東方裏方物語    作:星の屑鉄

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一言:次からは一話ずつ掲載していきます。ちなみに、萃夢想は私がやった東方ゲームの中で一番難しかったです。尚、緋想天は未プレイの模様。




第三話 苦労は買ってでもするべきだ

 

 

 炎の剣と刀の応酬は、わずかなものだった。数合のうちにフランドールの手に持つ炎そのものが斬られ、面白くなさそうに眉をひそめて後退する。刀は追撃しなかった。

 

「炎の剣だけはもうお終い。あなたが数を増やすなら、私も増やすわ!」

 

 フランドールの姿がぼやける。目眩を起こした時のように、彼女が四重に重なって見えた。やがて、その姿は明瞭となっていき、彼女は実態と同じ明度で四人に分身してみせた。

 

「いよいよ、防御に徹さなければならないか。タケミカヅチ様、最低でも三人はお任せいたします」

 

 カズヒコの傍まで戻っていた刀が、再びフランドール目掛けて飛んでいく。彼の指示通り、刀は三人のフランドールを追撃、足止めを巧妙に行う。三人のフランドールも笑いながら刀に応戦した。

 

 一方、最後の一人はカズヒコのもとまで難無く辿り着いていた。刀は彼女の相手だけは嫌い、素通りさせていた。彼が刀の方を見てみれば、遠慮無用の殺し合いを繰り広げていた。

 

「塞の神様、能力と背後の警戒だけをお願いします。戦いは、俺にお任せを――」

 

 図書館全体が大きく揺れた。刀は手加減を忘れたようだった。彼の周囲に埃が舞い、思わず咽る。

 

「ごほっ、ごほっ……。よし、こっちも始めよう」

 

 懐から御札と大幣を取り出して、カズヒコはようやく重い腰を上げた。そんな彼をおかしいものを見るような目で、フランドールは眺めていた。

 

「あなた、自分で戦えるの?」

 

「能力なしの君となら大丈夫」

 

 心底面白くなさそうに、形の良い眉が大きく歪む。しかし、次の瞬間には悪戯を思いついた子どものように表情を輝かせ、嗤った。

 

「これを見ても、そう言える?」

 

 刹那、色とりどりの球体の集合によって籠が完成した。カズヒコと、フランドールを外に出さないためのものだ。球体一つ一つには大量の魔力が込められている。球体と球体の間に隙間はあるが、人間の通れる大きさではない。手を通すことも難しい。

 

「閉じ込められたか」

 

「そう。助けを求めても無駄よ。強度は最高なの。さっきの刀だって、これですぐには加勢出来ない。その間に、決着をつけるの」

 

 フランドールが、少し前に使っていた炎の剣を生み出した。彼女の顔は自信にあふれていた。敗北する要素は無いとばかりに、自慢そうに笑っている。

 

「そうか。なら、俺もちょっと頑張ろうかな」

 

 御札は動き出し、彼の周囲を囲むように円を描いて待機する。一枚一枚には神力、霊力のどちらかが込められている。

 

 フランドールはまたも、様子見に徹した。

 

「雷よ、敵を穿て」

 

 カズヒコの言霊が紡がれた直後、一枚の御札が一筋の雷光となってフランドールに飛来する。彼女はそれを紙一重で避け、これを好機とばかりに距離を詰めようと突進する。

 

「火の玉よ、敵に降り注げ」

 

 一枚の御札が、三桁弱の火の玉となってフランドールに襲い掛かる。しかし、彼女は冷静に炎の剣で切り裂き、弾き、受け流す。傷は与えられない。

 

「流水よ、道を塞げ」

 

 御札が彼の目の前で流水の壁となってフランドールとの間を阻む。天敵の水に対して、彼女は真っ直ぐ進み続け、力一杯に炎の剣を水に向けて振るった。

 

 そして爆発。流水は瞬く間に水蒸気に様変わりした。その濃度は目の前すら真っ白に染め上げ、熱量はすぐさま額に玉の汗が浮かぶほどだ。

 

「風よ、ただ一度攻撃を逸らせ」

 

 一枚の御札は神風となって彼の周囲に渦巻く。それから数秒もしないうちに、神風は突風となり彼の真上に吹き荒れた。

 

「わっ!?」

 

「一点集中、返し矢で貫け!」

 

 彼の周囲の御札の殆どが一つの矢となり、まだ影響を残す神風に乗って、矢は天に向けて一直線に放たれる。向かうは小さな人影だ。このままでは心臓を貫くと思われた一撃は、しかし影が動くことにより、翼を撃ち抜くに終わる。

