艦隊これくしょん 横須賀鎮守府の話 特別編短編集   作:しゅーがく

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※提督の視点で書かれています


貞操観念逆転 その5

 

 警備棟から戻ると、執務室には鈴谷が来ていた。白露から白い目で見られているが、理由は恐らく昨日今日のことである事は間違いない。取り敢えず話を聞くことにし、白露に何か飲み物を持ってくるように頼んだ俺は、鈴谷に話を聞くことにした。

 

「どした」

 

「ゴメン。さっき、最上型の部屋で寝ていたら叩き起こされて、皆に『何で昨日は帰って来なかったんだー』って問い詰められてさ」

 

「あぁ」

 

「どう答えていいか分からなくて逃げたら、皆鬼みたいな顔して追いかけて来て」

 

「おう」

 

「気付いたら門兵さんとか加わってて」

 

「……お、おう」

 

「安全な場所がなかったのと、どうすればいいかと思ってここに逃げ込んで」

 

「……」

 

「ごめん!!」

 

 なるほどな。それで、警備棟から戻ってくる間に、皆走り回っていた訳だ。俺はてっきりマラソン大会でも始めたのかと思ったんだが、違っていたみたいだ。

 鈴谷の話を聞きいて少し考えていると、冷えたお茶を3つ持ってきた白露が、机に起きながら鈴谷に言った。

 

「朝聞いたよ。鈴谷さん、色々と提督に仕事頼まれて明け方まで執務室にいたって」

 

「そ、そうなんだよ~。でも、皆にどう説明していいか分からなくてさ」

 

「普通に言えばよかったんじゃないの?」

 

「普通って言っても、凄まれたら言いたいことも言えないじゃん……」

 

 それで鈴谷は逃げ回ったのか。何というか、選ぶ選択肢が全て悪い方向に向いている。これは鈴谷の運が低いとかそういう奴なのか?

 

「白露には聞かれたから伝えたが、鈴谷もそう言えばよかったじゃないか」

 

「そ、そうだよね~。いやぁ、ゴメンね」

 

「気にしてない。それよりも、ホレ」

 

「ん?」

 

 俺はあることに気づき、扉を開く。そうすると、廊下には艦娘と門兵の大群がいた。

 

「鈴谷ぁ~、説明してくださいな?」

 

「榛名、気になります。とっても」

 

「良くないよー鈴谷さん」

 

 何処を見ても艦娘と門兵。

 

「ホレ、鈴谷さんお縄につく?」

 

「警備棟の営倉に艦娘が入るのは前代未聞」

 

「高原ぁー!! 手錠あるかー!?」

 

 何か門兵が鈴谷を逮捕する気まんまんなんだが……。ともかく、白露にも説明した事を伝える必要がある。そもそも、鈴谷が対処できなかったときのために執務室に来るよう置き手紙をしたんだからな。

 

「静かに」

 

 一瞬で静かになるところ、何処に行っても変わらないな。俺は声を張り上げて説明を始める。

 

「今回の騒動は、昨日の執務で鈴谷に色々頼んでいたからだ。報告の整理、本部棟の使っていない部屋の調査、備蓄資源の数量確認等々。明け方まで掛かったから、鈴谷は帰らなかった。それに寮と本部棟を繋ぐ廊下は工事中で、寮の出入り口は消灯時間に締め切ると赤城から聞いていた。結局、消灯以降まで執務をしていたから帰るに帰れなかったんだ」

 

 俺の説明を聞き、集まっていた皆は少しづつ帰り始めていた。安心したのか、鈴谷は溜息を吐いて壁にもたれ掛かる。

そんな鈴谷の近くにいた白露が何かに気付いたらしい。

 

「あれ? それって」

 

「あ」

 

 白露の声に釣られ、俺も鈴谷の姿を見る。いつもの姿ではあるのだが、シャツの下に何か見える。あまりジロジロ見る気はないが、白露が気付いて口に出した。

 

「それ、提督の服じゃない?」

 

 その言葉を聞いた全員が黙った。確かによく見ると、俺が着替えで貸した白Tシャツだ。言われなければ分からなかったが、全体的に白く透けて見えている。それに肩には『11』と数字の入ったエンブレムがある。なるほど、俺の部屋になかったのは、鈴谷が着たままだったからか。

