艦隊これくしょん 横須賀鎮守府の話 特別編短編集   作:しゅーがく

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※『艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話』トゥルーエンドの紅視点の話になります。描写が少ないですが、ご了承ください。


特別編企画 第6回目 『トゥルーエンドの先の話』
帰還


 

 平和だ。この世界は平和だ。

 長い時間を過ごしたように思えれる彼処から、俺が戻って来てどれくらい経っただろう。俺自身は自覚の無い、至って普通に過ごした時間の間、色々なことがあった。先ず、姉貴が居なくなっていたこと。突然帰ってきたこと。友人たちはとっくに大学に入学していて、学生生活をヒイヒイ言いながら満喫していたこと。そして、硝煙と耳を劈く警報音、周りに居た人たちの声がが全く聞こえなくなったこと。

 親父と母さんは『まるで魂が抜かれたようだ』と俺のことを比喩していた。その自覚はある。今までの生活が違い過ぎるからだ。やる気が起きない訳では無い。落ち着かないのだ。

戻ってきて最初に、どこかに赤城が隠れているのでは無いかと思った程だ。今でも考えることではあるが、これが何か夢か幻かはたまた別の何かに思えて仕方がなかったのだ。だから戸惑い、落ち着けない。

 そんなことが続き、姉貴がひょっこり戻って来た。母さんと一緒に部屋に入って来た時、姉貴を見た。なんだか顔つきが変わったみたいだが、何かあったのだろうか。

 そして聞いてしまった。姉貴は俺と同じところに居た、と。だが、俺が居なくなってから居たんだとか。そして、俺が居なくなった後の話を聞いた。それでやっと自覚が持てた。俺が元居た世界に戻って来ていることを。この世界で俺しか知り得ないことを知っていた姉貴の言葉で、俺はやっと認識出来たのだ。あの時、俺は死んだのかもしれない。そして今、この世界に生きて戻ってきている、と。

だが、それ以上に気がかりなことがあった。姉貴にあの後の状況を掻い摘んで説明してもらった最後、姉貴が戻って来る時季に皆死んだ、と。自ら死地に飛び込んだ、と。艦娘たちはまだ攻略していない海域へ『イレギュラー』を無視した特攻作戦を敢行。門兵たちは姉貴と共にクーデターだ。失敗したらしいけどな。そこで姉貴は殺されたらしい。それ以上も以下も聞かなかったが、雰囲気で分かる。何かあったんだと。

 それまでの間、俺に何があったのかは両親には黙ってきたが、姉貴の帰還と共に話をすることにした。俺が失踪している間、何があったのか。艦娘たちに呼ばれた俺が提督として生きていた話を。

誰しも聞けば妄言だと云うに違い無い内容を、俺は話した。現代日本、世界からは考えられない世界。戦争で荒廃した世界に居た俺の話を。そして、何の軍を率いて居たこと。

その後に姉貴も話し始めた。俺を探していたこと。探すつてで俺が居たところで傭兵をしていたこと。クーデターを起こして死んだこと。だが、姉貴は涙を流した。そうだ。やはり死んだ時、何かあったのだ。そんな姉貴に親父はハンカチを渡し、話を閉めたのだ。

 その次の日に俺と姉貴は出掛けていた。小遣いは前々から貰っていた。否、失踪した後もその分だけでも貯めていたようだ。その後のことは知らない。財布と俺が自由に使える通帳に入っていた。そんな物を片手に、姉貴が連れて行って欲しいという場所に付いて来ていた。

ミリタリーショップ。何を買うのかは聞いていなかったが、ここでどうやらモデルガンが欲しいらしい。日本皇国海軍が採用していた拳銃とホルスター。たまたま、この世界でも存在しているものだったので、モデルガンは売っていた。

ナイフも欲しかったらしく、適当に買っていた。理由は分からない。だが立ち居振る舞いで分かる。怖がっている。人を。厳密に言えば男性を。それが死んだ時のことを話している時に泣き出してしまった理由なのだろう。状況的に考えればPTSDであるのは確実だ。

 帰って来て姉貴が部屋に戻ると、母さんから病院に行くと言われて自動車に乗り込む。もうこの時には姉貴はモデルガンをショルダーホルスターに収めており、上着の内側に隠していた。ナイフもどうやら鞄の中に入れているようだ。そのことは母さんにも言わなかったし、理由も聞かなかった。

 連れて行かれた病院は心療内科。精神科だ。親父が姉貴の様子を見て連れていくように母さんに言っていたのだろう。ついでに俺のことを診てもらえということだろうか。そこで姉貴はやはりPTSDと診断され、医師からの診察の間の会話から、やはり姉貴が男性を怖がっていることが分かった。となると、考えられることは一つしかない。が、言わないでおこう。

