艦隊これくしょん 横須賀鎮守府の話 特別編短編集 作:しゅーがく
門兵女性隊員 暴走 その1
今日は珍しく、朝から執務室に3人も居た。
俺と秘書艦はいつも通りだが、もう1人は違う。
「紅くん、紅くん」
「なんだよ」
俺の机の周りをウロチョロしているのがもう1人だ。
「最近デモ隊も現れなくなりましたよね?」
「そうだな」
姉貴が朝から執務室に入り浸っているのだ。
どうやら今日は休みらしい。どうして休みなのかは巡田から連絡があった。
なんでも姉貴は兵士としての能力は、一般的な兵士の2/3程度しかないらしい。少ない筋力、持久力、射撃命中率。兵士とは言えず、訓練兵でなら中の中程度の実力らしい。
門兵としての働きはあまりできず、門兵としてデモ隊を押さえつけるのにも正直力不足ということだ。つまり、仕事が出来ない。警備棟に入り、事務作業なら出来るらしいがな。
そういう理由で、門兵でありながら事務仕事くらいしか出来ない姉貴は、休みが結構貰えるらしい。それが今日から1週間あるとのこと。
ここに身を置く以上働く他ないが、門兵以外に働き口なんて無いと言っても良い。
姉貴の国家資格、看護師を使って医務室で働いても良いだろうが、横須賀鎮守府の医務室はダメだ。なにせ妖精がやっている。警備棟の医務室と事務棟の医務室はそれぞれ、派遣されている人間が入っているから必要無い。ということで、仕方なく門兵に籍を置いているのだ。
「出動もないですし」
何か言いたげな姉貴を尻目に、俺は執務を片付けていく。
「ここ2週間くらい無いな。それで?」
「ですから、門兵で連勤続きの人に休みを出して欲しいんですよ」
そんなことを言いながら、アニメのようにごまを擦り始めた姉貴の方を、俺はペンを置いて見た。
「武下さんに言えばいいじゃないか。それにどうして姉貴が進言するんだよ。上司って訳でもないんだろう? 一番下っ端なんだし」
「うぐっ! それを言われると辛いです……」
姉貴は拗ねる。俺が痛いところを突いたからだろう。
門兵の中での姉貴の立ち位置は下っ端なのだ。新入りで、しかも訓練兵課程を出ていない。横須賀鎮守府の中で最低限の訓練を受けただけの人間。
言うなれば言い方が悪いが、俺の私兵という扱いなのだ。
なんだよ、俺の私兵って。しかも家族だし、姉貴だし。
「武下さんにこの話を持ち出しても、どうせ紅くんに上がるんですよね? 口頭でしょうけど」
「まぁ、そうだな」
「なら武下さんをすっ飛ばして、紅くんに頼んだ方が楽かと思いまして……」
手でごまをする動きを止めず、姉貴は頼んでくる。
どうしてそこまでして頼んでくるのだろうか。
「まぁ、分かったよ。武下さんと相談してみる。んで、どれだけなんだ?」
そう言うと、『待ってました』と言わんばかりに、姉貴は俺の目の前に紙束を出した。
中を見てみるとどうやら休暇申請。軍で使われているものらしい。形式上こういうものを書かないといけないらしいが、俺としては別に要らないと思う。
それはそうと俺はその紙束を手に取り、ペラペラとめくっていった。
厚さは大体文庫本1冊分。まぁそんなに居ないだろうと思い、数えていくと俺はどんどん焦る。結局、休暇申請は300人程出していた。どうやらそれを姉貴が集めて、こうやってタイミングを見計らったように俺に出してきたみたいだ。
それで、どうやらその300人。休みは1日ずつ、1日70人が交代で休暇にするらしい。
「さ、300人……」
「そうですよ」
澄まし顔で言ってくるが、姉貴。門兵約半数に休暇を出すのは流石に武下さんも許してくれないだろう。
そんなことを考えるが、引き受けてしまった以上は交渉する他ない。俺は執務を終わらせて秘書艦のグラーフ・ツェッペリンを待った後、警備棟に向かった。
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「えぇ、良いですよ。順番に1日休暇くらいならば。なんなら300人まるまる1週間休みにしてしまいましょうか」
許可が出てしまった。とは言うものの、俺としては別に特段気にすることでもない。
門兵が半数休暇を1週間過ごす。その分、警備が薄くなるというのに……。