 そんな事を考えている俺とは打って変わって、周囲の雰囲気はすぐさま変わっていた。何故か鈴谷がシャツの下に俺のTシャツを着ているからだろうか。というか、何故それが俺のTシャツだと気付いた。

気付いた理由を聞こうとした時には、既に事は大きく動き出していた。鈴谷は逃げ場を失った状態で、皆に押しかけられていた。明け方まで執務をしていた鈴谷が、何故俺の私物を身に着けているのか。というか、昨日の鈴谷の反応を見る限り、この世界では俺の私室に皆入ってなかったみたいなのだ。物珍しげに観察しているのが分かったからな。

俺が状況を分析している間にも、鈴谷はどんどん圧力を掛けられていた。

 

「あれあれ鈴谷? どういうことかしら? 説明してもらえるわよね?」

 

「なるほど。提督が執務で残って貰っていたという理由を話そうとせずに逃げ出したのはそういう理由ですか」

 

「……有罪」

 

 鈴谷は囲まれて逃げられない状態に陥っている。助け舟を出そうにも、俺ではどうすることもできない。白露が苦笑いしながら『ゴメンなさい、鈴谷さん』と呟いている。

鈴谷はジリジリと追い詰められながら、なんとか退路を確保する。

 

「あ、あはは~。鈴谷、別に悪いことしてないもん。ただ、提督の部屋入っただけだし~」

 

「「「「「な?!」」」」」

 

「ご飯貰ったり、き、昨日は一緒に寝たもん!!」

 

 顔を真赤にさせるくらいなら、別に自分から暴露しなくていいのに、と考える。ただ、このスキに鈴谷は逃げるようだ。

 

「まるで恋人みたいな? じゃあ鈴谷は行くところあるから!!」

 

「「「「「あ、こら!!」」」」」

 

 退路から鈴谷は一気に突き抜け、全力疾走をする。それに追従するかのように、全員が鈴谷を追いかけて行ってしまう。この場に残ったのは秘書艦の白露と、また見覚えのない将校だった。

 取り敢えず、来客なのだろう。誰かが連れてきたのか、それとも来慣れている人なのだろう。あちらから近付いてきて、そのまま俺に挨拶をしてきた。

 

「君の鎮守府はいつも騒がしいな」

 

「いつものことです」

 

「返信が来たからこうして出向かせて貰った。たまたま暇していてね」

 

「は、はぁ……」

 

 何だろうか。この人は。もう慣れ始めているからか、なんとなく分かる。この人は、俺の知っている人だろう。

緑かかった黒髪。武下と同年代くらいの女性。だが、身に纏っているのは海軍将校用の軍装。立ち振舞や話し方から想像しやすい。

 

「案内の者はどうしたんですか? 新瑞さん」

 

「さっきの騒ぎで鈴谷を追いかけて行ってしまったようだ」

 

 新瑞で当たってたよ……。

 

「さて、本来ならば休みの話でもしようかと思っていたんだが、それよりも先に聞きたいことができた」

 

「いいですよ。中でお茶でも飲みながら」

 

※※※

 

 新瑞が聞きたい事は単純明快だった。どうやら鎮守府の内情をよく知っているからこそ、今回の騒ぎに疑問が浮かんだらしい。俺が教えられている事を徹底して実践し、事務的接触以外はあまりしてこなかったみたいだ。だが、それがどうしてか、忘れ去ったかのように振る舞っている。何故か。かなり怖い体験をしている筈なのに。ということだった。

それに対する回答は白露の前でもしていいのかと考える。だが、このタイミングで話すのが一番いいだろう。

 

「白露」

 

「はーい」

 

「鈴谷たちが追いかけっこをまだしているようなら、皆に任務等に戻るよう伝えてくれないか?」

 

「りょうかーい」

 

 白露を理由を付けて追い出す。この場には俺と新瑞だけだ。

 

「彼女を追い出したのには理由があるのか?」

 

「ありますよ」

 

「ふむ……聞こう。今回の騒ぎについて、彼女に聞かれるのが不味いのか?」

 

「えぇ。……簡単に言ってしまえば、2日前のことです。目が覚めたら、私のよく知る世界と似た世界に来ていました」

 

