精霊の愛し子   作:建宮

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3話

 事の始まりは、グラモン家の四男ギーシュ・ド・グラモンの浮気癖から発展した騒動だと教員は言った。ルイズはいったい自分の使い魔のフランメがどこで関わったのか分からずに首を傾げる。

 確かに、ルイズも様々な家の子女に声をかけるギーシュを見た事はあるが、流石に他家の使い魔に声を掛ける程に馬鹿だとは思っていない。

 

「どうやら例の神官が必要以上にグラモン家に追求したのが問題のようです」

「はぁ? 事実を言って何が悪いのよ」

 

 必要以上に。などと言っているがルイズからしてみれば、股にかけていたギーシュが悪いとしか思えない。

 

「いや、しかしですね、グラモン家にも体面があったのでしょう。ヴァリエール家の使い魔に決闘を申し込んだのです」

「なんですって?」

 

 グラモン家は代々トリステイン軍に優秀な人材を多く排出している名門で、現当主は元帥の地位にいる軍系の有力貴族。

 対してはヴァリエール家は王族とも縁が深く政治的に大きな権限を握っている政治系の有力貴族……どちらが上と言う事は簡単には決めにくいが、故に気軽に衝突を起して良い訳ではない事は両者共に強く言い付けられているはず。

 

「へぇギーシュが。多少の悪口に腹を立てては大貴族の懐を疑われるから我慢してたけど――潰していいのよね?」

「これこれ、貴族の子女が物騒な事をいうでない。で? 話では生徒同士の決闘なのじゃろ? その後どうなったのじゃ」

「それが、浮気をされていた子女達が小さな女の子に決闘を申し込んだ事に腹をたて、代理と言う事で戦っているのです。それで、その、明らかに殺意的なモノを持つ子が何名か」

「ふんっ」

 

 あんな決闘もまともにした事も無いような子女達が殺意だなんて馬鹿らしい。とルイズは鼻を鳴らした。

 

「では、急いで止めないといかんの」

 

 さほど慌てた様子も無くオスマンはゆっくり立ち上がる。

 本来、学生同士の私闘程度で学院長が自ら止めに行く事はないが、オスマンは目の前のルイズがギーシュを再起不能にしかねないのがわかっており、数少ない本当に手を下せる貴族だと言うのを知っているからに他ならない。

 

「ミス・ロングビル。マジックアイテム、眠りの鐘を準備しておいてくれ」

「はい」

「やれやれ……喧嘩の仲裁など、老体には堪えるわい」

 

 ルイズは大げさに老体を強調するオスマンを胡散臭いと睨みながら遅れないように着いて行った。

 

 

 

 

 

 

 ルイズ達が現場に着くと、教員が慌てていた程には大変な事態には見えず、少しだけ脱力した視線で未だに続いている決闘を見詰めた。

 

「待ってくれよ、レディ達! いや、ほんと待って! 死ぬから、それはやばいよ!」

「うるさい死ね!」

「そうよ! だいたいその態度はなに?!」

「はやくフランメちゃんに謝りなさい!」

 

 ギーシュと子女達は学院長達に気付いてはいないが、周りの生徒は学院長の姿に、今回の決闘はお咎め無しでは無いと思い蜘蛛の子が散るように道をあける。

 ルイズすぐに周囲を見渡して、話通り決闘を行うギーシュ達の間に立つフランメを見つけて駆け寄った。

 

「フランメ! 怪我は無い?!」

「あ、ルイズ様」

 

 フランメはルイズを見つけると困り顔を混ぜながら微笑む。何も知らない人が見れば、修道女らしい慈愛も子供らしい未熟さもあって、可愛いらしいとか守りたいとか思うのだろうとルイズは思った。

 

「大丈夫みたいね」

「ルイズ様、皆さんを止めて下さい。愛のある同士が争うなんて精霊様が悲しみます!」

「――そう言う教えなのね」

「え?」

「まぁいいわ。貴方が本当は全く興味も無く普通に怖がってるだけって分かるけど、私の使い魔に喧嘩を売ったギーシュは罪だもの。ヴァリエール家に恥じない報いを受けさせてやるわ」

 

 ルイズは杖を構えて争う両者の中心を睨み付ける。鐘の音が聞こえてきてマジックアイテムが届いた事を理解したけれど構わず魔法を行使する。

 

「凄いです、ルイズ様」

 

 ギーシュが生み出した青銅の兵隊も、子女達が作り出した様々な魔法も、跡形も残さず爆発させた。

 

「そう? 知らない事とは言え嬉しいわね。ただ、誤魔化すつもりはないから先に言うけど、あれは失敗魔法よ。私が魔法を使おうとすると絶対爆発しちゃうの――だから、ゼロのルイズ」

 

 爆発の後に遅れて届いたマジックアイテムの効果で、争っていた両者は倒れこみ眠っていた。それをきちんと確認して、ルイズはフランメに向きなおす。

 

「……ごめんなさい」

 

 自虐的なルイズの言い方に、フランメは顔を伏せて落ち込む。

 

「いいのよ。ところで、なんでギーシュの浮気を殊更に追求したの?」

「追求?」

「違うの?」

「よくわかりません」

「分かりませんって貴方ねぇ……まぁギーシュが起きたら問い詰めるわ」

 

