自分が元居た世界とは違う別の世界へと飛ばされたことを理解したエックスは、とりあえず目の前の少女、八神はやてに自分の事情を説明した。
自分は人間ではなく、レプリロイドと呼ばれる限りなく人間に近い存在であること、そして人間とレプリロイドが生きている世界という事など元居た世界に関する情報を伝えた---尤も、自分がその世界で英雄と謳われている事は伏せておいた。
自分は大それた存在ではないと思いたかった。
それは、英雄という呼び名は本人の意思とは無関係に付けられた勲章《重荷》だったから。
自分が誰かの声に呼ばれてこの世界に飛ばされた(結果的には八神家の庭に落とされた)辺りに関しては流石に信じてはくれないだろうと思っていたエックスだったのだが・・・
「・・・と、これが僕の居た世界なんだが・・・」
「う~ん・・・なんやえらい難しい話やね」
「いや、信じてもらえなくてもいいんだよ。かなり無理があるだろうからね・・・」
「いや、信じるで」
「・・・どうしてだい?」
「だって、エックスさんはいい人やから。嘘をついてるような顔じゃないからや」
エックスの心配は杞憂だったようだ。嬉しく思うと同時に自分は外から見てそんなに分かりやすい顔をしていただろうか、とも思った。
そんな風に思考するエックスを尻目にはやてはおかまいなしにエックスの体に触り始める
「いや~でもこんな見た目で人間じゃなくてロボットだなんて信じられんわぁ~」
「まぁ僕の見た目は特に人間に近いからね。他のレプリロイドは動物をモチーフにした人が多かったかな」
「へぇ~そうなんや。それにしても綺麗な目やね~。おでこのとこも赤い宝石みたいで綺麗やわ~」
正直今まで生きてきた中で自分に対してここまで遠慮なく接してきた人間はほぼいなかった(いたといってもかなり昔のことである)ため、このように人間と交流することはエックスにとってとても新鮮であった。
そして話はエックスのこれからの事についてどうするかといった方に移る
「そういや・・・エックスはこれからどうするつもりなん?」
「そうだね、この世界にレプリロイドの僕を知っている人はいないだろうからね・・・今のところ特に考えはない、かな」
「せやったら、あの・・・」
「? なんだい?」
「その・・・良かったらこの家で暮らしてもらえへん、かな?」
「いいのかい?まだ知り合ったばかりなのに・・・」
「ええんよ。・・・うちな、長い間この家で一人で暮らしててな、一緒に暮らす家族がいなくて、実を言うと寂しかったんよ」
「そうだったんだね・・・」
「やっぱ、アカン・・・かなぁ?」
そう言って不安そうにこちらを見上げるはやての姿にエックスはほんの少し考えた後、微笑んでこう答えた
「・・・僕でもいいのなら、喜んで家族になるよ」
「ほ、ホントに!?」
「うん。本当に」
そう言うとはやては嬉しそうに笑って手を差し出し、
「それじゃあ、これからよろしくなエックス!」
エックスも笑って手を差し出す
「此方からもよろしく、はやて」
そして握手を交わし、エックスは八神家の家族の一員となった
かくしてはやてと家族になったエックスなのだが・・・
「・・・えーっと、はやて?」
「あ、やっぱりレプリロイドだから食べれへんかな・・・」
「いや・・・それは・・・」
彼は今早速窮地に立たされている。食事の場面で。
エックスは紛れも無くレプリロイドであり、レプリロイドには人間と同じ食べ物を食べる能力はない。できるとしたら、内部の擬似消化器官という名のタンクに口にした物を溜めることぐらいである・・・飽くまでも溜めるだけ。
御多分に洩れず食事する能力を備えていないエックスは、とりあえず一通り八神家の中の案内が終わり、基本的な家具等の使い方を説明してもらった後、自分は食事をする必要はないことをはやてに伝えようとしたのだが
「そういやレプリロイドって人間に近いんやから・・・あ!そういえばエックス今日の朝ご飯食べてへんかったやろ?ならうちの分も一緒につくらなアカンな!」
「あ・・・はやて」
言うが早いかはやては車椅子を使っているにも関わらず、凄まじい速度で台所へと消えていった。その様子をエックスは呼び止めることもできず、呆然と立ち尽くしていた。
しばらくして、はやてに呼ばれたエックスが居間に行くと、そこには人間でないエックスにも美味しそうだと分かるくらい見事な朝食が配置されていた。エックスも感嘆する。
「これは凄いね!はやては料理が上手なのかい?」
「えへへ・・・まぁ得意、かな」
「いや見事なものだよ」
そんなやり取りをしている内についついエックスは先程言おうと思っていた事柄も忘れて、流れるようにはやてと向かい合う位置の椅子に座り、
