シャマル+料理=?
ある朝、掃除を終えたエックスが今居るのは、八神家の庭だった。他の家に比べて広く、彼の手入れも行き届いているため小奇麗である。
その庭の真ん中に立つエックスの手には、一本の木刀。エックスは目を閉じて、ある人物を待っていた。
片手に木刀をぶら下げるように持ち自然体で立つその姿は、彼の服装と目を閉じていることも相まって朝の住宅街には場違いなほど神秘的な空気がただよう。
「待たせたな」
その声を聞き、エックスはゆっくりと目を開け、声の主を見据えた。
「いや、僕も今来た所さ。シグナム」
視線の先に立っていたのは烈火の将ことシグナムだった。此方も手には木刀が握られていた。
「お前は何時もそう言うな」
「ふふっ、そうだね」
「ふっ・・・ではそろそろ」
会話を切り上げた瞬間穏やかな空気が立ち消える。
「始めるか」
「始めようか」
その言葉を皮切りに、2人は木刀を構え、相対した。
事の始まりは4人の守護騎士達が新しく家族になった次の日の朝だった。
前の晩の約束という事でシグナムと戦う(といっても試合の様なものであるが)ことになったエックスだったのだが、急な約束だったため準備が整わず、急遽エックスが自前で木材から直接木刀を削り出した。見よう見まねかつ初体験だったため荒削りな作りである。
そして朝食後休憩を取った後にようやくシグナムが望んでいた戦闘が実現したのだが・・・
「くっ・・・!」
「何故此方に切り込んで来ない!エックス!!」
その様子はシグナムの攻撃をひたすら受け流し、避け、回避し続けるエックスという妙な状態になってしまっていた。剣の達人と呼ぶのも生温いほどの実力を持つシグナムの剣を避け続けるレプリロイドの英雄。ギャラリーの4人は両者の実力を改めて確認すると同時にこの奇妙な現状に小首を傾げていた。
(一方的な)戦闘の中、反撃する様子の見えないエックスに怒気をはらんだシグナムの声が叩きつけられる。
「まさか私の見た目が人間だから戦えないとでも言うのか!?私達ヴォルケンリッターは闇の書のプログラムといっただろう!」
「いや、分かっているんだ。でも・・・」
「でも、ではない!分かっているなら私に斬り付けてこい!エックス!!」
やはりというか、心優しい性格であるエックスは遠慮はいらないと言われたものの、シグナムを傷つけてしまうかもしれない事に抵抗を感じていた
結局この日はシグナムの気が済むまで続けられ、昼食時になってもまだ続けていたため、他の4人からストップがかかりようやく終了となった。
そして、不完全燃焼という形となり、露骨に不満そうな表情のシグナムからこれでもかと睨まれ続けたエックスは、次の日からはキチンと戦う事を約束し、現在に至る。
時は戻り
「はぁっ!」
踏み込んで上から袈裟斬りを仕掛けるシグナム。
「せいっ!」
エックスはそれを受け流しつつ、そのまま回って薙ぐように斬りつける。
「…ふっ!」
しかし見切っていたのかシグナムはすぐさま後ろに下がって避けた。
「やはりやるな、エックス!」
「そっちこそ!」
再び両者の距離が空き、それぞれ構え直す。
自分に匹敵する実力を持つ相手を前にしてシグナムは心から嬉しそうに、不敵に笑う。
そのまま暫くお互いに動かず、そして
「「…おおおおおっ!!」」
2人同時に駆け出した次の瞬間には、もう勝負が決まっていた。
「…!」
「僕の勝ちだ」
エックスがシグナムの木刀を弾き飛ばし、自分の木刀の切っ先を向けている。
今日の勝負は、エックスの勝利という形で終わった。
「やはり強いな、エックスは」
額の汗をタオルで拭いながらシグナムが言う。
「そういう君だって強いさ」
言いながらエックスは水の入ったペットボトルを渡す。
「はい」
「む、すまんな」
レプリロイドのエックスは特に水分補給は必要ないのだが、自分もペットボトルを開けて飲む。