 

「あっ!」

 

 短い悲鳴が上がった。それを気にも留めず、彼はすぐさま口を開く。

 

「流水となって捕縛しろ!」

 

 残り少ない御札の一枚が言霊の通り水と化して影に襲い掛かる。しかし、その水もまた炎の剣を精製、ぶつけられることで相殺される。

 

「雷撃よ、討て!」

 

 白い濃霧を切り裂いて、閃光が奔る。そして、確かに何かに直撃して爆発した。

 

「っ、流水よ、押し流せ!」

 

 彼を中心に穴の開いた渦潮が、籠の中のものを軒並み巻き込んで押し流す。見てみれば、色とりどりのベリーのような小粒の球体が、無数に、そして雑に流されている。

 

「そこっ!」

 

「っ!」

 

 咄嗟に彼が顔を上げてみてみれば、フランドールが炎の剣を振り下ろしているところだった。ゆっくり、ゆっくりと眼前に炎の剣が迫ってくる中、彼はただ周囲の御札を、自身を中心とした四方に霊力で移動させ、印を結んだ。

 

「偽・四重結界」

 

 炎の剣が爆発した。周囲には蒸発した水から発生した濃霧が舞う。フランドールは不機嫌そうに眉をひそめて、またその手に炎の剣を握った。

 

 濃霧が晴れる。すると、半透明の紫色の立方体が現れる。ただし、立方体の所々に蜘蛛の巣状のヒビが入っており、所によっては崩れてしまっている。そんな避難所の中に、彼は居た。

 

「いや、まさか小玉にまで誘爆するとは思わなかった。おかげで、結界もこの様だ」

 

 音を立てて立方体が崩れ去り、薄い紫色の粉が輝きながら宙を舞う。彼は困ったように頭を掻いて、残り三枚となった御札を右手に持った。

 

「こちらの三枚を奉納します。どうかご加護を、白兔神様」

 

 しかし、その御札は言霊と共に消えてなくなった。そして、とうとう御札が無くなった。フランドールはこれを好機とみて、突撃を仕掛けようとした、まさにその瞬間だった。

 

「えっ!?」

 

 驚きの声は、突如訪れた炎の剣の爆発によって消えた。更に、炎の剣の爆発は籠を形成していた色とりどりの球体の、本来衝撃の届くはずの無い強固な外壁の中にある核にまで誘爆し、その誘爆が更なる誘爆を呼ぶ、という大惨事が発生した。

 

 爆発を繰り返し、ようやく止まったかと思えば、籠は跡形もなく消え去っていた。フランドールにとって予想もしなかった不幸な出来事だ。

 

「……後で追加奉納させていただきますね」

 

 苦笑を浮かべながら、彼は呆然とするフランドールから視線を外して、刀と応戦している三体のフランドールが居た方を見ると、既に事は終わったらしく、刀は天井に突き刺さっていた。他の姿は見当たらない。

 

「よ、っと」

 

 彼は器用に霊力を糸状にして指から射出したかと思うと、天井に刺さっていた刀の持ち手に巻き付けて、そのまま引っ張って、また霊力の糸を縮めて手元まで手繰り寄せ、それを手にしたかと思うと鞘に納めてしまった。

 

「さて、お次は何かな」

 

 気が付けば、彼が待ちの態勢になっていた。フランドールはどうしたものかと思案し、すぐさま「なら」と魔力を練り上げた。

 

「迷路の中に誘ってあげる!」

 

 フランドールから大量の魔力弾が射出された。一瞬、その膨大な数にギョッとするも、カズヒコはすぐさまそれを避けるため、図書館の本棚の陰を利用して事なきを得る。

 

「今日の天気予報は――雨よ!」

 

「いや、今日は晴天――っえぇ!?」

 

 思わず上を見てみると、魔力弾が雨の如く上から降り注ぐ真っ最中だった。横から迷路の如く道を遮断する大量の魔力弾に、更に行動を阻害するかの如く降り注ぐ魔力という名の爆弾。カズヒコはとうとう必死の形相を浮かべて、滑稽にも転がり、伏せ、掠りながらも本棚の間を縫い、避け続ける。

 

 しかし、それもそう長くは続かない。魔力弾の雨が地面に当たれば爆発を引き起こす。図書館の床は未だに無傷だが、いちいち爆発の衝撃に晒されるのは堪ったものではないと、雨が降り始めて数秒の内に印を組みながら空中に逃れた。

