艦隊これくしょん 横須賀鎮守府の話 特別編短編集   作:しゅーがく

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※『艦娘、洗脳』の続編、別視点になります。
著しいキャラ崩壊と、面倒な言い回しをしています。


壊れた関係 その5 艦娘視点

 

 私たちは不本意ではありましたが、艦娘としても人としても最低なことをしました。

ある日、横須賀鎮守府に散布されたと言われている艦娘にしか効力がないガス。それによって私たちは紅提督に暴言を吐き捨て、暴力を振るいました。

その時の記憶は今も私の中に残っています。彼に向かって吐き捨てた誹謗中傷、下腹部に入れた拳の感触、痛むところを庇って怯える姿……。全て、全て、全て、私の脳裏に焼き付いています。

 皆が私のようになっていました。自分のしてしまったことへの反省や後悔、戻すことのできない時間、一気に失ったものが私たちには大きすぎました。

私たちを見た時の目ですぐに分かりました。私たちを怖がってしまっていることが。

 紅提督は私たちの全ての攻撃を受けるだけでした。反抗も反撃も復讐もしなかったんです。ただ罵声を浴びせられても、暴力を振るわれても、ただただじっと我慢していました。

私たちが満足するのを待ってから、痛むところを庇って自分の私室へと戻っていたんです。

 

「お、お姉さま……」

 

 それに私たちは妖精さんたちを強引に従えて、何も関係のない妖精さんたちの間でも争いを起こさせたんです。最初から私たちの異常に気付いて紅提督の方に言っていた妖精さんも少なからずいたみたいですが、圧倒的な人数の妖精さんに私たちは命令をしていたんです。『紅提督の肩を持つ妖精たちを襲撃し、逮捕して来い。医務室を抑えろ』とね。悪魔です。私は悪魔です。

 

「紅司令は『2週間毎日5周』とおっしゃったんですよ!! お姉さま。誰も『2週間走りっぱなし』だなんて言ってません!!」

 

 今、私が何をしているのかと言うと、グランドを走っています。ただただ走っています。

それだけのように思えますが、今霧島が言ったように、ずっと走っています。かれこれ3時間くらいは走っているんじゃないでしょうか。霧島の言うように、私は『2週間走りっぱなし』でいるつもりです。

 

「知ってマス」

 

「ならどうして……ッ?!」

 

「私は『その程度』の罰則を罰則とは考えマセン」

 

 呼吸を整えながら、私は話しました。

 

「"上官"の命令では確かに『2週間グラウンド5周』デス」

 

 私はこの耳でその命令を聞いていますからね。

 

「私たちは人間と同じで、体力は艤装を身に纏っている時以外は一般人女性とそう対して変わりマセン」

 

 コーナーに差し掛かり、インコースに入ります。

 

「そう考えると、私たちにとっての5周というのは少々キツいデスヨネ?」

 

「それは……そうですね」

 

「だから『その程度』なんデス」

 

 頭の良い霧島なら今ので分かったでしょう。全て言わなくても、霧島になら分かるはずです。

 

「……分かりましたけど、それならば10周でも良かったんじゃないですか?」

 

 分かったんですね。ですけど、私を止める気は変わらないみたいです。しかも代替案も出してきました。

それでも私はこの足を止めるつもりはありません。

 

「紅提督が味わった"苦しみ"はこの程度な訳がないデス」

 

「……」

 

「私は紅提督の身体が浮き上がるくらいのパンチをお腹にしマシタ。それ以外にも殴ったり蹴ったり色々……」

 

 今話していても思い出すんです。その時の感触を。その時の紅提督の表情を。

そしてその後、苦しそうにお腹を押さえてうずくまっている姿や、私の顔を見上げている時の紅提督の表情を。……それが脳裏にこびりついています。

 

「私たちがゼエハアいいながら走るよりも何倍何十倍何百倍も苦しい思いをしているんデス」

 

「……」

 

「忘れたデスカ? 私たちは『天色 紅』というこの世界に何の関係もないただの青年を、自分の身勝手な欲望を満たすために意思を無視して連れてきているんデス」

 

 走りながらでも、私の口はよく回ります。呼吸は上がっていますし、身体は熱いです。ですけど、私はこの足を止めるつもりはありません。

 

「あって当然のものを奪いマシタ。それに、私たちが戦争をさせていマス。人に恨まれるようなこともさせてマス。背負いきれない重荷を背負わせてマス。私たちは紅提督に殺されても文句が言えないようなことをシマシタ」

