さよなら、しれえ   作:坂下郁

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 失くした後のぎこちなさ。俯いたままの店長を前に引っ張る卯月。

 ※このお話は、第二話『スーパー北上』の続編になります。先にそちらをご覧いただくと、より話が分かりやすいと思います。


第六話 うーちゃんのたからもの

 「行ってくるぴょん」

 

 廊下の奥に声を掛けても、返事はいつも同じだぴょん。行ってらっしゃい、の言葉。高くもなく低くもない抑揚のない声。お見送りなしかぁ……気分を切り替えて、気合入れるぴょんっ!

 

 「今日も一日ぃ~、がんばるぴょん!」

 

 左右を木立に囲まれた、学校までの細い田舎道をとてとて行くと、大きな木の下で待ってる第一町人……じゃなくて学校の友達を発見したぴょん。髪の毛をふわふわ揺らして、毛先をまとめているウサギの髪留めもゆらゆら揺らして走るぴょん。さ、一緒に学校にいくっぴょん。はしゃぎながら、でもふと空を見上げるのだ。

 

 

 ーーもうすぐ一年になるぴょん……。

 

 

 

 

 一年は、何かをするには短いけど、何かが変わるには十分に長いぴょん。

 

 

 今も昔も、うーちゃんにとって、北上さん(おかしゃん)店長(おとしゃん)は大事な家族だぴょん。ある冬の日、初めておかしゃんをおかしゃんと呼んだぴょん。いつも通り褞袍を着て炬燵でぬくぬくしてたおかしゃんは、一瞬きょとんとして、すぐににへらっと笑ってこう言ってたぴょん。

 

 「そうねぇ……言われてみると、そういうのも悪くないねぇ、うん。……もう一度、呼んでみ~、ほらほら~」

 

 わわっ、くすぐりっこなら負けないぴょん! 二人でけらけら笑いながら、一緒に炬燵で蜜柑食べたぴょん。でも恥ずかしいから、そう呼んで甘えるのは二人の時だけ。それに、この頃はもう、おかしゃんはいつも具合が悪かったぴょん……。おとしゃんをそう呼ぶのはもっと恥ずかしかったぴょん。だからまだちゃんと呼べてないのね。

 

 「そのうちさ~、みんなで旅にでも行きたいねぇ、うん。旅先でさ、おせんべい焼いて売るの」

 

 おとしゃんは炉辺持参での旅かぁ、と笑ってた。でも、そのうちは来なかったぴょん。だから、「そのうち」って言葉は嫌いぴょん。それから、おとしゃんはおせんべを焼かなくなった。

 

 店長(おとしゃん)は、心に蓋をしちゃった。泣くことも怒ることも笑うこともなくなったぴょん。遊んでくれないから、つまらないぴょーん……。お店も『臨時休業』の張り紙を出したまま。しばらくの間は、うちのおせんべを買いに来たのに買えなかったお客さんがぶーぶー言ってたけど、そのうち誰も来なくなって静かになったぴょん。

 

 ……でも、いつまで経ってもお店は再開しないぴょん。もう臨時じゃなくて常時休業。そうすると噂に尾ひれどころか羽まで生えて、好き勝手に飛んだり泳いだりするぴょん。親一人子一人さらにおとしゃん無職のおうちの子、それがこの地区でのうーちゃんの立ち位置。きっとそういうことにしたいんだろうな。ふん、そんなの関係ないぴょんっ! おとしゃんはねぇ~、たいしょくきんいっぱい持ってるんだぞぉ~。

 

 

 毎日は何かをするには短く、何かが変わるには長くて、『スーパー北上』の看板だけは、ずっとそのままだぴょん……。

 

 

 

 いつものように学校から帰ってくると、誰だろう、茶色い髪の女の人がお店の軒先に立ってるぴょん。じっくり観察するぴょん。

 

 「ここね……」

 

 林檎的なスマホの画面を指でしゃっしゃってしてるぴょん! おおー、できるオンナっぽいぴょん……と思ってたら雨戸をがんがん叩きだすとはっ!! おうち壊れるっ!!

