艦隊これくしょん 横須賀鎮守府の話 特別編短編集   作:しゅーがく

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※他の特別編企画とは関連はありません。


艦娘、洗脳 その3

 

 紅提督の様子がおかしくなったことに気付いた。

警備棟に来ることもなくったが、別に気にすることではない。用事があれば紅提督は呼び出さずに、自分から顔を出しに来る。そういう人なのだ。

それに、こちらも用事はない。最近はめっきりデモ隊が現れなくなったからだ。

そんな時にどうして紅提督の様子がおかしくなったことに気付いたのか。それは、事務棟の人間が警備棟を訪れたのが始まりだった。

 

『書類が3日間程、止まっているんです』

 

 その言葉が始まりだった。

私は事務棟の人間に話を訊く。

 

『それまでは?』

 

『ご本人が受け取りにいらっしゃってましたよ。事務棟を開いてすぐに』

 

 心配そうに事務棟の人間は、私に封筒を3つ渡してきた。

それは紅提督が処理しているという書類。日付は昨日一昨日とその前の日のものだった。

 

『それに気になることが……』

 

 私はこの言葉を聴いた時、戦慄した。

 

『格闘技でもやっているんですかね? 痣が……。それに、最後にいらっしゃった時は腕を痛そうにしていましたが』

 

 思い出した。紅提督が訴えていたことに。

艦娘がおかしくなった、と。

 私は事務棟の人間に戻ってもらい、すぐに動き出した。

部屋に戻り、ある者を呼び出した。

 

「お呼びですか?」

 

「あぁ」

 

 目の前に立っているのは巡田。諜報員として抜群の能力を持っている。

自分ではどうしても確認は出来ないだろうと思い、頼むことにしたのだ。

 

「実はだな……」

 

 事の顛末を巡田に話す。伝えていく程、表情は険しくなっていく。

 

「何ですか……それ」

 

「そういうことだ。初動で私が動く訳にはいかない。巡田、頼めるか?」

 

「分かりました」

 

 即答。すぐさま、巡田は部屋を出ていく。

 1人になった部屋で、私は独り言を零した。

 

「一体、どうしたって言うんだ」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 鎮守府内、艦娘たちの統率が完全に失われてから10日が経過していた。

俺への物理攻撃が始まって4日が経つ。

 

「急いで!」

 

「伝令っ! 医務室への経路はっ?!」

 

「持ちこたえています! 今なら安全に医薬品を取りに行けます!」

 

 4日前とは完全に状況が変わっていた。

まさに戦場。横須賀鎮守府内で内戦と言っていいようなことが起きている。

 3日前。艦娘が妖精に対し、俺への接触をした場合の厳罰を敷いたのだ。それに反発する妖精とそうでない妖精とで対立が起きてしまったのだ。

横須賀鎮守府に張り巡らされた妖精用の道路を巡って攻防戦を繰り返している。ちなみに攻撃手段は殴り合い。白兵戦だ。

それに応じて俺も完全に私室から出れなくなっていた。辛うじて隠し通路が使えるが、金剛と鈴谷が巡回していて、外に出れたとしても見つかれば暴行を受ける羽目になるのだ。

 今、俺の私室は反発している妖精たちが身を寄せている。

反発勢力は少数派だ。ほとんどの妖精があちら側に付いてしまっている。食品などを手に入れるために俺が暴行を受けながら行き来していることを知った妖精たちは、私室に居座るようになってしまっていたのだ。

 

「紅提督……」

 

「どうした?」

 

 反発勢力の妖精で、俺の治療担当の妖精が声を掛けてきた。

 

「さっき運び込まれた妖精から、伝言があります」

 

 ちなみに俺は、1日1回。隠し通路を通って外に出ている。その度に見つかった艦娘に暴行を受けているので、日々生傷が絶えないのだ。

外に出る目的は食料調達。妖精たちでは確保出来ないからだ。俺が行くしか方法はない。

 ポロポロと涙を流す妖精が、声を絞り出した。

 

