艦隊これくしょん 横須賀鎮守府の話 特別編短編集   作:しゅーがく

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※他の企画との関連はありません。


鳳翔、頑張ります! その4

 

 紅提督に作るメニューは決まっていました。

和風ハンバーグと豆腐とわかめの味噌汁、付け合せにマッシュポテトとほうれん草のソテー。水菜とレタスのサラダ。

普通の料理ではあるかもしれません。ですけど、自信があるんです。

 次の調理室では、メニュー通りに用意をしてみます。

ハンバーグは紅提督はいっぱい食べるだろうと、牛ひき肉300g分のハンバーグです。

時短のために薄く作ろうかと思いましたが、分厚くしました。こっちのほうが良いです。

そして全てが出来上がった時、同じ回で調理室を使っていた人たちに声を掛けます。

大井さんと北上さんペア、フェルトさんもといグラーフ・ツェッペリンさん、高雄さんです。

 

「あ、あの!! よかったら、食べてみて下さい!!」

 

 全て出来上がった時、私は同じように自分で作ってみたものを味見していた皆さんに声を掛けます。

それに答えて、皆さんが私が使っているところに集まってきました。

 刹那、嫌な予感が私の脳裏を過ります。

高雄さんが居ます。何か感づかれる可能性があります。

 そんなことを心配している私をつゆ知らず、北上さんは和風ハンバーグを食べようとしていました。ちなみにソースは醤油ベースの大根おろしを使ったあっさりソースです。

 

「いっただきま~す」

 

 そんな気の抜けた挨拶をした北上さんは、味わって食べて飲み込んで感想を言います。

 

「お、美味しい……。え? 美味しい」

 

「北上さん……キャラが……」

 

 キャラがブレた北上さんにツッコミを入れつつ、大井さんも和風ハンバーグを食べます。

咀嚼し、飲み込んで感想を言ってくれます。

 

「美味しい……。ガツンとした味かと思っていたけど、すごくあっさりしていて……」

 

 今度はフェルトさんが食べました。和風ハンバーグを取り、口に入れます。

ちなみに北上さんは、既に違うメニューを食べています。無心で。

 

「……ふむふむ。……これは美味いな。ではこっちも」

 

 気付けば大井さんやフェルトさんも次々と食べていきます。

そして北上さんに至っては、何故かお茶碗に御飯を持ったものを片手に食べています。

 そして今まで静観していた高雄さんが和風ハンバーグを口に入れました。

そして咀嚼し、また口に運びます。

 

「…………美味しい。美味しいっ……!!」

 

 気付けば私が作ったものは全てなくなっていました。

そして皆さんから総評が伝えられます。

最初は北上さんからでした。

 

「こりゃ美味しいわ。……もう美味しいとしか言えないよ~。鳳翔って今までお菓子ばかり作ってなかったっけ?」

 

「はい」

 

「こりゃたまげたねー。北上さんもビックリ」

 

 そんな気の抜けたような、適当な感想をいただきました。本人は至って真面目なんでしょうけど、そう聞こえてしまうので仕方ないです。

次は大井さんです。

 

「私も北上さんと同じく、とても美味しいと思いました。付け合せのマッシュポテトもほうれん草も美味しいかったです。味も丁度良く、優しい味がしました。どうしてハンバーグに味噌汁? とも思いましたが、ハンバーグは和風でしたね。味噌汁も出汁がいい感じに効いていて良かったです。あと……」

 

 その後も続き、5分くらいで感想が終わりました。

次はフェルトさんです。

 

「私も作ろうかと思った。いつもはコーヒーに付け合わせるチョコレートばかり作っているからな。挑戦してみようと思う。それと美味しかった。ひょっとしたら間宮よりも美味しいんじゃないか?」

 

「えへへ。ありがとうございます」

 

 間宮さんよりも美味しいと褒められるのは嬉しいですし、照れくさいですね。

そして最後。高雄さんです。

自然と私の顔が固まるのが分かりました。

 

「……鳳翔ちゃん」

 

「は、はい」

 

 そう呟いた高雄さんの表情は見えませんでしたが、突然高雄さんが地面に膝を付いたんです。そして私の服を握ってこういうんです。

 

「美味しいっ!! 美味しいかった!! ですけどっ!!」

 

 ヤバイ。そう直感的に感じます。

 

「これはビギナーズラックじゃないです……。本物の味ですよ」

 

 そう言った高雄さんはスッと立ち上がりました。そして、高雄さんは自分のところからお皿を持ってきます。

その上には鮭のムニエルがあります。それは見れば分かりました。

 

「……食べてみて下さい」

 

 そう言われて、私は箸を取り『いただきます』と言ってから鮭のムニエルを口に運びました。

そして思ったのです。まだ少し生焼けだと。

 

「生焼けでしょう?」

 

「……はい」

 

「どうしても焼き加減が上手く出来ないんです」

 

 何やら恐れていたこととは全く違う方向に話が動いたみたいです。

この後、高雄さんと焼き加減について話をしました。そして、皆さんが作ったものも試食させていただきました。お菓子ばかりでしたので、さながらお茶会みたいになってしまいましたが。

 そして私たちは調理室を次の回の艦娘たちに明け渡します。

それぞれやることがあるということで、散り散りになって行きました。

 私もやることがあります。調理室の予約はもう良いです。今日作った献立で決定。

後は秘書艦を引いて、その時に勝負を仕掛けます。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 遂にこの時が来ましたっ!!

