胸の内に牙を隠して    作:炬燵猫鍋氏

1 / 1
悩めるメガネ君に同情しながら読んでやってくださいませー。


三雲修、不破有珠斗と出会う

三雲修は悩んでいた。

言うまでもなく、昨日からこのクラスの一員となった空閑遊真の事でだ。

 

転入生でありながら、彼は近界民(ネイバー)だ。

 

トリガーを持っていた。

大きなネイバー…空閑は『トリオン兵:バムスター』と呼んでいた()()を、拳で砕いてしまった。

C級隊員の自分に不可能なのは当然としても、正隊員、果たしてB級隊員で一撃粉砕は可能だろうか?

 

交通事故に逢いながら平然としていた。…ケガをしたように見えたが、目の前で治ってしまった。

普通の人間では無い。

 

常識が足りない。粗暴な態度ではないが、『目には目を』で返すのを当然と思っている節がある。

多額の現金を持ち歩きながら、貨幣の経済観念がまるで無い。

 

本来なら、自分が所属する界境防衛機関ボーダーに即時通報する義務がある。

だが、助けられた。

侵略し、破壊し、奪うだけの存在。自分の知るそんな近界民(ネイバー)とはまるで違う。

もし通報したら…二度と空閑に会えなくなることだけは確かだ。

 

恩人なのだ。だから躊躇われた。

彼の目的もわからぬまま、通報して()()()は、三雲修にとって()()()()()には思えなかった。

こちらの、日本の常識を教えてフォローしながら、空閑遊真が本当に危険な存在なのか確かめるべきだろう。

 

朝のホームルーム前の時間で、そこまで考えを整理していると、

 

『オサム、オサム。』

 

その本人が話しかけてきた。

 

『な、なんだ?空閑。』

 

少々の動揺を押し隠しながら返事をすると

 

『隣のクラスにも転入生だそうですな。今日から。』

 

にやにやしながら、伝えてくる。

 

『あぁ、この三門市は住人の出入りが少なくないからな、そういうことも有るだろう。それより空閑、昨日の事だが…』

 

昼休みにでも話したいことが有る。そう言おうとした三雲を制するように、

 

『その転入生、ボーダー隊員らしいぞ。』

 

空閑は衝撃の事実を告げる。

 

『なっ…!』

 

気がついてみれば、クラスのあちらこちらでその話題で盛り上がっている。沈思黙考のあまり、まるで気がついていなかった。

 

『マジで?!』

『マジみたい、何か強そうって話。』

『正隊員は広報サイトでチェック済みだから、きっと訓練生じゃないかな、でも羨ましー!』

『全員チェック済み?三好ちょっとこわーい』

 

訓練生…だよな。偶然…か。でも、空閑の事に気がつくかも。

 

『なーオサム、後で見に行かないか?』

 

三雲修の運命を大きく変える日は、始まったばかりであった。

 

 

 

『どもっ!不破有珠斗(ふわ・うすと)です。』

 

『ボーダーで訓練生やってます。姉のエリザといっしょにボーダー本部に住み込みです。守秘義務ってヤツがあるんで、あんまり詳しい話はできないんでカンベンしてくださいなー。』

 

長身の少年だった。何かの事故の痕だろうか?

頬に、手の甲に、首筋に、うっすらとではあるが、いくつもの傷痕が走っていた。

だが、人懐っこい笑顔が印象を和らげていた。

 

『マジで?!トリガー持ってるの?!』

 

さっそく食いつくクラスメイトの声。

 

『ありますよー。でも、訓練生、C級隊員は、訓練以外でのトリガーの使用は禁止されてるから、実演はカンベンね。』

 

それでも懐から取り出して見せた『刃の無いナイフの柄』のような道具に、クラスの生徒達は大盛り上がりだった。

 

 

 

一限目後の休み時間、三雲は空閑を伴って隣のクラスを訪れた。

もっとも目当ての少年は当然ながらクラスメイトに囲まれて質問攻めに合っており、自分達が何か話しかけられる状況では無いのは一目瞭然だったが。

 

いや、同じクラスの三好が平然と混ざっていた…。

 

『スゲー、これが本物のトリガー!』

 

『触っちゃダメなー。撮影もご遠慮くださーい。スマホが()()()()()に遭うかもしんないからさー。』

 

『マジで?!』

 

『さー?どっかなー?』

 

三雲修の見る限り、本物の(訓練用)トリガーだった。

間違いない、C級隊員だ。

それが判ればむしろ接触は避けたい。

 

『行くぞ、空閑。…空閑?』

 

