ワンピースでワクワクさん   作:ゴロリ

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嵐の後の宴会

 筒は無事に海底へたどり着いた。落ちながら操作して魚人島に近づけていったので、ここから魚人島までは300mくらいしかない。泳ぎの得意な人間なら潜水で向こう側までいけるだろう。この筒の中にそんな身体能力の持ち主はいないが。

 

 おもちゃ屋の娘にシャボンの樹液を取りにいってもらった。思ったより時間がかかり、彼女は約2時間後に帰ってきた。手にシャボンの入ったビンらしき物を持っていたが、表情は沈んでいた。

 俺は氷を溶かして彼女を中に招き入れる。

 

「実は、ワクワクくん達の入国を拒否されてしまって」

「達? 俺は分かるけど、この人達も?」

「うん。リュウグウ王国としては、天竜人の所有物を国に入れてしまった場合、返還する義務があるからって」

 

 ああ、なるほど。そう来たか。

 リュウグウ王国は世界政府との友好を望んでいる。特にオトヒメ王妃は暴力を嫌い、対話や民主的な歩み寄りによって人間と平等の立場を得ようとしている。目下の目標は世界会議への参加。

 リュウグウ王国としては、天竜人の所有物を匿いたくないわけだ。そんなことをすれば友好どころか海軍と戦いになる。

 

 フィッシャー・タイガーが魚人の奴隷を解放したことについても、魚人にとって彼はヒーローだが、リュウグウ王国としては犯罪者として扱うのだろう。原作でもそういう葛藤があった気がする。

 

「事情は分かった。でも、この人達の食料と薬だけでももらえないかな。あとトイレ。大型潜水艦の材料は、自力で集められるかな? って待てよ。俺が以前に作った潜水艦って、まだ残ってるよな」

 

 普段は最新作しか乗らないが、以前に作ったやつもこの島に残っている。全部で7隻作った。6つはこの島にあるはずだ。

 そのうち一番大きいのは10人乗り。他、6人、4人、2人、1人、1人乗りがある。

 全ての鉄を合わせるとそれなりの大きさになるはずだ。そもそもボディを鉄で作る必要もないしな。例えばこの筒のレッドラインも壁として十分な強度がある。

 

「ね、ねえ。臭くない?」

「ん?」

 

 あっ、確かに匂う。誰かが漏らしちゃったのか。奴隷の習慣で発言できなかったんだな。そもそも深海の航海中にトイレに行くのは無理だしな。

 

「深海のトイレはとても簡単。シャボンに空気を入れてその中に人間が入る。シャボンごと深海に出る。後はお尻だけシャボンから出して排泄するだけ。即席トイレのできあがりー」

 

 俺はそう言うと樹液から人間大のシャボン玉を作る。全員分作る。

 

「はいどうぞ。トイレに行きたい人は中に入ってください」

 

 一人の男が急いで中に入る。シャボンから手足を出し筒の氷の壁へ走る。俺は氷をゼリー状にして脱出できるようにしておく。

 

「く、くふうっ」

 

 男はゼリー状の壁の前で躊躇した。さすがにシャボン一枚が深海の圧をしのぐと信じるのは難しかったようだ。しかしここはワンピース世界。シャボンはなんでもないように耐え抜くのである。

 

「ええいっ、ままよ!」

 

 男は飛び出した。シャボンは問題なく深海でも形を保った。

 

 さて、この男が成功したことで、他の男や子どももシャボンに入っていく。女は躊躇するものと構わず飛び込む者に分かれた。

 

「こ、怖いです。水に流されないか」

「お、お尻を出すのですか? 水の中で?」

「大丈夫です。男が来ないよう私が見張っておきます。流されそうになった時も私が連れ戻します」

 

