対人厨がログインしたそうです。 作:匿名希望者
DMMO-RPGと呼ばれるゲームジャンルがある。
体感型大規模多人数オンラインロールプレイングゲームと呼ばれるソレは数多く存在し、その中でも日本でDMMO-RPGと言えばコレ、と言われるほど人気を博したゲーム『ユグドラシル』。
『強さがすべてではない、DMMO』との謳い文句を掲げて、これまでの戦闘をメインとしたDMMOの常識を打ち破ったユグドラシルが流行するのに時間はそう掛からなかった。
圧倒的過ぎるほどユグドラシルが流行した事により今までの戦闘をメインとしたDMMOは過疎化していき、多くのDMMOユーザーが新天地を求めてユグドラシルに流れた。強さがすべてではない、運営が謳った通り、ユグドラシルには様々な自由度が存在し、多くのユーザーは自由度を前にして夢中になった。
しかし、すべてのユーザーがユグドラシルのゲーム性に馴染めた訳では無い。
『対人厨』と呼ばれるDMMOに戦闘を求めていたユーザーも一定数以上存在している。
そんなユグドラシルのゲーム性に馴染めなかったユーザーはユグドラシルに愚痴を漏らし、その度にユグドラシルのゲーム性を好む他のユーザーから嫌ならやるな、と散々言われ続けた。
勿論、彼らの言葉は正論であり、ユグドラシル以外にもDMMOが存在しているのだからそれらをプレイすればいい。だが、『対人厨』としては過疎化していくDMMOでプレイした所で“楽しくない”。本当の意味で戦闘が好きなユーザーもいるだろう。
しかし、『対人厨』の多くは“人口の多いDMMOで自身の強さを証明する”からこそ楽しいのだ。
――『対人厨』
ユグドラシルのゲーム性に合わないユーザー達とはいえ、運営としても逃がすには惜しい人口である。勿論、そんな彼らを逃さない為の受け皿も用意されていた。
『闘技場』――ユグドラシルにおいて唯一、強さがすべての戦場である。
◇
「まあ、これでユグドラシルも潮時かな……」
そんな闘技場の中でも最高峰。デスペナ有りのガチンコ勝負を好むユーザーが集まる闘技場に彼はいた。
対人厨の彼がユグドラシルに足を踏み入れたのは随分と昔。かつてDMMOと言えばユグドラシルと言われた時代は既に終わり、DMMOの絶対王者だったユグドラシルもサービス終了の時が迫っていた。
キノコタケノコ大戦争――親しい人達からはキノタケと呼ばれる彼がユグドラシルにログインしたのはかなり久しぶりの事だ。むしろ、ネットでユグドラシルのサービス終了を知らなければログインすらしていないだろう。
キノタケは対人厨としてユグドラシルを極めたと思っている。闘技場で戦って、戦って、戦って――果てには一つの世界の代表ワールドチャンピオンを名乗る資格を得たキノタケにとって、ユグドラシルは終わった世界だった。つぎ込んだ時間や課金は数知れず。対人厨の住処であった闘技場で勝ち抜き、ワールドチャンピオンとなったキノタケにとって対等であった闘技場での戦いは挑まれる物に変化していった。最初は良かった。褒められるのは好きだ、羨望の眼差しを向けられるのは嫌いじゃない。Wikiに自分と戦う時の攻略法が乗せられた時はニヤニヤした。だが、それは長く続かなかった。
性格が悪いと思うがPVPをする上で対人厨が一番楽しいのは負けた相手が悔しがる姿を見た時だとキノタケは思っている。だが、ワールドチャンピオンとなってからキノタケに挑む相手は負けてもワールドチャンピオンだから仕方ない、と言って平気そうに笑うのだ。
ハッキリ言って、その姿を見た時にキノタケは萎えた。対人厨は勝ち負けにこだわるからこそ楽しいのだ。良い勝負が出来れば満足。そう言って挑んでくる挑戦者の相手をするのは楽しくない。勝負は勝つから楽しい。そうでなければ戦う意味が無い。
運営によって他の世界のワールドチャンピオンと序列を決める為の戦いをした時の興奮を忘れられず、普通に他の世界のワールドチャンピオンと戦おうとした時もあった。しかし、闘技場という閉じた世界でワールドチャンピオとなったソロのキノタケと違い、他のワールドチャンピオンにはギルドとしての立場がある。
大体が戦力の均衡が云々と言われて断られた。
一度だけ後で謝罪すればいいか、と個人的に友好があったギルドの拠点を強襲した時は階層を守護するNPCを蹴散らしたくらいの所でシャルティアァァァ、と発狂して本気で怒っていたリアフレの鳥人がギルドメンバーを引き連れて襲い掛かってきた。
普通のメンバーでは被害が出ると言って出てきたキノタケの目当てであったワールドチャンピオンとの戦いは楽しかった。しかし、個人対複数の戦いは戦闘にはなっても勝負にはならなかった。個人戦のPVPを好むキノタケにとって、求めている戦闘とは違った。後日、キノタケがギルドと敵対したと勝手に想像した全く関係無い他のユーザーがキノタケの戦力を当てにして大規模なギルド討伐に発展したと聞いた時は流石に目を丸くした。その時になって戦力の均衡が云々という意味を理解した。特定のギルドに所属していない自分のワールドチャンピオンという称号は大きな意味を持つ。リアフレの姉からリアルで怒られたので流石に二回目は出来なかった。