 

「そこっ!」

 

「狐火!」

 

 弾幕と呼べるほどの魔力弾がカズヒコに殺到すると、彼もそれと同等数の赤色の霊力弾を撒き散らした。狐火と称される大量の霊力弾は迷路の壁を尽く破壊し、雨を蒸発させていく。しかし、それ以上の結果は無く、ただ拮抗を保つだけだった。

 

「あなたの後ろはお留守のようね!」

 

 霊力弾の範囲から逃れた弾幕の一部が床と壁に反射して、カズヒコの後ろを取った。しかし、彼は気にした風もなく、ただ目の前に意識を向け続けた。

 

 もはや彼は背後の魔力弾を避けられない。勝利を確信したフランドールは悪魔のような笑みを浮かべた。カズヒコはお構いなしに、別の印を結んだ。

 

 彼の背後の魔力弾が着弾し、爆発した。しかし、カズヒコは苦痛の表情を一切浮かべなかった。爆発の煙に覆われる前、目敏くそれを見たフランドールは、「あっ!」と思わず声を上げて次の攻撃にすぐさま移った。

 

「時計の針があなたを追い詰める!」

 

 十字の魔力レーザーが、時計の針のように回転、逆回転しながら先ほどまでカズヒコの居た場所に迫る。迷路と雨と反射がダメでも、煙の中から時計の針という名のレーザーは迎撃出来ないとフランドールは確信を持つ。同時に、おそらく唯一の突破方法を予見して、その手に炎の剣を生み出した。

 

「霊力集約――」

 

 目の前の煙の中から、右の拳を引き絞った状態でカズヒコが飛び出してきた。フランドールは予想通りの展開に思わず顔が綻んだ。炎の剣を横薙ぎに振るう。この距離、そしてカズヒコが前に飛び出す勢いから、回避は不可能だと断定し、今度こそ勝利を確信する。

 

「――お越しくださいませ」

 

 炎の剣がその脇腹を切り裂く刹那、カズヒコの姿が消えた。しかし、炎の剣伝いに何かを切り裂いた感触はあった。それも、かなり深く斬りつけた。それでも、姿を見失ったことにフランドールはこれ以上になく焦りを見せる。前方になど注目せず、左右を確認して、上下を見て、そして思わず振り向いた。

 

「そっちじゃない」

 

 不意に、正面からカズヒコの声が響いた。咄嗟に見てみれば、既に目の前まで迫った彼の姿があった。右の拳には山一つ消し飛ばせそうな霊力が圧縮されており、いくら吸血鬼といっても、それに当たればタダでは済まないことが分かった。

 

「拳骨ッ!」

 

 そのネーミングセンスは無いわ、とフランドールは思わず冷静に心の中でツッコミを入れた。そんな冷静な部分が残っていたからこそ、彼女は切り札を切ることが出来た。

 

「そして誰も居なくなるの!」

 

 拳が届く前に、フランドールの姿が突如消失した。行き場を無くした拳は、彼女が残した魔力弾を消し飛ばすだけに終わった。彼はフランドールの姿を捜して周囲を見回すが、どこにも居ない。代わりに、その周囲から突然魔力弾が大量発生したため、その対処に追われることになった。

 

 誰も居ないように見える中、彼は弾幕を弾き、避け、消し飛ばす。黒焦げの服の隙間から覗く赤い脇腹を庇って舞い続ける。

 

 そして一分と少し、ようやくフランドールは図書館の中央に姿を現した。未だに倒れない彼に最期の手向けとばかりに、呟いた。

 

「これが最後の手札よ。『QED「495年の波紋」』!」

 

 水面に波紋が響く様に、空中に何度となく波紋を響かせる魔力弾が咲き乱れる。しかし、彼はニィと歯を見せて悪く見せるように笑った。

 

「残念。なら、これで終わりだ」

 

 声は背後から聞こえた。とん、と肩を掴まれた。振り返ると、そこには何事も無かったかのように傷一つ無い、彼の姿があった。確かに切り裂いたはずの腹部には、その証拠となる焦げ付いた服が見える。しかし、傷が無い。健康的な色の肌が露出しているだけだ。

 

「さて、新しいルールだと、これで勝ちだっけ?」

 

「あ……うん……」

 