 

 コーナーから出てストレートに入りました。

 

「それなのに更に、私たちは自分の本意ではないとはいえ、"その"紅提督に暴行をしたデス」

 

 隣を走る霧島の顔をみました。

霧島は私を止めるために、少し休んで様子を見てからこうして並走をしています。

その霧島が表情を歪めていました。やはり紅提督の艦娘です。誰しもが持つ共通意識ですね。

 

「『2週間グラウンド5周』なんて罰則、軽すぎるにもほどがありマス。普通に考えれば私たちはあれだけのことをして罰則を受けるのなら軍籍剥奪、銃殺刑、禁固刑……人としての尊厳を失うようなことをさせられても文句は言えない立場に居マス」

 

「……ですが」

 

「鎮守府を追い出されて、陽の当たらないところで生きていかなければならない……なんてことになっても」

 

「……」

 

「私たちは"外見は良い"デスカラ、"水商売"をやらされるようなことになっても」

 

「……」

 

 下唇を嚙み締めました。妬ましい。自分の本当の意思ではないのに、あんなことをしてしまっていた私が妬ましい。

 

「"それだけ"のことをしてしまったのデス。"それだけ"のことをしているのデス」

 

「……」

 

 霧島から返事が返ってきません。

それもそうでしょうね。そこまで霧島は考えていなかったでしょうから。

 

「それでも私は……命令外の行動はもしもの時に」

 

 なるほど。霧島はそこを心配していたんですね。ですけどそれは余計なお世話ってやつです。自分のことは自分以上に分かる人なんていません。特に私なんてそうです。

艤装も身に纏ってない艦娘が鋼鉄のパイプを素手で折ったりなんてしません。

 

「気にしないでくだサイ」

 

「……はい。分かりました」

 

 やっと折れてくれました。

 霧島はそのままトラックから出ていき、外周で見ていた比叡、榛名と合流しました。

そのまま私を見張るかのように、比叡だけを残して本部棟に入っていったのです。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 走りながら考えます。私がしてしまったこと。そして紅提督へのダメージの状況。今朝の様子。

私のしてしまったことなんて、過去に戻れるのなら過去の自分をぶん殴ってでも止めたいところですけど、そんな現実的でないことなんてできっこないです。

紅提督へのダメージですが、門兵さんから聞いていた通りにかなり深刻でした。PTSDの発症が認められるのと、艦娘にかなり怯えているということ。"あれだけ"のことがあれば、誰だってそうなりますよね。更に紅提督は他の人とは違い、かなり特殊な立ち位置にいます。心への負担というのは、常人をはるかに上回っているでしょう。拠り所も、ましろくらいしか居ないと言っても過言ではないです。

そこに私たちが"裏切り"という形で攻撃側に移りました。孤独で味方のいない心境になっていたんでしょう。

 

「はっ……はっ……はっ……」

 

 誰もいないグラウンドをひたすら走ります。

昨日は5周走って切り上げようか迷って、そこからずっとこの調子です。食事は持ってきてもらって、走りながら食べます。生理現象は仕方ないので行きますけどね。その時以外はずっと前に進んでいます。グルグル回っているだけですけどね。

 紅提督が私に怯えることは、たまにありました。ですがそれは私が何かしていたとしても、紅提督にはその矛先が向かなかったからです。工作員然り特殊部隊然りデモ隊然り……。

ですから、紅提督はその私の様子を見て怖がっても、私がそれを止めてしまえばそれも治まっていました。

今回はその矛先が紅提督自身に向けられました。不本意ではありますけどね……。

 

「はっ……はっ……はっ……」

 

 私では到底分かりませんが、紅提督の心は相当乱れているでしょう。そしてもう、私たちのことは見てくれないんでしょうね。あんなことをしてしまっては。

 紅提督が戻ってきた時、私は赤城の背中に隠れていました。私がしたことで、紅提督がどんな風になっていたかなんて忘れるはずがありません。

ですから、もし目の前に現れたら何を言われるか……。怒られるだけでは済まないであろうと、その時から既に感じていました。ですが、違ったんです。

人の好きの反対は無関心と言います。まさにその通りでした。紅提督は私に対しても、話している赤城に対しても無関心だったんです。怒ることもしませんでした。でもそれは目の前に居る時だけです。そこから離れると、たちまち紅提督が恐怖に震えているのを感じます。今だって……。きっとフラッシュバックかそれに付随する何かで、私たちが"おかしくなっていた"時の光景が脳裏に映し出されていたんでしょう。