「地下司令部が陥落しました……」

 

 反発勢力がなんとか確保していた拠点、地下司令部が陥落。つまり、防衛していた妖精たちが全滅したということだった。

 

「どれだけやられたっ……」

 

「200人です」

 

 殺された訳ではない。殴り合いをして、動けなくなったのを縛られた後、連れて行かれたのだ。

 俺は室内に目を向ける。

広い俺の私室も妖精が沢山居た。負傷して手当を受けているところや、頻繁に防戦に出ているところ。束の間の休憩をしているところ。

ここには妖精が総勢3000人居るのだ。

ちなみに言うと、横須賀鎮守府に居る妖精の総数は約8万人。反発勢力は約6000人だ。

残りの約3000人はというと、横須賀鎮守府の各地で籠城しているらしい。

 ここに集まってきている妖精たちは、鎮守府の主要施設を押さえていた。だが現在ではことごとく陥落し、残っているのは医務室のみ。先ほど陥落した地下司令部を経由して向かうことが出来る地下工廠なども陥落は時間の問題だということだ。

 

「……皆さん、どうしてしまったんでしょうね」

 

 俺の青痣のところに湿布を貼りながら、妖精は呟いた。

 

「分からない。俺だって知りたいさ」

 

 そう言いながら、せわしなく妖精たちが動く私室を見た。

 

「今日は、誰に?」

 

「あぁ。隠し通路で鈴谷に見つかって数発。外で4回遭遇して13発」

 

 身体が悲鳴を上げる。暴行の痕が痛い。

駆逐艦の艦娘などは、力が弱いのでそこまで痛くない。だがそれ以上となると、一撃一撃がとてつも無く痛いのだ。

そして戦艦や空母の艦娘となると、何度か意識を失うようなこともあるくらいだ。

 

「戦艦と空母の艦娘には?」

 

「2回さ。日向と長門」

 

「運が悪いですね……」

 

 白い軍装も赤くなっている。腹部に食らい、意識が飛びそうになるのを口の中を噛んで耐えたのだ。もし、その場で気絶でもしようものなら何されるか分からないからだ。

口から垂れた血が軍装に付いてしまっている。

 

「容赦ないな……長門たち」

 

 じんわりと目頭が熱くなってくる。それを俺は必死に堪え、湿布を貼ってくれた妖精に礼を言った。

 

「ありがとう……」

 

「……いいえ」

 

 寂しそうに答えた妖精が、運び込まれてくる妖精たちの介抱に離れた時、ある場所が揺れた。

ドンドンと音を鳴らしているそこは扉だったところ。今は本棚を動かして封鎖している。

そこを艦娘が突破しようと叩いてきているのだ。

 

『ここ、開けろよッ!!』

 

『おい! 居るんだろっ!!!』

 

 声色からして摩耶だろう。多分、重巡の艦娘数人を連れてきているだろう。

 扉を殴る蹴る音に驚いた妖精たちが、皆で身を寄せ合っていた。俺のところにも10人くらいの妖精が震えながら身体を寄せている。

 

「耐えろ……」

 

 小声が出たかもしれない。

 鳴り続ける殴打音に怯えながら、耐え忍ぶ。

 

『んだよ! 出て来いっつってんだろッ!!』

 

『面白いおもちゃ持ってきたのによぉ!』

 

『ったく……』

 

 遂に泣き出す妖精も居るほどだ。

俺だって暴行されている時のことを思い返すと、その時の痛みと恐怖を思い出す。

 離れていく音が聞こえ、遂に出ていく音がすると安心する。

妖精たちはおっかなびっくりに動き出し、治療する者や防衛に動き出す者は妖精用の通路に出ていく。

 ちなみに隠し通路は、こちら側からじゃないと開かない。

昨日、金剛に入られた時は大変だった。

妖精たちに俺が逃げろと言うやいなや暴行が始まる。それを止める術のない妖精たちは、持てるだけのものを持って、妖精用の通路に逃げていくのだ。

気が済むまで殴った金剛は、隠し通路に戻っていく。

恐る恐る出てきた妖精たちが、俺の介抱をしてくれたらしい。その時には既に俺は気を失っていたらしく、身体を動かすことは出来ないからと言って、その場での治療になったとのこと。

