艦隊これくしょん 横須賀鎮守府の話 特別編短編集   作:しゅーがく

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※『艦娘、洗脳』の続編です。


特別編企画 第5回目 『艦娘、洗脳の続編』
壊れた関係 その1


 人に植え付けられた恐怖というのは、本人が克服したと考えていたとしても、心の奥底にはかなり残っているものだ。

 俺はてっきり状況を鑑みて、警備棟にいるものだとばかり思っていたが、実は事務棟の医務室で治療を受けていたみたいだった。

 どうも警備棟の医務室。正確には処置室には外科的な処置を受けるだけの設備と人員が配置されているが、内科的なものはあまり得意としていないみたいなのだ。切傷などの出血を伴う傷の治療は処置室で行ったが、打身・打撲の症状の判断や治療は事務棟で行われることとなったみたいだ。だから、俺が目を覚ましたのは医務室のベッドだったのだ。

俺がこのことを知ったのは、俺が執務に復帰した次の日のことだった。

武下が俺のことを考え、俺のそばに付けていた非番の門兵、西川から直接聞いた。

 今日は俺が執務に復帰してから3日目。相変わらず俺には門兵が1人付いていた。

今日は佳名(かな)という女性門兵。下の名前ではない。苗字が佳名なのだ。

今も俺の隣に立つ佳名は、横須賀鎮守府の門兵の中ではかなり若い。姉貴と同い年くらいだろう。雰囲気は今の若者という感じで、茶髪のセミロング。それに化粧を薄くしている。

女性門兵全員に言えることだが、大人の女性としてそういう嗜みを普段からしなければならないらしい。一応、軍規にもなっているんだとか。

外見はそんな感じであるが、内面はとてもしっかりとしている。

軍に入るつもりはなかったらしいが、両親を深海棲艦との戦争で亡くしている。そのため、家族の生活を支えるために給料の良い安定している軍に入ったとのこと。

 第三方面軍 第一連隊から派遣されている彼女だが、すっかり門兵の姿も馴染んだようだ。門兵の仕事の1つである、デモ隊との押し合いでも彼女の姿はよく見る。シールドをもってバリケードを作り、押し問答をすることはないが、車両運転や大型装備の操作を行う技術系の人間だ。

 なぜそこまで佳名のことを知っているのか。

それはかなり前の話になるが、デモ隊の艦娘をアイドルか何かと勘違いしている集団を一掃したときのことだ。

その時の佳名は入口でその集団の検査をする機械の操作をしていたらしい。その最中、集団の1人から艦娘と勘違いされ、質問攻めや写真の催促をされたとのこと。

そういう話は基本的に俺のところまで上がってこないが、俺のところに報告がその時、ついでのように上がってきたのだ。そして丁度、俺と武下が話していた時に近くを通りかかったがために、武下に紹介されたのだ。『この兵が艦娘に間違えられた兵です』というように。

初見、BDUを着た大井かと俺は思った。なのでそれ以来、外を歩いている時に佳名を見かけると、間違えて『大井』と呼んでしまうのだ。

 話を戻そう。そんな大井に似ている佳名だが、今では完全に見分けが付く。理由は簡単だ。

俺の現在の状況で大井を見た時には暴行された時の記憶が蘇り、身体が震え、正常な判断が出来なくなるのだ。

一方佳名を見た場合には、そんな症状は一切出ない。深層心理というか、無意識に俺は佳名と大井の見分けが完全に付くようになっていたのだ。

 

「書類が来たみたい。取ってくる」

 

「頼みます」

 

 俺は年上に敬語を使われるのには今だに慣れていない。門兵の皆にも一応話してあるが、こうやって俺の頼みを聞いてくれている人はごく僅かだった。

その中に佳名も含まれている。まだ何人かいるが、中でも身長が200cmはあろうかという大男の門兵には『紅の坊主(あかのぼうず)』と呼ばれている始末。

まぁ、俺としてはそう呼ばれることは気に入っていたりするんだが、正確には『(こう)』と読むんだ。いつになったら気が付くのだろう。周りはちゃんと読めているというのに。