 私たちは"提督"を失ったと言ってもいいでしょう。

紅提督があのような状態になってしまったんです。指揮はしてもらえるでしょう。ですけど、それも今までのようにいかないのではないでしょうか。私たちを直視した艦隊運用、作戦行動は無理。となると、もう作戦書が印刷機から吐き出されていた"普通の鎮守府"と同じ状況になってしまいます。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 気付いたら私は走るのを止めていました。考えていることが変わっていたんです。

何故だか紅提督が遠くへ行ってしまうような気がして、自分の意志で離れて行ってしまうのではないかと思って……。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 鎮守府の中は豪く静かで、寂しく、重い空気が漂っていました。私が走り辞めて、汗をタオルで拭いながら歩いていますが、廊下には誰も居ません。

着替えを取りに私室に入りますけど、共用スペースには誰も居ません。それぞれの個室に引きこもっているか、どこかに行ってしまったんだと思います。私は自分の個室に入り、着替えてから廊下に出ます。用事がありますからね。

 艦娘寮から出て、私はあるところを目指していました。事務棟です。ここに用があるんです。

その用というのが……。

 

「私が運転するから、紅は助手席に」

 

「分かりました」

 

 紅提督と、今日の"護衛"の佳名という門兵さん。紅提督が出掛けるのはなんとなくわかっていましたからね。大きな買い物をする時は、こうやって事務棟で自動車を借りていくことは知ってましたから、こうやって来ているんです。

 それにしても、何というか……。あの佳名という門兵、前は特に何も感じませんでしたが今は違いますね。

羨ましい。そんな風に思います。幾ら自分らの意思ではなかったにしても、もう紅提督には近づけないようになってしまいましたからね。ああも平然と隣を歩いて、話をしているところを見ると羨ましく思ってしまいます。

そしてそれと同時に、あそこに戻りたいと思いました。かつて私もそこに居たんですから。他の艦娘の皆も同じです。話す機会が少なかったとしても、そこに居る権利は艦娘誰しもが持っていたものですからね。

そんな光景を見ていると、私は胸がキューっと締め付けられるような気分になります。その権利、どっかの誰かさんのせいで無くなってしまったんですからね。

そればかりか、この手や脳裏に残る"記憶"は忘れることができません。

 私は自動車が走り去ったのを確認すると、そのまま事務棟を離れます。

次の目的地がありますからね。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 次に私が来ていたのはここ。本部棟執務室前です。現状、ここに来る艦娘はほとんど居ないでしょう。

皆それぞれが紅提督に何かをやっていますからね。顔向けできないのと、怖いんです。もし嫌われていたら、そう考えると足が執務室から遠のいていきます。目の前でそれを知るのは、とてつもなく苦痛ですからね。想像すればすぐに分かります。

 そんな執務室前ですが、1人だけ来る艦娘がいます。今日の秘書艦の鈴谷です。

ここに誰も人が来ないことと、鈴谷だけがここに来るのなら、密会にはうってつけの場所です。アポなしではありますが、立ち話のように話すことができそうです。タイムリミットはありますけどね。

 

「……」

 

 暗い表情をした鈴谷が廊下の角から現れるのが見えました。ようやくトラック引きも終わったみたいですね。

そんな鈴谷の前に、私は立ちはだかります。

 

「鈴谷」

 

「……何?」

 

 ぶっきらぼうに返答をします。普通じゃないのは分かっていましたから、それほど私も驚きはしませんでした。

 

「多分もう駄目デス」

 

「そのことを、わざわざ鈴谷に言いに来たの?」

 

「ハイ。鈴谷なら分かるだろう、そう思いマシテ」

 

 ジッと私のことを見た鈴谷が、ゆっくりと口を開いた。

 

「それは鈴谷としても看過できないかなぁ。時間が解決してくれるだろうとも思ったりしたけど、門兵さんとかから聞いてもヤバいみたいだし」

 

「ハイ。デスカラ……きっと良くなる、なんて思えないんデース」

 

 きっとそれは鈴谷も分っていることです。

 

「近いうちにじゃなくても、そう遠くない未来……」

 

 そう切り出して、私は鈴谷に言いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅提督はここから居なくなりマース」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 可能性なんていくらでもあります。紅提督の立ち位置というのは特殊で、大本営の方針で本来ならば異動できない紅提督を異動させることだってできるでしょう。

