艦隊これくしょん 横須賀鎮守府の話 特別編短編集 作:しゅーがく
艦娘、洗脳 その1
宵闇に紛れ、横須賀鎮守府艦隊司令部に諜報員が潜入する。
日本皇国内で皇居と同じくらいに警戒が強い横須賀鎮守府を、諜報員は容易く侵入することができたのだ。
目的は横須賀鎮守府艦隊司令部司令官の天色 紅の暗殺ではない。
ある”モノ”を設置することが、潜入任務だった。
鎮守府敷地内にある事務棟。そこの監視は比較的に人数が少ない。
元より天色 紅や艦娘があまり近寄らないからだ。
そこが狙い目だと感じた諜報員はアタッシュケースとサイレンサー付きの拳銃を持ち、事務棟に入り込む。
1階から潜入し、監視カメラを避けながら移動。
行き着いた先は最上階の4階。書類などが保管されているところだ。所狭しと並ぶ棚の間をすり抜け、監視カメラに注意しながら一番目の付きにくそうな場所に辿り着く。
「はぁ……」
諜報員はしていた手袋を取らずにアタッシュケースを開く。
そして中にある機械のスイッチを入れた。
アタッシュケースを閉じ、そのまま目に付かなさそうな場所に隠す。
これで諜報員の任務は完了だ。
来た道を戻り、諜報員は横須賀鎮守府を出て行く。
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いつもと変わらない朝が来た。
俺は身体を起こし、準備を始める。
結構寒いが、それも季節柄だろう。そう思いつつ、身支度を整えた俺は執務室に入る。
執務室に設置してある暖房の電源を入れ、自分の椅子に座った。
冷たい椅子に少し身体が驚くが、座っていれば温まるだろう。
「はぁ……」
こんな寒い日はもう少し布団の中に入っていたい。そんなことを考えながら、今日の秘書艦を待つ。
今日の秘書艦は赤城だ。執務に慣れているので、変に気を使わなくてもいいだろう。
俺はそう心の中で思いつつ、時計に目を向けた。
午前6時20分。もう来てもいい時間だ。
だがどうしてか赤城は執務室に来ない。
寝坊でもしたかと、ふと思ったが、赤城に限ってそんなことはないだろう。
茶目っ気はあるが、執務をすっぽかすとは思えない。
どうしたのやらと考え、俺は机に出しておいた本を手に取る。
あれから何分待っただろう。一息吐き、ふと時計に目を向けたら午前7時半。
もう朝食の時間は終わっていた。
読書に集中していたとはいえ、執務室に誰か入ってこようものなら流石に気付く。だが、この1時間と少しの間、誰も執務室に入って来なかったのだ。
どうしたのだろう。そんなことを考えつつ、俺は私室に戻る。
朝食を食べ損ねたから、自分で用意するのだ。
「さて、と」
冷蔵庫の中を見て、何を食べるか決める。
食パンが入っているから、普通にトースターで焼いて食べようとそのままトースターに放り込む。そしてマーガリンと牛乳を出す。
これで朝食はいいだろう。
食パンが焼けるまで、俺は執務室に戻った。
もしかしたら、遅れた赤城が入ってくるかもしれないからだ。
だが、食パンの焼きあがる音が聞こえるまで、赤城は入ってこない。
食パンにマーガリンを塗り、もそもそと食べながら外を眺める。
特段変わった様子はない。もちろん、変わることなんてあり得ない。横須賀鎮守府が深海棲艦に攻められたのは、空襲を受けたあれっきりだったからだ。
食べ終えた食器を洗い、執務室で数分待ってみる。
午前8時20分を超えた辺りで、俺は椅子から立ち上がった。
手元には書類がない。赤城が来ないということは、それも事務棟にあるままなのだ。
来ないのなら自分で取りに行くしかあるまい、そう思い席を立ったのだ。
事務棟までは外を歩くことになる。
コートを羽織り、机の上に書き置きを残して執務室を出た。
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事務棟に辿り着き、書類を受け取った。
書類が事務棟にあるということは、まだ赤城はここに来てないということだろう。
