艦隊これくしょん 横須賀鎮守府の話 特別編短編集   作:しゅーがく

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※他の特別編企画とは関連はありません。


おめでとう! これで結婚ねっ! その2

 

 武下に匿って貰うことにはなったものの、やはり時間がものを云う。

警備棟の外は騒がしくなっていたのだ。

窓から少しだけ外を見下ろすと、入り口付近には艦娘が集まっており、なんだか門兵と口論をしているようだった。

 内容は聞き取れないが、門兵の表情は見て取れる。

非常に困っているのだ。

 

「あー、もう嗅ぎ付かれましたか。残念ですが提督、すぐに逃げた方がいいと思いますよ?」

 

 そう武下は俺に言った。

その通りかもしれないと、俺は立ち上がった膝を払う。

 

「そうかも知れませんね。匿って頂いてありがとうございます」

 

「いえいえ」

 

 そう言った武下は俺にあることを忠告してきた。

 

「ですが提督。注意して下さい。逃げきれるとは思わない方が良いです」

 

「え? どういう意味で……」

 

 言いかけた刹那、扉が開かれた。そちらに驚いて俺が目線を向けると、そこには見慣れた人物が居た。

 

「ヘーイ、提督ぅー。何で逃げるノ?」

 

 目から光が消えれている金剛が居たのだ。そして、その片手には『婚姻届』が握られていた。

 

「何でって……」

 

 俺は後ずさる。今気付いたが、開いている窓からエンジン音が聞こえるのだ。聞き慣れたエンジン音。艦載機だ。多分、彩雲だろう。

 

「わ、訳分からないだろうが! いきなり複数人に言い寄られて!」

 

 俺は少し凄んで言ってみる。

 

「しかも婚姻届に勝手に印をするし、複数人用意しているし! 第一、重婚したら捕まるんだが?! 俺が?!」

 

 そう言っては見るが、どうなんだろうか。

金剛に加わっていた鈴谷が答えた。

 

「そんなことさせないし。第一、法律なんかココじゃ意味ないじゃん?」

 

(そうだったー!! 横須賀鎮守府の敷地内は治外法権だった!!)

 

 だが、そう考えるとなんだか変な点が多いことに気付いた。

 

(よくよく考えてみれば、なんだか変だな。確か、金剛と鈴谷ってなんかあった時に口論してたような気が……)

 

 そんなことを考えるが、ただの思い過ごしだったかもしれないと自分に言い聞かせて、逃げることだけを考える。

そもそも、結婚する相手くらい俺に決めさせて欲しいものだ。

 

「で、どうするぅ? 観念して私たちと一緒に行かないと、ここに未記入の婚姻届を握り締めた艦娘が押し寄せてくるけど?」

 

 そう鈴谷は言う。それを聞いて俺は考えた。

どうするのが最善か。というか状況は最悪だが、これ以上酷くしない為にどうすればいいかを考えるのだ。

 

「それはちょっと勘弁……」

 

「あ、ひっどーい! こんなにも紅のことを想ってる艦娘がいるってのにさぁ?」

 

 鈴谷がプリプリと怒る。

 

「ねぇ提督ぅ? それよりサー」

 

 プリプリ怒る鈴谷の横で、金剛が俺に訊いてきた。

今の騒動関連だろうけども、金剛なら変なことは訊いてこない筈だ。

 

「私たちは勝手に書いたけど、大井のはダーリンが書いたネ。それってそういう意味ナノ?」

 

 金剛は不安そうに訊いてくる。

遠回しに直接的な言葉は使わなかったが、直接的な言葉を使うとすれば『私たちは勝手に婚姻届を書いたけど、大井の婚姻届にはダーリンが書いたネ。それって、ダーリンは大井と結婚したいってことナノ?』ってことだろう。

なんだか自分で考えていて、自分の頭がどれだけおめでたいかとか考えてしまうが、そういうことを訊いてきているのだ。

 

「いや……そういう意味じゃないけど……」

 

「デモ、ダーリンは自分で書いたネ」

 

 なんだか、どんどん追い込まれているような気がしなくもない。

そんな俺と金剛の会話を聞いていた武下が金剛に尋ねた。

 

「金剛さん。その婚姻届は、紅提督が書いたんじゃ……?」

 