「それは例の」

 

「いいえ、違います。私も異世界人ですが、主観では異世界を渡ったのは2度目です。違いとしては『深海棲艦の居ない世界』を出発点とし、『深海棲艦のいる世界』から『深海棲艦のいる世界』という具合に。前者と後者の違いは簡単ですよ」

 

「ふむ」

 

「貞操観念が逆転しているんです。私が元々、ここの世界とは貞操観念が逆転している世界から来ている事はご存知かと思います」

 

「あぁ、知っているとも」

 

「私は新瑞さんが分かりやすいように言うところの『深海棲艦のいる、この世界とは貞操観念が逆転している世界』から来ました。それが2日前のことです」

 

 新瑞は表情をピクリとも動かさず、険しい表情で俺の目を見る。

何というか、髪をツーサイドアップにしたら、成長した瑞鶴になりそうな容姿の新瑞は、組んでいた脚を組み直して続きを促してきた。

 

「私はこの2日間の間に、2日前に起きたその時から気付いていた世界の違いについて、分かる範囲で調べていたんです。まぁ、苦労する事なく分かったことだったんですけどね。主観的に、艦娘たちの振る舞いがおかしい点、私のよく知る人物が男性だったのに女性になっている点、私が経験している事件の内容までも違っている点。全てを加味して得ることのできた結論が『貞操観念が逆転している世界に来ている』ということでした」

 

「なるほど……。では、私の目の前にいる提督は、私のよく知っている提督ではあるが、違うということか」

 

「はい。記憶に違いがありますが、現在横須賀鎮守府が歩んだ系譜と照らし合わせるとそうなります。時差はなく、2日前から違う人物であるということですね」

 

「分かった。だが、私の知っている提督とは違うように思えるな」

 

 そう言った新瑞が立ち上がり、俺に近付いてくる。そのまま俺の横に腰を下ろし、目を閉じた。

数秒経つを、新瑞は立ち上がって俺の前に立った。

 

「数年という付き合いではあるが、誘拐未遂事件以来、君が上手く生活出来るように取り計らった。この世界での振る舞い方がその最も。だが、君はそれをなかったようにしている。私の知っている、ただの青年だった君が、籠に囚われた鷹(横須賀鎮守府艦隊司令部の長)となった。一方で、目の前にいる君は同じように青年だったが、一軍の指揮官(横須賀鎮守府艦隊司令部の長)になっている。同じ人間だとしても性質が違う」

 

「……」

 

「服の上からでも分かる。私のよく知る君はほとんど外出はしなかった。だが君は違う。外出もしていただろうし、運動もしていただろう。雰囲気で分かるよ」

 

「そういうものですかね?」

 

「あぁ。一応、士官としての教育も受けているみたいだ。まだまだだが、軍人を名乗れるだけの能力もあるように見える」

 

 ふふんと笑い、新瑞は向かい側のソファーに再び座って脚を組む。

 

「……何処の世界でも君には苦労を掛けるな」

 

「いいえ、私は」

 

「何がともあれ、この世界にいた君も上手くやっていることだろう」

 

 新瑞のその言葉の直後、白露が執務室に戻ってくる。少しげんなりした表情だ。

 

「騒ぎを収めてきたよ。……皆、暑いのに走り回ってるから時間掛かっちゃった」

 

「お疲れ様。給湯室の冷めた飲み物は好きに飲んでいいぞ」

 

「ありがと~」

 

 白露はフラフラと給湯室に向かう。白露が居ては話もままならないので、そろそろ新瑞の来た本題に話を移すとしようか。

それは新瑞も考えていたみたいで、話を切り替えてきた。

 

「さて、提督。私個人としても、大本営としても、君には休息を取ってもらいたいところ。程よく息抜きは出来ているのか?」

 

「それなりには。流石に全休とまではいかないものの、半休を設けてもよいかと考えていたところです。最も、どうにも気付いた時には何かしら軍務に関わる事をしていますが」

 

「休息になってないではないか……」

 

「ご尤もです」

 

「ただ……」

 

 冷蔵庫に入れていた500mlの缶コーラを煽りながら現れた白露を見ながら、新瑞は呟いた。

 

「この状況が、君の休息になっているのかもしれないな」

 

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