調理室で献立の決定を行った4日後。私は夕食後の食堂でガッツポーズをしています。

私の右手に握られているのは『アタリ』と書かれた棒。数多と入っているハズレくじの中から、私は遂にアタリを引きました。

 周りでは残念そうに声を挙げている娘たちがたくさんいます。いつも私はアチラ側でしたが、今回は違います!!

アタリを引きましたので、私は明日、秘書艦を勤めることになりましたッ!!

一応、秘書艦経験はありますので、執務は滞りなく行うことが出来ます。問題はその後。私は何時、お昼ご飯と称して、この『胃袋に一撃作戦』を発動させるのか……。

クジを箱に戻した後、私は椅子に腰を掛けて考えます。

 紅提督の食事パターンは変化し続けている、と前に大井さんが言っていました。

話によると、どうやら時たま自分で作って食べているだとか。というよりも、お昼の時間にテレビのリモコンを赤城さんに任せて、自分1人だけ居なくなっていることがあるそうです。鎮守府から出た形跡もありませんし、何がどうなっているのかも分からないんだとか。ただ、あることがあるらしい。

秘書艦をしていると、午前11時くらいになると秋津洲さんが突然執務室に現れるそうです。そしてカゴを置いていくのだとか。それを見たらショックを受けるとも。

ですが私はそんなことはどうでも良い、と感じています。私には『胃袋に一撃作戦』がありますからねっ!!

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 午前5時半。いつもならまだ寝ている時間ですが、私は早々に身支度を始めていました。

あまり物音を立てると、龍驤ちゃんが起きてしまうので音を出さないように動きます。

 今日は私が秘書艦です。昨日の夕食後のくじ引きで引き当てました。

そして作戦決行日でもあります。

 全ての着替えを終わらせ、身支度を整え終わったのは午前6時丁度です。

寮の部屋から静かに出ていきます。龍驤ちゃんは私が昨日アタリを引いているのは知っているので、部屋に居なくても変には思わないはずです。

 まだ薄暗い寮の中を移動します。

廊下は寒いですから、呼吸をすると白い息が出てきます。息を手に当てて、スリスリとしながら本部棟に入ります。

寮内にいれば、誰かが居るような気配は感じますが、本部棟に入った途端に気配は消えます。それもそうでしょう。

本部棟で寝ているのは紅提督だけですからね。

 

「……はぁー、はぁー」

 

 手を温めながら、執務室に入っていきます。

 

「鳳翔、おはよう」

 

「お、おはようございます。紅提督」

 

 ほとんど私の方を見てくれない紅提督が、今日は私のことを見てくれていますっ!!

少しトリップしそうなのを抑え、私はあくまで平静を装って秘書艦の席に座ります。

そうすると、じんわりと足元が温かくなってきました。少し小耳に挟んだことがあります。紅提督は朝早くに来る秘書艦のために、暖房器具を設置して早めに電源をいれておいてくれている、と。まさにこれのことです。

 私は座るとすぐに仕掛けます。

昼食の件を話すのです。

 

「あの、紅提督?」

 

「何だ?」

 

「そのっ……お昼ご飯のことなんですが」

 

「まだ朝も食べてないのに、もう昼の話か?」

 

 少し固まります。話は最後まで聞いてからしてほしいものですよ!!

 

「んもう!! 違いますよ!! ……お昼は、わ」

 

「はははっ、ごめん。……それで?」

 

「わっ……」

 

「わ?」

 

 心臓が口から出てきそうです。こうやっているだけでもバクバクと音が聞こえてきます。

紅提督とは離れているから、聞こえてはいないと思いますけど、聞かれていたら嫌ですね……。なんだか……。

 

「わ、わ、私が、お作りしてもよろしいでしょうかっ!!」

 

 い、言えましたっ!! これを言うことが出来たのなら、この後は流れに身を任せて進んでいくだけです。

 紅提督の返答を待ちます。とは言っても、返答はすぐに帰って来ました。

ですが、その間がすごく長く感じたのです。

 

「じゃあ、お願いしようかな」

 

「はいっ!!」

 

 よしっ!! よしっ!! よしっ!! 私は心の中でガッツポーズをしています。柄にもなく飛び跳ねそうになるのを我慢しつつ、私は時計に目を向けます。

 執務室に私が入ってきたのは午前6時5分。今は15分前くらいでしょうか。

もう少しした朝食に向かう時間になりますね。

 私は今日の朝食が何かと考え始めていました。言うことは言いましたし、何を話そうにもどうにもこうにも思いつきません。

アレです。舞い上がってしまって……。落ち着きが戻るまではずっとこうしていようかと思っていましたが、それを紅提督がぶち壊しました。

 

「そろそろ朝食に行くぞ」

 

「はいっ!! ……まだ行くには早いのでは?」

 

「あぁ。今日は秋津洲のところで食べる」

 

「はい?」

 

 背中に刃物が刺さったような感覚に陥りました。今、紅提督はなんと言ったんでしょうか。確か『秋津洲のところで食べる』と言いませんでしたか?