紅提督は本来ならば大本営の命令に従わなくても良いのに、形式上だけでなく従っていますからね。軍隊としての形を保って、あくまで横須賀鎮守府に派遣されている司令官であることも念頭に置いているはずです。それは今までの行動から、十分に証明できることでした。

 あくまで可能性の話ではありますが、今回の事件であり得ないことではありません。それに本人が私たち艦娘を怖がっているのなら、大本営にも連絡は行っていないみたいですが、そのうちその異変に気が付くはずです。もしかしたら、事務棟の誰かが報告書に書いていることだって考えられます。そうすれば、私たち艦娘の拘束具として機能している紅提督を、その機能の損なわれない最低限の距離まで置くことは3歩歩けば誰だって分かる話です。

 

「……ならどうするの? 鈴谷だってあんなことしたくなかったけど、それでも身体は覚えているんだから。この手の感触も、紅提督の痛みに苦しんだり恨めしそうに鈴谷のことを見る表情……。これでもここまで来るのに、そうとう勇気振り絞ったんだから」

 

「怯えられても私たちは逃げずに接して行けばいいんデス。デスケド、最初に謝る必要がありマス」

 

 戻ってきた時に、一応全員謝罪にはいきました。ですけど、それもあんな状況な紅提督がちゃんと聞いていたとは思えません。ならばやることは1つです。

 

「もう一度謝罪に行くとして、普段は門兵さんが付いていて近づけないと思うんだけど、その辺りはどうするの?」

 

「そんなの、夜に行くしかないデスネ」

 

「……隠し通路」

 

「ハイ」

 

 話は付きました。執務の書類を回収しに来た鈴谷は、そのまま窓に立てかけられていた書類を取り、事務棟に行ってしまいました。

多分この後、色々な艦娘に声を掛けることになると思いますし、私は鈴谷程重度ではないにしても『提督への執着』がある他の艦娘も数人がこれに気付いている可能性はかなりあります。

 私も行動を開始しました。まずは心配させてしまった姉妹たちに詫びを入れて、そのまま今回の件について報告します。霧島辺りに止められる可能性はかなりありますが、あの子も相当参っていますから、多分賛同してくれるでしょう。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 艦娘寮に帰る道中、本部棟1階ですすり泣く声が聞こえてきたので、その音源に行きました。

そこに居たのは私よりも長くこの鎮守府に居る白雪です。進水した時にも、担当艦として何も分からない私に色々と教えてくれた彼女ですが、一体どうしたというのでしょうか。近くでそんな白雪の背中を擦ったり、心配そうにしている吹雪型の皆さんも眉をハの字にして今にも泣きそうな雰囲気が漂っています。

 

「どうしたデース? 転んだデスカ?」

 

 白雪の背中を擦っていた叢雲が事の顛末を教えてくれました。丁度そこに居たのは白雪と叢雲だけだったらしいですからね。

端的に言ってしまえば、紅提督を引き留めようと声を掛けたが無視された、というものでした。紅提督は若干耳が遠いのかなって思うような場面も時たまありましたが、一度言っても聞こえなかったのなら、もう一度言えば絶対足を止めて話を聞いてくれます。そんな紅提督が、声を掛けた自分のことに気付きながらも、無視して行ってしまったということみたいです。

泣いてしまってどうしようもない状況のところを、近くを通りかかった深雪が同型を呼び寄せてここから私室に移動しようとしていたみたいです。

 この話を訊いて、私は心底怖くなりました。

さっき鈴谷に言ったこととは違い、本人からここまでされるとなると相当不味いということが分かったんです。

 

「ぐすっ……」

 

「白雪ちゃん。私室行こう? ここに居ても仕方ないから」

 

「……うんっ」

 

 普通ならば、この状況で励ます言葉の1つや2つ出てきてもおかしくはない場面です。ですが、この場に居る誰1人としてそんな言葉を発しません。

分かっているんです。この状況を作り出したのは、『海軍本部』の手の者によることであったとしても、自らが意思を持ってやっていたことへの仕打ちだっていうことは。

 悲しそうに歩いていく白雪に、その両脇を歩く深雪と叢雲。そんな3人の後を追わずに、その場に吹雪だけが残りました。

何か話でもあるんでしょうか。

 

「他の子がもし今の司令官に会ったら……」

 

「きっと同じことになりマスネ」

 

 私に訊いてきたんです。というか吹雪なら、私に訊かずとも分かると思います。

多分、確認のために訊いてきたんでしょうね。

 

