これはゾンビですか?──いいえ、弟(笑)です。 作:どらどらおー
「おい……ナ…………から…………の…………け……てき……れ」
「わ……た」
「セ………………方……む」
「……り……た」
なんだかさっきから俺の周りがやけに騒がしい気がする。
こっちは高熱が出て頭が痛いんだ。響くからちょっとくらい静かにしてくれ。
……あれ、何で高熱が出てるんだっけ?
ああ、そうか。《最後の晩餐》を使いすぎたからか。
……あれ、何で使いすぎたんだ?
ああ、そうか。ユーが拐われそうになったからか──
「──っ!今はいつだ!どれだけ経った!?」
飛び起きた。
そしてすぐに立ち上がろうとしたが、未だに体温が高いままのようで、立つことすらままならない。
「おい和馬、落ち着け。お前が倒れてからまだそんなに経ってない」
「……そうか」
全身に倦怠感は残っているが無理すれば十分動くことはできる。
「歩、携帯貸してくれ。今ならまだ間に合う」
「……は?」
返事を聞く前に、無防備にも机の上に置かれていた歩の携帯を開く。
電話帳を開き、登録してある俺の携帯に発信する。
向こう側が警戒して捨てたり壊したりしてない事を願いつつ、耳を澄ます。
三度のコール音の後、俺の願いは通じた。
『はい、もしもし。相川さんですか?』
電話の向こう側からは嘲笑を含んだ声音が聞こえてきた。
コイツ、歩を馬鹿にするために通話に出たみたいだな……いや、まあそれでも出てくれただけ良いんだけど。
「まずは切らずに聞いてくれ。切らない方が京子ちゃんにとっても良いと思う。……俺は君の言う相川さんの弟で、さっき大先生と戦ってた者だ。和馬って呼んでくれ」
その一言で、驚くべきほど急に静かになった。
そりゃそうか。さっきのを見てたにしろ見てなかったにしろ、京子では絶対勝てない相手と戦って無事だったって宣言してるようなもんだもんな。
『……何のご用ですか?』
「二人に別々の話がある。君にはまた後日伝えるよ。夜の王にはこう伝えてくれ。明日の23時にあの墓地で。代理を立ててくれても構わないってね。以上だ。またね」
言い終わると一方的に通話を切る。
これで明日、もう一度会うことが出来るだろう。
根拠として、夜の王にとって俺は相当不気味な存在のはずだ。
魔装少女でも冥界人でもない、この世界の住人。当然のように魔力は感知できず、それなのに大先生を倒した。
自分を殺せる可能性を持つ大先生を。
ならば、俺のことも自分を殺しうる力を持っていてもおかしくない存在と考える可能性がある。
そして今回の行動から考えて、夜の王は女王の呪いを受ける前に出来る限り早く死にたいと考えている。
となれば、その小さな可能性でさえ得たいと考えるのが普通ではないだろうか。
だからこそ、来る可能性が低いとは思わない。ユーを連れてこいとも言ってないし。
使い終わった携帯を机の上に置き、俺に注目していた歩とセラに向き直る。
「ちょっと待て、今の相手ってまさか」
「ああ、京子ちゃんだ。夜の王に伝言頼んだんだよ」
「「!!」」
……まあ、ビックリするよな。何も知らないだろうと思ってた奴が、なんか色々知ってるとなると。
「……それは、どういうことですか?」
「そうだな……今必要な事だけを優先して伝えるよ。今回ユーちゃんを拐ったと見られる犯人は恐らく、夜の王と呼ばれる人物だ。その正体は歩と同じゾンビで、ユーちゃんの知り合いである可能性が非常に高いってところかな」
「何でお前がそこまで知ってんだよ。俺達でも知らないぞ、そんなこと」
「俺の知り合いに夜の王と仲が悪い人が居てさ、その人から色々聞いたんだよ。夜の王だと思った理由は声が同じだったのと俺の事を認知しているような口振りだったから……ってところかな」
「つまりあなたは以前に、その夜の王という人物と会っている、ということですね?」
「そうだ。その仲の悪い知り合いと一緒にいるときに出くわしてな。だから向こうも俺の事を覚えてたんだと思う。その証拠に、あいつは俺の事を"君"って言っただろ?それは少なくとも俺の事を知ってるってことだと思うんだよ」
今言ったことは100%真実とは言い難いが、嘘は一つも言っていない。そして、100%事実ではある。
