
俺は逃げる流れを考えた。屈強な奴隷達は軍艦を沈めているわけではないので、俺達もあれと戦ってシャボンディまで到達しなくてはならない。マリンフォードの軍艦が来るより先に。さらに、シャボンディに到達してからも走って地元の海兵を振り切り、マリンフォードの海兵からバレない場所に身を隠さなくてはならない。
で、できるか? 正直言って、絶望的。俺と巨人はともかく他の奴隷は弱りきっていて足手まといだ。シャボンディまでたどり着くことすらできる気がしない。海軍と戦う以前に、出航できるのだろうか。マストはそれなりに重い。舵は誰がとる?
いや、魚人の助けがあればシャボンディまでは行けるか? 助けてくれるかどうかは分からないが。シャボンディに着いてからの逃走は、魚人の助けは期待できないよな。巨人に持たせて走ってもいいが、巨人が目立って海兵に追いかけられるから難しいと思う。
もっと安全な方法が欲しい。こんなところで命を失いたくない。クソッ、逃走の船を木造じゃなくて鉄製の潜水艦にしておけばよかった。作るのに時間がかかるにしても逃走を確実にすることを優先するべきだった。
「あの、次の箱には乗らないの?」
奴隷の美しい女が話しかけてきた。
「ちょっと作戦をね」
「そ、そう」
少数だけでも俺の潜水艦で逃げるか? あれ2人乗りだけど詰め込めば4人は乗れると思う。
でもここまで来て他を切り捨てるのはなあ。
今すぐ巨大な潜水艦を作れたりしないだろうか。材料は、エレベーターがいくつかあるな。あれは鉄だから水に沈む。後はレッドライ……ン?
あっ、思いついた!
「いける! いけるぞ! よっしゃあああああ!」
「ひっ」
レッドラインで潜水艦作れるじゃねえか! 艦というより筒だけども!
くくっ、思わず叫んじまったぜ。なぜこんな簡単なことに気付かなかったのか。
俺は一先ず奴隷達と共にエレベーターを降り切った。
「ワクワクくん! 速くしないと! 海軍大将がやってくるよ!」
船の近く、おもちゃ屋の娘が海から顔を出していた。
「ちょい待ち! 作戦変更!」
俺はそう返すと、奴隷達を階段に集めた。
「皆! 離れていろ! 今から逃走用の筒を作る!」
「えっ!」
言うや否や、海面に手を伸ばし、防護用の氷の服を作って行く。冷たいが、これがないと液体レッドラインの熱で死んでしまうから仕方ない。
服ができたら早速レッドラインを溶かす。溶かしながら狙った形に固めていく。まず円柱を作る。全員が乗れるように直系は20mくらいにし、沈む速さが欲しいから高さは5mくらいにしておく。
その円柱の上面の円周上に壁を作る。厚さ50センチくらいで高さは2mくらい。
次に直系20mの巨大な蓋になる。それを壁の上に載せたいのだが、俺の腕力では無理だな。
「動ける者は力を貸してくれ! これをあれに乗せる!」
「えっ」
「速くしろ! 時間がない!」
「わ、分かった」
「力には、あまり自信がないけど」
動ける人間で蓋を持ち上げる。おもちゃ屋の娘も加わった。が、なかなか動かない。
クソッ、こんな場面で手こずるとは。フィッシャー・タイガーがいる時は考えなくてよかったためか、運ぶという作業を軽視しすぎていた。
ふと、黒い影が差した。蓋はひょいと持ち上げられた。
「こいつをこれに乗せりゃあいいんだな」
「巨人の方!」
そう言えばいたな。いや、忘れてなかったけど、あまりにも遅いから無視して出発するしかないと思っていた。
巨人の活躍で蓋もできた。俺は蓋の円周上を歩き、蓋と壁の隙間を能力で溶接していく。一週回って溶接も完了。
これで完成。円柱をレッドラインから切り離せば沈み始める。が、このままでは人が中に入れないので、能力で蓋に人が通れる穴を開ける。後からこれを塞ぐ。
「皆さんここから中に入ってください! これで深海の底まで落ちて逃げます! その後は人魚に協力してもらって魚人島まで連れて行ってもらいます!」
「えっ!? これに乗るの?」
「だ、大丈夫なの? 魚人って人を嫌っているような……」
「信じてください! 逃げ切るにはこれしかありません!」
不安はあるだろうが、彼等には選択肢がないので結局うなずいた。
巨人を除いて。
「俺はどうやって中に入るんだ?」
「巨人さんはあっちの船で逃げてください! 油の能力者達と協力すればシャボンディの海軍なら振り切れるはずです!」
俺はレイリーやハンコックが乗っているであろう船を指差した。
「ええっ!?」
「泳ぐ必要はないです! 魚が連れて行ってくれます!」
「さ、魚!?」
驚く巨人さん。おもちゃ屋の娘は作戦を理解したようで、魚に指示を出していた。
ジンベエザメがひょっこり顔を出し、反転。巨人に背を向ける。乗れと言っているようだ。
「な、何クソッ!」
巨人はジンベエサメの背中に飛び乗った。
そうこうしているうちに、人間達は全員筒の中に入った。
俺はレッドラインと筒の接合部分を液体化させる。筒が重力にしたがって落ち始める。
「うっ、とっ」
足場が不安定な中、急いで俺も穴に飛び込む。やがて筒は完全に海に沈み、蓋の穴からは海水が流れ込んできた。
「きゃあああああ!」
「お、おい! 速く蓋をしろ!」
