艦隊これくしょん 横須賀鎮守府の話 特別編短編集 作:しゅーがく
何だかんだ色々考えていたが、別に気にする必要がなさそうに思えた。結局、執務室に籠もっている訳だし、基本的に接触する艦娘は少ない。積極的に関わろうとしなければ、ほとんど秘書艦や訪れた艦娘の応対をするだけなのだ。
それに、昨日は色々あって鈴谷が一日中居たけど、少しおどおどというかキョドキョドしていたくらいで、俺の知っている鈴谷だったような気がしなくもない。というか、少し落ち着きのない、俺の知っている鈴谷の特徴のままになっていた。
起きたらまだ鈴谷は寝ていた。というか、いつの間に俺はベッドに入っていたんだ? しかも鈴谷と寝てるし……。リビングで雑魚寝していた気がするんだが、トイレに行った時に寝惚けてベッドに入ったんだろう。
鈴谷を起こさないようにベッドから出て、身支度を整える。そんなに時間が掛かるものでもないので、さっさと済ませてリビングで待機していた。6時前には準備を始めて、そのまま執務室に出ていく。勿論、置き手紙はしておく。俺と今日の秘書艦がいる間は、騒ぎになるために出てこないこと。朝食に出て行った時間帯を見計らって出て行き、最上型の艦娘に適当な戻らなかった言い訳をしておくこと。困ったことになったら、俺のところに来ること。
6時過ぎに執務室に出てくると、既に今日の秘書艦は到着していた。
「おっはよー、提督」
「おはよう」
「今日は白露が秘書艦務めるからねー?」
「頼む」
「にっしっしー」
今日の秘書艦は白露だ。夕食に行った時、報告のために白露が食堂に残っていたのだ。その時に、今日の秘書艦を務めることになったと聞いている。何というか、鈴谷の時は吹雪を通して聞いていたが、こうして律儀に待って報告していると、普段の振る舞いからはあまり想像できない。結構真面目な性格なのかもしれない。一番に拘ってるけど。
「朝ご飯は7時半に食堂に行くんだっけ?」
「そうだぞ。毎回持ってきてもらうのも悪いからな」
「運ぶの楽しみにしている妖精さんもいたんだけどねー。提督の方針には従うけど、拗ねちゃってる子いるから」
「なんでさ……」
そんな話をしていると、私室の方で物音が聞こえてくる。どうやら鈴谷が起きたみたいだ。置き手紙を見て行動していることだろう。申し訳ないが、朝食は食いそびれるだろうけど、作っている暇がなかったから我慢して欲しい。
白露は秘書艦の席に腰掛けて、程よく冷えてきた冷房に涼みながら、ふと口を開いた。
「そういえばさ」
「ん?」
「昨日の夜、皆が鈴谷さんを探していたんだけど見つからなかったんだー」
「んー??」
想像はしていたが、まさか鈴谷が戻っていない事を皆知っているとは思いもしなかった。考えてみれば、秘書艦になった艦娘は、その日の夜はあれこれ他の艦娘に詰め寄られて色々話したりすると聞いている。もしかして、そのことなのだろうか。
ともかく、変な話にならないように俺が誘導しなければ。
「鈴谷は泊まり込みで仕事していたぞ」
「そうなの? てっきりいいことがあって、独り占めしたいからって隠れたんだと思ってたんだけどなー」
「そんなことはなかったと思うぞ。戦闘報告の整理と、使っていない本部棟の部屋の調査、備蓄資源の記録におかしな点があったからそれも確認してもらったりな」
「あらら。忙しかったんだー。それで、鈴谷さんは??」
「日が登る頃に終わったから、帰ったと思うぞ。もしかしたら、どっかで寝てるかもしれないが」
「そんな大変だったんだ……。ちょっと羨ましいって思ったけど、それだけ忙しかったのならラッキーかな」
何を口走っているんだ、この駆逐艦は。と思いつつ、鈴谷がいなかった理由に、他の人が全く関与しない仕事にこじつけた。鈴谷も後で合わせるだろうし、もし困ったら俺のところに来るはずだ。ともかく、鈴谷を俺の私室から出すことが先決だろう。
いい具合の時間になったので、俺は白露と共に食堂へ向かった。
朝食を終えて、白露が執務室に戻る時に『いっちばーん効率的にやるなら、今から書類を取りに行くほうがいい!!』と、事務棟に向かった。俺は独り執務室に戻って、私室を確認すると、やはり中には誰もいなかった。置き手紙の裏には、鈴谷が残したメッセージがあった。