 

 「や、やめるぴょん! いったいお前は誰ぴょんっ!? そこはうーちゃんのおうちだぞぉ~っ!!」

 「あら、あなた……卯月じゃない」

 

 できるオンナ、じゃなくてアブないオンナに大急ぎで駆けより、必死に乱暴しないよう止めに入るぴょん! 大きなサングラスを外したその顔を見て、うーちゃん、腰を抜かしそうになったぴょん。

 

 「ふぇえぇ! お、大井っちだぴょんっ!」

 「何がふぇえぇ! よっ。そっか、学校から帰ってくる時間だったのね。ちょうど良かったわ、早く鍵を開けてちょうだい。私はここの()()に用があるのよ」

 

 おとしゃんは提督じゃないもん、店長だぴょん。ふんすと胸を張る大井っちをジト目で見る。輸送護衛任務で何度も一緒になったことがあるぴょん。兵学校でも教官をする程の人だから、任務の途中でもうーちゃん達駆逐艦はシゴかれたぴょん……。ケッコンカッコカリのてーとくとそのまま結婚して外地でりっちまだむ的に暮らしてるとか噂を聞いたことがあるけど……。そういえば、おかしゃんはよく『うちのおせんべい、大井っちにも食べさせたいよねー』って言ってたっぴょん。

 

 たたっと駆け出し、お店の裏手に回り込んで玄関に向かうと、大井っちも付いてくるぴょん。

 

 

 

 「……お茶だぴょん」

 

 仕方がないのでおとしゃんがいる居間まで大井っちを案内したけど、空気が重くてイヤになるぴょん。おとしゃんはすごくびっくりしていたぴょん。でも久しぶりに、表情っぽい表情を見た気がするぴょん。でもって案の定、座卓を挟んで、おとしゃんと大井っちは向かい合う。でも何もしゃべらないぴょん。

 

 うーちゃんの淹れたお茶をずずっと飲んで黙っているおとしゃんに、痺れを切らした大井っちが口を開いた。

 

 「私がわざわざこんな片田舎まで来たのは、北上さんの言ってたことが本当か確かめるためよ。北上さんは時々手紙をくれたわ。メールとかじゃなく手書きの手紙なんて、いつの時代よ、とか思ったけど北上さんらしくて可愛かったわ……。北上さんは、あなたと卯月と暮らせて本当に幸せだって何度も何度も書いてた。この店のおせんべい、私にも食べてほしいって。送ってもいいけど味が落ちるから、帰国した時にお店に来てね、って」

 

 そこまで言うと、大井っちもずずっとお茶を飲み一息ついたぴょん。そして、急に怖い顔になって、おとしゃんに詰め寄り始めたぴょん。あまりにもすごい剣幕で、うーちゃん、思わずちびりそうになったっぴょん。

 

 「……なのに、北上さんは……。分かってる、不十分な修理のままだったのが良くなかったってことぐらい。でも…あなたも元提督なんでしょうっ!?  何でもっと早く北上さんの不調に気づかなかったのよっ!? 気づいたら何ですぐに手を打たなかったのよっ!? 北上さんは『せっかく平和になったしさ、店長を海軍と関わらせたくないんだよね~』なんて言ってたけど……ふざけないでっ!! 結婚したんでしょうっ!? どうして……どうして……」

 

 そこまで一気に言い募ると、両手で顔を覆い大井っちは肩を震わせて泣き出したぴょん。見てると、おかしゃんの事を思い出して、うーちゃんも泣けて……くるぅ……うわあぁぁぁぁぁん!!

 

 けっこうな時間が経って、大井っちはやっと泣き止んだぴょん。うーちゃんは……ぐす……おとしゃんが頭を撫でてくれたから平気……だぴょん……ぐすっ。

 

 「みっともない所を見せたわね、忘れてちょうだい。……ねえ、この店自慢のせんべいを出してくれる? 北上さんの言ってた『幸せな味』を、私は確かなきゃ。もしその通りの味なら、きっと北上さんは幸せだった、そう思うようにするわ。でも、もし違ったら……」

 

 ……おとしゃんはもう、おせんべ焼いてないぴょん。思わずおとしゃんの顔を見上げる。くしゃって顔を歪めてとっても辛そうぴょん。でも……口元が動いたぴょんーー。

 