 

「左腕、痛みますか?」

 

 偵察に出ていた妖精が、俺のそばまで来た。

 

「あぁ。痛いよ」

 

 眉をハの字にした妖精は俺の左腕に触る。

今、俺の左腕にはギブスが巻いてある。理由は簡単。医療妖精によると、骨にヒビが入っていたらしい。暴行の影響らしい。

 

「執念にここを狙ってくるからさ……外の状況は?」

 

「駄目ですね。警備棟に近寄れないです。艦娘たちが遊んでいるように見せかけて、警戒してますから」

 

 何故そんなことをしているのか。理由は簡単だ。

俺の手元に携帯電話がない。それに、妖精たちが逃げ込んできた時に取りに言ってもらおうかとしたが、既に執務室から無くなっていたみたいなのだ。

おかげで助けを呼ぶ手段が、妖精に伝言を頼むこと以外にないのだ。

 

「取り付く島もない状態か……」

 

「はい。ですから、事態を誰かが察知するのを待つのが先決かと」

 

 そう言って妖精は敬礼し、他の妖精へと報告に向かってしまった。

 俺の身体には湿布が貼られ、包帯が巻かれ、ギブスまでしてある。完全に怪我人だ。

風呂に入る時、鏡で見るが痛々しい風貌をしているのは自覚している。

口の中も今日、噛んでしまったから、食べれるモノも制限されてしまうだろう。

そもそも、食事は最近食べれてないから、そこまで気にすることではない。

腹部の痛み、顎の痛みで禄に食べれたものじゃないのだ。少し覚ましたスープを飲むのが精一杯。冷たい水やお茶も多分、今の様子だと飲めないだろう。

 執念な攻撃に晒されながらも、俺は虚空を見る。

 もう、どこか艦娘を怖がってしまっている俺がそこに居た。

たった10日でこうも変わってしまうのだ。

俺を殴る艦娘の目が、声色が何もかもが怖くなっていたのだ。

 俺の信条で、手を出さないと決めているが、もうそんな信条も要らないのではないかとも思っていた。

反抗も良いのではないか、反撃しても良いのではないか。そんなことを、頭の片隅で考えている。

味方の妖精たちも傷つき、どんどん数が減っていっている。疲労で顔色の悪い妖精だっている。傷付いて戻ってくる俺や妖精たちの介抱のために、医薬品を運んでいる妖精たちだって、ずっと往復を繰り返しているのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

13日目に入った。

夜中も忙しなく動き続けている妖精たちを労いながら、俺は冷蔵庫の中身を確認した。

やはり妖精約3000人を養うだけの食料は、一度に持ち込める食料で1日分を使ってしまっているのだ。

妖精たちは自分たちで食料を確保出来ない。俺が確保しに行くしかないのだ。

年不相応な掛け声を出して、俺は立ち上がる。

 

「じゃあ……」

 

 そう言って隠し扉に手を掛けた時、妖精が肩によじ登ってきた。

その妖精は赤城航空隊、戦闘機隊所属の妖精だ。妖精用通路の防衛で度々出ていっている。それが俺の肩に乗り、泣きそうな顔で訴えてきたのだ。

 

「もう止めて下さいっ!! これ以上、怪我をして帰ってくる紅提督は見たくないですよ!!」

 

 弱い力で俺の上着を揺らす。その妖精に反応してか、他の妖精たちも登ってきて訴えたのだ。

 

「もう、出ていかないで!」

 

「やですよ……」

 

「今、逃げ出せる経路を探していますから、だから、だからっ!!」

 