頭が痛い。武下さんが大丈夫だと言ったが、俺としては不安だ。デモ隊以外にも横須賀鎮守府に攻撃的な勢力はいる。それがもし、このタイミングで来てしまったらと思うと……。
「はい。ましろさん。申請を出していた門兵にお渡し下さい」
「了解しました」
ちなみに交渉にはましろも付いてきていた。付いてくるのなら俺に頼まなくてもいいだろうに、と思うがまぁいいだろう。
横でグラーフ・ツェッペリン、フェルトが首を傾げた。
何か疑問に思ったことでもあったのだろうか。
「どうした、フェルト」
「うーむ。私個人としては、警備の人間を減らすことに反対なのだが」
「そういうと思った。俺もそのことは思ったさ。だけど、警備を任せている武下さんが良いと言ったんだ。なら大丈夫だろう」
そう言って俺たちは執務室へと戻ることにした。
フェルトは俺の後ろを黙って付いてくる。
良く俺のところに来る艦娘の1人。馬が合うとかそういうのは考えたことはないが、赤城と同じく、フェルトも艦載機のことは結構話せるみたいなのだ。たまに赤城を交えて色々話をする。
つまり、話が合う相手ではある。こういう相手も正直有り難い。
そんなことを考えながら、俺は自分の椅子に座った。
「で、姉貴」
「はい」
この世界に来てこの方ずっとBDUを着ている姉貴だが、今日も変わらずBDUを着込んでいた。
飾り気のない軍人そのものの格好をしている。
「さっき武下さんのところに行って思ったんだが、どうして休暇申請のほとんどが女性隊員だったんだ?」
そう。あの休暇申請の束、ほとんどが女性隊員だったのだ。
何かあるのではないか。そんな風に勘ぐってしまっていたのだ。
「良いじゃないですか。それより執務も終わったことですし、何しますか?」
姉貴はそういいながらソファーに座るのだった。
一方でフェルトは少し不機嫌そうな表情をしている。
理由は分からない。フェルトは表情豊かなはずだ。そう思っているのは俺だけらしく、他の艦娘はフェルトが仏頂面だと言って聞かない。どこが仏頂面だというのだろうか。
よく笑うしよくふてくされたりする。泣いた顔以外はみたことあるような気がする。
「どうした?」
「……」
フェルトは何も答えてくれない。何が気に食わないのか、言ってくれなければ分からない。
「ふん」
ついにそっぽ向いてしまった。俺、何かやったか? そんなことを考える。
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ーーー
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武下が休暇書類を処理したという報告が入った。休暇は今日からすぐにシフトを変更させ、該当者は任を解いたらしい。
この知らせが入ったのは午前10時前。それからすぐに休暇に入ったみたいだった。
それに同調するかのように、姉貴は執務室を出ていってしまった。用事が出来たと言って、どっかに行ってしまったのだ。多分、仲の良い門兵と出かけたのだろう。
いくら軍人とはいえ、女性だ。お出かけとか買い物とかは好きだろう。思う存分楽しんで来て欲しいものだと、考えながら俺はフェルトの淹れたコーヒーを飲んでいた。
この時にはフェルトの機嫌も元に戻っており、結局、不機嫌だった理由は分からず仕舞いだった。
「紅提督」
「何だ?」
「暇な時、良く門兵と話をしたりすることがあるんだが」
そんな風に切り出してきた。
「あの者ら、なんだか変だぞ」
「どういう風に変なんだ?」
「どういう風に、と言われてもなぁ……」
フェルトは首を傾げた。少し考えた後、再開した。
「私たちとは違うが、どうもましろみたいなのが混じっている気がするんだ」
「は? 姉貴は1人だけだろう?」
「まぁ、最後まで聞いて欲しい。……ましろみたいなのって言ったのは、それ以外に良い例えが見つからなかったんだ。なんというか、これは門兵全体に言えることなんだが」
そう言ったフェルトから、色々と俺の知らないことが語られる。
「男性の門兵は、艦娘たちを娘や妹のように可愛がっているだろう?」
