これはゾンビですか?──いいえ、弟(笑)です。   作:どらどらおー

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 急いでリリアを追いかけたが……程なく見失った。

 

 リリアが走って行った方は少し行けば正面に普通の歩道、斜め右前に交差点、すぐ左に商店街の入り口という具合に道が別れており、それに応じて人も多くなっていた。

 

 ここからリリアを探すのは非常に困難と言える。そうするくらいなら、さっきぶつかった所に戻ってふうりんかにゃんの相手をしながら待っていた方が建設的だ。

 

 俺は、来た道を引き返そうとした。

 

 しかし──

 

 

 「暴れ馬だーっ!」

 

 

 誰かが叫んだ。

 

 こんな都会で馬なんか居るわけ無いだろ、と思いながらも声のする方に顔を向ける。

 

 

 「暴れ牛だーっ!」

 

 

 誰かが叫んだ。

 

 こんな都会で牛なんか……ちょっと待て。なんか聞き覚え、というより見覚えがあるぞ。……ここ、これゾンだよな?もしかしなくとも、じゃんけんじゃねぇよな?

 

 考えているうちにも暴れ馬&牛が目の前の交差点に突入した姿が目に入った。

 

 そして、ダメ押しとばかりに──

 

 

 「暴れトラックだーっ!」

 

 

 俺は確信した。これ絶対じゃんけんのイベントじゃねぇか!こんなカオスな叫び声、じゃんけん以外じゃなかなか聞けんわ!

 

 そのトラックの進路先に目をやる。

 

 

 「っ!!」

 

 

 咄嗟に、《最後の晩餐》を発現させる。

 

 それもそのはず、引かれそうになっていたのは猫ではなく──リリアだったのだから。

 

 時が止まった事で、俺は冷静さを取り戻す。

 

 ……あれ、つい勢いで止めちゃったけど……リリアなら一人でなんとか出来るんじゃね?

 

 ふとその考えが頭に過ったが、すぐに考えを改める。何故なら、どちらにせよこのままトラックがリリアにぶち当たれば無事では済まないのだから。主に運転手が。

 

 まあ使っちゃったものは仕方がない。このまま解除して見て見ぬふりするのも嫌だし、バレるの前提で表面上はリリアを、実際は運転手を、助けよう。

 

 リリアを動かし、ふうりんかにゃんを抱かして帰るという手も浮かんだのだが、ふうりんかにゃんに俺の顔を見られているのでそれをする意味がない。意識が共有できるのかは知らんけど。

 

 残り時間少なくなってきたのでオーラを纏った一撃で牛と馬の眉間付近にさくっと一撃入れ、運転手を引きずりだしたトラックを横転させ、迅速かつ丁寧にリリアを抱えて現場から離れる。

 

 牛と馬には手加減したし、トラックは止め方が思い浮かばなかったのでとりあえずタイヤを地面から離しておいた。そしてリリアはお姫様抱っこ。時間の都合上、おんぶ出来なかった。大丈夫、ビンタの覚悟は出来ている。

 

 ここまで約9秒。やっぱり慣れないと時間がかかるな。

 

 体温が上がったせいかちょっと頭もクラクラしてきたので、さっさと《最後の晩餐》を解除する。

 

 リリアは目を真ん丸に見開き、俺の腕の中で顔だけ動かして周囲の様子を探る。そして、少し怯えているようにも受け取れる声音で俺に問う。

 

 

 「……っ!!……あ、あの……ごめんなさい!あなたは……何者ですか……?」

 

 

 ……どう答える?答え方によっては即刻バトルスタートの可能性がある。もう一度《最後の晩餐》を使うにはもう少し体温を下げる為の時間が必要だし、戦いになれば高確率で負けると思う。以前にそもそもかわいい女の子を平然と殴れるような精神構造なんて持ってない。だから戦わなくて済むような解決法を考えよう。

 

 

 1.絶対に勝てないと思わせる。

 

 2.逃げる。

 

 3.とぼける。

 

 

 作戦1は一番妥当。しかしどうすれば絶対に勝てないと思わせることが出来るか不明。

 

 作戦2は下手したら死ぬ。以上。

 

 作戦3はわりと危険な案。失敗すれば戦闘まっしぐらの可能性があるからな。

 

 作戦3を失敗したら作戦1、それでも無理そうなら作戦2に切り替える、という方向でいこうか。

 

 

 「ん?俺の名前は相川和馬だ。はい、これ。さっきぶつかった時に落としていっただろ?もう落とすなよ?」

 

 

 リリアをお姫様抱っこから解放し、ふうりんかにゃんを差し出す。ふうりんかにゃんは無事主人に会えたことに、涙を流しながら喜んでいる。……お前、自分の正体隠す気ないだろ、ホント。