 女達は俺を避けておもちゃ屋の娘に相談した。俺はまだ9歳なんだが怖いようだ。おもちゃ屋の娘は12歳で人間の成人男性並の体格だが怖くないようだ。

 まあ、見た目の問題かね。おもちゃ屋の娘は美しい人魚でありいかにも純粋そうなまん丸な目。俺の目は虚ろで濁っている。ワンピース世界は性格が目に表れる傾向にあるからこうなったのだろうか。

 

 とかく、トイレを挟み、再びおもちゃ屋の娘には魚人島に行ってもらった。

 俺の潜水艦、食料、薬、包帯、寝具を求めた。水はいらない。俺の能力を使えば海水からいくらでも飲み水を作れるからね。

 一人では難しいだろうから、キタジグループにも協力を求めればいいと言っておいた。彼等なら力になってくれるはずだ。

 フィッシャー・タイガーについては、今頃魚人街の人間嫌いの連中と祝勝会を開いている頃だろうからな。協力を求めるのは難しいだろう。

 

 1時間ほど経って、おもちゃ屋の娘は再び帰ってきた。キタジグループのメンバーを大勢伴って。彼等はきちんと食料と潜水艦を持ってきているようだ。

 そんな彼等だが、リュウグウ王国の兵装のやつが目立つ。半年前のホーディとの戦いが原因で、今は軍役中のはずだ。集団で任務から抜け出してきたようだ。

 

「久しぶり! ワクワク!」

「おめえすげえな! あの天竜人から奴隷を解放したらしいじゃん!」

「おお! この人間達がその奴隷か!」

 

 氷の壁の前に集まるメンバー。養母もいる。

 皆、満面の笑みを浮かべている。俺が奴隷を解放したことも聞いているようだ。

 リーダーのキタジが出てきた。両腕には手錠がかけられている。

 

「俺は鼻が高いぜ! うちのメンバーから英雄が出たんだ! それも、あのフィッシャー・タイガーと並び戦い、悪名高き天竜人から奴隷達を解放した! 魚人島の英雄だ!」

 

 おおっ、やっと評価してもらえた。このチヤホヤを待っていたんだ。特に美女にちやほやされたかったんだ。キタジグループはほとんど男だけど、まあいっか。

 キタジは演説するように続ける。

 

「俺より年下のクセに、誰にもできなかったすごいことを成し遂げた! 俄かには信じがたいが、とかくめでたい! めでたいめでたい! こんな日に世界政府がどうたらこうたら言って、英雄をしらけた場所に置き去りにしちゃあ魚人の名折れよ! 恥を知れリュウグウ王国!」

「そうだー!」

「恥を知れー!」

「今日は大臣の追手が来る限界ギリギリまで宴会やるぞ! 酒を出せ! 料理を出せ! 人間も魚人も無礼講でいこうじゃないか!」

「宴会だー!」

「酒を出せー!」

 

 宴会か。ワンピースらしくていいな。

 あまり悠長にしている暇はない気もするが。

 

 俺は急いで新しい潜水艦を作らなければならないので、酒は飲まなかった。食事と武勇伝の自慢で楽しんだ。

 3時間ほどすると、酔いつぶれた人も出てきて静かになった。図ったように、このタイミングで右大臣の率いる軍隊がやってきた。

 

「コラーッ、ガキ共ー! 持ち場に戻らんかー!」

 

 右大臣は怒鳴ったが、俺達に気を使って今まで見てみぬフリをしていたのは明確だった。

 証拠に、俺と目が合うと複雑そうな表情で一礼した。他の兵士も全員ではないが頭を下げてきた。

 

 兵士達はキタジグループの兵役者達を拘束し、持ち場に連れ戻していった。人間の奴隷には手を出さなかった。

 不意に右大臣が近づいてきた。

 

「リュウグウ王国のシャボン内に入らなければ、こちらから手出しすることはない。ただし海軍がやってきた時にお前達を助けるために戦うこともない」

 

 右大臣はボソリと言い、去っていった。これがリュウグウ王国としてできる限界なのだろう。

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