何時もは和やかな空気が漂う八神家のリビングだが、この時ばかりは普段からは考えられない程空気が張り詰めていた。
今リビングにいるのはエックスとヴォルケンリッターの計5人。その内、このただならぬ雰囲気の元凶は青き英雄と烈火の将の2人である。
両者ともテーブルに座っていて、お互い正面から向かい合っていた。しかし、2人の様子はそれぞれ違った。
烈火の将ことシグナムはもう露骨に警戒心がありありなのが顔を見ただけですぐ分かるくらい正面の英雄を睨みつけている。一方、青き英雄ことエックスはというと、警戒や疑惑といった表情はない。だがしかし、普段のやわらかい表情は一切見られず、ただ静かに、冷静に、目の前の相手を見ていた。
そしてそれ以外の3人は、その様子をただ遠巻きに見つめていることしか出来なかった。本来守護騎士4人の参謀役であるはずのシャマルに至っては全く動かない2人の様子にオロオロしているといった有様である。しかもこんな状態でかれこれ数時間以上経過している。
だが、こういった膠着状態は昔の仕事柄慣れっこのエックス。事件の犯人グループに投降を促す作業を数時間、それを数え切れない回数経験している。
(・・・この人達、人間のようだけど、さっきいきなり出した剣といい、やはり普通の人間じゃない)
エックスの経験則がそう告げていた。
この時、ほぼ同じ瞬間にシグナム達も“念話”によって会話をしていた。
(どうだ、シャマル)
(えっと、うん。やっぱり彼は人じゃないみたい)
(ふん、やはり人の姿を模倣した人形か何かといった所か。ますます捨て置けん)
(でもよーシグナム、そいつ普通に人間みたいに喋ってたぜ?)
(それに感情を持っている様にも見えた。人ではないからといって疑うどころか倒そうとするのは早計だと我は思うが)
(からといっても不審な輩に変わりはない)
どうやら目の前の青年の対処についての会話のようである。それも、かなり物騒な類だ。
「あーよく寝たわ。・・・って何やこの空気!」
暫くして、はやてがリビングに来たことで、ひとまずこの謎の睨み合いは終了した。
「あー・・・とりあえず、皆自己紹介から始めてくれへんかな?」
未だギスギスした空気の打破と今この現状の確認を兼ねたはやての提案により、一種の冷戦状態だったこの場の空気はひとまず霧散し睨みあっていた(いささか一方的ではあったが)2人の顔から幾らか固さが取れ、緊張していたシャマルもほっと息を吐くことが出来た。
そしてエックスのときと同じように、はやてにシグナム達から自分達の役目、そして魔法と闇の書についての説明がされる。
「信じていただけないのも無理はありません。ですが・・・」
「ん~、信じるで」
いきなり説明して不審がられてもしかたない、とばかり思っていた守護騎士4人は盛大にコケた。その姿に既視感を覚えエックスは内心苦笑い。
「軽ッ?!何故そんなに・・・」
「嘘吐いてるように見えんしなぁ・・・それに、目の前でいきなり本から出てきたら、そりゃ信じるわぁ」
何や最近びっくりする事多いなぁ、と何と無く隣に座るエックスを見ながら言うはやて。
「・・・色々すまないね、はやて」
「いや謝らんくても」
「あの、主。その男は一体何者なのですか・・・?」
そう言って再びエックスを怪訝そうに見るシグナム。
「せやからそんな睨んだらアカンて。エックスはな、うちの家族や」
はやてはエックスとの出会いを簡潔に説明する。
「・・・とまぁ、こんな感じやね。なーエックス」
「そうだね。ありがとう、はやて。・・・じゃあ僕も自分の事くらいは説明しようかな」
次にエックスから自分の事情---主にレプリロイドと元居た世界---についての説明をする。
