艦隊これくしょん 横須賀鎮守府の話 特別編短編集 作:しゅーがく
南風さんに私室に連れ込まれた次の日。俺はいつも通りに起き、秘書艦と朝食に来ていた。
今日の秘書艦は金剛だ。あまり秘書艦をしている姿を見ていないのは、俺の気の所為だろう。
そんな金剛が、俺の横を鼻歌混じりで歩いている。どうやら機嫌が良いみたいだな。
「金剛」
「なんデスカ?」
「今日の俺は、必要最低限しか執務室から出ないからな」
「何の宣言デスカ?!」
前置き無しに、俺はそう宣言しておく。
金剛は昨日の出来事を知っているのだろうか。
俺は少し気になった。
「昨日のことが関係しているのは分かりマース」
何だか心を読まれたような気がしてならない。
「あんな風になっているとは、私も思いませんデシタ。それより、紅提督」
「ん?」
「昨日、フェルトから色々訊きマシタ。……今日は門兵は執務室に居ないんデスネ」
そういえば、今日の執務室には門兵女性隊員が居ない。
いいや。居る方が変なんだが。
「そうだな」
「居る方が変デスケド……」
考えることは同じみたいだ。流石の金剛でも、それくらいは分かるみたいだな。
やがて食堂に着き、俺と金剛は中に入る。
中はいつも通りで、かなり賑やかだ。今日はいつも通りなので、遠征任務やレベリングが入っている。該当艦娘は早々に食べ終わっているみたいだ。
「間宮ー。俺は洋で」
「私も洋でお願いしマース」
カウンターで注文をしてから、いつもの場所に腰を下ろし、テレビの電源を入れた。
時間が時間ということもあり、電源が点いたのに気付いた艦娘たちは俺のところに「おはようございます」と挨拶をしてテレビの前に並んでいくのであった。
この光景はいつ見ても映画のワンシーンを連想させる。
まぁそれは置いておこう。
「結局、どうなったんデスカ? 昨日の騒ぎは」
「あぁ。南風さんに拉致られた後、色々話をして開放してもらった。昨日みたいな強引な手は使ってこないと思う」
皆に触れ回ると言っていたから、多分問題ない。
「それは良かったデス。……まぁ、いつも通りに執務を終わらせマショウ」
「そうだな」
今朝は本当に静かだった。いつも通りに過ごし、いつも通りに執務をこなした。
これが本来の俺の毎日の姿なのだ。
ーーーーー
ーーー
ー
そんな風に思っていた時期が、俺にもありました。
執務が終わり、金剛が書類の提出に行っている間に、執務室に姉貴が来たのだ。門兵女性隊員を複数人連れて。もちろん全員私服。
「えっと……姉貴?」
「紅くんがどんな風に執務をしているのか、気になっていたって行っていた人たちを連れてきたんですけど?」
「けど? って言われてもなぁ……。執務は今しがた終わって、金剛が提出に行っているんだが」
残念ながら、一足遅かった。
「それで? 帰る?」
「なんでですか!?」
姉貴が連れてきた門兵女性隊員の1人、沖江さんがツッコミを入れてきた。
「休みなんですから、身体を休めて下さいよ。一応、俺は上司に当たりますので、気も休まらないでしょうし」
そう。一応、俺は上司に当たる。
普通の会社で言えば、俺は社長的な立ち位置だ。
「そんなことは無いです。それに紅提督は上司ですけど……」
どうして吃るんだ。しかも『ですけど』って何? 嫌には思わないけど。
「どちらかと言うと、後輩みたいな?」
何だそれ。『みたいな?』って言われても、さっぱりなんだが。
沖江さんの発言には、他の門兵女性隊員も同意なようで、頷いている。
全く意味が分からない。
「……ま、まぁ、良いです」
俺はそう言って、机の上に置いておいた本を手に取り、開く。
そんな俺の行動を見て、開いて読み始めた瞬間、俺の手から本が離れていった。どうやら沖江さんが持っていった様だ。
「無視しないで下さいよ。全く……」
「返して下さい。用があるのなら聞きますけど、さっきの話を聞いている限り、もう用は済んでいるみたいですし」
「それは良いんです!! まぁ、少し残念ではありますけど……。紅提督の執務が終わったということは、これからは暇ということですよね?」