「現状をどうにかしないと、私は悪化していくと考えてマース」

 

「っ?!」

 

「吹雪だって分かっているんデショ? 四の五の言って怯えてなんていられマセン」

 

 全部言っても仕方ないですし、ここまで言えば伝わるでしょう。吹雪の返答を待ちます。

 

「……分かりました。私も嫌ですから、司令官が居なくなるのは」

 

「なら決まりネ。同型艦や他の駆逐艦に触れ回ってくだサイ」

 

「はい」

 

 スッと困って今にも泣きそうな表情になっていた吹雪から、表情が消えていきました。

あぁ、きっと私もこうなっているのだろう……そう思いながら吹雪を見送ります。

 この後も、色々な艦娘とすれ違って話をしました。結局、私がやろうとしていることは、全艦娘に伝わります。ものの思い立って鈴谷に話してから1時間半後でした。

そして代表として、私のところに艦娘が数人来たのはその1時間後です。

さぁ……許しを請う時間です。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 集まった艦娘に隠し通路の位置を示したメモを渡し、時間を示し合わせます。時刻は午前0時。この時間なら紅提督は確実に独りになっていますから、この時間帯がチャンスなんです。

夕食前には姉妹たちにも話をして、皆行くと言いました。1つの入口から入っても混雑してしまうために、数か所の入口を示してあります。戦艦と空母は私が先導。他は鈴谷とイムヤが先導することになり、一度全員が隠し通路に入ったことを確認した後、紅提督の私室に繋がる道を進みました。

 途中、覗き穴から執務室前の廊下を確認すると、入口前に門兵さんが完全武装で立哨しているのが分かりました。

きっと夜中に紅提督が何かないように、と見張りで武下さんが立たせているんでしょう。

そしていざ、私たちは紅提督の私室へとなだれ込みました。

 

「すぅ……すぅ……すぅ……」

 

 予想外にも、紅提督は既に寝ていたんです。それに入る前に気付いていた私たちは、音を立てずに入っていきました。ですがここから問題が起きていきます。

 紅提督の姿を見た艦娘たちが我を忘れたように、錯乱を始めたんです。ですけどそれも静かです。ただただ、ぶつぶつと何かを言い始めただけです。

そしてそれが入ってきていた艦娘全員に伝播していきました。

これだけ人が集まっていても布の擦れ合う音は一切せずに、ただぶつぶつと何かを言っている声だけが聞こえるこの部屋は"異常"でした。私がやろうと言い出し、皆が賛同した今回のコレではありますが、流石にここまでになるとは思いもしなかったんです。

 

「み、皆さん落ち着いてくだサイ」

 

 小声でそう言って、割と理性を保っている他の艦娘に触れ回ってもらいます。そして、静かになったのと同時に、私はあることに気付きました。

紅提督。寝たふりをしているのかもしれないんです。さっきから様子がおかしいですし、明らかに寝ている人の寝返りではない動きをしました。

私はジーッと観察します。もし起きていたとしたら、起こして今にも土に埋めてくれと言わんばかりの土下座をするつもりでした。これから罰則期間はずっと走り続けるから、どうか嫌いにならないでって……。

許してもらえるか……そんなことを考えてしまいます。ですけど、許してもらわなくちゃいけません。何を命令されても、私はそれを『はい』と答えてするつもりです。自己解体申請書でも書きます。

そんなことを考えていくと、なんだか段々と心に蝕んでいる"何か"に気が付きました。それは他の艦娘も同じだったみたいで、急に目が点になり、冷や汗を額に浮かべています。

 私はすぐに気付いて、辞めるべきだったのかもしれません。ですけど、それは"止まることが許されません"でした。

これはきっと"私の本心"なんだ、と。そして、抗えないものに動かされているんだ、と。

 ここからは皆、ぶつぶつと言いはしますが、声量がかなり落ちました。

そして、ハッキリとしない意識の中、ある物音に引き戻されました。

 

「ッ!!」

 

 バッと布団を勢いよくはねのけてしまった紅提督の顔が見えました。

ですけど、私は……。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 勝手に口が動いていました。声が出ていました。

それは他の皆も同じだったみたいです。

 

「許して許して許して」

 

 いつになく表情が死んでいる鈴谷。こんなになっている鈴谷、見たことないです。

「嫌いにならないで嫌いにならないで嫌いにならないで」

 