強さを探究している間は楽しかった。しかし、至ってしまった後のユグドラシルで強さだけを求めてきたキノタケはする事がなかった。他のユーザーのようにギルドへ加入すれば少しは違った結果になったかもしれない。実際、異形種という事もありリアフレからギルド加入に誘われた事もあった。
しかし、その度に闘技場の友人達からパワーバランスが云々と言われて諌められた。
個人の力で得た筈のワールドチャンピオンという称号はいつのまにかキノタケの行動を縛るモノに変化していた。
そんなキノタケがユグドラシルから離れていったのは当然の結果だった。
サービス終了という事もあり、久々にログインしたキノタケだったがやはりする事がなかった。かつて強さの鎬を削った友人達はキノタケと同じようにユグドラシルから姿を消していて、キノタケの称号を知る見知らぬユーザーが記念と称してPVPを挑んできたりしたが勝つ気の無い相手に負ける訳が無い。最初の内は現在プレイしているDMMOの操作性との違いで誤爆したが数回戦闘を行えば勘はすぐに戻ってきた。
キノタケは久々のログインとはいえ、ワールドチャンピオンとしての面目を守り抜き、記念としてキノタケに挑んできた他のユーザーもサービス終了の時が迫るとPVPなどせず、街に繰り出して最後の祭りに興じていた。
「もう遅いし、止めるかな……」
元々、ソロプレイヤーで長くユグドラシルから離れていたキノタケが最後の時を一緒に過ごす友人はいない。ディスプレイの時間を確認したキノタケが明日の仕事を思い出してログアウトしようとした時、フレンド登録してあるユーザーの中でインしている名前がある事を思い出す。久々のログインで何をしようか、と悩んで確認した時に見つけた名前だ。連絡を取る前にPVPを挑まれたのですっかり忘れていた。
「モモンガさん、俺の事分かるかな?」
そう言ってキノタケはメールを送る。
『お久しぶりです。キノタケです。サービス終了と知り、久々にログインしてみました。本来ならアイツも一緒にログインして、最後にシャルティアにセクハラしてBANされると息巻いていましたが仕事でドナドナされていきましたww
モモンガさんの方は元気にしていましたか?』
モモンガとキノタケは本来そこまで仲が良い訳では無い。ペロロンチーノという友人を通して知り合った顔見知りだ。普段なら連絡など取らないのだが、最後という事もあり思い切って連絡してみた。
数分後、モモンガから伝言【メッセージ】を繋げる許可の申し込みが届き、キノタケは許可をしてモモンガに繋げる。
「本当にお久しぶりですね、キノタケさん。僕は元気にしていましたよ。今、何処にいるんですか?」
「ああ、勿論、闘技場ですよ。久々のプレイでちょっと四苦八苦しましたけどね。本当はもっと早く連絡するつもりだったんですけどPVPの申し込みが凄くて……」
「そりゃあ、久々にログインするワールドチャンピオンが現れたら仕方無いですよ。それにしてもペロロンチーノさんも相変わらずのようですね」
「ええ、メールをくれたモモンガさんにありがとうって言っていましたよ。ログイン出来なくて申し訳無いとも」
「それなら御礼だけ受け取っておきますね。仕事なら仕方ないですし……」
そうして対して親しい仲でもない二人は差し障りのない会話を続けて時間を潰す。ある程度の雑談を終え、サービス終了のカウントダウンが始まる。
「お、そろそろのようですね。それではこれで。また、会いましょう。俺は今、ACって言うDMMOで対人厨をやっていますから良かったら挑戦してきてください」
「ああ、あのロボットの奴ですか。僕はあんまりロボットにピンと来ないですけどユグドラシルが終わるなら少し触ってみようかな~」
「ええ、その時はペロロンチーノも誘ってチームでも組みましょう」
「あれ? ソロじゃなくていいんですか?」
「ええ、ソロも楽しいですけど、ロボットはチーム戦をしてなんぼですよ。正直、ユグドラシルでも少しは冒険に手を出しても良かったかな、って思っているぐらいですし……」
「それなら早く連絡してくれれば一緒にプレイ出来たかもしれませんね」
「まあ、後の祭りなんですけどね。もし、一緒にプレイする機会があれば一緒に冒険しましょうか」
「ええ、そうしましょう。それではまた」
「はい、また会いましょう」
カウントダウンも最後に迫り、伝言【メッセージ】を切ったキノタケは小さく息を吐くと強制切断に備えて瞳を閉じる。
「今度は冒険者プレイも良いかもしれないな~」
モモンガとの会話でそんな今更どうしようもない感想を抱きながら終わりを待つ。
――――が、一向に発生しない強制切断と頬を撫でる風に瞳を開く。
見開いた瞳に映るのは何処までも続く草原とあぜ道。
キョロキョロと周囲を見渡して誰もいない事を確認し、自分の頬をつねって痛い事を確認したキノタケは小さく息を吸うと思い切り叫ぶ。
「異世界転移来たぁぁぁぁ!」
キノコタケノコ大戦争――彼もまた、エロとは違う中二病患者という変人だった。
色々と原作設定の見落としをしていたようです。ご指摘ありがとうございました。