ワンピースでワクワクさん 作:ゴロリ
シャボンディ諸島には数多くの軍艦が集まり、海兵達は奴隷の捜索を行っていた。とてもではないが近づけない。ふつうならば。
しかしシャボンディ諸島は厳密には巨大なマングローブである。マングローブの上に土や街があるだけであって島ではない。よって下から地面に接触することが可能なのだ。
これには海軍の船が水中を進めないことも関係している。コーティングが済めば水中もそれなりに危険になるが、現在はまだコーティングが終わっていない。土をいただくギリギリのチャンスである。
俺達はマングローブの下から島に接近した。スクリューを徐々に停止させていき、潜水艦をマングローブと接触させる。即座に能力で接合し固定する。
俺を含めて人間はシャボンで全身を覆い、手足だけ出す。俺以外の元奴隷には樽を持たせ、船から出る。
手足だけ出している状態でも海の呪いは俺の筋力を奪う。うまく泳げないのでファンファンに抱えてもらい、マングローブに接近する。
ヤルキマンマングローブの巨大なツタ。それを支柱に様々な種類の細やかなツタがからみつき、石や土をせきとめている。
俺はこの細やかなツタを切り裂いていく。ヤルキマンマングローブを傷つけないよう注意しながらだ。ツタが切れるとボロッと内側の土がこぼれる。元奴隷には、この土をを樽に入れさせる。
あまり一箇所から取りすぎると上が崩れる可能性があるので、まんべんなく取っていく。特に問題なく作業は進んでいき、樽いっぱいに土が入った。
この要領で土を集め、潜水艦でレッドラインとシャボンディ諸島を行ったり来たり。土集めは順調だった。フィッシャー・タイガー等が巨大魚を蹴散らしてくれたことで、巨大魚の脅威も少なくなっていた。
土は一日で相当量集まった。元奴隷達はひいひい言いながら土を壁の中に運んでいった。ここだけ見れば奴隷並みの重労働である。だが、この厳しさはトレーニングをかねている。強くなるためにやっていると思えば奴隷とは全く心情が異なるはず。たぶん。
俺は一人でレッドラインの加工を続けた。階段や潜水艦の接合部分を隠したり、上下水道を作ったり、壁を高くしたり。まだまだやるべきことがあった。
翌日も俺は一人で(厳密にはなでこ付き)加工を続けた。残りの人間は農作業や海水運びを行った。元奴隷ということもあり、皆とても真面目だった。白髭の部下も楽しそうに手伝っていた。美女に囲まれてうれしいのだろう。というかナンパしまくっていた。しかも「筋肉すっごーい」「力持ち」「かっこいーい」とモテていた。イラついた。
こういうこともあって、俺は揺れ始めた。
リスクを犯してハンコックに会いに行くか、現在の美女達で我慢しておくか。
天竜人の奴隷だけあってここにいる女たちもとびきり美人なのだ。しかも奴隷根性が身についているから素直。俺に対する忠誠心のようなものも出てきた。安全にここで暮らすだけでも幸せになれる。だが、彼女等をハンコックと比べると、劣る気がする。気がするだけかもしれないが、何か諦めきれない。
ハンコックに会いに行くなら今がチャンス。コーティングが済めば潜水艦も安全ではなくなる。待ち続ければいずれ海軍はいなくなるだろうが、その時にはハンコックも国に帰っているかもしれない。
もちろん、ハンコックだけの問題ではない。レイリーに任せた美女は数多くいる。逃げている時点ではここの10倍はいたと思う。海軍大将もいる中、レイリーだけで元奴隷全てをカバーできるとは思えない。早く回収にいくべきだと思う。ハンコック等の故郷は安全だが、大半の故郷は海軍に狙われることになるだろうから、ここの方がマシだと思われる。
もっとも、内心は白髭に保護してもらうのが一番安全だと思っているけども。けども、それでは俺がモテない。この選択肢は選びたくない。でも俺の正義心が白髭を選べとも言っている。本能か理性か。うーむ。