『早く起きて出るつもりだったけど、起きれなかった!! 色々とありがとね、鈴谷はもう戻りまーす!! お疲れぃ!! 鈴谷』
ただ、少し様子が変だ。ベッドメイキングし、モノの場所も変わっていない。ないものがあるのだ。貸した着替えがないのだ。
洗濯機に放り込んであるかと思ったが、それもない。どこかに畳んで置いてあるかとも思ったが、それもない。何処にもないのだ。鈴谷は一体どこにやったんだろうか。今探しても仕方ないので、執務室に戻ることにした。丁度白露が戻ってきたので、執務を取り敢えず片付ける。
※※※
艤装改装・改造命令の書類を出したことは覚えているが、こうしてまじまじと見るのは初めてかもしれない。白露を含む改白露型まで、主に白露・時雨・村雨・夕立の四人に関して、改二が全員実装されている。白露の改二の命令を出し、報告を受けた事は覚えている。
こうして改二になった白露が秘書艦になったのは初めてだろう。
白露型の改二は、何というか成長しているのだ。小学生くらいだった見た目が、中学生か高校生くらいまで成長したような雰囲気。利発なイメージの白露も、何というか落ち着きを持っているように見えるのだ。身長も伸びているみたいだしな。
「執務終わったよー」
「こっちも終わってる」
「じゃあ、提出に行ってくるね」
「頼んだ」
白露が出て行き、今後の事を考える。幾ら、貞操観念が逆転しているとはいえ、完全に逆転している訳ではないのだ。これまで見られなかったことが、顕著に出てきているというだけ。ジェンダー・ハラスメントは両性にあることが隠されることなく報道されている。ただ、一般的には男性の減少傾向からか、割と男性を優遇するような形にシフトしつつあるみたいだ。男性減少による弊害は各面で出てきていると見ても過言ではない。それは、艦娘の行動を見ていても同じ。倫理観がこの世界に調整されているのなら、誰かがそうであるというような特殊である形ではなく、普遍的であると言っているもの。身体的接触を男性の方が嫌がり、女性は異性に対する接触を喜ぶ。恋愛観も恐らく同じ。その他も同じく時代に合わせて変化していると見て間違いない。
以下を踏まえて、昨日までの二日間の行動を振り返る。吹雪と鈴谷が秘書艦だった時のことだ。
「……ク○ビ○チじゃね? い、いや、異性慣れしている紳士とでも言い換えよう。うん」
それが俺の解だった。いやだってそうだろ?! よく考えてみればそうだろ? 吹雪の時も、涼しい顔して色々していた気がする。気がするぞ、俺は!! 俺の倫理観で考えれば、完全にそうだろ?! 薄着だったり、吹雪にお茶ぶっ掛けられて
よく分からないが、多分そうだと思う。完全に俺が悪い面もあるが、基本的には俺の感覚で動いていたことが裏目に出ている。世界が違う事を念頭に置いて行動をしなかったからだ。
ともかく、いきなり下着姿になるのは不味かった。吹雪の時には気付かなかったが、鈴谷の時に気付いていた。上着を脱いで、普段の格好をしていた時に、妙に視線を感じだのだ。鈴谷が首元と腕をしきりに見ていたのを覚えている。多分、普通は袖は捲くらずに、シャツのボタンも一番上までするのだろう。この世界の男性は、暑くてもボタンは開けないし腕も捲くらないということなんだろうな。
今後、どのように身を振るべきかを考える。ともかく、これ以上変な振る舞いをする訳にはいかないだろう。何だか今日は嫌な予感がするというのに……。この世界に合わせて行くべきだ。恐らく、初日の時点で怪しまれているに違いない。
「ただいまー」
「おかえり」
「書類提出完了!! 追加の書類があったから持ってきたよー」
「ありがとう」
考え事をしている間に、白露が戻ってきた。追加の書類があったというので、俺はそれを受け取って中身を確認する。
一纏めにされているようで、封筒を紙紐で絡げてある。解いて送り名の確認をする。大本営、大本営、警備部、横須賀青年会、横須賀基地。何故警備部が紛れているのか分からないが、取り敢えず大本営から確認するべきだろう。急ぎの用件ならば、早急に折り返す必要があるし、なんなら電話をするべきだ。