 

 リリアはふうりんかにゃんを落としていたことに気付いてすらいなかったのか少しの間きょとんとしていたが、数瞬後には我に返って大事そうに抱き締めていた。

 

 誤魔化せたのか?……いや、そうではないようだ。落ち着いたリリアは見るからに俺を凝視している。

 

 作戦1に移行することも視野に入れ始めた時、リリアが口を開いた。

 

 

 「ごめんなさい、分かりません」

 

 「……え?」

 

 「一瞬、あなたから魔力のような波動を感じました。……敵、ですか?」

 

 「それはない」

 

 

 反射的に1拍と置かずに否定する。

 

 何故、魔力のような波動を感じる=敵という発想になるのかが甚だ疑問だが、ともかくリリアは俺を警戒しているようだ。

 

 作戦1はタイミングを逃した感あるし、これは戦闘にならないうちに撤収した方が良いかもしれない。

 

 俺に対して多少なりとも疑問がある以上、急に殺しには来ないだろう。というわけで、作戦2、発動!

 

 

 「落とし物も持ち主に返せたことだし、もう帰るわ。じゃあな」

 

 

 俺はリリアから背を向けて歩き出す。

 

 

 「ごめんなさい、待ってください!」

 

 

 当然、呼び止めようとする声が後ろから聞こえてきたので、一言。

 

 

 「またな」

 

 

 手を振って、人混みに紛れるようにしてその場から立ち去った。

 

 

 

 

 

 ▽▼▽▼▽▼

 

 

 

 

 

 メモを片手に、3件目のペットショップに足を運ぶ。電車の乗り間違いで時間を食ってしまったお陰か、日は徐々に傾きつつあった。

 

 今日はもう『めれんげ』はやめておこう。精神的に疲れた。また明日があるし、今日のところはここを最後に家に帰ろう。

 

 1件目のペットショップは大手チェーン店だったので、随分と規模が大きいのが特徴だった。応じて働く人も多く、探してはみたものの、見つからなかった。客に名前を覚えられるということは規模はそこまで大きなものと思えないので、多分あそこに夜の王は居ない。

 

 2件目は1件目とは真逆で、初老の夫婦が経営しているちょっと古めのペットショップだった。そもそもバイト自体が居なさそうだった。

 

 3件目は調べたところによると、どこにでもありそうな普通のペットショップだった。一応、ここが本命。

 

 メモに従ってしばらく歩くと、例のペットショップが目に入った。迷わず入店し、ケージのゾーンまで移動する。そして猫を見ているようにしながら、それとなく店内を一瞥する。

 

 ……あれかな?夜の王の顔、今さらだけどあやふやなんだよな。多分あれだと思いたい。

 

 

 「ミャーン」

 

 「こら、ふうりんかにゃん!勝手に食べちゃ駄目だよ!」

 

 

 自身の後方から聞こえてきた声に俺は今すぐ振り向きたい衝動に駆られるが、どうにかして自分を律する。

 

 そして俺の眼はガラスに反射した声の主の姿を捉えた。声の主は案の定リリアだった。

 

 尾行、されてたのか……全く気付かなかったぞ。今ので全部台無しだけど。

 

 でもまあ、そうだよなぁ。リリアが素直に引くはずないよな。俺の考えが甘かった。

 

 そしてどうやら、リリアの声に反応したのは俺だけではなかったらしい。

 

 

 「お前は!!」

 

 

 夜の王もリリアの声に気付き、驚きの声を上げた。

 

 あれ、リリアと夜の王って面識あったっけ?……いや、誰かが言ってたような気がする。

 

 思い出せ……二人とも登場回数は少ない。そしてタイミング的に二人ともお互いのことについては触れていなかったはず。そうなると言ったのは第三者だ。

 

 二人のことをよく知る人物は居ない。となるとどちらか片方をよく知る人物が漏らした可能性が高い。

 

 ………………思い出した、ユーだ!ユーが言ってた!"昔夜の王はリリアを暗殺しにいったが、怖くなって帰ってきた"的なことを!だからふうりんかにゃんの目は太陽光が出るようになってるかなんとか。

 

 それって……会わしちゃまずかったんじゃねぇの?

 

 二人の雰囲気は最悪。どうやら、これゾン世界最初の戦闘がラスボスとファーストボスの三つ巴になりそうだ。

 

 

 

 ……帰ってもいいかな?

 

 




さて、次話はどうなることやら。
リリアは和馬に勝てず、和馬は夜の王に勝てない。夜の王はリリアに勝てないイメージがあります。
ただし、リリアの場合は和馬が《最後の晩餐》を使わなければ勝つ可能性はあると思いますけど。

それではまた、次話でお会いしましょう。
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