 「はあっ!? もう焼かない? どういうことよ一体っ!?」

 

 そんな急に立ち上がるから、湯呑みが倒れたぴょんっ! おとしゃんはそれきり大井っちが何を言っても口を開かないぴょん。大井っちがどんどん怒ってるぅ~。どれだけ言っても何も言わないおとしゃんには呆れてるみたいだぴょん。

 

 「……分かったわ。今日は帰ってあげるけど、日本を離れる前にもう一度来るわ。その時までに用意しておきなさいよっ!!」

 

 怒りんぼの大井っちは、ぷりぷり怒りながら帰って行ったぴょん。怖かった……。おとしゃんは何も言わずにお片付けを始めたぴょん。その背中を見てると、何だか……。

 

 

 -ーほんとにこのままでいいの……?

 

 

 

 片田舎の学校の校門そばに横付けされた真っ赤な車、かっこいいぴょん! 車の顔の真ん中ら辺でお馬さんが跳ねてる、この辺でこんな車見た事ないぴょん、みんなわらわら群がってべたべた触ってる。ぃよお~し、うーちゃんもっ!

 

 「大きさの割に生徒は少なそうね。小中学校が一緒なの? あぁこらっ、触んないでよっ!」

 

 うぉぉぉぉっ! びっくりしたっ。車の反対側から大井っちがぬうっと出てきたぴょん。

 

 「……乗りなさいよ、家まで送ってあげる。少し、お話したいこともあってね」

 

 じとーっと大井っちを見る。またおうちに来ておとしゃんをいじめるつもりだなぁ~。うーちゃんの視線に気付いた大井っちは苦笑いを浮かべながら肩をすくめてるぴょん。

 

 「安心しなさい、用があるのは提督じゃなくてあなたよ」

 

 

 

 「うぉぉぉぉぉぉっ! い~けぇ~、いぃ~けぇ~っ!!」

 

 す、すごい速さだぴょんっ! ハンドルが左に付いてるっ! おうちの軽トラの荷台に乗るのと全然違うぴょん!

 

 「比べないでよね、そんなのと」

 

 大井っちはそう言いながらどこか楽しそうぴょん?

 

 「うちの人がね、そろそろ日本に帰ろうか、って言いだしてね。今回は住む所を探したり色々書類手続きをしたりしに来たのよ。卯月の家に寄ったのは、そのついで。……もちろん、北上さんがどんな暮らしをしてたのかにも興味はあったんだけど……」

 

 あっという間におうちに着いて、車の中で色々話をしたぴょん。おとしゃんと毎日何をしてるのか教えてあげたぴょん、えっへん! おとしゃんはねぇ~、おとしゃんはねぇ、朝ご飯を作ってくれて、お洗濯も掃除もしてくれて、宿題も教えてくれて、晩ご飯も作ってくれて、夜は一緒に寝てくれる。でも、そういえばおとしゃんの方からうーちゃんに話しかけてもらったのって……あれ、いつだっけ?

 

 じっとうーちゃんの話を聞いていた大井っちは、何か言いたそうにしているぴょん。

 

 「卯月……うちに来ない?」

 

 

 …………はい?

 

 

 うーちゃんの頭の中は、はてなマークでいっぱいだぴょん。よそに遊びに行く時は、おとしゃんに言わないとだめだぴょん。

 

 「そうじゃなくて、私と……家族として暮らさない? そう言ってるの。これ、何か分かる?」

 

 大井っちはそう言うと、バッグから手紙の束みたいのを取り出したぴょん。

 

 「これは全部北上さんから来た手紙。最後まであなたと……提督の事ばかり書いてあるの。北上さんが一番大事な時に、私は何もできなかった。ならせめて、私はあなたを幸せにしたい。そうすることが北上さんの気持ちに応える事だと思うから……」

 

 びっくりしすぎると固まって何も言えなくなるぴょん。ただじっと大井っちの目を見つめる。

 

 「北上さんはお母さん、でも提督は店長って呼んでるんでしょう? 今の暮らし、本当にあなたのためになるのかしら? あの提督……自分の殻に籠っちゃって。そりゃ北上さんがいなきゃ、誰でもああなるだろうけど、でも彼にはあなたもいるのよ? 北上さんもあんな男のどこがよかったんだか……」