「あぁ、それは俺も見ていて思った」
「紅提督もかなり気にかけられているみたいだ。多分だが、上司として見られている一面、弟かなんかだろうか」
つまり、俺は横須賀鎮守府の弟って訳か。よく分からないことになっているな。
考えてみると余計に分からないことだ。図体は割りとデカイ。弟というとかなり苦しい容姿をしていると思うんだが。
「問題は女性の門兵だ。彼女たちは色々不味い」
「は?」
不味いってどういう意味だろうか。危険とかそういう意味なのだろうか。
「門外での話をしてくれる門兵から聞いたことなんだが、どうやら深海棲艦との戦争が始まって以来、家族形態やら色々変わってしまったみたいなんだ」
「と、いうと?」
その辺は俺も知らない。
「男性は高卒? 大卒? でも働き口に困らないみたいなんだ。だから給料の良い大卒? を目指して勉強に専念するということだ。それは女性も変わらない」
「一応、戦時下ではあるからな。その辺の認識は甘いみたいだが、社会全体がそうなっているとなると、自然にそういう風に捉えているのか」
「あぁ。それで、だ。近年、勉強やら何やらで男性という形態が数十年前に戻っているみたいなんだ。いわゆる『男は外に出て仕事。女は家を守る』だな」
その時点では、俺はフェルトが何を言いたいのか分からなかった。
「なんというかだな、私が私たちの前の紅提督のことを話したらだな、何やらブツブツ言い始めて」
刹那、俺の背中に悪寒を感じる。
「『攻略』だとか『籠絡』だとかよく分からないことを言い始めたんだ。『私はまだ若いから大丈夫』とか『フェルトさんからみて、私ってどう見える?』とか『町中で良くナンパされていたから多分大丈夫』とか……」
フェルトが話している途中、俺はその話を遮った。嫌な予感しかしないのだ。
それもデジャヴ。かなりのデジャヴだ。
「いいかフェルト」
俺はフェルトの両肩を掴み、目を見た。
なんだかカーっとフェルトの顔が真っ赤になったみたいだが、今はそんなことどうでもいい。
「取り付けた休暇申請は今更棄却出来ない。だからこっちで手を打つ。いいか、今すぐに全艦娘に通達。非常事態宣言だ」
「はぇ? ど、どういうことだ?」
「身の危険を感じるッ!!」
「何っ?! 分かった、すぐに赤城に報告しよう」
走って執務室を出ていったフェルトだったが、それと入れ替わるように執務室に姉貴が入ってきた。
どうやら帰ってきたみたいだった。
「紅くん、ただいま」
「おかえり。どこ行っていたんだ?」
何も知らないような素振りをしつつ、話を聞き出そうとする。
それに気付かないみたいで、姉貴は話した。
「少し街の方に、ね。買い物ですよ」
姉貴は俺の机の上を見て、ソファーに座った。
「今日の今後の予定は?」
「特に考えてないかなぁ」
そんなことを言いながら、俺は机の上に置いていた本を手に取る。
「フェルトさんはどこへ?」
「少し仕事を頼んでいる。すぐ戻ってくると思う」
「そうなんですか……。フェルトさんが戻ってきたらで良いんですけど、付いてきてもらえませんか?」
姉貴はそんな風に話す。
鎮守府の外なら自分で行けるだろうから、俺を連れてどこかに行きたいらしい。
ここの勝手も分かっているだろうから、鎮守府の外でないことは確かだ。
嫌な予感がする。
俺の直感がそう知らせている。絶対、何かある。
そんな風に疑うが、断れない。何故なら、俺は執務が終われば暇なのだ。だから何かと理由を付けたところで、どうにかなるとは思えない。絶対、どこかで時間が作れてしまうのだ。
「いいけど……」
「はい。なら決まりです」
まぁ、面倒事になる前にフェルトに伝えた非常事態宣言の意味を汲み取ってくれればいい話だ。
皆さん、お久しぶりです。しゅーがくです。
こちらではお久しぶり、って感じですね。
まぁ、それは置いておきましょう。
今回の特別編短編集も全4話で毎日投稿でカタを付けます。内容は前回がアレでしたので、今回はソフトに行きます。
何事って思われるような題名ですけど、中身は、はい……。
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