艦隊これくしょん 横須賀鎮守府の話 特別編短編集 作:しゅーがく
私が調理室を使えた時間は3時間です。
午前6時から9時。9時から正午。正午から午後3時。3時から6時。6時から12時までに5回の入れ替えがあり、調理室にはシンクが3つ。3人か3組みが入ることが出来ます。
私が入ったのは午後3時から6時まで。その間に何品も何品も作っては食べ、作っては食べを繰り返しました。
そして、分かったことがあるんです。
(これは、本当に私の一人勝ちも夢じゃないですッ!!!)
そう。一人勝ちも夢じゃない状態なんです。私のスキルは本物。しかも、何品も作っていく毎に、考えることもなく自然に作れるようになりました。
つまり、スキルがあるとはいえ、身体が慣れてないと難しい料理は作れないんですが、私はスキルの補助のお陰で、自分自身で作っていることとに変わりない状態になった、ということです。
この3時間で、私は料理人歴何十年という経験を一気に積んだんです!!
「さて、帰りますか。龍驤ちゃんにお腹減ってないって言わないと……」
そんな独り言を言いつつ、私が扉に手を掛けたその時、呼び止められました。
「鳳翔―!」
金剛さんです。榛名さんもです。
少し、嫌な予感がします。
「な、何ですか?」
「うーん、鳳翔って今までお菓子を作っているところばかり見てきましたガ、今日はどうしてご飯系を作っていたデスカ?」
不味いです。よりにもよって、そのことを聞かれてしまいました。
それに片付けを終えた高雄さんが、こっちに来ました。
「それは私も気になりますね」
「ひゃっ……」
非常に不味いです。高雄さんはかなりの頻度で調理室を借りている艦娘。私も何回かご一緒したことがありますが、その何回も全て、お菓子を作っていました。
3人に囲まれた私は、答えを迫られています。
どう答えたら良いんでしょうか。必死に考えます。
「よ、よく高雄さんが練習しているのを見ていますから、私も挑戦してみようかな……と思いまして」
我ながらよく言えたと思います。
今回、初めて金剛さんと榛名さんを見ましたから、お2人に絡めた言い訳は出来ませんでした。紅提督のことを出しても、何か悟られると思いましてそれも無理ですね。
そうすると高雄さんを使うしか、方法は無かったんです。
反応が帰ってくるのを待ちます。
金剛さんは納得し、榛名さんは何を作っていたのかを訊いてきました。
「そうだったんデスネー。出来栄えはどうデシタ?」
「ビギナーズラック、でしょうか。まだまだです」
嘘です。スキルである可能性がほぼ100%です。確認の上でのこの行動ですから、完全にビギナーズラックであることはありません。
「鳳翔ちゃんは何を作っていたんですか? 榛名たちはスコーンとクッキー、パウンドケーキを作っていました!! よかったらどうぞ」
「ありがとうございます。……えぇと、豚の生姜焼きに肉じゃが、ハンバーグ、サーモンのマリネ、グラタン、チャーハン、回鍋肉……」
我ながら結構作っていますね。どれも量は作ってないのと、お昼ご飯は抜いていたので、結構食べることが出来ました。
そんな風に挙げていくと、榛名さんの眉がピクピクと痙攣し始めます。
「え……ちょっと、作り過ぎでは?」
「そうかもしれませんが、お昼も抜いていたので食べました。お陰でお腹いっぱいです。お夕飯ももう食べれないですよ」
通じるでしょう。本当のことですし。
「そ、そうですね。……それにしても、見事にバラバラなチョイスですね」
「はい。私にもやれそうなのを選んで、やってみたんです。それでも、出来ないところは缶詰を使ったりしましたけどね」
グラタンのホワイトソースは缶に入っているものを使いました。
今夜作ったものを思い出して精査し、次の予約で試してみます。その時はちゃんと作ります。
「なるほど……」
どうやら榛名さんも納得したみたいです。
最後に残るのは高雄さん。さっきまで考えていたみたいですが、もうその表情はありません。
怖いです。高雄さんが何を訊いてくるのかが。
「……初めて作った、って言っていましたね?」
「は、はい……」
本当に怖いです。しかもそこを突かれました! 本当のことですけどね……。
「それにしては、とても上手に出来ていましたね。……私はハンバーグを作っていたんですが、どうも上手く焼けなくて」
よしっ!! 乗り切りました!!
「回数を重ねれば出来ますよ! 多分」
「そうですよね……。私も今回初めてハンバーグを作りましたし、回数を重ねればどうにでもなりますよね!!」
そう言った高雄さんが持っていた手提げに、ふと目線を落とします。
そこには透明なタッパーが入っており、黒い塊が見えます。あれは多分、ハンバーグでしょうか。
すぐに目線を戻し、話を続けます。
「私も今回は失敗してしまったことがありますし、そういうもの何じゃないでしょうか?」
実は玉ねぎを剥くのに手間取りました。それと、どうやら剥くのが少なかったみたいで、一部硬いのが入っていたんです。
「ふふふっ。次、頑張ります」
そう言って、高雄さんは先に出ていってしまいました。
どうやら私は乗り切れたみたいです。
金剛さんたちと一緒に料理室を出ていき、そのまま帰路に付きます。
この時間帯(午後6時10分前)なら、龍驤ちゃんが部屋に居ます。おそらく、私を待っているでしょう。
ーーーーー
ーーー
ー
私室に戻ると、共用スペースに龍驤ちゃんが居ました。本を読んでいるみたいですね。
「おかえりー、鳳翔。どうやった?」
「いやぁ、失敗しました」
「残念やったなぁ……。次、あるから頑張ろ?」
「……そうですね!」
龍驤ちゃんは本当に優しいです。たまーに乱暴な事を言いますけど、フォローしてくれますし、落ち込んでいたら自分のことのように話を訊いてくれます。
本当に良い娘です。
「……スンスン。……鳳翔、何か美味しそうな匂いがするで」
「そ、そうですか。……たまたま通り掛かった調理室で試食をしていました」
嘘っぱちです。作っていたのは私です。
そして全部食べました!! お陰でお夕飯が食べれません!!