「いいえ、暇はないです」
「巡回している時によく話す足柄さんが言っていましたよ!! 『紅提督は執務が終わったら何かしらしているけど、仕事でしている訳じゃないから』と!!」
なぜココに来て出てくるんだ、足柄。
まぁ事実なんだが。大体は本読んでいるか勉強しているか、他にも色々あるんだが。
「……事実ですが、本は取り上げないで下さい」
そう言いながら俺は沖江さんが持っている俺の本に手を伸ばす。だが、ひょいひょいと躱される。
届く距離にあるので、俺は取り返そうと何度も挑戦するが、一向に取れる気配はない。
そんな俺が本を取り返そうとする動きを、どうやら沖江さんは面白がっているように見える。俺、一応上司なんだけど。自分でも言っていたよな。
「ちょ、返して」
「いーやーでーすー」
何か遊ばれている気が……。
「はッ?! 沖江さんが私よりお姉さんしてます!!」
「何言ってんだ姉貴!! もう、良いです。違うの持ってきますから」
そう言って俺は立ち上がり、私室に入る。そうするとどうしてか、俺の後ろからゾロゾロと沖江さんたちが入ってきた。
別に見られて困るものもないし、本を取ったら戻れば良いかと考えつつ、俺は漫画を数冊抜き取った。
そして執務室に戻るんだが、俺が椅子に座っても執務室に沖江さんたちが戻ってくることは無かった。
俺はすぐに私室の扉から、私室を覗き込む。
「……本当に綺麗にされてる」
「ベットは何だか抜け殻みたいになって……」
「室内乾燥機が動いていますねー」
そんな風に俺の私室を見ている門兵女性隊員たち。それと、姉貴が椅子に座っている。
なんだこの光景。
「戻って下さいよ! 見ても何も面白いところありませんよ」
そう言いつつ、俺は執務室に戻るように催促する。
だが効果はいまひとつだ。1人執務室に追い出したと思ったら、前に追い出したのが戻っていたりする。姉貴は変わらず椅子に座っている。
「いやぁ、本当に本が多いですね。漫画もですけど」
「読みますからね」
「そりゃそうですよ」
まぁ、良いや。別に見られて困るものも無いし。
そんな風に思う存分俺の部屋を探索した沖江さんたちは、20分後くらいに執務室に戻ってきた。
その頃には俺も執務室で本を読んでいたりする。沖江さんが、俺の私室に入る前に机の上に置いてから来たみたいだったから取り返せた。
まぁ、戻ってからは俺にちょっかいを掛けてくることもなく、ソファーでくつろいでいるみたいだった。
それとは裏腹に、金剛が一向に帰ってこない。どうしたんだろうか。
そんな事を考えていると、執務室の扉が開かれる。
「ただいま戻りマシター」
「おかえり」
金剛が戻ってきたのだ。
片手には荷物を持っているので、どうやら帰りに酒保に寄ってきたんだろう。
「……賑やかになってマスネー。皆さん、紅茶はいかがデスカ? って聞いても淹れてくるんデスケド」
そう言った金剛は、給湯室の方に行ってしまった。
話でもするんだろうか。
金剛は俺が執務室に居る時には紅茶かコーヒーを淹れてくれる。馬鹿みたいに紅茶ばかり出す訳じゃないみたいだ。
それと聞いた話だが、長話をする時は、相手がいるいらないに関係なく紅茶を淹れるみたいだ。ということは、長話でもする気なんだろう。
「お待たせしマシタ。ということで、沖江さん。こっちに座って下サイ」
「は、はい」
どうやら門兵の中でも、金剛の話は有名だったようだ。
少し沖江さんが緊張しているように見える。
「ましろもデス」
「はい」
なんだコレ。
一気に雰囲気が重くなったんだけど、どういうこと。
「単刀直入に言いマス。何をしているんデスカ」
「休暇で、少し」
「ハァ?」
あーこれはヤバイ。俺はそう思ったので、そのまま俺は立ち上がる。
そして私室に向かった。
扉を閉める時、沖江さんと姉貴が見えた。何だか助けを求めている視線が送られていたんんだが……。
「何よそ見しているんデスカ!」
「ひいぃぃぃ!!」
そっと俺は扉を閉じた。
私室で椅子に座り、ゆったりと本を読んでいると、金剛の声が隣から聞こえてくる。
