青き英雄、異世界に来たる   作:波歩

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「誰か家族にでもなってくれへんかなぁ」

 

そんな普通叶わないであろう願望を独り呟くのは車椅子に乗った少女、八神はやて。

 

もちろん自分の願い事を実際に口にしたからといってそれが現実になる訳でもなく

 

「あーアカンアカン!弱音ゆうたって何も変わらへん!」

 

と、先程の自分の発言をすぐに否定する。

 

それでも普段のはやての生活環境を鑑みれば、たとえ幼い少女でなくとも弱音を吐きたくなるものである。

 

現在八神家に住んでいるのは実質はやてただ1人のようなもので、もちろん定期的にやって来るヘルパーが彼女だけでは困難な家事を手伝うことこそあるが、飽くまでもそれは一時的な物であり、決して家族が増えるのではない。

           

足の検診の為外出する時に、送り出してくれる人は居ない

 

 

家に帰ってきた時に帰りを迎え、優しく声をかけてくれる人もいない

 

 

賑やかに会話を交わしながら夕食を共にする人もいない

 

 

はやては、この家で1人だった。

 

あるとすれば何処からか振り込まれる差出人不明の生活費であり、おかげで日々の暮らしには困らないものの先の望みが満たされる訳ではなかった           

勿論、近所に住む人達にはいつも親切にしてもらっていることははやてからしてもありがたかったし、感謝もしている。

それでも今の自分に明確に家族と呼べる存在はおらず、常に孤独を感じていた。

 

そんな現実にもめげず、今日もはやては1日分の出来るだけの家事を終え我が家の庭が見える窓から、車椅子に座って夜空を眺めていた。すると、

 

「あっ流れ星!」

 

突然空に一筋の流れ星が落ちてきた。久しぶりにこれを見たはやては折角だからと先程自分で否定した願いを口にする。

 

「どうか私に家族が出来ますように…」

 

それは本来3回繰り返すのが正しいのだろうが、本人は願い事を言っただけで満足したようで、

 

「さぁて、もうそろそろ寝ようかなぁ~」

 

と就寝の準備をしようと車椅子を操作しようとした所、

 

「…あれ?流れ星が…」

 

今願い事をした流れ星の異変に気付く。

 

見間違いでも、目の錯覚でもなく、こちらに向かっている

 

「わ、わわわ!?あ、あれってもしかしてこっちに近づいてきてるんちゃうん!?」

 

そ紛れもなくその流れ星は確実に八神家へと接近していた。そして流れ星はすぐに目で大きさが確認できる程に近づいてきて、そして

 

「きゃああ!!」

 

おおよそ直径2m程度のそれは、丁度はやての目の前の八神家の庭へ落下し、眩い光を放ったのを最後にはやては気を失ってしまった

 

 

 

 

 

 

サイバー空間から意識を断ったエックスは、その間久しぶりに夢を見ていた。

 

自分がまだ世界を救った英雄として人間、レプリロイドを問わず誰からも慕われ、敬われていたほんの僅かな時間。

 

まだサイバー空間ではなく、レプリロイドとして世界で活動していた頃の出来事の夢。        

世界を救った英雄、救世主、偉大な人物、と彼を尊敬したりまたは崇拝している者が大勢いたが、本人はそれをあまり快く思わなかった。

ただ他のレプリロイドを倒した事によって自分が英雄視されるのが心苦しかった―――たとえ倒したのが悪魔と謳われるレプリロイドであったとしても、エックスからすればそれも自分と同じ“生”を持った者で、日々戦う事に悩んでいた彼にとってそれらの輝かしい呼び名がとても喜べる物でなかった。            

(僕は英雄なんて大層なものじゃない。…ただ、ただ僕は、人もレプリロイドも関係なく、誰とでも手を繋げる、そんな世界を…)

 

 

そこまで至った時、エックスの意識は夢から一気に覚醒する。

 

 

 

 

「…う、此処は…?」

 

エックスが目を覚ました時、すぐに目に入ったのは幾つもの星が瞬く夜空だった。すぐに起き上がり、自分の今の状態を確認(主に駆動部分や武装に関して)したが、特に異常は見られなかったので軽く息をつく。

 

どうやら自分は転送されたか、もしくは上から落ちてきたらしいとエックスは判断する。

 