「待て、その話だと何でお前が京子の連絡先なんて持ってんだ?京子の話なんて一つも出てこなかったぞ」
「はい、これ」
携帯を歩に投げ渡し、二人に通話履歴を見るように促す。
「……通話履歴が無いぞ?」
「いやいや、あるだろ。一番上に」
「ですがこれは和馬の……そういうことですか」
セラはすぐに気がついたようだ。
「そうだ、俺は京子ちゃんとはさっき初めて会った。連絡先とか知ってるわけがない。だから逃げられる直前に俺の携帯を持たしておいたんだよ。気付かなかっただろ?」
得意気に口許を歪めて説明したが、この説明に不備がある事くらいは俺も分かっている。
俺は、一度も京子ちゃんと接触はしていない。そしてそれに歩とセラが気づかないはずもなく。
「そんなこといつやったんだよ。そんな素振りどころか近寄ってすらなかっただろ」
「そうです。あなたはヘルサイズ殿が連れ去られた時には私達の隣に居たでしょう」
これに対して、俺は一つの嘘を吐く。
「俺、ワープ能力的なアレが使えるんだよ。俺が倒れたのはその代償で体温が上がったからなんだ。距離は精々限られてるけどな」
俺はこれを見ろとばかりにテレビのリモコンを手に持って《最後の晩餐》を行使し、テレビの横にリモコンを置き、元の位置に戻って解除する。
もうあの場にいた魔力を感知できる奴等には俺が何かを隠している事はバレてるだろうから、いっそのこと間違った正解を植え付けておこうと思ったからこその、大胆な犯行ではある。
そうでもしないと、今後も誤魔化しきれるとは思っていないし、バラすならユーが居ないこのタイミングがベストだと思ったからだ。
「テレビの横に移動させた。まあ、こんな感じだ。……黙ってて悪かったよ」
すぐに受け入れることは出来ないのか、暫しの沈黙が流れる。俺はそれを打ち切るが如く、話を戻す。
「ともかく、俺は明日会いに行く。少なくともそれまではユーちゃんも安全だろうよ」
「俺も行く」
「私も行かせていただきます」
「来るな。俺は戦う気はない。穏便に済ましたいんだよ」
ぶっちゃけ、来られると困る。今はまだ、歩達には知ってほしくないことも話すつもりだからな。
しかしそんなことでは納得する二人でもなく、色々と反論を並べてくる。
来させないことは確定してるんだが、二人の前で場所も言っちゃってる以上、ここで突っぱねるだけではついてきてしまう可能性がある。ここは何か条件を出すか。
「わかった。じゃあ今から一時間後、模擬戦をしよう。二人がかりで俺から一本でも取れたらついてきても良い。だけど負けたらお留守番な。大先生と」
負けたら大先生と特訓でもしておいてもらおう。これで原作以上の実践経験が身に付くだろう。
そしてもちろん、俺に負ける気はない。《最後の晩餐》を使わなくとも、勝てる。
「分かったよ、やってやる」
「ええ、良いでしょう。」
「あ、歩はゾンビだからセラが戦闘不能になった時点で終了な」
追加で出した俺の提案にも異論は無いようで、話は着々と進んでいく。
そして一時間後の、開始十数秒後。
俺の勝利で歩達二人のお留守番が決定したのであった。
遅くなりました、どらどらおーです。
まずは勝手に前話を修正したことをお詫び、かつ報告したいと思います。
前話で、時を止めている最中で携帯弄ってましたが、本来は不可能です。なので大部分は変更してませんが、そこを修正しました。
無理な理由を説明しますと、《最後の晩餐》使用中で"携帯が使えるのか"という点よりも、大前提として使用中は反発力が失われます。ですので理論上、携帯のボタン等は押したら押したままで停止します。これでは文字が打てません。そしてこれゾン世界の携帯はガラケーが主流だったはずなので、和馬の携帯も同じくガラケーです。ボタン式です。と、以上が変更をした理由です。
報告が遅くなり、本当にすみませんでした。
今後もこのような間違いは次話のあとがきにて対処をとらせていただこうと考えております。
ですので設定的に不可解な点があれば、一報頂けると助かります。それに対して独自解釈を施していた場合はその旨を説明する所存です。
それでは、また次話で。