 肩を掴まれた上、彼の周囲の弾幕が軒並み透明な壁に阻まれている様子を見て、フランドールは素直に頷いた。この状況から、最後の一枚となったスペルカードで、どうやっても勝てるとは思えなかった。肩を掴まれて動きを封じられ、弾幕は無効化され、その上で彼は霊力をいつでも放出できるようにしていた。誰がどう見ても、詰みだ。

 

「よしよし。……はぁ、緊張した。これだけ歳喰うと、遊ぶのも一苦労ってね」

 

 おどけた様子で肩を竦めて、やれやれと首を振る。彼のそんな言葉と仕草を見聞きして、フランドールは目を丸くした。

 

「えっ、遊びに来てたの?」

 

「え、君から遊びに誘ったよね?」

 

 お互いにきょとん、と首を傾げて見つめ合う。数秒の硬直状態の後、フランドールは「あっ!」と思い出したかのように声を上げた。

 

「確かにそう言ったわ。でも、最初から壊しちゃうつもりだったから、つい」

 

「うわっ、バイオレンス」

 

 幼い女の子の残酷さに思わず声が出た。徹頭徹尾、分かってはいたことだが、それでも口から改めて聞くと驚くものがある。苦笑が浮かぶのも、仕方ないのだ。

 

「とても楽しかったわ。最近、とっても退屈だったから。あなたみたいに、殺し合うことが出来る人間も居るのね」

 

「あー……スサノオ様みたいなこと言っちゃうのかぁ」

 

 この子も色々と、気が触れているんだなぁ、とカズヒコはしみじみと悟った。ただのバイオレンス幼女ではなく、無意識と狂気が含まれているのであれば、これはもう手におえるものではない。

 

 バツが悪そうに頭を掻きながら、彼はメモ帳を懐から取り出して、その一枚を千切る。そして手のひらサイズのそれに霊力を込めて処理を施すと、フランドールに手渡した。

 

「……? なにこれ」

 

 こてん、と首を傾げてフランドールは訊いた。

 

「俺の住処に来るときに必要な、いわば通行書だよ。それが無いと、俺の家までどうやってもたどり着けないから、まぁ、来たいと思ったらいつでもどうぞ。それを空中に投げれば、あとは勝手に案内してくれるから」

 

 カズヒコの住処は、まさに八百万の神々が結界と加護を敷き詰めた、秘境めいたところにある。もしも通行書が無い場合は、例え知恵の神である思金神であってもたどり着くことは出来ない。八咫烏や住吉三神の力があっても不可能だ。

 

 だからこそ、彼は自分の住処に案内すべき相手を厳選する。神々の益になり得る相手か、もしくは自身の役割を全うするのに必要な相手以外は、絶対に招待しない。また、それらの役割を失った相手からは、密かに通行書を取り上げることもしている。

 

「そう。暇になったら行ってみるわ」

 

「それが良い。妖怪の山の中心部にあるから、時間がある時をおススメする」

 

 これで、彼は役割も仕事も全うした。もはや此処に居る意味も無く、図書館の出口の方へと歩いていく。

 

「それじゃ、今度は俺たちの家で会おう。まぁ、こればっかりはキミ次第だけど」

 

 返事も聞かずに、カズヒコは図書館から出て、すぐに紅魔館を後にした。

 

 帰る途中、巫女服の少女と白黒の魔法使いとすれ違う。それを見て、彼は思わずその場に止まり、ポツリと呟いた。

 

「俺、来る意味無かったな」

 

 空を見上げれば、立派な名月が浮かんでいた。雲一つない空だ。

 

「酒肴なんて用意してなくても、もう騒いでいるんだろうなぁ……」

 

 ある高貴な御三方の仲はとてつもなく悪い。その上その内のお二方が喧嘩っ早いものだから、もしも喧嘩をしようものなら、また建物を修復どころか建てなおして、周りの景観を神々の力を借りて整えなければならない。

 

 神が騒げば天変地異が巻き起こる。宴会の席であろうとも、神々同士が神遊びを繰り広げるものだから、無傷なんて甘ったれた幻想など帰ればすぐさま砕かれる。

 

「さてさて、今日は焦土か、それとも地割れか、はたまた水害か」

 

 どれにしても、直すのはカズヒコなのだから、世知辛いものである。

 

 彼はただ、夜空に向けて乾いた笑い声を上げた。

 

 

 






一言:永夜抄のやり込み要素は心躍りますが、クリアできないのが心苦しいです。花映塚のルナは一味違った難しさに発狂しそうです。
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