『休暇を取ったのは分かりマス。ですけど、執務室に来て何をしているんデスカ!!』
『ちょっと、紅提督のことを……』
『モゴモゴ言っても分かりマセン!! ハッキリ言って下サイ!! それでも憲兵デスカ!?』
そう言えば沖江さん。原隊は憲兵って言っていたな。
『紅提督にお近づきになろうかと……』
『それでこの2日間、貴女たちは紅提督の周りで色々していたんデスカ!! 昨日は誰がいたんデスカ?』
『南風さんたち……です』
『ちょっとココに呼んできて下サイ』
『えっと、今ですか?』
『今、すぐに!!』
『はいぃぃぃ』
なんだか変なことになってきたなぁ、と考える。そんな状況を俺は、静かに私室で本を読んで過ごす。
執務室を飛び出して行ったと思われる音がしてすぐ、執務室の扉が開く音がする。
どうやら沖江さんが南風さんを連れてきたみたいだ。
『金剛さん、どういった要件で? そしてなぜ、執務室なんでしょうか?』
『それは今から分かります』
『あの……青筋が……』
『昨日、紅提督の首根っこを引っ張ってどっかに連れて行ったそうデスネ』
『あっ……』
俺は音楽プレイヤーにイヤホンを刺して、音楽を聞きながら本を読むことにした。
それ以降、金剛が何をしていたのかは知らない。
だが途中、私室の扉が開き、姉貴が顔を出したかと思うとすぐ、引っ込んでいったのは何かがあったんだろうな。
ーーーーー
ーーー
ー
本を読んで人満足した俺は、イヤホンを取って執務室に戻った。
その頃には、俺は執務室で金剛が怒っていることは忘れていた。
そんなことを忘れていたものだから、惨劇を目の当たりにすることになる。
地面で正座をしている姉貴を含む門兵女性隊員たち数十名。その人数に色々と言っているのは、金剛。腕を組んでいる。
「大体デスネ、どうしてましろが手順をすっ飛ばして色々しているんデスカ」
「それはその……」
「然るべきところに出すのが普通デース」
俺は思い出した。金剛が姉貴たちに説教をしていることを。
俺は静かに扉を閉め、いつもの椅子に腰を下ろす。あくまで何も知らないです感を出しながら、椅子に座って参考書を開く。今まで本を読んでいたから、今度は勉強をしようと思ったのだ。
俺が参考書の問題を解いている間も、金剛の説教は続いた。
時間換算すると4時間くらいやっているんじゃないか。そろそろ昼に行かなくてはいけない時間なんだが。
「……金剛―」
「ハーイ」
「飯行くぞー」
「すぐ行くネー」
なんていい笑顔で返事をするんだ、金剛は。
そしてすぐ、姉貴たちの方を見ると表情は一変。
「紅提督に次、迷惑掛けたら……ふふふっ」
こっわ。むっちゃ怖いっす、金剛さん。
俺はそう考えつつ、門兵たちの間を縫って執務室を出てきた。それにはすぐ、金剛も出てきて、なんもなかったように振る舞う。
「な、なぁ。金剛」
「なんデスカ?」
「あんまり……その」
「あぁ。あと5時間くらいやりマス」
ひぇえぇぇぇぇ。流石に居た堪れない。
昼飯を食べた後、戻ってきたらまだ正座をしていたので、金剛が説教を始める前に解散を伝えた。昼飯を食べてくることと、金剛に言って説教は終わりだということを言って帰ってもらった。
こうして、この門兵女性隊員が中心で起きた騒動は幕を下ろしたのであった。
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ちなみに後日談がある。
俺が用で警備棟に行くと、南風さんやら沖江さんやらに無茶苦茶絡まれるようになった。
なんでそんなだらしない顔をしているんですかね。俺、気になります。
終わりに不満を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、これでいいんです。
前々回の特別編短編集では、ましろが説教をして収拾させました。今回は金剛に怒らせてみました。特に理由はありませんが、まぁ、設定上仕方ないとしか言えないです。
今回をもちまして、特別編短編集 第3回目は終わりです。
次の特別編短編集まで、本編の方でお会いしましょう。
ご意見ご感想お待ちしてます。