その診断中に姉貴はモデルガンとナイフに付いて自己申告もした。そこで医師は目を丸くしていたが、今の日本では先ずあり得ないことだからな。

それと俺も診断されたが、診断結果はどうもよく分からない。普通で居るつもりなんだがなぁ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 時は戻り、俺は講義室の椅子に座っていた。帰って来てからというもの、時間の感覚が少しおかしいように思える。それに再開した友人からは『人が変わった』などと口を揃えて言われ、成人式に出た時なんかは同窓生に『人が変わりすぎて分からない』や、自衛隊に入った同窓生に至っては『米軍でもこんな奴居なかったぞ』と言われる始末。どうも同窓生の間では、俺が海外で傭兵をしていたのでは無いか、と噂され始めた。俺の変化と言動、立ち居振る舞いでそう判断したんだろうが、あながち間違いでは無い。それに訂正するのも野暮で面倒なので、そのまま俺は放置することにした。

 勉学に関して、あっちの世界でも合間を縫ってやっていたので、浪人生として大学に入学することが出来た。志望していた大学よりもレベルが高いところへの進学になってしまったが、その件に関しては両親にも心底驚かれたのを覚えている。身体能力や戦闘技術も向上しており、その辺の一般人なら片手でもどうにでもなるレベルになっていた。それ以上のことは分からない。

 

「天色くん。次の講義いかない?」

 

「天色さーん、まーた考え事ですかぁ? 講義中も上の空でも、少しやれば出来るってよく分からんですよ~」

 

「あんちゃん、そろそろ次の講義室いかないとヤバイ」

 

 周りに集まるのは、今の友人。俺が浪人生であることを気にせずに友だちになってくれた人たちだ。年は下だが、別に年の差はそこまで気にしていないようだ。

そう言えば、いつの間にか講義が終わっていたな。机の横から鞄と出して荷物を入れると立ち上がる。

 

「そうだな。……次の講義は」

 

「選択でバラバラになってるね。私は知能科学」

 

「俺は環境」

 

「私とあんちゃんは日本現代史」

 

 この歳では珍しい、仲の良い奴ら皆同じ講義ということをしないタイプだ。自分がやりたい講義を優先していく。出来た人たちだ。

俺のことを『あんちゃん』と呼ぶ奴とは、たまたまやりたかったものが被っただけ。履修する時は知らなかったが、講義ガイダンスの時に一緒だということが判ってからは一緒に行くようになっている。

ちなみに俺のことを『あんちゃん』と呼ぶのには理由があるらしい。なんでも『天色だからあんちゃん』だそうだ。天から取っているのだろうか?

 

「じゃあ行くか」

 

「そうだね。じゃあ、皆!! また後でねぇ!!」

 

 二人と分かれて歩く俺ともう一人。会話は少ないが、あの三人の中でどうも俺のことをよく分かっている人でもある。口下手にはならないものの、俺が言う前から何かを想定していたかのように先回りをするのだ。金剛がそういうタイプだったような気がするが……この場には、この世界には居ないから考えても仕方ないことだ。それに……。

 

「あんちゃん。いつも考え事してるけど、何を考えてるの?」

 

「……さぁ。昼どうしようかな、と」

 

「あっはははっ!! まだ次の講義あるのに気が早いよ!!」

 

 適当な話に逸し、講義室までの道のりを頭の中で思い浮かべていると、横を歩く友人が視界に入ってきた。俺の目を覗き込むようにして見て、真面目な表情をして云うのだ。

 

「日本現代史。あんちゃんはどうして選んだの?」

 

 どうしてそのようなことを聞いてくるのだろうか。理由はガイダンスの時に言ったはずなんだが。

 

「それは、昭和初期からこれまでの時代の歴史は」

 

「そういうの良いから」

 

「……」

 

 その理由が嘘だと見抜いていたのか? 友人はパッと離れたかと思うと、廊下の真ん中で仁王立ちをする。肩幅に足を開き、腰に両手を当てる。その体勢に何の意味があるのか、俺には全く分からない。

本当の理由は、俺が居なかった二年間を記録という物で埋めようと思っていた。それ以前の記憶はあるが、見流し、聞き流していた。それらを補完するため。興味で選んだ訳ではなかったのだ。

 

「理由は言えない。ただ、興味で選んだ訳ではない」

 

「……知ってたよ」

 

「ん?」

 

 近づいてきた友人はドヤ顔をし、胸を張る。

 

「良く人を観察しているよな。俺のこともそれで?」

 

「そんな訳ないじゃん」

 

