二つの一人   作:森山 大太

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eternal separation

温かい。鼻孔をくすぐる、良い匂いがする。全身を、程よい圧迫感がつつんでいる。

 これらの情報から導き出される事実は一つ。

「明!?」

 明の話の後、俺達は無意識のうちに二人くっついたまま眠りに落ちてしまっていたらしい。いろいろと、あられもないことになっている。俺は気持ちよさそうに寝る明を起こさないように気を付けながら、ゆっくりとベッドから上半身を起こす。

 戻ってきた。やっと、そう実感した。そして、もう戻れないのだとも、感じた。

 全てを終わらせたと喜んで胸を張っていいのかもしれないし、全てが終わってしまったのだと悲しんで落ち込んでいいのかもしれない。その辺は、俺には分からない。

 ただ、終わらせたことを後悔することだけは許されない。それは確かだ。なぜなら、俺が悔やむことは、俺のために行動してくれた明やルーセル、命を懸けて侵攻作戦を進めてきた向江を侮辱することになってしまうから。俺の悩みで振り回しておいて、結局ああしとくべきだったなぁなんて、俺が考えていいはずがない。

 しかし――やっぱり、悲しい。夢の世界が俺から離れていってしまうのは。

 ルーセルには「絶対会おう」なんて言ったが、実際に会おうとしたらそれこそ奇跡に頼る以外手はないだろう。おそらく、もうルーセルには会えない。あの世界で得た多くのつながりを再び感じるときは、永遠に来ない。

 あの世界はずっと、俺にとってのユートピアだった。そしてそれは、失った今も変わらない。むしろ失ったがゆえに、より一層の思慕を感じる。

 だが俺は悲しんでばかりはいられない。前に進まなければならない。あの世界で見て、聞いて、感じた全ては本物だ。ならばそれを未来への糧にしよう。そうして初めて、アーラに与えられた以外の、俺があの世界を生きた意味が生まれるのだから。幸いなことに、現実世界での俺の隣には明がいてくれる。迷った時に、俺の目の前を照らしてくれる存在がいる。明がいる限り、俺は前を向いていられる。

 このまま、進んでいこう。明と、二人で。俺の新しい「日常な日常」を。いつかルーセルに再会できる日が来ると、心の隅期待しながら。

「え……?」

 そう決めた。そう決めたのに――なんで今更になって目が潤むんだろう?必死に涙腺を閉めようとするが、どうしてもできない。

 ルーセルの前では、結局流さなかった涙が、なぜ今更?分からない。分からないけど――

 俺も、泣いていいかな。ルーセル。無性に、泣きたいんだ。こんな俺を、お前は情けないと笑うかな?ああ、でも、それもいいな。お前に会えるなら。

 今すぐ会いたいよ、ルーセル。できることなら、明とお前と、三人で暮らしたい。永遠に。

 ついに、俺の目から涙があふれた。とどまることなく、頬をつたっていく。

 そして、窓から差し込む朝日に光りながら、天使のような微笑みを浮かべて寝る明の頬に落ちていく。

 一粒、

 また一粒と。

 




完結しました

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