 

 「おとしゃんを……悪く言う人は大嫌いだぴょん」

 

 絞り出すように、それだけやっと言ったぴょん。

 

 -ーまた一週間後に来るからその時に答を聞かせて。よく考えてね。

 

 そう言い残して大井っちは帰ったぴょん。最後にごめんね、と言いながらうーちゃんの頭を撫でてくれた手は、少しだけおかしゃんに似てた……。

 

 

 

 大井っちに言われた事、頭から煙が出そうになるくらい、一生懸命考えた。そして決めたぴょん。うーちゃんがどんだけ幸せか大井っちに見せるのでっす! そのためにはぁ〜。

 

 「よいしょ、よいしょ……意外と重たいぴょん。確かこれはこっちに置いてたような気がするぴょん」

 

 雨戸を開けて土間にお日様を入れて空気も入れ替え。それから、ずるずるざりざり、物置からコンクリートの土間に長くて分厚い板を二枚、短めの板を二枚、内側に置く金属製の炭入れと金網と……。あとは……あれ? 何か足りないような気がするぴょん? まあいいや、取りあえず組み立ててみるぴょんっ!

 

 

 ためになるって何?

 

 うーちゃん、よく分からないけど、このおうちでおかしゃんとおとしゃんと一緒にいた時間は、宝物だぴょん。左側におとしゃんが座って、おせんべを焼く。右側でおかしゃんがお醤油を塗って、焼いて、引っくり返して。それをうーちゃんが紙袋に入れる。あの時間、焦げたお醤油の匂いのする炉辺で、みんなでにへらって笑っていたぴょん。今はおとしゃんしかしないけど、でも……でも、おとしゃん全然笑わない。だから、うーちゃんがおかしゃんの代わりをして、おとしゃんに笑ってもらうのでぇす! びしっ!

 

 居間と土間を仕切ってる障子がすうっとあいたぴょん。こんな朝早くからがたがたやってたら、おとしゃん気付いちゃったぴょん。あれ、おとしゃん、顔が強張ってる……そんな怖い顔しないでほしいぴょん。あ、あのね……う、うーちゃん……。

 

 「うーちゃんと一緒におせんーー」

 

 冷たい声で遮られて、最後まで言わせてもらえなかったぴょん。うーちゃん、口がからからに乾いてきたぴょん。おとしゃんはくるりと背中を向けちゃった。待って、待ってよ、うーちゃんのお話、聞いて欲しいぴょん。

 

 「うーちゃん、おかしゃんの代わりに頑張るぴょんっ! だから……またおせんべ焼いてーー」

 

 おとしゃんの動きが止まったぴょん。もう一回くるりと振り返ったけど、泣くのを堪えてるような不思議な表情をしているぴょん。は? 今何て言ったっぴょん? ひどいっ、おとしゃんを放っておけるわけないぴょん!! おとしゃんが嬉しいと、うーちゃんも心がぴょんぴょんする。でもおとしゃんが悲しいと、うーちゃんも心がちくちくする。だって家族だぴょん。なのに……なのに……。

 

 「うぅ~……ばかぁ……ばかあぁ~~!!」

 

 泣きながらお店を飛び出した。大井っちの言った言葉が頭をぐるぐるして、とっても悲しくなったぴょん。

 

 

 

 朝から晴れてた空が、急に曇ってどしゃぶりになったぴょん、夏空のばかぁ。おうちを飛び出したのに、これじゃぁどこにも行けないぴょん……なので軒下にずるずる腰を下ろして、立てかけてあった波々した錆びたトタン板で自分の前を覆って雨除けにしたぴょん。これで道路からうーちゃんは見えないぴょん、うん、安心なのだぁ。

 

 たんたんたんと雨がトタン板を叩く音。雨と土の匂いに鼻がくしゅんってなったぴょん。誰ぴょん、風除けどけたのは?