一つ目の封筒を開封し、中身を確認する。担当者はどうやら大本営の人事担当者らしい。特に何があるという訳でもなく、書類が2枚入っているだけだった。一枚は説明、もう一枚は記入して送り返すもの。
最初の一枚曰く、『リクルート事業部が提督を用いたリクルートキャンペーンを企画したよ~。忙しいと思うけど、力貸してくれない? ね、いいでしょ? ね? だってほら、幾ら現行兵器が深海棲艦に通用しないからって言っても、後方支援とかその他諸々は私たちがやってる訳だしぃ~。そ・れ・に、提督を使ったら、優秀な人材が集まるかもしれないし~? いつも以上に作戦行動が楽になるかもよ? これってWin-Winってやつー? ちょーいいじゃん♪ だけどぉ~、ホントは出すの嫌がってるってのは知ってるよ? 危ない目には何度も遭ってるもんね? そりゃ私たちが悪い面もあるけどさぁ? いいじゃん、ここで一度忘れよ? あとー、普段助けて貰ってるけどぉ~、たまには私たちにも貸して~。ね? お願ぁ~い。あ、でも、貸してくれないんだったら、そっちが進行中の任務、遅れちゃうかもよ? いいの? 私たちが手伝わないと全然進まないんでしょ? じゃ、いい返事待ってるからね~』ということらしい。
何これ。いや、書き方はもう少しマシなんだ。だが、そう捉えてもいいような内容なのだ。これ、どうみても艦娘の皆宛てだよな? 俺が見るべきなんだろうけど、どう読んでも俺以外の皆宛てだよな? そうだよな?? 何で皆に俺のスケジュールを聞いてるんだ??
気を取り直して次の封筒を開封する。こちらも大本営からだ。書いたのは新瑞のようだが、さっきの程酷い内容ではないと思う。中身は同じく2枚。説明の書類と、折り返す書類だ。
「ふむ……」
内容は至ってシンプル。こっちじゃない世界でもあったが、定期的に届くもの。適度に休め、という奴だ。軍務から一度離れ、リフレッシュしてもバチは当たらないだろうというもの。私的な内容も含まれているが、直属の上司でもある新瑞の気遣いだ。まぁ、今までほとんど断ってきたものだけどな。
半日でもいいから、一度プライベートで話をしてもいいんじゃないか、ということも書かれていた。それは確かにいいかもしれない。そう思った俺は、返信書類にその旨を書き込み、引き出しから封筒を取り出して書類を放り込んだ。
次の書類に移る。次は警備部からだ。直接言いに来ればいいのに、こうして書類にしているという事は、余程重要な内容なのだろうか。
確認するが、別に話しに来てもいいような内容だった。というか、遠慮なく来るのにどうして来ないんだろうか。それこそ、本当に遠慮なく来る下士官とかに言いつけておけばいいものを。
書類を書いたのは武下、あの妙齢銀髪淑女だ。俺の記憶だと厳つい銀髪ゴリラだったんだが……。内容は『門兵の再編成と配置転換について』だ。完全に軍務。しかも、書類でやり取りすることじゃない。仕方がないのでこの後、警備棟に出向くことにする。あの武下には慣れないが、そうも言ってられないだろう。
次は横須賀青年会だ。こっちじゃない世界でも、時々届いていたものだ。内容は催事やスポーツ行事への招待みたいなもの。いつも断っているものだが、今回も断らせてもらう。
最後に横須賀基地だ。青年会と同じく、時々届いていた。内容は基地と鎮守府合同でイベントを企画しないか、というものだ。気になって調べると、どうやらこっちの世界では時々、横須賀基地のイベントに鎮守府も参加していたようだ。出展や警備貸出、公演等々。以外と外との接触が多い。
時々出ているのなら参加するべきだろう。返信には参加すると書き込んで封筒に入れる。
「白露」
「はーい」
「返信が3つ。事務棟に頼めるか?」
「了解」
「後、これから警備棟に行くが」
「白露も行くー」
「返信はどうする?」
「警備棟の帰りでいい?」
「いいぞ」
白露も付いてくるようなので、俺はそのまま執務室を出て、警備棟を目指した。
※※※
道中、艦娘たちの普段とは違う視線を感じながら歩く。俺が視線に反応していることに気付いたのか、黙って歩いていた白露が話し始めた。
「提督さー」
「ん?」
