あらゆる情報が流れる場所、サイバー空間。
そこはサイバーエルフと呼ばれる生命体やレプリロイドの魂が存在する電子の世界。
おそらく現在誰にもその存在を知られていないであろうその空間に彼は居た。
「―――此処もまだ特に問題はない、か」
そう呟いて息を吐くのはどこか神父のような雰囲気の中性的な整った顔立ちの青年、もといサイバーエルフ。
その青年こそ、彼の蒼き救世主とも呼ばれた伝説の英雄エックスだった。
ある事情により自らの体を犠牲にして実体の体を無くしてからというものこの空間に留まり、元い世界を見守っていた。
それでもまた、世界や自分の親友の危機は見過ごせないのが彼の性格である。これまでも何度か歪んだ正義に立ち向かう親友を影から支えていた。
それでもまだ物足りないないのか、親友に少しだけ休むと言いながらこうしてこの場所の見回りを定期的にしていたのだが、
「此処で問題が起こることなんてない、か…。」
前述した通り、此処は現在普通の世界からは誰にも認識されておらず(それでも、一部の科学者達の間で此処の存在はまことしやかに囁かれているらしい)、サイバー空間の外から問題がやって来ることはまずない。
しいて此処で発生する問題と言えば、サイバーエルフ同士の喧嘩や、此処に来たばかりのレプリロイドが時々酷く混乱状態に陥っていることくらいで、それは大抵本人達の勘違いであったり、そうでなくとも今のエックスの力で容易く解決できるものである。
つまりこの場所、此の世界は至極平和であるということ。
「平和であることを喜ぶべきなんだろうけど…」
エックスは内心心苦しかった。いくら100年近くたった独りで戦ったとはいえ、世界を守ってほしいと一方的に頼んでしまったような気がして、心優しい性格の彼はこの事について大いに悩んでいた。実際、親友は特に文句も言わず了承したにもかかわらず。
「…そう思い悩まずに、エックス様。」
ふと横を見ると、仮面を着け黒い装甲に身を包む男が音も無く現われる。
歪んだ正義を掲げる都市---ネオ・アルカディアと呼ばれる場所で四天王の1人として活躍し、エックスの忠実な部下とも呼ぶべき元レプリロイド、隠将ファントムだった。
「突然失礼いたしました。しかしエックス様の御気分が何処か優れない物と見受けられた故。」
「…ありがとう。でも、僕は大丈夫だから…」
「世界の行く末に関われないことを気に病んでいらっしゃるのですか?」
「…」
「あなた様は過去にあの忌まわしい戦争を終結へと導いた方。途方もなく戦い続けたのですから、今此処で休息をとっていても当たり前のことでございます。もっと御身を大切になさって下さい。」
「…そうだね。考えておくよ。心配させてすまない、ファントム」
「滅相もございません。我が喜びは我が主の御健勝。そのような言葉をおっしゃってもらえること、有り難き幸せ」
「ふふ…相変わらずだね、君は」
そう言って微笑む英雄とその様子を見て何処か満足げな表情の隠将。
自らが思いもしない運命に身を投じる事を、青き英雄は知る由もなかった。
もうちょっとロックマンゼロ的なターンが続きます