そして、今自分が居る場所が自らの認識と大きく異なっていることに気付く。

 

 

「!…これは、一体…!?」

 

驚いて思わず周りを見渡すエックス。

 

「…こんな様式の家はネオ・アルカディアにはない…。それに、巡回しているはずのメカニロイド達もいない…?」

 

ネオ・アルカディアとはかつてエックスが人類の生きる新しい楽園として創設した唯一の国のようなもので、そこで人類は皆生活に何一つ不自由することなく豊かに暮らせる場所だった。人間達が暮らす居住区があり、そこを24時間パトロールしているメカニロイドと呼ばれる機械が必ず居住区を巡回しているため、エックスが見ている景色はにわかに信じられないものだった。

様々ま疑問を抱えつつもひとまずは自分が今居る庭の家主に会ってみようと考え、後ろを振り返ると

 

「・・・え?」

 

車椅子に乗った状態で気絶している少女に気がついた。

 

 

 

 

どれくらい時間が経ったか、はやてはその意識を取り戻すと、

 

「ん・・・うん・・・。あ、あれ?」

 

どういう訳か自分がいつの間にかベッドで寝ていたことに気づく。もしかしたら夢だったのかとはやては思ったが、しかし覚えているかぎり、自分はたしかにあの後気を失ったはずだ。

何故だろう、と思考をめぐらせていると、不意に部屋のドアが開き、

 

 

「あ・・・ごめんね。驚いたかい?」

 

水を入れたコップをお盆に載せて、優しそうな青年が入ってきた。

そしてごく当たり前のようにはやてにコップを渡して

 

「気分はどうかな?これぐらいの事しか出来なかったけど・・・」

 

普通に自分の心配をしてくれて、そして残念そうに少し俯く青年の姿にはやてはひたすら困惑したが、とりあえずはお礼を言うことにした

 

「あの・・・ありがとう、ございます」

 

「礼を言われる程じゃないさ。倒れている人がいたら、助けるのが普通だろう?」

 

そういって自然に微笑む青年につられて、はやても笑う。

 

「あははっそうやね。確かに普通やった」

 

「ふふっ・・・まぁ君に怪我がなくてよかった」

 

「あ、そうだ。名前」

 

「ん?」

 

「あなたの名前はなんていうんですか?」

 

はやてにそう聞かれたエックスは、この世界に来て初めて、自分の名前を名乗った。

 

「僕の名前は・・・エックス、さ」

 

 

 

 

正直なところ、エックスは自分の名前を名乗るのが好きでない。特に人間に関して言えば自分が名乗るまでもなくこちらに頭を下げてくるのが、エックスにとっては苦々しかった。

自分が何者であろうと関係なく、人間とレプリロイドの違いも気にせず、対等な立ち位置で話がしたいと切に望んでいた。

だから、でもしかし、この少女も同じような反応をするのだろうと思っていたエックスだが、

 

「エックス?へぇ~。変わった名前やね」

 

少女から返ってきたのは思いもよらない言葉だった。

ここでエックスは先程から頭に浮かんでいる自分の予想を確かめるように少女にこう訊いた。

 

「・・・ここはネオ・アルカディア居住区のどの辺りかな?」

 

「アルカディア・・・?何ですか、それ?」

 

この答えを聞いてエックスの予想は的中した。

人間が自分のことを、そうでなくともあの理想郷を知らないというのはエックスのいた世界ではありえないことだ。しかし先の少女の答えは、この世界にそんな物は存在しないと否定したに等しかった。

ここに来てエックスは、自分が紛れも無く何処か別の世界に飛ばされたことを理解した。

 

「あ、あのぅ・・・大丈夫ですか?」

 

恐る恐るといった感じで少女が尋ねる。そんなに悲愴感溢れる表情をしていただろうか、と思ったがエックスは笑って言う

 

「いや・・・少し驚いただけさ、ありがとう。そうだ、君の名前は何ていうのかな?」

 

良ければ教えてくれないかい?と言うと、少女もまた笑ってこう返した。

 

「うちの名前は八神はやてっていうんや」

 

 

 

 

かくして、青き英雄と少女は出会う

 

 




関 西 弁
居住区云々は想像です。
全自動都市っぽいし、レプリ:人=9:1くらいかなぁと。
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