「皆の視線が気になるの?」
「まぁ……」
「仕方ないと思うよ? 提督の噂がねー」
「俺の噂?」
白露は俺の前を歩きながら、封筒を入れているフォルダを脇に挟みながら腰の後ろで手を結ぶ。風が拭き、はらりとスカートが捲れ上がって三角形が見えるが隠そうとしない。
「昨日から様子がおかしいって皆言ってるよ? 私は半信半疑だったけど、秘書艦で執務室行って確信したね」
「おかしいって……」
「皆忘れてないと思うけど、提督が着任してすぐのことだよ」
「……」
多分、俺の知らない事だろう。
「誘拐未遂事件があったじゃん。最初は不審人物ってことでマークされていたけど、すぐに提督が門兵さんと私たちに厳戒態勢を敷いたの。結果として侵入は許してしまうんだけど、最後は既の所で逮捕できた」
「あぁ」
「猿轡されて手足縛られた状態でひん剥かれる直前だったんだよ? 時雨が見つけなかったらと思うとゾッとするよ」
ひん剥かれる? なるほど。俺が経験しているものと少し違うみたいだな。俺の時は暗殺だったからな。
「今は仲間になってるけど、あの年の女の人は男性って聞くだけで見境ないんだから」
「分かった」
巡田のことだろうな。というか、今の話を聞く限りだと、巡田も女性になっているんだが?? 警備棟に向かっていることだし、確認してみよう。
白露に気をつけるように言い聞かされながら、数分も歩いていると警備棟に到着した。ロビーには立哨がいる。どちらも女性だ。ここまでかと思いつつ、警備部部長の部屋へと向かう。途中、見覚えのある特徴の兵士とすれ違う。顔が見えない、ずっとバラクラバをしている兵士。長政だ。こっちでも同じだが、後ろに青黒い艶のある髪がポニーテールにされている事を鑑みると、長政は女性みたいだな。女性的な体型であるのはBDUの上からでも確認できる。
部長の執務室に入ると、丁度休憩をしていたのだろう、武下がコーヒーを飲んでいた。勿論、俺の知っている武下とは程遠い武下だが。
「む……提督ですか。どうされたんですか? 警備棟に顔を出されるとは珍しい」
「先程警備部の配置転換と再編の件だ。直接話した方がいいと思ってな。執務はあるか?」
「いえ、先程終わりました。では、そこで話しましょうか。何か飲まれますか?」
「コーヒーを貰おう。ホットで」
「ご用意します。白露は?」
「私は何でもいいよー」
「ではオレンジジュースを出しましょう」
ソファーに座るように言われ、俺たちは配置転換と再編成の話を始める。特に詰める事はないのだが、新しい部署を作るつもりらしい。現在、警備部として一個大隊が所属している。それぞれ三個中隊に別れ、担当警備区域を巡回・立哨しているとのこと。諜報班も存在し、少人数ではあるが行動を行っているとのこと。
今回の話は、大本営が三軍から移籍と転属願いが出ているという事から選考を行ったという。そこから、一個大隊が選考を突破したので、近い内に転属してくるという。そのためのものだということだ。
それで、配置転換と再編成についての武下の考えは、これまで少人数だった諜報班を中隊規模まで拡大することだった。独自の諜報部隊を作り、防諜を主な活動とするという。諜報・潜入工作等は巡田にチームを作らせるとのことだ。それに関する相談と許可が、今回の書類に関する話である。
俺は断る必要はないとして、武下にゴーサインを出す。但し、巡田へ丸投げする諜報チームについては本人からの説明を要求した。
武下は巡田を呼び出す。程なくして執務室に入ってきたのは女性。変装をしているらしい。ブロンドのロングヘアー、スタイルのいい美人だ。何処かのアニメで見たことがあるな。女スパイとか言われていた気がする。
巡田から簡単な説明を受け、諜報中隊を情報中隊としてまとめることと、中に4人1グループで2グループ編成の諜報グループと潜入工作グループを作るという説明を受ける。基本的な運用は防諜で、鎮守府近辺で活動する工作員の発見の逮捕又は殺害。侵入した工作員もまた殺害。電子攻撃等は、そもそも鎮守府内でそのような機器による攻撃ができないためにする必要がないということを聞く。プロフェッショナルである巡田に任せる事を伝え、その場は解散となった。