俺は海水を凍らせることで穴に蓋をし、水の浸入を防いだ。
初めレッドラインで穴を塞ぐつもりだったが、気が変わった。この筒は暗い。外の光を得るために氷の部分を作った。それに、氷の部分があれば空気の入れ替えもできる。
筒は海を沈んでいく。一度、レッドラインの出っ張りに弾かれた。まだ沈む加速がそこまででもなかったのでよかったが、この衝撃は危険だった。
俺は側面の壁の一部も氷にし、外が見えるようにした。その上で、能力を使って筒の外側の海を気化させ、水蒸気の爆発の力で筒をレッドラインから遠ざけた。
おもちゃ屋の主人の娘が筒に近づいてきた。
娘は氷に口を近づけ、話しかける。
「巨人の男性は別の船まで送り届けたよ。今、海面にいる人達は海軍と戦ってる。魚人達はほぼ全員魚人島に向かったけど、タイガーさんと一部の魚人は船を壊して人間を助けてる」
「そうか。君はこっちにいて欲しい。このまま落ちた後に、魚人島へ案内して欲しい。シャボンの樹液だけ持ってきてくれれば、俺の能力で全員分のシャボン空間と即席のスクリューは作れる」
「分かった。でも深海の海王類はどうするの? この筒ごと食べられない?」
「この筒、見た目は岩だからたぶん食べないと思う。食べられても能力を使えば胃から脱出できると思うし。君もこの中に入った方が安全だと思う」
「分かった」
この娘は素直だな。人を信じすぎるのは弱点にもなるが。
氷を一瞬ゼリー状にし、おもちゃ屋の娘を招き入れ、再び凍らせる。
今後気をつけるべきは、レッドラインの突起と、深海の海王類や巨大魚と、海底火山だな。
とは言えしばらくは暇になる。今後の予定の説明を。いや、先に自己紹介でもしておこうか。
ザッと奴隷達を眺める。暗くて見えにくいが、数は、ええっと、……38人か。そのうち15歳以下に見える子どもが8人。コアラっぽい子もいる。ケガをしている男が5人。残りは天竜人が選りすぐった美女が25人。
俺は安心させるように笑顔を作り、パチパチと拍手をする。
「おめでとうございます! あなた方は奴隷から解放されました! 海軍はしばらくの間深海を追ってこられません! 筒は順調に海底へ進んでいます!」
「お、おめでとうございます」
俺がそう言うと、何人かの女が俺の機嫌を取るように拍手をした。男は気だるげに拳を突き上げる。元気ないな。女は奴隷根性が根付いちゃってるし。それがかわいいとも思っちゃうからちょっと申し訳ない気分になる。コアラらしき子の愛想笑いは気持ち悪い。あれは気持ち悪い。
「自己紹介から始めましょう。僕はワクワク。9歳です。一年半前まであなた方と同じ奴隷でしたが、なんとか脱出しました。そして今回の奴隷解放計画を魚人のフィッシャー・タイガーと共に練り、実行しました。悪魔の実の力で首輪を外したりエレベーターを作ったりしたのは僕です。首輪を外したり先ほどの上下に動く箱を作ったりマネキン作戦を考えたりしたのは僕です」
重要なことだから細かく話してみた。自慢とかではなく正当な評価を望む。正当な評価を望む。
が、反応が薄いな。うーん。
「皆さんはこれから魚人島に立ち寄ることになります。そこでしばらく生活しますが、ずっといることはできません。海軍が天竜人の奴隷を取り戻そうとやってくるからです。しかし安心してください。海軍がやってくる前に脱出用の船を作り、脱出できます。魚人や人魚に協力してもらえば航海は安全なはずです。その後の話は、いくらか選択肢があります。自力で逃げるか、僕と一緒に新しい大地へ移住するか。それとも」
海軍に捕まるのを覚悟で故郷に帰るか。
これは言わなかった。彼等はここまで来るのに憔悴しきっている。希望を打ち砕くようなことを言うのはしのびない。
「いえ、なんでもありません。何か質問はございますか?」
尋ね、周囲を見回す。
女達は俺と目が合うと視線をそらす。目立ちたくないようだ。
目立ちたくないのは分かるが、ヒーローとしてちやほやされる展開を期待していたのに、それが全くない。これはちょっと不満だよね。俺めちゃくちゃ頑張ったから。死すら覚悟して頑張ったんだから。エレベーター造りだって何度か落ちそうになったんだぞ。死にかけたんだぞ。崖の上で凍傷になったりレッドラインの鋳造の過程で火傷したりもしたんだぞ。
クソッ、あとで評価してもらうために日記つけておこう。努力を評価しない社会はダメな社会だ。
「す、すみません! すみません!」
「申し訳ございません」
おっと、女達が急に謝り始めた。
俺が不満そうなのを見て反射的に謝ったようだ。面倒くさっ。これまでの境遇を思うとかわいそうではあるけど、面倒くさっ。
でも、美女だから許す。
それに、むふふっ。この美女達との共同生活が始まるわけだよな。メイド根性が根付いた美女達との。
天竜人が奴隷の契約を破棄しない限り、この人達は海軍に追われ続けることになる。故郷に帰っても地元の海軍に連れ戻されてしまう。だから、俺が彼等に今後生きる土地を提供して、そこで一緒に暮らすことになるだろう。それが一番現実的だからだ。自然にそうなるのだから俺の欲とかそういうのが割り込む余地はないぞ! 自然にそうなるのだからな!