「・・・そんな世界が本当にあるのか?」
「でもやっぱり人間にしか見えないわ・・・」
「つーかお前、空から降ってきて平気なのかよ・・・」
「ほう・・・」
感想は各々違うようである
と、ここではやてがこの場の全員に向けて言う。
「で、これからの事なんやけど・・・」
それを聞き、闇の書の主としての命令だと心して次の言葉を待っていたシグナム達だったが
「とりあえず、一緒に暮らす家族になるんやから、まずは服とか用意せんとな!」
「「「「・・・はい?」」」」
まさかの主の一言により4人とも見事にハモり
「あ、そうだね。なら僕が行こうか?」
「「「「・・・えぇえ?!」」」」
普通にその提案を呑んだエックスに、再び4人同時にずっこけたのだった
結局はやてとエックスの2人で買い出しに行くこととなり、行く途中で色々と話し合った所思ったよりも買う物の量が多く、服の選定にも時間がかかったこともあり(主に女性陣の分が占めている)、家に戻った時には既に日が暮れていた。
はやてがリビングに戻ると、やはりというか4人とも今朝と同じ様にそこに居た。所在なさげにも見える。
「別にそんなしんみりとせんでもええのに」
「いえ、主の断りなく勝手に歩き回るのは・・・」
「も~これからは家族になるんやから、そんなこと気にせんでもええの!」
「は、はい・・・」
主からの命令やで~、と言って未だ自分の主に対して恭しい態度をとるシグナムの肩をポンポン叩く。
「ところで主、もう1人は何処へ・・・?」
そんな様子のはやてにザフィーラが尋ねる。
「ん、エックスなら今荷物を運んでもらってるけど・・・」
「まぁ、ちょっと遅くなっちゃったかな」
「遅いでエックス~」
玄関の方から声がしたので5人が目を遣ると、両手と背中に大量の荷物を持ったエックスが入ってくる。
すさまじい荷物の量であり、エックスの身長を軽く超える。
「お、お前・・・平気なのか?その量・・・」
「え?大丈夫さ、このくらい」
「このくらいって・・・」
それぞれの常識が見事に食い違う。実際自分より力の強いレプリロイドが居ることをエックスは知っていたし、運搬用メカニロイドならばこの荷物とは比べ物にならない量の物資を運ぶことも知っていた。
「とりあえず、君達もはやてと一緒に整理を手伝ってくれないかな?まだ荷物があるんだ」
「わ、わかった」
「うん、頼んだよ」
そう言って再び玄関に戻るエックス
「ほんとにすげぇな、アイツ・・・」
「それもそうだが、今は主の手伝いだ。早く済ませるぞ」
「それにしても結構な量ね・・・」
「そんじゃ、がんばろか~」
はやての一言で荷物の整理を始める一同。だが、シグナムは1人エックスに不審の眼を向ける。
(やはり只者ではないな、奴は・・・)
整理も終わり、夕食の準備に取り掛かるはやて。その隣で、1人だと大変だから、とエックスも手伝い、ヴォルケンリッターの4人もはやての指示によりそれぞれきびきびと準備をする。
今までにしたことの無い作業だからか最初こそぎこちなかったが、徐々に手際が良くなる様子を見てはやてとエックスは舌を巻く。
そして、料理を運び終えると、テーブルが普段の数倍の料理で埋め尽くされていた。
「食べる時はいただきますって言うんやで。それじゃいただきまーす!」
はやての説明に懐かしいな、と思ったエックス。
6人がそれぞれ徐に料理に箸を伸ばす。
「うまい!はやての料理おいしいな!」
「そう言うてくれるとうれしいわぁ」
今日の夕食は賑やかだなぁ、等とぼんやり考えるエックスだったが、ふと床に目を遣ると
「・・・うむ」
狼の姿で食事をするザフィーラを見た
「・・・君はそれでいいのかい?」
「この姿でいた方が色々と都合がいいのでな。何、遠慮はいらん」