 佳名は俺に『敬語を使わないで欲しい』と言ってきたことがあった。

それは俺の無意識に出ているものだからどうしようもない、と言ったのだが、納得してもらえなかった。

現に、今しがた執務室と廊下をつなぐ扉の下から出てきた書類を取りに行った佳名は、少し頬を膨らませていたからだ。

 

「はい、書類。それとメモ」

 

「ありがとうございます」

 

 書類を佳名から受け取り、中身の書類を確認する。

中には本来、秘書艦が持ってくる書類が入っている。とは言っても、そんなに数はないが。それと一緒に付いてきたメモにはこう書かれていた。

 

『1時間と30分後。終わったものを回収しに参ります。終わりましたら、扉の下か廊下の窓に立てかけておいてください。回収後、提出に行きます。 鈴谷』

 

 つまりはこうだ。

『俺に合わせる顔がない。合わせる勇気もない』ということ。

一度は謝罪に来た艦娘たちも、それ以来一度も執務室に来てはいない。顔も見ていない。

自然に出ていた俺の態度が悪かったんだろう。

その時に、俺と一緒に居た沖江から、俺のその時の応答についてこう言った。

 

『あんな言い方してしまっては、皆はきっと自分を責め続けてしまいますよ』

 

 俺はどんな言い方をしたのだろうか。

至って普通に受け答えをしたつもりだったんだが、俺にはその違いが全く分からなかった。

 

「朝食はどうしたの?}

 

「もう済ませています。……佳名さんこそ、朝早くから執務室で待機していらしたみたいですが、朝食はどうされたんですか?」

 

「あー……寝坊寸前だったからおにぎりを食べながら来たんだよ」

 

「……一応聞きますけど、コンビニにでも行ってから来たんですか?」

 

 横須賀鎮守府にコンビニはない。となると、一度鎮守府から出て行かないとコンビニには行けない。

今更だが、門兵は横須賀鎮守府に住込みで働いている。かなり前に滑走路があったところに、滑走路が敷かれる前から立っている寮で寝起きしているのだ。

そんなところから一度鎮守府から出て戻ってくるだけでも時間は掛かる。それだったら『寝坊寸前だったから』なんて言わないだろう。

ならばどこでおにぎりを手に入れたのだろうか。

 

「違う違う。寮の食堂で、ね?」

 

「ね? って……」

 

 多分、朝食を作っていた門兵に言って、無理に作ってもらったか何かだろう。

それを聞いた俺は、そのまま執務を始めた。

 書類を広げて内容を確認し、必要事項を記入していく。それだけの単純作業なのかもしれない。時に本棚のファイルが必要になる時があり、それが必要になれば俺は立ち上がってファイルを取り出したりする。

"今まで"も"これから"もやっていることは変わりがない。

"最近"は戦闘も最低限にしか行っていないからか、戦闘記録を取る必要もない。呆気なく執務を済ませてしまった。終わらせるのに掛かった時間は40分程度。

 終わったことを確認し、記入漏れがないことも確認した書類を封筒に入れ、俺は佳名に渡した。

 

「はい。終わりました」

 

「じゃあ廊下に立てかけてくる」

 

 いつの間にか、鈴谷のメモにも目を通していたみたいだな。

 執務も早々に終わらせてしまったため、時間を余らせてしまう。今の時間は午前8時52分。まだ1日は始まったばかりだ。

 俺は何をしようかと考える。

そういえば冷蔵庫の中身が少なくなってきたことを思い出した。元々、中身は空の状態だった。執務を復活した日に沖江と買い物に行ったが、それ以来買い物に行っていない。一度に大量に買い込むことがないから、こうも執務室に籠っていると消費する速さが尋常じゃない。

そういえば、沖江は買い物に付いてきた。最初は1人で行くと言っていたのだが、『付いていく』と一点張りされてしまった。だからあの日は2人で買い物に行った。

どうして付いてくると言ったのか分からないが、多分佳名もそう言うだろうな。

 

「暇になりましたね。……冷蔵庫の中身が少なくなってきたので、10時になったら買い物に行きましょう」

 

「そう? なら私も」

 

 やはり佳名も付いてくるみたいだ。やはりそうなのだろうか。

武下も口ではああ言っていたが、やはり"護衛"と"監視"が必要なんだろうな、今の俺の状態は。

意味合い的にはそのままの意味だ。機械が発生させていたものが原因とはいえ、護衛が1人でもいれば、艦娘の行動も変わってくる。俺以外が相手だと、少し戸惑いはするがいつも通りになるのだ。

