これはゾンビですか?──いいえ、弟(笑)です。 作:どらどらおー
俺は歩とは違い、夜の墓地は普通に苦手だ。
暗所は平気でも墓地という先入観が本能的な恐怖を掻き立てるからだろう。
しかしそれは俺一人の時だけであり、今はその限りではない。
視線の先、大木の側にはラフな服装で佇む一人の男の存在が見てとれる。
約束よりも10分以上早めに来たが、どうやら待たせてしまったらしい。
その男は早々に俺に気付き、まるで友人にするかのように砕けた態度で軽く右手を上げる。
「やあ、来たね。待っていたよ」
「お待たせしてすみません。お久し振りですね、夜野さん」
「……まあ、良いだろう。先にこれを返しておこうか」
手渡されたのは俺の携帯。その様子に初対面時のような警戒の色は全くと言って良いほどに無い。
夜の王が俺に対してどのような評価を下しているのかはさっぱりだが、この感触だと俺の話はある程度聞く価値があると認識してくれているようだ。
「ありがとうございます。ところで、京子ちゃんは来てないんですか?」
「ああ。彼女は今ユークリウッドと一緒にいるよ。お留守番さ」
「と、言うことはユーちゃんは無事ってことで良いんですかね?」
「もちろん。ユークリウッドはゲストとして丁重にもてなしてあるよ。今日は連れてきてはいないけどね」
京子と二人っきりということに若干の不安を覚えつつもユーの安否を確認すると、即答で安全だという答えが返ってきた。
今の夜の王には全く焦りが感じ取れない、非常に落ち着いている状態。その夜の王が短絡的にもユーに手を出すとは考えづらいので本当にそうなのだろう。
「なら大丈夫です。ではサクッと本題に入りますね。俺は貴方を、ユーちゃんの力を用いずに殺す方法を知っています。そこでなんですが……俺と協力関係を結びませんか?お互いにお互いを利用する、ギブアンドテイクの関係です」
「それはつまり、君の言う通りに動けば君は俺を殺してくれる。そう捉えても良いのかな?」
「そうですね、厳密に言えば俺が殺す訳じゃないですけど、上手くいけばすぐにでも貴方は死ぬことが出来るはずです。尤も、その前にある程度は俺のお願いも聞いてもらってからですけど」
訪れる、暫しの沈黙。
「……君の言葉が本当だとするならば、それはとても魅力的な取引内容だ。喉から手が出そうなほどにね」
そして最終確認よろしく、夜の王の鋭い眼光が俺を貫いた。
それに対して俺は右頬を緩ませ、ニッと笑って見せた。
さあ、乗るか乗らないか。今この場で決めて見せろ、と言う意味を込めて。
すると夜の王は、その居抜くような鋭い視線を止めて肩を竦めた。
「やれやれ、厄介な交渉相手だよ。まるでこちらが全て見透かされている気分だ。……良いだろう、君の提案を受けようじゃないか」
「ありがとうございます。では早速ですが、一つお願いがあります」
「分かっているよ。ユークリウッドとアリエルの魔装錬器の返還だろう?」
「いえ、その逆です。その分についてはまだ夜野さんに持っていてもらいたいんですよ。俺のお願いは京子ちゃんの身柄を大先生に引き渡す事です。俺経由で」
ユーと大先生の魔装錬器を預けたままにしておく理由はシンプルで、もし今ここで返してもらっても逆に困るからだ。
ユーは歩がちゃんと取り返さなければ意味がない。今後の展開にも響く可能性が高いからな。
逆に、京子の場合は今ここで捕まえておかなければ後でどうなるかわからないので引き取りたいところ。そしてそのまま大先生に引き渡してヴィリエに帰ってもらってる間に歩達に夜の王を攻めさせる。俺が行くと警戒されて逃げられるから代わりに行ってくれ、とでも適当に理由をつけて。
「じゃあ、詳しい話なんですけど────」
▽▼▽▼▽▼
夜の王との話は以下のように纏まった。
まず今後の動向についてだが、夜の王は"俺と協力関係を結ばなかった場合にしようとしていたこと"をしてもらうことになった。
つまり、夜の王の当初の予定通りに動いてもらうということだ。
ただし京子は俺に引き渡すことになったので、そこだけは予定を変更してもらった。
俺は本来夜の王がどう動こうとしていて、実際にこれからどう動くかは全くと言って良いほど分からないが、多分原作のような流れになるのではないかと楽観視している。
次に夜の王を殺す方法についてだが、今はまだ言わないと言うことで合意した。
きっと夜の王からすると、本来の予定通りに動いて上手くいきそうならそのまま殺されるでも良し、無理そうなら俺に協力するという手がとれるので今すぐにその方法を知らなくても問題ないと判断したのだろう。
……さて、これを歩達にどう説明したものか。
ユーそっちのけで協力関係を結んだとは口が裂けても言えないし、下手な嘘を吐けば何だかんだでバレそうな気がするが……まあ、バレても大丈夫か。少なくとも言った直後にバレるなんてことは無いだろうし。
でも、どうせならバレない嘘が良い。嘘を吐くと言うのは内容が何であれ、バレたときに面倒くさくなるパターンが多いのだ。
そんな感じにああでもない、こうでもないとどう説明するかを悩みながら、結局俺はロクな案も出せずに家にたどり着いてしまったのであった。
凄く、お久しぶりです。
待っていてくださっていた方、本当にすみません。そしてありがとうございます。
とりあえず、展開は飛ばし気味で行ってます。説明不足な点や、描写不足な点が目立つとは思いますが、何卒お許しください。
では、また。m(__)m