 介抱をしている妖精たちや偵察に出ている妖精たち、忙しなく伝令をしている妖精までもが俺の肩に登ってきて訴えた。

 

「俺が行かないと、ここに居る妖精たちのご飯が用意出来ない」

 

「そんなの1週間だって我慢しますよ……」

 

「食堂で盗ってきますから……」

 

 ボロボロと俺の肩の上で涙を流す。

そんなことをされたら、と思うと俺は、隠し扉から手を離していた。

 

「分かった」

 

「はい、はいっ」

 

 俺はそのまま椅子に腰を降ろした。

そして少し考える。

考えを巡らせ、巡らせること10分。あることを思いついたのだ。

 

「あ」

 

 俺は伝令妖精と防衛に出る班を1つ、呼び寄せた。

 

「少し、頼まれてくれないか?」

 

 俺はその場であるものを書き始める。

 

「これから事務棟に向かってもらう」

 

「理由は?」

 

 伝令妖精は、俺の顔を見上げて訊いてきた。

 

「事務棟に侵入して最上階を目指して欲しい。そこから鎮守府全体を見渡してくれないか?」

 

 俺が目を付けたのは、事務棟の高さだ。

事務棟はこの鎮守府の中で一番背の高い建物だ。それに、事務棟の周辺はスッキリとしていて、植えられている木も背が低い。

周りを見渡すのには十分な場所なのだ。

 

「艦娘の通りの少ないところ且つ門兵が良く歩くところを見つけて欲しいんだ。もしそれがここよりも近場だったら、ここから脱出して警備棟に走る」

 

「……もしそれが叶ったとして、私たちは?」

 

「事務棟に向かうと良い。医務室がこちらの支配下なら、そこを拠点に移して順次脱出していけばいい。もし、俺が警備棟にたどり着けたら門兵を向かわせる」

 

「分かりました。では、行ってきます。2時間で帰ってこれると思います」

 

「分かった」

 

 事務棟派遣隊を見送り、俺は他の妖精たちにそれを伝えた。

皆、賛同してくれたが、やはり皆、あることを心配していた。

 本部棟から警備棟まで、歩いて15分掛かる。つまり、約1km離れているのだ。

その間を、傷だらけの俺が艦娘に追われながら逃げ切れるか、ということだった。

幸い、最短ルートなどは考えてからの提案だったので、問題ないとは思うが、現状がどうなっているのか分からない。それだと、その言葉も信用できないというものだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 私たちは紅提督の命で、事務棟に向かっています。

 妖精用の通路というものは4人ほど並んで通れる広さがあり、かなり証明が明るい道です。

そんなところも、時より悲鳴が聞こえてきます。防戦をしている、私たち側の妖精の声でしょう。殴られて、蹴られて、痛いと叫んでいるんです。

私は伝令をしていますが、時よりこういうような声の元凶に行くことがあります。

喧嘩といえばそういう風に見えますが、私たちからすると防衛戦です。どうしてかおかしくなってしまった艦娘に操られている妖精たちが、紅提督の私室に入り込んでどうにかしようとしているのを防いでいるのですから。

 数の少ないこちら側も、7日間も耐えているのですから、頑張っているでしょう。

幸い、こちら側の妖精は手練だらけですからね。

 それはそうと、医務室に到着します。

ここには3交代制で200人の妖精が入れ替わって管理しています。ここに留まる妖精は、医薬品を棚から降ろしたりしています。

その妖精たちに声を掛け、私たちは紅提督の命令を伝えました。

 

「……ということだから、外に繋がる扉の状況が知りたいの」

 

「分かった、皆に伝えておくよ。えぇと、あっちの妖精たちは来ないよ。皆、廊下側から来てるから」

 

「ありがとう。じゃあ、頑張ってね」

 

 私たち、7人は扉を潜って外に出る。

 




 状況がどんどん悪化してきていますね。前回の後書きでも同じようなことを書いていたと思いますが、右肩下がりで悪化しているので仕方のないことですね。

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