「じゃあ、いただきま~す」
「?? イタダキマスってなんだい?」
「あー、食べる前の礼儀って感じの言葉やね。今から食べる食べ物に感謝するんよ」
「へぇ、そうなんだ・・・あ」
・・・これから食べるというタイミングでその事を思い出した。
「はやて、本当に済まないんだけど・・・」
「え・・・どうしたんエックス・・・?」
そう切り出した途端、不安そうな表情になるはやて
「・・・あ、お腹空いてなかったん?」
「いや、そうじゃないんだ」
「な、なら・・・うちの料理は食べられへん、とか・・・?」
「えぇ?!い、いやそうじゃないんだ、ただ・・・」
「あうぅ・・・」
不安そうな表情が一気に涙目に変わるその顔はエックスの良心をこれでもか、というくらい抉る
そうして時は戻って
「えーっと、はやて?」
「・・・あ、やっぱりレプリロイドだから食べられへん、のかな・・・」
「いや、その・・・」
この時ばかりはエックスは自分だけの特権である”悩む”事ができるという己の能力を呪った。どうせこうなるくらいなら、下手に考えず普通にはやての料理を食べればいいじゃないか、と。
レプリロイドが先程のような自らのタンクに食べ物を溜めるという行為は構造上できれば避けたいものであるが、この少女の今にも泣きそうな瞳を見て、どれだけの者がそんな非情な行為を選択できるだろう(某紅い英雄はやりかねないかもしれないが)
その上、人一倍強い正義感と責任感を持つエックスからすれば、はやてのような幼い少女を自分の行いによって悲しませたり、その後泣かせてしまうというのは絶対にしてはならない事と思うだろう。---その瞬間、エックスの中で
はやてを悲しませない>ロボット三原則
といった感じの方程式が成り立ったようだ
世界を救った英雄は、少女への罪悪感に勝てなかった
視線を感じながらも覚悟を決めたエックスは、見様見真似でフォークを持ち、ゆっくりと一番近くの皿に盛られた料理に手を伸ばす。
その一部(タコさんウインナー)をフォークで刺し、またゆっくりと口に運び、食べた。
バッチリ見られているし、そのまま丸呑みせず噛んでおかないとマズいだろうとエックスは咀嚼する。
するとここで、エックスはあることに気づく。
(ん…これは…?)
今まで感じた事のない感覚を覚えつつ、無意識的にエックスは呟く。
「…おいしい」
「ほ、本当!?」
「うん…おいしい。これおいしいよはやて!」
思わず声を上げるエックス。その様子を見てはやての顔も綻んだ。
先程の深刻な悩みはどこへやら、エックスはどんどん料理を食べ進め、あっという間に食べ終えた
「あぁ、おいしかった!えっと…」
「食べ終わった時はごちそうさまって言うんよ」
「うん、はやて、ごちそうさま」
「えへへ、お粗末さまでした」
朝食を終え、食器の片づけをしながらエックスは先程の自分の体の変化について思考していた。分析してみた結果、物を食べられるどころか、食べた物の熱量等の栄養をエネルギーに変換している事に気付き、かなり驚いた。同時に従来の太陽光によるエネルギーも加えて、動力源に関して何ら問題はない事も理解した
。(この事態はこの世界に来る際、体の構造に何らかの原因不明な変化が起こったものであると結論づけた。尤もエックスの頭の中は現在、食に対する感動でいっぱいであるが)
元指導者として人間の食生活についてもっと考えるべきだったろうか、と一人思考していると
「エックス~口元にご飯粒付いとるよ」
何処かニヤニヤした表情のはやてに指摘された。
「ありがとうはやて。・・・それにしても、とっても美味しかったなぁ、はやての料理」
「そ、そんなに?」
「うん、僕はかなり長い時間を生きてきたけど、こんなに満たされた気分は初めてだよ」
「あう・・・そんなに褒められると恥ずかしいわぁ・・・でも、エックスが美味しいって言うてくれるんなら、うちも毎日つくったるで」
「本当かい?はやて、ありがとう!」
そういって喜ぶエックスは何というか純粋な少年そのものであった。どう見ても戦争を終結させた英雄の振る舞いでないそれは、彼を慕う者からすれば到底考えられない姿である。(某四天王の内、隠将や賢将なら唖然とするだろう)そんなエックスの様子を見て変わらず笑っているはやては、何やら幸せそうだったという。
そんなエックスだが、夕食時には「あんまり大きな声出したらアカンよ」とはやてに注意され、しょぼくれつつも”テーブルマナー”という、食事中に守るべきものを教えられ、以降静かに---料理を味わい、感想を言ったりはもちろん忘れない---人並みのマナーを守って食事をするようになったのであった。
キャラせっていの ほうそくが みだれる!