どういうことですか……。

 

「知っているものだと思っていたんだが……。今日の朝食は秋津洲の艤装で摂る。そんな連絡はしていないが、他の日を担当した秘書艦とかから聞いてないのか?」

 

「え、いや……さっぱり」

 

「てっきり知っているかと思ったんだがなぁ……。まぁいいか、誘われているし。秘書艦の鳳翔の分も頼んであるから」

 

 由々しき事態ですっ!! 由々しき事態ですっ!! 重要だから2回言いました。

手料理というのは対象物が多いですけど、ご飯を紅提督にご馳走するのは私が初めてだと思っていましたのに、秋津洲さんが既にそれをしていたってことです!!

しかも、紅提督の言い方だと結構な回数食べているということになります。不味いです、不味いです。これは本当に緊急事態です。

 私は紅提督が立ち上がったので、それに呼応して立ち上がり、執務室から出ていきます。

廊下を紅提督の少し後ろを歩きますが、内心はかなり焦っています。

 秋津洲さんは伏兵でした。いいえ。これは対潜装備を積んでいない艦が雷撃を受けるのと同じほどの衝撃です。

いつも日に2回の定期哨戒をしているだけの艦娘だと思っていましたが、主力艦の赤城さんや長門さんよりも近づいていますよ!!

王手の一歩手前で防御を固められた気分です。

 

「そ、そうなんですか」

 

 私は黙って紅提督の後ろを付いてきます。

そして着いたのは艦娘寮でもなければ食堂でもない場所。埠頭に到着しました。

明け方ということもあり、かなり潮風が冷たいですが、その風を浴びつつ、私たちはある艤装に向かいます。

埠頭に浮く巨大な飛行艇を甲板に乗せている水上機母艦、秋津洲。秋津洲さんの艤装です。

 タラップの近くに付き、紅提督はそれを登っていきます。

私も後から追い、登りきるとそこには秋津洲さんが居ました。

 

「おはようかも!!」

 

「おはよう」

 

「鳳翔もおはようかも!!」

 

「おはようございます」

 

 ここまで来ると、さっきの潮風に混ざってご飯の匂いがしてきました。

 秋津洲さんと紅提督が歩き始めましたので、私はその後を追います。

そして到着したのは、秋津洲さんの艤装にある食堂です。私と紅提督が席に付くと、近くを妖精さんたちがぞろぞろと歩いていきます。多分妖精さんたちもご飯を食べに来たんでしょう。

 

「ここに来ている妖精たちは全員、秋津洲の艤装の搭乗員だ。他の艤装からもたまーに来ている者がいるらしい」

 

「そうなんですか……」

 

 そんな話をしていると、秋津洲さんがトレーを持って厨房から出てきました。

その刹那、紅提督が立ち上がり、秋津洲さんの持っていたトレーを受け取ったのです。

 

「持つ。呼べば良いのに」

 

「あはは……ごめんなさいかも」

 

「いっぺんに持つなって前に言っただろう?」

 

「はい……」

 

 何だか悔しいですっ!! 悔しいですっ!!

何ですか、この空気!! ぶち壊したいこの雰囲気っ!!

 

「いただきます」

 

「いただきますかも~」

 

「いただきます」

 

 トレーが机に置かれ、私の隣に秋津洲さんが座りました。そして食べ始めます。

 メニューは洋食。バターの香りが強いパンとサラダ、コーンスープ、スクランブルエッグ、ハムです。しかもハムは良いところのを買ったらしいですが、他は全て手作り。パンも焼いたそうです。

 

「あ、秋津洲」

 

「何かも?」

 

「牛乳あるか?」

 

「持ってくるかもー。鳳翔はいるかも?」

 

「あ、お願いします」

 

 何ですか、この……なんて言えば良いのか分かりませんが、この空気。

すぐに秋津洲さんが牛乳を持ってきて、コップに注がれます。

こんな風にして私たちは朝食を摂りました。

 朝食も終わり、艤装から降りていくと同時に、秋津洲さんは出港して行きます。

これから定期哨戒なんだそうです。

 紅提督は満足気な顔をしながら、本部棟へと足を向けました。

そして私は半ば、戦意を削られていたんです。

ちなみに、このように秋津洲さんが紅提督のご飯を度々作っているのは、一応他の艦娘の間では有名な話らしいです。秋津洲さんのところでご飯を食べる日にバッティングした秘書艦は、尽く魂が抜けた様子で帰ってくるだとか。

 

 





 ここに来て強敵現るッ!!

 ということで、本シリーズでステータスを女子力に全振りした秋津洲さんが登場しました(ゲスガオ)
長らく、本編にも搭乗してませんでしたので登場させることにしました。それと、話の内容が内容ですので、ここで出さねばどこで出す! 的なノリで出した節もあります。反省はしません。怒られてもしません。

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