 自分の髪を触り、腕を組み、肩からずれ落ちそうになった鞄を上げる。

日本現代史の講義が行われる講義室の近くまで来ており、その途中には渡り廊下がある。綺麗に整備された木が立ち並び、よく掃除の行き届いた道がある。学内で美しいところであるこの廊下で、友人は突然ピンを取り出した。長い髪を自然のままにしていたと思うんだが、イメチェンをするのだろうか。

 

「どっちの方が良い?」

 

「は?」

 

「良いから答えて」

 

「細い方? 厚い方は違う気がする」

 

「判ってるじゃん」

 

 友人ピンで左の前髪の一部をとめる。

 

「ニヒヒっ。早く行かないと欠席切られるよ?」

 

「それは不味い」

 

 特に気にすることもなく、友人は女子だからと云って適当な回答をした。相手も気にしているようにも見えないし、俺も気にしない。あくまで自然体で答える。

 日本現代史。俺の通う大学に選択科目として存在している。講師は初老の男性教授。自己紹介の時、俺は筆記具を取り出したり、隣の席に座った友人と少し話しをしていて聞いてなかったので、どの学科の誰なのかは分からない。講義中の質問も皆『教授』と呼んでおり、名前は分からないのだ。それに、この講義を受講している学生、これが最大の謎だった。

この大学は男女比率が均衡している筈。それなのに、この講義には俺以外の男子学生が受講していない。理由は分からない。

 そんな不思議な講義での定位置に腰を下ろして、用意を出していると、後ろから話しかけられる。

 

「こんにちは。申し訳ないんですが、ルーズリーフを一枚いただけませんか? 忘れてしまって」

 

「こんにちは。いいぞ。……ほら」

 

「ありがとうございます」

 

「それにしても、よく忘れるよな。この前は前回の資料、その前はレポート、その前は」

 

「あぁぁぁ!! 止めてください!! 忘れっぽいんですよ!!」

 

「隣に座っている人、友人だよな? そいつから」

 

 後ろを定位置にしているこの人は忘れっぽい。俺が云ったように、モノをよく忘れては俺に借りる。後ろの人の隣に座っている人がその人の友人だと思うんだが、貸してくれないのだろうか?

 

「あまりに忘れるので貸してくれないんですよ……。試験の時は私に聞いてくる癖に」

 

「物忘れは激しいことを悪びれないから。それに、私よりも頭が良いから聞くだけよ」

 

「酷い!?」

 

「酷くないです。天色さんも毎回毎回貸さなくても良いんですからね?」

 

 この二人は仲が良い。後ろの人とその友人は子どもとその保護者みたいな風に見える。

 

「次あったら貸すのを止める」

 

「そんなぁ……」

 

 後ろの人もその隣の友人の人も名前は知らないが、どうやら俺の名前は知っているようだ。理由は不明。何処かで聞いたのか、はたまた俺の隣に座る友人と話している時のを聞いたのかは知らない。ただ、変に気持ち悪さは感じない。

 貸す貸さないの話をしていると、今度は俺の前を定位置にしている学生から話しかけられる。良く笑顔で話しかけてくるし、いつも楽しそうにしている。

今日も楽しそうに話し掛けてくるのだ。

 

「なーに言い争ってるの?」

 

「言い争っているというより、後ろのやつが忘れ物をしないことを覚えないから矯正しようかと」

 

「忘れ物は良くないですねー。赤井は前からそうですから、いつまで経っても治らないです。この講義を取るようになってから、赤井が教授にこってり絞られているところを見ないと思ったら、天色さんが手を貸していたんですか?」

 

「すまん。まぁ、次からは無いから大丈夫」

 

 『大丈夫じゃないです!!』とか後ろで言っているが、俺と前の人は話を続ける。というか後ろの人、赤井っていうのか。知らなかった。

 

「今日提出のレポートは出来ていますか? 私は昨日の夜、なんとか終わらせましたけど」

 

「あぁ、俺も昨日の夜に終わらせた」

 

「えぇー。あんちゃん、私終わってない!!」

 

「私は……その」

 

「赤井さんも終わってないです。ちなみに私は昨日の昼に終わらせました」

 

 終わってない者が二名。確か単位に響くとか教授が云っていた気がするんだが、二人は大丈夫だろうか。

 

「あのー、天色さん? もしよろしければお貸s「駄目です」どうして賀藤さんが答えるの?!」

 

「あんちゃん貸して?」

 

「どうせ、半分やってそのまま何だろ? 講義の合間を縫って書けるだろ」

 

 ぶーぶー云う友人に、後ろでもぶーぶーと赤井も云う。

 これが日本現代史の講義前に繰り広げられる。いつもの友人たちと話しているのも楽しいが、このメンバーで話しているのも楽しい。それに、なんだか懐かしい気持ちになれる。

講義が始まれば皆静かになり、他の講義ではあまり見られない様子に変わる。無音の講義室。教授の声とペン先が走る音だけが聞こえる。そんな講義を聞きながら、俺はスクリーンに目を向けていた。