 健気に紅提督を想っていた山城。頑張って素直になれないのにポイント稼いでいたのは、私や他の皆も知っていることです。

 

「痛くしてごめんなさい痛くしてごめんなさい痛くしてごめんなさい」

 

 紅提督に直接手を焼いて育てられた陸奥。きっと肉体的暴行をかなりしていたことが、脳裏に焼き付いているんでしょう。

 

「私も同じこと受けるから許して私も同じこと受けるから許して私も同じこと受けるから許して」

 

 赤城のように頼られたくて、そして、遠目から見て、ずっと陰で努力していた加賀。確か腕のヒビは加賀がやったんだと思います。

 

「なんでもやるから嫌いにならないでなんでもやるから嫌いにならないでなんでもやるから嫌いにならないで」

 

 皆がポイント稼ぎをしていく中、独りチャンスを伺っては失敗を繰り返していた高雄。精神的・身体的攻撃は、"あの時"の私でも若干引くレベルのことをしていました。

 

「「「「「「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」」」」」」

 

 いつもが幸せだ、私たちは幸せだとは口に中々出さないが、楽しそうに笑うようになった皆。……もうその言葉しか発せれないようになっていました。

私も同じなんですけどね……。

 

「あ、あぁ……」

 

 そんな私たちを見た紅提督は取り乱し始めます。縮こまり、頭を抱えて今にも死んでしまいそうな表情をします。そして、声にならない声を出します。

……きっと錯乱状態はこういうことを言うんですね。なんて私は冷静に観察している反面、なぜそうなったのかが理解できませんでした。私たちは心を込めて謝りました。

意思も伝えています。何をされたって良い、何をしたって良い……そう言っているんです。なのに、なのに……。

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!」

 

 そんな時、廊下から声と物音がし始めます。

 

『やばい!! 今のはやばいだろ!!』

 

 その声に気が付き、皆は一目散に隠し通路に行きます。私も。

 

『警備棟に連絡だ!! 俺は先に入るぞ!!』

 

 そして私が扉を閉めた時、丁度門兵さんが入ってきました。

よく見ると小銃の安全装置が解除されています。……多分あれはきっと、私たちを見て状況に応じて撃つつもりだったんですね。艤装を纏っていない私たちは、人間とそう変わりません。ですから撃たれれば血が出ますし、死ぬことだってあります。歳は取りませんけど。

2人がああなってしまった紅提督を見て大焦りしているのを見て、色々としているのを見た私たちはそのままそこを離れることにしました。

きっと今日はもう、紅提督のそばには行けませんから。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 次の日、私たちはあることを決行します。

『門兵さんが居るのなら、もう連れてきちゃえばいいじゃない』そう言った声が挙がり、行動にすぐに移すことにしたんです。

赤城の伝手で"特務"で一緒に色々している工廠の妖精さんに"お願い"して、工廠に紅提督を誘導することになったんです。そしてそこに来た紅提督を何らかの手で艦娘寮の空きの大部屋に連れていく、というものです。

 工廠で待っていると、紅提督は来ました。どうやら今日は護衛にましろを連れているみたいですが、彼女は事件のことを知らないはずです。なら好都合。

そう思い、私はゴーサインを出しました。近くに隠れていた艦娘数名で2人を"無力化"し、そのまま空き部屋へと連れていきます。もちろん、妖精さんにも釘は刺しておきます。バラしたら……って赤城が脅していましたが、それは本心なんでしょうか。普段はそういうことをするような人には見えないんですけどね。

そして私たちは紅提督に…………。

 それからというもの、毎日のように紅提督を連れてきては、私たちの"気持ち"を伝えています。

なんだかやつれていっている気もしなくもないですが、まぁ、大丈夫でしょう。ですから今日も紅提督は、私たちの目の前にいます。私たちのことを見てくれます。私たちから逃げていくことなんてしません。無視しません。

 

「紅提督ぅ……」

 

「ッ!!」

 

「ふふふっ」

 

「ッー!! っ……」

 

 紅提督に謝罪し、謝罪し、謝罪し、その返答を貰ってこうして毎日毎日毎日、順番に自らの罪を(あがな)っています。

いつまでも、いつまでも、いつまでも、私たちは紅提督の口から『もういいよ』と言ってもらえるまで続けていきます。そう……この身が朽ち果てても……。

 





 艦娘視点も欲しいという要望がありましたので、少し時間を掛けて書き上げました。11000字くらいありますが、まぁ……はい。

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