眠い。とにかく眠い。眠すぎる。
私、緑川星奈はアイドルになったのはいいが、レッスン続きの日々に疲れているのです…。あ、それと、同じユニットのメンバーになった戸塚姫子さんとの人付き合いかな?
「じゃあこの問題を…、緑川!」
あ、やばっ。ほとんど居眠り状態に近かった私は、勿論先生の話を聞いていなかった。あせった。
「え、えっと、……分かりません」
「しばらく立ってろ」
後ろから刺さるクラスメートの視線。ああ恥ずかしい。
「今度は秋月、答えて見ろ」
「はい、『アヘン戦争』です」
「正解」
おおーっと言うクラスメート達の声がする。
やっぱり、真純は凄い。大変な日々でも、ちゃんと勉強しているんだなあ。出来る人とできない人の差を、改めて実感した。私も見習わなくちゃ。
ちなみに、今日はクラスの三分の一が学校を休んでいる。理由は、撮影といった芸能の仕事があるからだ。私達は、まだ仕事がないので、学校に行っている。
私も、皆みたいに有名になりたい。
オーディションを受けようとして、奮闘した日々を今でも覚えている。
書類審査の時は、真純の家に集まって、一緒に書いたりした。
「真純ー、書類って、どう書いたらいいのー?」
「はあ……、ここに名前書いて! それから、ここに生年月日!」
「『あなたがこのオーディションを受けた動機は何ですか』だって! 『舞台で踊っている様子がかっこよさそうだから』でいいんじゃない?」
「詩織、字はもうちょっときれいに書いて。何だったら、もう少し下書きする?」
「う、うう…。伊織、大丈夫だよ、きっと」
「ほんと?」
「まあ…」
何やかんやで書類を送って数週間後。私達のところに通知が来た。それを見て、驚きと喜びが混ざったような感情になり、思わず真純のところに電話をした。
「やった! 書類審査合格した!」
「星奈も!? 私も一緒だよ! 伊織と詩織も受かったって!」
友達も受かっていたことに、私はさらに驚いた。
今度は、事務所へ行って面接を受けることになった。
「次、緑川星奈さん」
「はい!」
「失礼します。緑川星奈です」
「貴方の趣味は何ですか?」
「えっと、漫画を読むこと、テレビを見る事、それから、歌うことです」
「将来の夢は何ですか?」
「芸能界デビューをして、皆を喜ばせることです」
前の日に皆で必死になって考えた台詞を、何とかいうことが出来た。
面接合格者が張り出されている掲示板を見て、全員合格していることを知って、皆抱き合って喜んだ。後は、ダンス・歌唱力審査を残すだけとなった。オーディション会場で、力を出し切ることを約束した。
「皆、頑張ろうね!」
「絶対合格しよう!」
「うん!」
そう言いながらも、皆の顔からは緊張が伝わっていた。
私たちは、ずっと前から練習していたポップスを歌うことにした。
合格しないといけない。そう思うと、心臓のあたりが苦しくなる。でも頑張らなくちゃ、そう思った。
(ついにここまできた…。あと少し…)
「それでは14番、緑川星奈さん、お願いします!」
「はいっ!」
ドキドキする胸を押さえながら、舞台へ上がった。
私は、精一杯歌って踊った。
真純も、伊織も詩織も一緒だったと思う。
皆で、夢にまで見たアイドルになるために―――。
「合格者を発表します! 2番、春日伊織さん! 3番、春日詩織さん! 8番、秋月真純さん! 11番、戸塚姫子さん! 14番、緑川星奈さんです! おめでとうございます!」
それを聞いた瞬間、わたしはとても嬉しかった。みんな一緒に合格できたことが。あのときのうれしさは、今でも忘れられない。
やっと休み時間になり、私は席に着くように告げられた。
「ねえ、星奈」
真純が振り向く。
「勉強も芸能活動も頑張ろうよ。一度やろうって決めたんだからさ」
笑顔なのと、上から目線なのが真純らしい。
でも、言うとおりだと思う。
一度やろうって決めたんだからさ、か…。