いや、これを考えるのは美女を救ってからでいいな。うん、救うことにしよう。
やるか。海軍に捕まるリスクを犯して美女を助けに行くか。そもそも奴隷解放したのもハンコックが目的だったし、あれに比べれば今回のやつは危険でもない。
俺はおもちゃ屋の店主ジョイに話を通すことにした。
「ジョイさん。シャボンディ諸島に逃げた奴隷達は何番グローブに集まっているのでしたか?」
「13番付近だが。まさか行くのか?」
「彼等はまだ、安全とは言い難いので」
「ふっ。そうか。さすがだな。いいだろう。ここまできたらとことん付き合ってやる」
さすがと言われるほど勇敢ではないが、結果だけ見れば勇敢なのだから評価してくれるのは構わない。
とかく、やるぞ。やってやるぞ。
作戦決行は翌日の朝にしよう。元奴隷は朝早いだろうし、逆に海軍は公務員だから9時から働きそうだからな。特に大将は重役出勤のはず。朝一が一番安全だ。一応白髭の部下に作戦を伝えておく。万一俺達が捕まってしまった場合は元奴隷達を頼むと言うために。
しかし白髭の部下は俺の提案を否定した。
「奴隷のほとんどは大人だろ。お前みたいな子どもが出しゃばる場面じゃねえ」
「しかし、このまま放っておくわけにも」
「あいつらの立場が危ないのは分かる。だがな。『危険な奪還は子どもに任せて自分は安全な場所でお守りしていました』なんて親父に報告した時にゃあ勘当もんよ。いいから黙ってここにいろ。後始末くらいは俺がやってやる」
白髭の部下はそう言うと胸から紙を取り出し、半分に切った。
「1番隊隊長マルコのビブルカードだ。俺に何かあった時はそいつをたどって親父に会いに行ってくれ。ビブルカードって知ってっか?」
「はい」
「ついでに俺のビブルカードも渡しておこう。これが燃え始めたら俺はヤバいということだ。もっとも、死ぬつもりはないがな。これでも二番隊隊長をやっていたんだが、最近娘が生まれてな。海賊から足を洗いたい、と親父に伝えたところだったんだ」
「そ、そうですか」
まさか二番隊隊長とは。めちゃくちゃ強いんだな。魚人島は新世界へ向かう海賊と彼等を追う海軍の両方の相手をしなくちゃならないから、適任だろうけど。
娘が生まれたって話は、死亡フラグだからしない方がよかったかもな。この人原作にも出てこないからここで死ぬ可能性あるし。つーか、娘がいるってことは奥さんいるよね。なのにここの美女をナンパしてたの? 浮気?
白髭二番隊隊長がやる気になっていたので、任せることにした。ハンコックについては心残りだが、彼に抗ってまでシャボンディ諸島に行くのは躊躇われた。
ただ、彼は生身なので奴隷をつれて海軍から逃げるのは難しい。彼にも動かせる潜水艦を新しく作ることにした。足でこいで進むタイプのやつだ。大きさは機動力を考えて10人乗りにしておく。それ以上の人数だった場合は何度も往復して逃げてね。
翌朝は皆で白髭の二番隊隊長を見送った。彼は「行くのは俺一人でいい」と言ったが、心配だったらしくジョイが後から追いかけた。残された俺たちはビブルカードを見ながら成功を祈るのだった。
3時間ほど待つと、ジョイが裸の娘を二人抱えて帰ってきた。どちらも美女なので眼福だが、ゴルゴン三姉妹ではなかった。また、ジョイも娘達も怪我をしていた。
「はあ、はあ、はあ。クソッ、人攫い共め」
「げほっ、がはっ」
「かほっ、かほっ」
女たちは海水を飲んでしまっていたようだ。まあ人魚の速度で泳がれると息継ぎも難しいだろう。
「背中をさすってやれ」
「は、はい」
なでこに背中をさすらせる。
「う、うげっ。ごほっ、ごほっ」
「ぶへえっ。ふう、ふう」
早っ。なでこが1、2回撫でたら水を吐いた。こういう撫で能力もあったのか。知らなかった。