一体、どうしたというのだろうか。
体調を崩しているというのなら、他の艦娘に伝言を頼むだろうが、その艦娘も来ていない。
それよりも気になることがある。
なんだか、変な気分だ。
言い方が悪い。艦娘の様子がおかしくて、変な気分になるのだ。
執務室と事務棟の往復の間、艦娘とすれ違ったが、どうも様子が変だったのだ。
俺の顔を見るなり、そっぽを向く。俺が気付かないだけで、何かをやらかしている可能性があるが、1人だけではないのだ。
すれ違った艦娘全員がそういう様子だったのだ。
声を掛けてみても、『忙しいので後にしてください』と言って離れていってしまう。
一体、どうしたというのか。
執務室に帰ってきた俺は書類を出し、執務を始める。
赤城を探しに出ても良かったが、時間が掛かるだろう。鎮守府は広い。探すとなるとかなりの時間を使ってしまう。
そうしたら、少なくはあるが、執務に支障が出てしまうのだ。
初めて1人で片付ける執務は、いつもの気分で片付けることが出来た。
ただし、秘書艦は居ないが。
1時間半で片付けた執務の書類を片手に、俺はまた執務室を出て行く。今度も置き手紙を置いて。
もしかしたら、何かあったのかもしれない。そう思いつつ、俺は事務棟に向かった。
事務棟に着き、書類を渡して帰っている最中、赤城を見かけた。
工廠から出てきたようだったので、何か時間を忘れるようなことでもしていたのだろう。
「おーい、赤城」
スタスタと歩いていってしまう赤城を引き止めようと、遠いところから声を掛ける。
俺の声に気付いた赤城は足を止め、こちらに振り返った。
そして、また前を向いてしまった。
俺の顔を確認して、また歩き出してしまったのだ。
声が聞こえなかったのか、と思いつつ、俺は走って赤城の後を追う。
すぐに追いつき、赤城に再び声を掛けた。
「赤城。聞こえていたのなら、足を止めてくれても良かったんじゃないか?」
そう俺は言う。そうしたら、『あ、紅提督。すみません』と言うと思っていたのだが、俺の想像とは全く違う返答が帰ってきた。
「あ……。何ですか? 少し急いでいるんです」
「そうなのか? 今日は”特務”は何も任せていないと思ったんだが」
「は? 違いますよ」
赤城は鼻で嘲笑ったのだ。そして歩き出す。
「用はありませんので、どうぞ戻って下さい」
「いやいや、俺は用があるから」
「私はありません」
そう言って聞かない赤城の横を歩きながら、俺は秘書艦のことに付いて言う。
「今日、赤城が秘書艦だったよな? どうして来なかったんだ?」
「面倒ですからね」
「面倒?」
「はい」
赤城の返答は淡々としていた。それに俺はあっけに取られながらも、考えを巡らせる。
よくよく考えてみれば、赤城の応答が変なのだ。
素っ気ないというか、どうしてもなんだか違和感がある。
「執務の書類なんて、貴方だけで事足りますよね?」
「まぁ、確かに」
赤城は歩くスピードを上げて、行ってしまった。
その場に取り残された俺は、赤城の変調に考えを巡らせる。
一体、どうしたというのだろうか。
そう考えながら、既に見えなくなった赤城の歩いていった方向を見て、執務室に戻るのであった。
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結局、赤城は夜まで来なかった。それどころか、誰1人として執務室に来なかったのだ。
俺はこの異変が、ただ事ではないと察知し、手を打ち始める。
(赤城がああなってしまったということは、他の艦娘にも異変があるのだろう)
そう考え、俺は執務室を出て行く。
本部棟を歩いていれば、艦娘と絶対すれ違うのだ。それを狙い、すれ違った艦娘に声を掛けていく。
結果は俺が思っていた通りだった。
他の艦娘も赤城同様に、異変が生じていた。なんだか、性格が変わってしまったのではないだろうか。そう俺は結論付ける。
戻ってきた俺はそのまま執務室の電気を切り、私室に戻って家事をする。
そしてそれを終わらせた後、布団に潜り込んだ。