「そうなんかー。たしかに、通りかかると5回に1回くらいは試食しろー、って言われるもんなぁ」
「他の人の意見も聴きたいんですよ、きっと」
私はそんなこと出来ませんけどね。一発勝負です。
「んー、そろそろ時間やし、ご飯いこか?」
「ごめんなさい。試食で食べすぎてしまって、お腹減ってないんですよ」
「そうか? 残念やなぁ……。仕方ないで、他の娘と行ってくるわ!! 留守番頼んだでー」
龍驤ちゃんは疑うことなく、私室を出ていきます。
私は一息吐き、ソファーに腰掛けました。
これであと1回、調理室で練習して行きます。それと予定を急遽変更します。
次の予約で取れた時に、試食を頼みましょう。同じ回の艦娘の方でも良いですし、タッパーでも買ってきて門兵さんに頼んでも良いです。
私は少し目を閉じて、考えます。
もし、作戦実行したら……どうなるのか。どういう結果が待っているのか……。
そんなことを考えていたら、どうやら寝てしまったようです。
お夕飯から帰ってきた龍驤ちゃんに起こされ、お風呂に入りました。
その後、個室で何を作るのかを精査し、献立を書き留めます。
そしてそれを隠し、ベッドに潜り込みました。
今日は私のことが分かったこともありますし、作戦の鍵が手に入りました。良いこと尽くしです。
ーーーーー
ーーー
ー
龍驤ちゃんが夕食から戻り、お風呂に一緒に入ってきました。
相変わらず龍驤ちゃんは胸のことを気にしているみたいですけど、気にしたところでどうしようもないと思うんですよね。私のもそこまで大きいとは思いませんが、何をしても成長することはありませんし……。
私室への帰り道、龍驤ちゃんがあることを訊いてきました。
「なぁ、鳳翔」
「何ですか?」
「夕飯行った時にさ、高雄の近くの席に座ってん」
龍驤ちゃんはそう言いながら、歩みを止めません。
「……高雄、しょぼくれていたから話を訊いたんよ」
私は黙って聞きます。どうしてそんな風になっていたのか、心当たりが1つありましたからね。
「そしたらさ、『鳳翔ちゃんが一緒の時間に調理室に居たんだけど、見せつけられちゃった。龍驤ちゃん、あの娘お料理とても上手ね』って言ってたんやけど」
だろうな、と思いました。
この作戦を本格的に動かし始めてから、こう心臓に悪いことが立て続けに起きますね。呪われているんでしょうか。
それよりも、龍驤ちゃんになんて言えば良いのか……です。
誤魔化してもバレると思いますので、ここは真実を言いましょう。ですけど、私のスキルが云々って話は伏せてきます。
「お料理の練習をしていました」
「ふーん。その為に資料室で勉強がどうのって?」
「はい……」
どうでしょうか。龍驤ちゃんはどういう返答をしてくるんでしょう。
「……まぁ、ええんちゃう? 皆やっているみたいやし」
「……はい」
よしっ!! 乗り切りました。
今の時間は午後9時過ぎ。もうそろそろ個室に戻る時間です。
資料室は消灯後でも居ることは出来ますけど、消灯の30分前には当番が出ていってしまうので、借りることは出来なくなるんですよね。
私は時計を見て立ち上がります。
「龍驤ちゃん。私はそろそろ寝ますね」
「そうかい。おやすみ」
「おやすみなさい」
個室へと入ります。
個室の電気を点け、机にカバンを置きます。そして私は机の前に座り、カバンから今日作ったメニューとレシピを取り出しました。
今から精査です。紅提督に作るご飯の献立を考えます。
考えるだけでワクワクしてきました。次の調理室の予約は明日取りに行きますが、本番は紅提督の私室のキッチンを借りれば良いです。
貸してくれるはず……。
一気に予約投稿をしていますので、もしかしたらどっかの発言とどっかの発言が噛み合わないことがあるかもしれません(作者側の話)
ということで、折り返しを通過しました。
かなり時間が掛かっているように思いますが、それだけに色々と……はい。
あと、前々から言われていたことなんですけど、特別編で出た話題や事象を本編に直結するな~みたいな意見を頂いたことがあります。
今回、もしかしたら、それが発生するかもしれません。本編で発生してしまった場合は、後書きにその記述をしようと思います。
もしなければ作者の方にお知らせ下さい。
ご意見ご感想お待ちしています。