 そうならば何を"監視"するのか……。

それは、俺が艦娘と接近したことで何らかの異変が起きないか。起きた場合、対処できる人間を近くに置くことを意味している。

つまり『"護衛"は緊急時に俺の身体的・精神的に異常をきたした時、俺に対して何らかの処置をするための存在』ということだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 午前9時半。この時間帯になると、グラウンドが騒がしくなってくる。

理由は簡単だ。俺が艦娘たちに与えた罰則を実行している。

毎日グラウンドを5周走ることが罰則でそれを2週間。今日は3日目だ。

 艦娘たちは朝食を食べ終わり、いつでも行動を起こせるようになるのがこの時間だ。だからこの時間帯になると、皆がグラウンドに出てきて走り始める。

 俺はその光景を執務室の窓から見下ろしていた。

初日は皆、通達を聞いてすぐに飛び出し、走っていた。だが昨日から違う。

門兵から借りてきたのであろうバックパックとベスト、小銃、ヘルメットを被って走っているのだ。

昨日の護衛だった長政によると『あの装備だけで20~30kgはある。重巡の艦娘ならまだしも、駆逐艦の艦娘には重すぎるのではないだろうか。見た目も年齢も小学生や中学生の彼女たちには、それだけ重い荷物を持ち上げるだけでも辛いだろう。だが、それを持って走ると言っていた。いささか無理があるのではないだろうか』ということだ。

今までの俺だったなら、そんな姿を見てすぐに止めに入っていただろう。だが、俺の身体は昨日も今日も動かなかった。理由は分からない。

 

「……止めにいかないんだ」

 

「えぇ」

 

 今の自分の言動は分かった。相当冷たい声で返答していただろう。

窓から見下ろす。身体と同じくらいの荷物を背負って走っている駆逐艦の艦娘たち。体格や歳的には問題ないかもしれないが、それでも重いものをバラストに走っている大型艦の艦娘たち。

皆徐々に速度を落としたり、休憩を挟みながらも走っている。時には転ぶ者だっている。だが俺はそれを止めることはしない。

俺は『グラウンド2週間5周』とだけ言ったのだ。誰も『身体に負荷をかけて走れ』なんて言っていない。

そんな中、兵士の装備ではないもので負荷を掛けている艦娘もいたのだ。

 

『お姉さま!! いくらなんでもっ!!』

 

『う、うるさい、デース!!』

 

 金剛だ。

 

『いくらなんでも不眠不休で走りっぱなしなんてっ……!!』

 

『私は、やるん、デース……』

 

『お姉さまぁ~!! あ、転んだ……』

 

 そんな金剛の他にも、同じようなことをしている艦娘はいる。

 

『鈴谷!! やりすぎではありませんことっ!?』

 

『邪魔しないでっ!! 鈴谷はやるのっ!!』

 

 鈴谷だ。

 

『門兵さんから装備を借りて走っているのに、更にトラックを引っ張りながら走るなんてっ!! 止めてくださいな!! 初日以来毎日じゃないですの?!』

 

 ここからもよく見える。鈴谷がトラックを引いているのだ。昨日もそうだったが、あの状態で5周走るんだろう。

 いつもの俺なら止めていたんだろうな。だが、俺は止めることはしない。

窓から離れ、元の椅子に座ったのだ。

 

「紅、やっぱり……」

 

 佳名は下の名前で呼んでくる。流石に上官の前ではそんなことはしない。だが、俺に敬語を使わないのはいつものことだ。

上官も俺の言った言葉は分かっているので、佳名に注意することはしない。

 

「何がですか?」

 

「い、いいえ……」

 

「そろそろ着替えてきますね。行きましょうか」

 

 俺は私室へと戻った。

これから買い物に行くために、私服に着替えるのだ。

 

 




 久々の特別編短編集の投稿ですね。
今回は前書きにもある通り、『艦娘、洗脳』の後日談です。内容は相当なアレ(鬱?)です。ご注意ください(後書きに言うなよ)。
 どういうわけかネタのストックにあって、ちょくちょく書き進めていたものです。
こうやって順々に出していくつもりです。

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