「ふぅ、やっぱりこの水は美味しいな」
人間と同じように食べ物を味わえるようになってからというもの、市販のミネラルウォーターでさえ賞賛しているエックス。
「そういえばレプリロイドというのは、種類という物があると言っていたな?」
「うん、そうだね。例えば人間の代わりに仕事をする情報処理用や運搬用のレプリロイドもいる」
「ふむ・・・なら、お前はどうなんだ?」
まさか自分に形式上とはいえ勝ったのだから一般的な類ではないだろう、と純粋に興味でシグナムは訊いたつもりだったのだろう。
「・・・僕は戦闘用のレプリロイドさ。これまでも、同じレプリロイド達と戦い、倒してきた・・・」
エックスはほんの僅かに悲しい面持ちでそう答えた。
「・・・すまない、不躾だった」
「そんな謝らなくてもいいさ。君にそんなつもりが無かったのはちゃんと分かってる」
「そ、そうか・・・」
水を飲み終えたエックスは立ち上がり。
「さ、そろそろ朝ご飯の時間だ。僕は準備があるから・・・」
「む、もうそんな時間だったか。今日も付き合ってくれた事、礼を言おう」
「ふふ、じゃあ行ってくるね」
「ああ」
台所に来たエックスが早速今日の朝食の準備に取り掛かってから数分後シャマルがリビングへとやって来た。
「おはよう。シャマル」
「あ、エックスくん。おはよう」
いつものように挨拶を交わす
「それにしても、毎日朝ご飯作るなんて大変じゃない?」
「そうでもないさ。僕は疲れないし、何より皆が喜んでくれるのが嬉しいからね」
「いつもありがとうね、エックスくん。・・・そうだ!何なら作るの手伝ってもいいかしら?」
「いいのかい?なら、お願いしようかな」
こうして2人で準備を進め、出来上がる頃にはヴィータ、ザフィーラ、そしてはやての3人、そしてシグナムも着替え終わった様子でリビングにやって来た。
「ヴィータ、ザフィーラ、はやて。皆おはよう」
「おはようさん、エックス」
「おはよう・・・ねみぃ」
「おはよう、エックス」
「今ご飯が出来たところさ、皆座ろうか」
テーブルに朝食が並べられ、それぞれがいつもの席に着く。
「「「「「「いただきます」」」」」」
そしていつものように手を合わせる、いつもの朝。
ただ違っていたのは
「そうそう、今日の朝食はエックスくんと私で作ったの」
と、シャマルが言った途端
「「「「何ィッ!?」」」」
「?」
発言者であるシャマルと、エックスを除く4人がいきなり声を合わせて慄いた。その様子にエックスは首を傾げる。
そんなエックスをよそに4人は未だ恐れおののくといった表情である。
「で、でもエックスが一緒に作ったなら・・・」
「だ、だな」
「せやな」
「・・・うむ」
ようやく落ち着いて食べ始める4人。
エックスも頭上に?マークでも付いていそうな表情のままとりあえず食べる。
「・・・うん、今回もうまくできたかな」
「「「「「「ごちそうさまでした」」」」」」
朝食を終え食器を片付けるエックス。
ここまでもまたいつもの風景だったのだが
「あ、そうそう今日は私が作ったデザートがあるの」
おそらく1人で作ったのであろう。シャマルがそれの入った皿を持ってきた。6人分。
エックスは素直に喜んだ。
後の4人はとんでもないラスボスが来た、といった感じの酷く生気の失せた顔をしていた。
暫くして後、エックスは1人町を歩いていた。買い物を頼まれたのである。
あのシャマル特製デザートを皆がそれぞれ食べてから、はやてとヴィータは2人してソファーに死んだように横になり、意識を保っていたシグナムとザフィーラは何ともなさそうなエックスを不思議がっていた。
「お前・・・平気なのか?」
「え?平気も何も・・・」
「・・・アレを食べて平気でいられるのが俺は不思議で仕方がないのだが・・・」
シグナムは近くの壁にもたれかかり、ザフィーラは狼の姿のまま床に伏せ、首だけエックスの方を向く。