今日の異変、明日には戻っているだろう。そんなことを考えながら。
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結果を先に言ってしまえば、昨日よりも悪化していた。
今日の秘書艦は居ない。
昨日の夕食の時に行われる、毎日秘書艦クジはなかったのだ。ということは、全員に了承を得た艦娘なんだろう。そう思っていたのだが、違っていたのだ。
今朝起きて待っては見るものの、誰も執務室に来なかったのだ。
待っていたことで朝食を食べ損ねた俺は、また私室で朝食を摂り、1人で執務を始める。
そして、夕方に調査に出たのだ。
艦娘の異変について、だ。
本部棟を歩き、艦娘に声を掛ける。
最初にすれ違ったのは伊勢だった。
「伊勢」
「あっ……」
声を掛けた俺の方を見た伊勢は、俺の顔を見るなり、表情を曇らせた。
「水上機運用を主眼に置いた戦術のことで……」
声を掛けるにあたって、どんな内容で声を掛けるのか。俺は艦種毎に決めていた。それを口に出し、伊勢に意見を求めるようにして調査をするつもりでいたのだ。
だが、それは失敗する。
「……」
質問を投げかけた俺の言葉を聞きはするものの、答えてくれなかったのだ。そして、伊勢はこんな捨て台詞をしたのだ。
「私に声をかけないで」
変に思いつつも、俺は調査を続行したが謎は深まった。
昨日よりも明らかに、俺への当たりが強くなっているような気がするのだ。
酷い艦娘なんて舌打ちをしたくらいなのだ。
今日は気分でも悪かったのだろう、そう思いつつも私室に戻る。
そうすると、どうやら夕食の時間になっていたようだ。
俺は再び私室を出て、食堂に向かう。
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私室を出て15分。俺は私室に戻ってきていた。
先ほどよりも更に、状況が悪くなっていたのだ。
俺が食堂にはいると、途端に静かになったのだ。それで察したのだ。
艦娘たちから浴びせられている視線が変わっていたことに。
どう考えたって、あの目は嫌いな人を見る目だったのだ。俺はそう感じたのだ。
(何かしたか、俺?)
そんなことを考えつつ、私室で夕食を作って食べる。
今日はチャーハンだ。激辛ではなく、普通のチャーハン。
レンゲで掬い、口に運びながら考える。
今日から何日かの、自分の行動や言動を思い返したのだ。
だが、どうしても自分では分からない。特段、何かしたという訳ではないつもりなのだ。そうは思うものの、自分では何もしていないつもりでも、あちらからしたら何か本当に嫌なことだったのかもしれない。
そうだったのなら、原因を見つけて謝ろう。俺はお茶を飲みながら、そう心に決めた。
(さて、と)
椅子から立ち上がり、俺は後片付けを始める。
皿を洗って、洗濯物を始める。それを済ませた後、俺は椅子に座って本を読み始める。
だが、本を呼んでいるとはいえ、内容が全く頭に入ってこない。文字を追っているだけで、頭の中は原因探求で一杯一杯だったのだ。
俺が何かした。そう思い、原因探求に尽力を注ぐ。
そうはしてみるものの、全く分からない。どんな言動、行動が悪かったのか。全然分からないのだ。
艦娘も人である以上、感情が備わっている。だから時には気に入らないことだってあるはずだ。それが今回は、俺の言動や行動だったということだ。
原因が分からない以上、ほとぼりが冷めるまで静観しているしかない。
他の艦娘に相談しても、全員がああいう状態ならば誰にも訊くことが出来ないのだ。
俺は本を読み始める前のところに栞を挟み、毛布の中に潜った。
もう風呂にも入ったし、十分に髪も乾燥したことだろう。
頭から毛布を被り、考える。
俺は一体、何をしでかしたのだろうか、と。
初回です。前回の結婚ネタから急転落しまして大変申し訳ないです。
こういった内容のを書いてみたかったんです(メソラシ)
そういう訳ですから、4回分お付き合い下さいませ。
ご意見ご感想お待ちしています。