「自分で書いたネー。なんか悪いことありマシタ?」

 

 俺はこれを聞いてなんとなく分かった。武下が何を聞きたかったのか。

 

「公文書は本人が書かないと無効になるんですよ。というか重罪になります」

 

 それを聞いた金剛と鈴谷の目が点になった。

そしてその目は自分が持っている婚姻届に向き、スッと後ろを向く。

 

「新しいの持って来マース!! ダーリン、そこ動いちゃダメデスカラ!!」

 

「鈴谷もっ!」

 

 過ぎ去る台風が如く、とてつもない速度で部屋を飛び出していった2人を見送ると、俺はその足で同じように部屋を出て行った。

ここにもう隠れて等いられないからだ。

出ていき際に、武下に礼を言うのはぬかりない。匿ってもらったからな。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 本部棟に帰ることはせず、そのまま鎮守府の中を逃げ回ることになった。

とりあえず道を歩かずに、道の脇にある茂みの中を歩いている訳だが、結構整備されている。茂みと表現したが、それは道のすぐ脇だけだ。その奥は綺麗になっている。芝生のようだ。

そんなところを中腰になりながら、あるところを目指していた。それは、門だ。

外出する訳ではない。もし外出しようものなら、艦載機が街中を飛び回ることになり、大騒ぎになりかねないからだ。

ならなぜ門に向かうのか。それは、鎮守府を囲んでいる塀の一部。門になっているところは、塀の一部が塔みたいになっているのだ。そこはいわゆる、詰所みたいになっているのだ。その日のその門の担当である門兵が数人、勤務時間外はそこで休憩している。そこに匿ってもらうのだ。もし、塔に登ってしまえば、艦載機に見つかってしまう。だから、詰所に入ることにしたのだ。

 茂みをいくつも乗り越え、何度も艦娘に見つかりそうになりながらも、俺はやっとの思いで門に辿り着いた。

軍の補給物資の運び入れに使う門だ。毎日開く門だが、補給部隊と門兵しかそこには寄り付かないのだ。

 

「すみません、少し匿って下さい」

 

 そう言って俺は詰所の引き戸を開くと、そこには見覚えのある顔があった。

 

「紅提督。いかがされましたか?」

 

 にこやかに笑っている飛龍がいたのだ。

なんだかんだいって、飛龍との絡みが少なかったような気がしなくもないが、それは置いておく。全艦娘に追われていることには変わりはない。

 

「間違えましたー。失礼しまーす」

 

 とだけ言って、引き戸を閉めて走りだす。

俺の背後では『何で逃げるのー?!』という飛龍の声が聞こえるが、そんなことはどうでもいい。

 少し離れて茂みに飛び込む。

 

「まさか居るとは思わなかった。というか、門兵さんたち何処行ったんだ? 中には飛龍以外居なかったような気が……」

 

 そんなことを独りで呟いて息を整える。

 今、自分が居る現在地を茂みの向こう側に見える建物で大体と検討を付ける。

多分だが、警備棟から離れて、酒保の近くだろう。多分だが。

 酒保に隠れてもいいが、何というか食料品売場以外には行きづらい。何故なら、他の売場の殆どはレディースモノの日用品や衣服しか置いてないからだ。家電製品や家具、洋菓子や和菓子を置いているところもあるが、一部だけだ。九割九部はレディースモノ。

メンズである俺にとって、1人で入るにはかなりの抵抗がある。

 そんな中、遠くではあるが隠れられる場所を検討する。先ずは工廠だ。あそこは色々とゴチャゴチャしていて、身体を隠すには丁度いいだろう。だが、妖精がどんな対応をするかによる。艦娘の味方をしていたとしたら、艦娘を呼ばれかねない。

次に地下牢だ。メリットもデメリットも半々の場所だ。長時間の潜伏にはあまり向かないだろう。さらに、倉庫だ。これは工廠と同じメリットどデメリットがあるため割愛。最後に艤装だ。埠頭に停泊しているであろう艤装に入り込み、どこかに隠れればいいだろう。これは工廠と倉庫と同じメリットどデメリットがあるが、数が多い分、当たりがあるかもしれない。