「そうかい?・・・でも、人の作った料理にアレなんていうものじゃないと思うよ」
真面目な顔でエックスは言う。
「シャマルが頑張って作ってくれたんだ。人の真心を無碍にするのはよくないよ。寧ろ感謝しなくちゃね」
「・・・むぅ」
「・・・そうだな」
良識的すぎる言葉だが、元指導者であるエックスの発言に説得力を感じたのか2人は納得する。
「ううう・・・ありがと、エックスくん・・・次は頑張ります・・・」
・・・本人にも聞こえていたようである。
エックスが向かうのはいつも行くスーパーであった。ヴィータと一緒に行った時はアイスを買ってあげたりするんだけど、と思ったエックスだが、生憎今は家でまだ寝て(?)いるため、ここにはいない。
「仕方ないか」
と呟くエックス。
今は信号待ちをしていて、隣には紫色の髪をした大人しい印象の少女が同じく待つ。
いきなりけたたましい爆音が辺りに響く。
「!!」
信号下を通過しようとしていた車がブレーキ音を轟かせながらこちらに迫って来る。
突然の出来事に隣に立っていた少女は呆然とした様子で動かない。
少々荒っぽいと思ったが、エックスは迅速に行動した。
「ごめんね!」
「きゃ!?」
手早く少女を抱えると、エックスは一時的に自分の脚部だけを“本来の”姿へと変化させ、レプリロイドの瞬発力を利用し素早く横に跳んで車から逃れる。
2人にぶつからなかった車はそのまま進み、少し離れた所で歩道に乗り上げてようやく停止した。
「ふぅ・・・」
念のため安全を確認した後、エックスは少女をゆっくりと降ろす。
「君、怪我はない?」
「え、は、はい!」
その答えを聞き、安心したように微笑む。
「そうか・・・よかった」
微笑みかけられた少女は思わず顔が少し赤くなりつつも真っ直ぐエックスを見る。
「あの・・・助けてくれてありがとうございました」
「大したことじゃないさ」
頭を下げる少女にエックスはやや困ったような顔になる。
「じゃあ僕は用事があるから、これで」
そう言って出発しようとしたエックスに声が掛かる。
「あ、あの!あなたの名前は・・・」
少女の問いに振り返り、柔らかな表情で答える。
「僕はエックスというんだ」
もう一度小さく微笑み、遅れを取り戻すためか、エックスはスーパーの方に向かって走り出した。
その後ろ姿が見えなくなるまで、少女はぼんやりと見つめていた。
「「・・・ちっ」」
だが、黒い2人の人影が何処かからエックスの後ろ姿を忌々しそうに睨み付けていた。
先の事故もあってか、買い物から帰ってくる頃には辺りが薄暗くなってしたっていた。
というのも、スーパーから帰る道の途中、車の運転手がこの上なく申し訳ないといった顔で何度も頭を下げてきたのだ。ついさっきまで運転手が謝っていた少女は付き人と思しき人と一緒に帰宅したらしい。そして、もう一方のエックスを探しているところにばったり会ってしまった。もう謝らなくてもいいから、と納得させるのに骨が折れたエックスだが、同時に運転手の真摯な態度と事件の状況を振り返り、何か第三者の悪意を感じ取っていた。
(あの女の子を狙っていたのか、それとも・・・)
其処まで考えたエックスだが、ふと顔を上げるともう八神家の目の前に立っていたことに気付く。
あの子にも怪我はなかったことだからまぁいいか、と思考を切り上げて玄関のドアを開ける。
「ただいま」
「あ、お帰りエックス。買い物ありがとなぁ」
「お帰り、エックス。遅かったな」
「遅ぇぞエックス!」
「お帰りなさいエックスくん。」
「うむ、お帰りエックス」
5人の家族に迎えられ、エックスは幸せそうに微笑んでドアを閉めた。
今日もまた幸福な毎日が続く。
だが、運命は静かに、そして確実に近づいていた。
感想で指摘された部分を直したりもしました。こっそりと。
汚いな流石波歩きたない