「これは・・・何だ?」
ある日エックスが何時もの日課である見回りをしていると、とある情報の中に光を放つ綻びのような物を見つけた。サイバー空間はある意味情報の羅列によって成り立っており、こういった綻びやバグが生じることは珍しくない。
しかし、大抵の物はすぐに正常化するか近くにいるサイバーエルフによって削除されるのだが、この綻びは通常の物に比べて巨大なものでないにも関わらずその場に健在していた。
周囲のサイバーエルフに話を聞いても要領を得ず、曰く
「女の子の声がする」
「何か寂しそうに呼びかけてくる」
等と駆けつけたばかりのエックスには意味が分からない。
「・・・何処かからの救難信号が此処に紛れ込んでしまったのか?」
だとすればすぐに元の世界に戻しておかなくては。そう思いエックスがその綻びに手を伸ばし解析しようとすると、
「!」
突如此方に向かって綻びから光が迫る、と同時にエックスは自分の体が引っ張られる感覚を覚える。
「くっ・・・!」
このまま綻びに引き込まれたらどうなるかわからない。そう思っていたとき、
「滅ッ!!」
念のため、とエックスの背後で警戒していたファントムの十字手裏剣によって、エックスに向かっていった光は退けられた。
「ファントム!」
「お下がりくださいエックス様」
ファントムは綻びの前に歩いていき、
「我が主を引きずり込まんとする悪しき歪みよ、我が刃にて滅するがよい・・・!」
と綻びに苦無を振り下ろそうとしたとき、
---誰か・・・
「!! 待ってくれファントム!それを壊しては駄目だ!」
突如頭の中に流れ込むように聞こえてきた少女の声に、エックスは思わず叫んでいた。その様子に驚きながらもファントムは苦無を持つ手を下ろす。
「・・・いかがなされました、エックス様・・・?」
「・・・君には今の声が聞こえなかったのかい・・・?」
「声・・・?声とは一体・・・?」
「え?」
いや、たしかに聞こえたはずだ、エックスは周りのサイバーエルフにも確認するが、誰一人その少女の声を聞いたという者はいない。
声を聞いたといっても、サイバーエルフからすれば聞いたというより”感じた”という方が近いようで、細かく何と言ったかまでは聞き取れなかったそうだが・・・。
「エックス様・・・あの綻びは危険です。早急に消滅させるべきではないかと」
「・・・でも、綻びから悪意や罠の気配は感じられなかった。さっき僕を引き込もうとしたときにも引きずり込むというより、助けを求めるようなかんじだったんだ・・・」
「左様で、ございますか」
声を聞いたこととその内容を伝えても、何処か納得のいかない顔のファントムだが、エックスはどう言われようとこの綻びは邪悪な物でないと思っていた。
それに、誰かが綻びから助けを求めていて、その声を無視できない自分がいた。
「お言葉ですがエックス様、あの綻びの中に入るというのは非常に危険です。主が危険な目に遭うのを見過ごす訳にはいきません」
顔つきから気づいたのかファントムが釘を刺す、が
「・・・それでも、僕は誰かが助けを求めているのを見過ごすことなんて、できない」
その揺るぎ無い目を見て、ファントムはもう、自分の主を止めることはできないと悟った。
「承知、いたしました・・・。しかし、主だけを危険に晒すのは我が一生の恥。このファントムお供いたし「すまないが一人でいかせてもらうよ、ファントム」エックス様!しかし・・・」
加勢しようとしたファントムだが、エックスによって遮られる。
「それに、ここから僕達二人が同時にいなくなってしまってはこの場所を守る者がいなくなってしまう。それは君にだって分かるだろう?だから、僕一人で行かなくてはならないんだ」
「エックス様・・・」
「すまない、ファントム・・・」
自分が綻びに向かっても例の少女の声が聞こえなかった自分には何もできないという事を、ファントムは理解していた。
「・・・分かりましたエックス様、このファントム、主無きこの場所を必ずや守りきってみせましょう」
「あぁ。頼む、ファントム」
「ですがエックス様、どうか無理だけはなさらないよう・・・」
「分かってる・・・、ファントム」
そしてエックスは念のために、と言われ過去に使った武装のデータと親友の得物の”コピー”を携え、
「それじゃあ、行ってくる。あとは任せたよファントム」
「御意」
眩い光を放つ綻びへと、その身を任せた。
---エックス様、御武運を
---がんばってね、エックス!
自分を見送るファントムの声やその場に居たサイバーエルフ達の応援する声を聞きつつ、エックスの意識は溶けるように無くなった---
かくして、青き英雄は声の主が居る異世界へと導かれていく
果たして英雄は、異なる世界にて、どんな物語を紡ぐのだろう
これ設定分かる人にしか伝わってないんじゃなかろうか