俺は一度工廠に行った後、埠頭にある艤装に隠れようと決め、動き出す。

だが、現実はそんなに甘くなかった。

 

「みぃ~つけたぁ~」

 

 物音を立てたことで、近くを通りかかった髪がボサボサになっている時雨に見つかってしまったのだ。

 ボサボサになったことで、とんでもなく怖い少女になってしまった時雨を見て、俺は心臓が飛び出る思いをして、すぐに逃げ出す。

だが、時既に遅し。

 

「逃がさないっぽい」

 

 久々に『ぽい』と言ってる夕立が既に、俺の脇腹に腕を回してホールドしているのだ。

もうこれで完全に動きを止められてしまった俺は、そのままドナドナされてしまったのであった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺が夕立と時雨にドナドナされた先は食堂だった。

そこには全艦娘が集結しており、無理やり椅子に座らされた。

 

「ぜ、全員集まってるのか?」

 

「そうだね」

 

 時雨はそう言って俺の目の前に机を置いた。

どういう理由があって置いたか知らないが、とてつもなく嫌な予感しかしない。というか、アレ以外にこうなった理由はないだろう。

 それよりも気になることがある。

なぜだか俺の横で同じく座らされてる艦娘がいるのだ。両腕を縛られ、猿ぐつわされていた。布でされているが、なんだかこの光景を前に見た気がする。

 

「はい」

 

 そう言って夕立は俺にペンと印鑑を手渡してきた。印鑑は勿論俺のものだ。

 

「あ、あぁ。……何が始まるか分かるが、その前にひとつ訊いてもいいか?」

 

「構わんぞ」

 

 長門がそう言ったので、俺は訊いてみる。

 

「何故、大井も?」

 

「あぁ。……それはだな、自分だけ正式に書いてもらったからだな」

 

 さらっとそんなことを言う。つまり、俺が勢いで婚姻届を書いたからだそうだ。かなり端折ったが、そんな理由だ。

 というかこの状況を見ると、俺って全艦娘に言い寄られてるということになるのだろうか。

座っていて見えないが、座る前には全艦娘が居る様子だったし。

 

「さて、紅」

 

「私たちのも勿論書いてくれるわよね?」

 

 そういった長門と陸奥が俺の両脇に立ち、目の前に婚姻届を置いた。

それを見て俺は少し考える。

そもそもなぜこんな状況に陥ってしまったのか、見に覚えが全く無いのだ。

それに、こんな風に好意を寄せられるようなことをしてきただろうか。自分で言ってはなんだが、顔だって良いわけではない。身長は高いと自負しているが、体格は人様に見せれる程良いとも思ってない。性格も変に曲がっているだろう。

それを何故、付き合うとかをすっ飛ばして結婚なのだろうか。

 

「ちょっと待て。皆はそれで本当に良いのか?」

 

 俺が見える範囲でもかなりの艦娘が婚姻届を握り締めて待っていた。

そんな艦娘たちに俺はそう問いかけた。

 

「何が?」

 

 足柄が聞き返してきた。

 

「結婚相手が俺で」

 

 端的に短く訊くと、考える間もなく返答が返ってくる。

 

「貴方じゃないと嫌よ。私は」

 

 ニコッと笑う足柄に『なんじゃそりゃ』と内心思いつつ、少しドキッとしたことを隠しながら俺は答えた。

 

「他の皆もか?」

 

 そう訊くと、一斉に皆が頷く。

そんな光景に俺は焦りを感じ始め、どうにか止めさせれないかと考える。

 

「そ、そうだ。……大本営には」

 

「新瑞さんからGOサインは出ていますよ」

 

 翔鶴に言い切る前に防がれた。

 

「そもそも法律がだな」

 

「私たちは人間じゃないわよ。艦娘。それに、横須賀鎮守府は治外法権内でやりたい放題じゃない」

 

 今度は伊勢に防がれた。しかもこのことは警備棟の中で俺は考えていたことだった。

否、ただの時間稼ぎだ。そういうことにしておこう。

 

「第一だな、俺が良しと言うと」

 

「言わないんですかぁ……司令官さんっ……」

 

 半泣きの羽黒に防がれた。

 

「というかモラルがだな」

 