 

 おとしゃんがずぶ濡れになって立っていたぴょん。髪もぺったり、服もぐっしょり、顔を雨がしたたってる。この雨の中、傘も差さずにうーちゃんを探してくれたの? 目の前の姿がみるみる歪むぴょん。

 

 「お……と……おと、しゃ……おとしゃぁ~んっ!!」

 

 涙声で鼻水たらしたまま、おとしゃんの胸に飛び込んだ。普通に、やっとおとしゃんって呼べた……自然に口から出たぴょん。あっという間にうーちゃんもびしょぬれぴょん。おとしゃんと二人で逃げるようにお店に戻る。

 

 ぽいぽいと濡れた制服を洗濯籠に入れてお洋服を着るうーちゃん、おとしゃんも着替えて、土間に集合だぴょん。二人並んで(あが)(かまち)に座ったら、わしゃわしゃとバスタオルで頭を拭いてもらう。くぅ~、きもちいいぴょん。そしておとしゃんがゆっくりと話しはじめたのはーー。

 

 いつも通りおせんべを焼こうとすると、いつも右側にいたおかしゃんがいないのを思い出して、それが辛くて悲しくて、炉辺に行きたくなくなったってお話。おとしゃん、おかしゃんのことほんとに好きだったぴょん……。

 

 「うーちゃんもおとしゃんの事、とってもとっても大切だぴょん。うーちゃんと一緒じゃ、おせんべ焼いてくれないぴょん?」

 

 おとしゃんはにっこり笑うと、うーちゃんの頭をぽんぽんして、それ以上何も言ってくれなかったぴょん。ダメなのかな……。その日の夜は考え事ばかりでよく眠れなかったぴょん……。

 

 次の朝、土間に炉辺が完成していた。え? え? もしかして……もしかしてっ!? 炉辺の陰にしゃがんでたおとしゃんが立ち上がって、にっこり笑ってるぴょん!

 

 

 『スーパー北上』に、炉辺が帰ってきたぴょん。

 

 

 

 「へえ~、おせんべいってそうやって作るのね。知らなかったわ」

 

 大井っちがまたやって来たぴょん。どおだぁ~、これがスーパー北上のおせんべいだぴょんっ!

 

 おとしゃんが上新粉で団子を作って、うーちゃんが薄く延ばして天日で乾燥させるぴょん。左側に座るおとしゃんがいい感じに乾いたら炭火で焼き、程よくおせんべが焼けたら、少し離れて右側に座るうーちゃんの出番っ。醤油だれを塗ってまた焼くぴょん。ぱちぱちと爆ぜる炭の音、菜箸でおせんべいを引っくり返す時に金網が小さく鳴る音、炭に垂れた醤油が焦げるじゅって音、美味しそうだぴょんっ♪

 

 ん? やだなーおとしゃん、急に頭をぽんぽんして~、恥ずかしいぴょん。おとしゃんの方を見ると、おせんべを焼いてて、うーちゃんの視線に気づいてこっちをみたぴょん。あれ? 確かに髪の毛に触れられた気がしたのに……? おとしゃんもうーちゃんの方を不思議そうに眺めてるぴょん。あの触り方……そういえば、おかしゃんにそっくりだったぴょん。

 

 目をぱちぱちさせ、大井っちが驚いたようにこっちをまじまじ見てるぴょん。どおしたのかな?

 

 「そっか……もう十分に分かったわ。店長、焼き立てを一〇枚ちょうだい。あ、そうだ卯月、こないだの話だけど……忘れなさい」

 

 一〇枚セットだとぉ~。紙箱を組み立てて、おせんべ入れて、ふたをして、手提げの紐をつけて……うーちゃん今忙しいぴょんっ! ん? 大井っち、何か言った?

 

 「何でもないわ。できた? ああ、お釣りはいらないわ。それじゃあね、()()とも」

 

 見えない誰かに話しかけるように、ひらひら手を振って大井っちは帰って行ったぴょん、変なの? でも、それでもいいぴょん。うーちゃんとおとしゃんの間に、いつものお下げ髪で褞袍を着たおかしゃんがにへらって笑ってるような気がするぴょん。きっと、止まっていた時間が動き出したから、そんな気がするだけ? でも今は、それでもいいぴょん。

 

 

 時間は短くて長くて、変わる事も変わらない事もあるぴょん。でもおとしゃんとおかしゃんと、スーパー北上は、ずーっとうーちゃんの宝物だぴょん。


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