 俺の知っている歴史、深くまでは知らなかったこと。それらが学となり、知識となっていく。どの首相が何をした、どのような事件が国内で起きた、この年にどの法案が施行された。そのような内容を学んでいく。どれも一般常識になる上に、今の日本のことをよく学べる。

そんな講義で補填していく。

 講義が終われば友人たちと集まり、食事を摂る。たまに日本現代史で一緒のメンバーも交えて食べることがあるが、今回は後者だ。

大所帯で食堂に入り、大人数用の机を陣取る。騒ぎながら食事を摂り、時には勉強を始めたりゲームをしたり、そんな時間が過ぎていく。楽しい。素直にそう思える。

そんな大学生活も過ぎていき、やがて就職し、昇進や結婚、出産、色々な人生を歩んでいく。俺がどのような人生を歩んでいくのかまだ分からない。ただ、今が楽しい。そう思えるだけでも良いと思った。

あの世界に居た時間も大切だ。皆と笑い、傷付き、何度でも立ち上がる。普通じゃ感じることの出来ないことを感じ取ることが出来た。綺麗なところ、汚いところも見た。そんな世界に居ることが出来て、本当に良かったのか。あの世界に残った本来の理由を忘れた訳では無いが、もう今の俺には出来ることが無い。

残った人たち、本来の住人たちがどうにかしたに違い無い。

 

「……?」

 

 室内なのに、空調の風も当たらない俺にそよ風が撫でる。それは暖かく、大きかったように思える。

……忘れる訳が無いだろう? 俺は帰って来たが、忘れれる訳が無い。忘れてたまるか。絶対に忘れない。皆は違うと言ったが、俺はそれを違うと言った。自分の意志だと。そんな皆、仲間たちとの時間を、忘れる訳が無い。

どうせ近くに居るのだろう?

 

『提督!!』

 

「ん?」

 

『見てくださいよ、これ!! さっき工廠で開発妖精さんが持っていたのを見たんですけど、どうして1000kgの航空爆弾を私の流星にも積まないんですか?!』

 

「……それは」

 

 なんだ?

 

『提督ぅー!!』

 

「……金、剛?」

 

『にへーっ。ティータイムに行くネー!! ほらほら!!』

 

 何が……。

 

『ちょっとー!! 鈴谷のこと、置いてかないでよー!!』

 

「鈴谷?」

 

『わわ!! 走らないでー!! お菓子持ってきたんだからさぁ!!』

 

 一体何が……。

 

「天色さん?」

 

「え?」

 

 あれ? 今のは……なんだったんだ? 今、たしかに鎮守府に居たような気がするんだが……。気付けば、昼食を摂っていた場所に戻ってきていた。

 

「どうしたんですかい? 上の空でしたけど??」

 

「い、いいや……なんでも無い」

 

「さいですか」

 

 あのそよ風、恐らく皆は隙間風か空調の風だと思っただろう。だが、俺には違うように思えた。

この世界に戻ってきた俺に、皆が付いてきたんじゃないか。赤城が悪知恵働かせて、鈴谷と金剛が開発妖精か誰かに頼んだのだろう。そうに違いない。

 

「おっと!! 午後の講義が」

 

 友人たちがスマホで時間を確認すると、もうその時間になっていたようだ。他のメンツもそれぞれ確認をする。

俺も確認したが、たしかにそろそろ移動しないと不味い時間だ。

 

「そろそろ移動しないと不味いです」

 

 皆立ち上がり、俺も荷物を持って立ち上がる。

 

「じゃあ、行こうか」

 

 それぞれ、自分らの受講している講義が開かれるところへと向かっていった。俺も自分が受ける講義を受けに移動をする。

移動にそよ風も付いてきているような気がするが、気の所為だろう。ただ、周りはいつもよりも暖かく感じた。誰かが居るような、楽しそうな、そんな空気を。

 





 こちらではお久しぶりです。本シリーズを読み、番外も読まれる人だけのための特別編です。ただ、今回は1話しかありませんが(汗)
今回はふと浮かんだものでして、2日で仕上げました。その影響か、推敲はしましたが雑ですのであしからず。
 トゥルーエンド後、銃殺された後の紅視点での話ですが、これまた色々と予測が飛び交いそうなそうでないような……そんな気がします。
本編とは直接関係のない内容でしたので、コチラに書くこととなりましたが、「これ本編じゃね?」と思われる方も居ると思います。
違います。これ、特別編です。本来は存在しなかった未来の話ですから……(あれ? それって特別編くくりで良いのか?)

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