「事ある毎に艦載機が飛び交い、砲に砲弾が装填されているものを持ち歩いていても全然普通なんですが……」

 

 今度は神通に防がれた。

 この後も抵抗を続けるものの、ことごとく跳ね返されてしまった。

もう抵抗するだけの術も失い、俺は黙ってしまう。

 

「どうした? 紅。私と結婚するか?」

 

 どうしてそうなるんだと内心思いつつも、何も言わない。

そんな刹那、陸奥も口を開くが俺に対してじゃない。

 

「あら? 紅と結婚するのは私よ?」

 

 そう。陸奥が長門に突っかかったのだ。

 

「私とだ!」

 

 突っかかった陸奥に対抗してか、長門もそれに抗う。

そんな光景をほんの少しだけ見ていたら、食堂は大混乱に陥っていった。

一度、食堂を逃げ出した時の比ではない。全艦娘(大井を除く)が口論をしているのだ。勿論、誰が俺と結婚するかについて。どうやら、治外法権云々、俺が法律云々とは言うが、俺と結婚できるのは1人までらしい。

 その状況をしめたと思い、俺は椅子から静かに立ち上がる。そして背中側はがら空きだったのでそのまま立ち去ろうとすると、コチラを大井が見ていた。

猿ぐつわ唾液で濡れてきたのか、体積が小さくなって辛うじて声が出せるようになったみたいだ。

 

「助けて下さいっ!」

 

 モゴモゴ言いながらそんなことを俺に言ってくる。

だが、俺は迷っていた。普段なら2つ返事で助けるんだが、状況が状況だ。ここで助けてもし、長門たちにバレたらどうなるか分かったもんじゃない。といっても、結婚させられるだけだが。

 

「あなたっ!」

 

 普段は『提督』って呼んでいたと思うんだが、まぁ回りの感化を受けただけだろう。そう決めつける。

だが、本当に解放してしまっても良いのだろうかと考えてしまう。

 心の中であることを考えていた。

ここで大井を助けずに逃げたら、艦娘はまた俺を見失う。今度は朝とは違い、隠れる検討もちゃんとつけているので、段取り良く逃げ回れる自信があるのだ。

大井を助けたとして、逃げ出したらそれだけタイムロスになってしまう。より短い時間で、目星をつけた避難場所に入らなければならなくなってしまう。

だったら大井を置いて逃げた方がいい。そう考えたのだが、一方で俺の良心が働いたのだ。

こんな状況でなければ、俺は迷わず大井を助けていただろう。

 こんな風に足を止めている時点でタイムロスをしていることに気付き、俺はやけくそになって大井を解放することにした。というのは建前で、良心が勝ったのだ。

 大井の猿ぐつわを外し、縄を解いて足音を立てずに小走りで食堂から出て行く。

それには大井も付いてきていた。多分、また捕まってしまうからだろう。

食堂の入り口から中を見ると、まだ艦娘たちは口論をしていた。俺が椅子から立ったことに気がついていないみたいだ。

しめたと思い、そのまま俺は廊下を走って棟を移り、階段を駆け上がって執務室に飛び込んだ。

とりあえず、ここに逃げ込んだのだ。それにもし、接近してきたとしても隠し扉に入れば分からないだろうと踏んでいたのだ。

 肩で息をして、少し出ていた額の汗をハンカチで拭って姿勢を戻すと、さっきまで猿次ぐつわをしていた艦娘が俺の目の前に居た。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 ちなみに、俺よりも体力の回復は遅い模様。

そんな艦娘、大井に俺は声をかける。

 

「え”っ?! 追いかけてきたのかっ?!」

 

「はぁ……もち、ろんですっ……」

 

 そんな風に答える大井に少しだけドキッとしたが、俺はすぐに視線を外した。

何というか、目に毒だったのだ。髪が汗で少し張り付いていたのと、姿勢が前のめりだったからだ。この先は言わない。

 そんな大井から視線を外して、俺はこれからどうしようかと考え始めたのだった。

 

 




 連日投稿ですが、明日はありません。何故ならストックが無いからですっ!!
続きは色々な作品と並行しながらですし、コレは優先順位が最下位ですのでかなり遅くなります。ご了承下さい。
 このシリーズはその4まで続ける予定ですので、それまでお付き合い下さい。

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