空閑遊真は、不破有珠斗を静かに注視していた。

不破有珠斗もいつのまにか口を閉ざし、見つめ返している。

ほんの僅かな時間だが教室が静寂に包まれる。

奇妙な緊張感が走り…。

 

『行くぞ、空閑!』

 

三雲修が連れ出したことで終了した。

 

『どうしたんだ、空閑。』

 

廊下で訊ねれば、

 

『オサムとあいつ、どっちがボーダーの訓練生ってヤツでは普通なんだ?』

 

普通?空閑の言葉の意味が判りかねる三雲。

 

『あいつ、強いよ。…今まで何人も敵を殺してるな。』

 

 

 

 

二人が去った教室では。

 

『なーなー、さっきの白ーい髪のヤツ、誰ー?』

『確か、隣のクラスの転入生。クガっていったかな。』

『ふーん。くが、ね。強そうだなぁ。ニンゲンカ、ホントニ?』

『え?今なんて?』

 

 

 

 

昼休み、三雲修と空閑遊真は屋上で昼食を食べていた。

秘密を守る為には騒ぎを起こすな、トリガーを使うなと三雲は空閑に忠告する。

キュウクツだなと返しつつ、オサムのアドバイスどおりにしてみるかと言う空閑。

 

『それから不破のことだが…』

 

さらに増えたばかりの懸案事項を口にすると

 

『オサム、その不破がこっちに来るぞ。』

 

不破有珠斗が、ゼリー状飲料を飲みながら近づいて来ていた。

 

『おっす!くが君と…メガネ君?』

 

どうしてメガネ君と呼ぶ?

()()()も空閑も不破も。

 

『メガネ君じゃない。三雲修だ。』

 

メガネに手をやりながら返すと

 

『そっかー。で、君らナニモン?』

 

質問の意味を三雲が考えている間に空閑が、

 

『隣のクラスの転入生と世話焼きメガネ君です。』

 

割りと普通に返す。

 

『いやいや、そうじゃなくってさ、()()()()()()()()()()()()()。』

 

意味が判らない三雲。だが、空閑の気配が変わる。

先程の教室の比では無い緊張感を三雲は感じる。

 

『へえ?よくわかったね。何で?』

 

ただならぬ空気を纏う空閑に、離れて談笑していた生徒達もこちらに目を向けてくる。

 

『何でもなにも、気配消しきれて無いぜ?』

 

何の話をしているのか分からないが、このままではマズイと三雲が間に入ろうとしたとき、屋上にやって来た三人の生徒。

一人は脚に包帯を巻き着け、杖をついている。

空閑遊真が命名するところの3バカ。同じクラスの不良少年達だ。

 

昨日の放課後、“生意気なチビ”をシメようとして返り討ちに合って脚を負傷した上に、トリオン兵:バムスターの出現に出くわした自業自得な連中なのだ…が、空閑と三雲を見てもその辺りの恐怖が残っている様子は無かった。

平然と『屋上使用料』を寄越せなどと生徒達に対して恐喝行為(カツアゲ)を行おうとする始末だ。

どれだけ記憶力が不自由なのかと空閑が呆れるも、三雲は彼らがボーダーに保護された結果、昨日の記憶を消されたのだと推測する。

 

3バカ相手に止めるように三雲が迫る前に、不破が動いていた。

 

『屋上使用料?校則には、さ。んなこと書いてないぜ?』

 

にこやかに。ポケットに両手を入れてジャラジャラと音をたてながら。

 

『はぁ?俺達がルールなんだよ!』

『おまえ、ボーダーだからって調子に乗ってると痛い目見るぜ!』

 

不破は両手をポケットから出す。五百円玉が掌の上に三枚づつ乗せられていた。

 

『俺さぁ、力づくで人から奪おうってヤツが大嫌いなんだよね。』

 

六枚の硬貨を見せながら不破が不機嫌そうに言い。

 

『はっ!気にくわねーけどよ、それで勘弁しといてやるぜ。でもよぉ、あんまり調子にのってるとぶっ殺…』

 

不破の両手が、霞んだように三雲には見えた。

そして激しい破砕音。

 

松葉杖が、砕け散っていた。()()()()()六枚の硬貨が屋上に散らばる。

杖をついていた少年が片膝をつき、苦痛に顔を歪める。

 

『そいつはここにいる全員の通行料ってことでくれてやるよ。…どいてくんねぇ?』

 

笑う、不破。だが、その笑顔は。

怯えを隠せず左右に別れて離れる少年達。

 

『みんなー、行こうぜぇ。あ、そーそー。せんせーには俺が報告しとくから、さ。もしコイツらがそれでなんか言ってきたら教えてよ。』

 

ニッコリ笑う、不破。だが、その眼は。

 