俺は能力でジョイの止血をする。矢や銃弾で抉ったような傷がいくつかある。目についたところから止血していく。
次に娘。一人は足首付近に、もう一人は手首に切り傷があった。これも止血する。ひっくり返した時に若い娘のおっぱいを触ってしまった。不可抗力である。
「はあ、はあ、はあ。すまねえ。俺はしばらく泳げそうにねえ。ずいぶん体力使っちまった」
血を失ったのと泳いだ疲労と両方の意味だろう。疲労についてはなでこのマッサージで減らせる。
「なでこさん、マッサージしてあげてください」
「はい」
なでこがジョイを撫で始める。ジョイは語り出した。
「今のシャボンディはやべえぞ。海軍のやつら、今日が掃討戦だったんだ。あちこち通行止めで、片っ端から人間を丸裸にして調べてやがる」
丸裸か。奴隷の焼印を探すためだな。それで彼女達も裸なのか。でも調査のためだからと言って女性を裸にしていいのか? 政府批判とかありそう。まあ女は女海兵がチェックしているのかもしれないが。
「海軍だけじゃねえ。政府のやつら、金で賞金稼ぎや人攫いさえ雇ってやがる。特に無法地帯の1から29番グローブがやべえ。賞金稼ぎと人攫いは人を見るなり躊躇なく足を撃ってきやがる。海賊もそれを警戒して常に臨戦態勢だ。俺も何発かもらっちまった。この娘二人は人攫いに捕まってたんだが、海賊と人攫いが戦闘になった隙に逃げ出したんだ。そんで俺が潜伏していた川の近くを通ったから、俺が水に引きずりこんだ。そん時にけっこう暴れたからな。この辺のたんこぶはそん時のやつだ」
ジョイは自分の頭を指差して笑った。確かに赤くなって膨らんでいる。
娘二人はようやく息が整ってきた。ほぼ二人同時に上半身を起こした。表情は警戒心にありありと見える。
「はあ、はあ、はあ。ここは? この人魚のおじさんは敵じゃないの?」
「カレンちゃん。ここは大丈夫だよ」
「ナディアさん。ご無事でしたか」
「ナディアさん」
娘二人とこちらにいた女性の一人が知り合いだったようだ。感動の再開だな。この場所の説明はナディアさんに任せよう。
「ジョイさん。二番隊隊長はどうしてました?」
「分からねえ。俺は地上では無力だから川で元奴隷を探したんだ。あいつとはすぐに別れたよ。あいつは地上をとんでもねえスピードで走っていった。見間違いかもしれんが、空を走っているようにも見えた」
月歩が使えるのかな? さすがは二番隊隊長。
「油使いの人はいましたか?」
「直接は見てないが、たぶんいるだろうな。油で滑らせる罠があちこちにあった。火もそこら中で上がっていた」
レイリーは、と聞こうとも思ったがどうせ誰のことか分からないからやめておくか。
その日、俺たちは二番隊隊長の帰りを待ち続けたが、ついぞ帰ってくることはなかった。ビブルカードは燃えて小さくなったが、消えはしなかった。
翌日、ジョイがシャボンディ諸島の様子を見に行った。ニュース・クーを持ってすぐに帰ってきた。
内容は『世界最悪の大海賊がまさかの共闘。白髭の一味と海賊王ゴールド・ロジャーの元クルー達がタッグを組み、世界貴族の部下達を誘拐。海軍の相次ぐ失態に世界貴族は怒り爆発』という驚くべきものだった。
白髭、マルコ、二番隊隊長レッド・コメット、レイリー、シャクヤクはもちろん、シャンクス、油使いオイル・ナターネ、革命家ドラゴン、の名前まであった。シャンクスはレイリーが呼んだのだろうか。白髭は二番隊隊長の帰りが遅いから会いに来たのだろうか。ドラゴンは世界政府打倒が目的だからこういう時に来てもおかしくない。
何にしろ、これだけのメンバーが集まったなら奴隷達も逃げやすかっただろうな。俺は行かなくて正解だった。このメンバーと大将がぶつかり合う戦場とか恐ろしすぎる。
ハンコックはどうなったんだろうな。九蛇海賊団については記述がないからまだシャボンディ諸島に残っていたりするんだろうか。