「そうかい、ならいいんだけど・・・」
それにしてもこの食べ物はうまいな、と食を進めるザフィーラの皿にあるのはまごうことなくドッグフードである。
本人の要望とはやての意見とはいえ、これでいいものかと何とはなしにやるせなく思っていたエックス。そこへシグナムから声が掛かる。
「お前、物が食べれるのか?」
「うん?そうだね、僕も同じ様に食べるけど、どうしたのかな?」
「いや、人でない人形が物を食べるのが少し不思議・・・」
「人形やないッ!」
そこまで言ったシグナムだが、途中で遮られる
「エックスは、エックスは人形なんかやない!」
「あ、主・・・」
「ちゃんとご飯だって食べるしうちと同じ様に寝る!それに笑ったり褒めてくれたりだってする!」
少し涙目になりつつも言葉を続けるはやて。
その勢いに何も言えないシグナム
「だから、だからッ!人形なんて「いいんだ、はやて」・・・エックス」
制止する様にはやての肩に手を置くエックス
「どんなに人に近くても、僕はやっぱり人間じゃない。・・・それは事実なんだ」
何処か悲しげに言うエックスの様子を見てはっとしたシグナム
「でも、僕が人間じゃなくとも、はやての家族なのは変わらない、そうだろう?」
「・・・うん」
ようやく落ち着いたはやて。そして優しく頭を撫でるエックス。
2人の姿は、本物の家族そのものであり、正真正銘の兄と妹の様にシグナムの目に映っていた。
夕食を終え、他の5人も眠りについた頃、エックスはいつもの場所でいつも通り夜空を見上げていた。初めて摂った大人数での食事に若干の高揚感が胸に残っていた。
ふと空を眺めるのをやめ
「・・・誰だい?」
振り返りもせず言うエックス。
「やるな、エックス」
そう言って近づいてきたのは、シグナムだった。
エックスが横にずれ、場所を譲る。それに応じて隣に座るシグナム。
「いつも夜になるとここに居るのか?」
「そうだね。・・・僕の居た世界には、こんな綺麗な自然はなかったからかな」
「そうか」
会話が途切れる。窓際に夜の自然からささやかに音が溢れる。
少しの静寂の後
「先程はすまなかった」
「謝らなくてもいいさ。気にしていない」
「だが主の信頼する者を侮辱した事に変わりはない」
そしてもう一度、すまなかった、と謝るシグナム。
そんな様子に困った様にエックスは笑う。
「僕達はこれから一緒に暮らすんだ。そんなに謝らなくてもいいんだよ?」
「・・・許してくれるのか?」
「許すも何も、僕達はもう“家族”だろう?」
「フ・・・そうだったな」
皆にも明日言っておくか、とシグナムは自然に笑う。
エックスは右手を差し出す。それを見てシグナムも右手を差し出し
「よろしく、エックス」
「よろしく、シグナム」
握手を交わす2人。蟠りも解けたようだ。
「そうだエックス。相談があるんだが」
「ん、何かな?」
「レプリロイドというのは戦いにも参加できると言ったが・・・」
「あぁそうだね、確かに僕は戦闘用の「本当か!?」う、うん」
くわっという効果音が出そうな程、身を乗り出してくるシグナムにエックスは驚く。
「なら!明日にでも、私と手合わせ願いたいのだが!」
「本気で戦うのかい?」
「いやそういう訳ではない、だがしかし」
「なら僕が明日、丁度よさそうな物を用意しておくよ」
「そうか、助かるエックス。なら明日、楽しみにしているぞ」
そういってやたらいい笑顔で部屋に戻るシグナムの後姿は、とても活気に満ち溢れて見えたエックスだった。
見送るエックスの表情は唖然としたものから、喜びを湛えた微笑に変わる。
「ふぅ・・・明日、いや、明日から忙しくなりそうだな」
一気に5人に増えた家族の事を考え、思わず顔が綻んでしまうエックスだった。