『きっとコイツら、立ち入り禁止区域とかで行方不明になると思うから。』

 

三人の誰かが、怯えて声をもらす。

 

『ひっ…!』

 

三雲修はたまらず、不破に詰め寄る。

 

『不破!それがボーダーの人間の言うことか!』

 

不破は、嬉しそうに、優しく笑って。

 

『メガネ君は優しいなあ。でもさ、そいつら、俺の事を調子にのったらぶっ殺すって言いかけたからさー。…つまり、ボーダーに守って貰うつもり無いってことじゃね?この街でさー。』

 

空閑とは似て非なる強烈な意思を感じながらも、三雲は不破に向かって返そうとするが、不破はさらに。

 

『ま、言っていいことと悪い事が有るって、コレでわかったでしょ。冗談だよ、冗談。…あっちも冗談のはずだしー。』

 

そう言うと、さっさと屋上から下りて行ってしまう。

釈然とせぬまま、他の生徒たち同様に屋上から下りる。空閑とのやり取りがウヤムヤになっていることに気がついたのは、教室に戻ってからだった。

 

屋上にいた生徒たちは、不破の話題で周囲と盛り上がる。概ね好意的な反応だ。

不破の危険すぎる言動も、不良をギャフンといわせる為のハッタリのように受け止めているようだ。

だが、三雲修は不破の“眼”を思い出していた。

 

あれは、あの眼は空閑と同じ、いや、もっと…。

 

松葉杖を砕いた手段も謎だ。

さすがボーダー!とか騒ぐ生徒(三好)がいるが、冗談じゃない。トリガーも使わず、あんなことがボーダーの隊員だからってできるわけがないのだ。

 

謎の近界民(ネイバー)と謎のボーダー訓練生。

三雲修の悩みは加速度的に大きくなっていた。

 

 

ちなみに当の本人はと言えば、

 

『あー、あれ?ゼニガタ・ヘイジの子孫に習ったゼニナゲ。』

 

などといいかげんな対応で誤魔化していた。

 

三雲の悩みをよそに、クラスメイトの話題は空閑へと移り、どこから来たかと問われ、誰も知らない国を転々としていた、どこも戦争をしていた、と衝撃の返答を返し、戦争というワードから、“最前線の街、三門市”へと話題が移り、続いて、それを支えるボーダーへと話題はシフトしていった。

 

流れ的に自分の事を空閑が喋りそうになっていたのを察知し、三雲は空閑を連れ出す。

空き教室で改めて自分がボーダー隊員であることを周りに話すなと念を押し、不破が公言していることを空閑が口にすると、彼と自分ではきっと考えの根本が違うのだろうと三雲は返す。

そして、

 

『そう、不破の話だ。あいつがお前に言っていた事は…』

 

言いかけた三雲の耳に響く緊急サイレン。

慌てて外を見れば、()()()穿()()()()()()()

(ゲート)…?!』

 

《緊急警報》《緊急警報》《市街地に(ゲート)が発生します》

  

警報が響き渡り、シェルターへの避難を促す。

 

『警戒区域の外に…?!』

 

黒々とした穴から、乗用車サイズの蟲…いや、近界民(ネイバー)が這い出てくる。鋭い爪先は刃のようだ。

しかも、二匹。

 

『モールモッドが二匹か。』

 

空閑が、名前を告げる。

 

いかなるイレギュラーなのか。本来ならば(ゲート)は、ボーダー本部の周辺、警戒区域にのみ開くように()()されている。

それを無視して(ゲート)が開くとしたら、三門市の安全性は完全に崩れ去る。

三雲修は考える。

…いや、今はそれより目の前の問題だ。 

学校はボーダーの基地から遠い。

この事態に気がついて正隊員が駆けつけるまで何分かかる?

廊下で耳にする、南館の生徒の避難が遅れているとの声。

 

このままだと間に合わない!

三雲修は校庭へと走り出し、南館を目指す。

空閑遊真は何も言わず同行していた。

 

 

不破有珠斗の行動は素早かった。

(ゲート)発生の直後には校庭へと窓から飛び出し、2体の近界民(ネイバー)が出現、南館に入り込むその姿をその目で捉え、追って校舎に走り込む。

 

 

 

『…思わぬ形で門が開けば招かれざる客が訪れる、か。()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

トリオン兵の殲滅手段を考えながら不破は歩を進める。

あのクガが妨害してきたら、どうやって()()するかを最大の懸念材料とした上で。

 

 

 




…原作の描写をまとめるの難しいですね。
さて、次回は木虎と不破の激突?! 仲裁頑張れメガネ君! をお送りする予定です。お待ちくださいませ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。