 それより。と、ルイズはフランメを探す際に、周囲を見渡して見慣れた赤い髪が視界に入った事を忘れてはいない。

 

「キュルケ! アンタがいるなら止めれたでしょうが!」

 

 ルイズは既に決闘していた者達はオスマン達に任せて、離れたところで静観していたキュルケに詰め寄る。

 

「なぁんであたしが止めないといけないの。それに、人の恋路に首を突っ込んで良い事なんてないのよー」

「フランメが怪我したら大変でしょう!」

「大丈夫よ、まったく過保護ねぇ。その子もメイジなんでしょ? しかも先住魔法の使い手」

「……は? え? ちょ、なんでアンタが知ってるのよ!」

「ギーシュの奴と話しているフランメちゃんが杖無しで火を操っていたからよ。同じ火の系統として気付くなって方が無理よ。タバサも分かったよね」

 

 キュルケが寄りかかっていた木の後ろに回って、二人の言い合いに巻き込まれないようにしていたタバサを引きずり出した。

 

「薄く見えない火だったから、平気」

「薄い火?」

「そう。だから、私達しか気付いてない」

「もぉタバサ! せっかく面白そうだったのにすぐにバラさないのっ」

「面倒」

 

 ルイズはギーシュに対して先住魔法を使おうとしていたのか聞く為にフランメを見る。しかし、とうのフランメは膝を付いて一心に祈っていた。

 

「くっ、このタイミングで祈りとか」

「あらら、それにしても、絵になる子ね。さて、あたし達は先に戻ってるわね。先生達に捕まって事情を聞かれる感じになりそうだもの」

 

 キュルケ達が去っていくのに納得はできていないが、フランメをまた一人にすると何が起こるか分からず不安だったので、ルイズは結局フランメの祈りが終わるまでその場で見守る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 ルイズは足早に廊下を歩く。フランメは歩幅のせいなのか徐々にルイズから遠ざかり、ルイズがそれに気付いては速度を緩め、そしてまた段々と早くなってを繰り返しながら医務室まで辿り着く。

 

「まさか祈るのにあんなにかかるとは思わなかったわ」

「ごめんなさい」

「いいわよ」

「……ごめんなさい」

 

 扉の前でくるりとルイズは振り向きフランメの頬を摘んだ。

 

「い・い・わ・よっ!」

「るぃひぃじぃさふぁ」

「あ?! なに! しっかり話しなさい!」

「うえーん」

「ふふっふふっ」

 

 素直に泣くフランメにルイズは悦に浸る。

 誰も居ない時や突飛な行動。そう言う時に、フランメの仮面とも言える整った笑顔が崩れる事をルイズはこの短期間でしっかり把握していた。

 

「さて、あまり医務室の前で騒いでいると怒られてしまうわね。入りましょう、フランメ」

「うぅいじわるです。ルイズ様」

 

 赤くなった頬を摩りながら瞳にたっぷりと涙を溜めていたフランメも医務室に入れば、人当たりの良い微笑みに戻っている。

 流石に赤くなった頬まで戻る訳では無いので、いまならルイズで無くともフランメが無理をしている事に気付けるかも知れない。

 

「失礼します、ミス・ロングビル」

「あら、ミス・ヴァリエール。まだ授業中なのでは?」

「こちらが気になったで欠席しました。しかし、まだ誰も起きていないようですね」

「魔法を連続で使用し、魔力が少なくなっている時にマジックアイテムの効果を受けたせいでしょう。通常より深い眠りに入ってしまったようです」

 

 理由はどうあれ、ルイズはギーシュが起きていたらフランメに謝らせようと思っていた。無論、ギーシュが素直に謝らなかった時を考えて実力行使に出る事も辞さないつもりでいる。

 

「それにしても。ミス・ヴァリエールは珍しい使い魔を呼びましたね」

「まぁえぇそうですね」

「コルベール先生が仰っていましたが刻まれたルーンも変わっているとか」

「ルーンが、ですか?」

「ええ、完全に解読できてはいないそうですが、単なる契約の印だけでは無いようです」

 

 フランメの頬に刻まれたルーンの火傷。確かにルイズも凄い使い魔を召喚した時の為にルーンを調べてはいたが、一生徒が閲覧できる文献の中には無かった。

 

「いまも解読の真っ最中だと思いますから、時間がある時にコルベール先生の研究室に伺ってみると良いですよ」

「はい、ギーシュ達も目を覚まさないみたいですし、この後に伺ってみます」

 

 暫くロングビルと話をして、今日中にギーシュの謝罪を聞く事は無理そうだと判断したルイズは、諦めてコルベールが居るであろう火の塔周辺の研究室に向かう事にした。

 

 

 

 

 

 コルベールは他の教師に比べると少々変わり者に属する。

 

 卑屈そうで馬鹿にされがちだが、時折見せる表情は軍属の者を思わせる。ルイズは元軍属で退役後にオスマンに拾われたのだろうと考えている。なので、周囲の評価ほど侮ってはいないけれど、普段のコルベールを見ているとどうしても下に見てしまっているのは仕方の無い事だった。

 

「いつ来ても苦手なのよね」

 

 独特で鼻に付く薬品の臭い。ルイズもポーション作成などで多少は耐性があるものの、下手をすれば研究室外まで漂いそうな強い臭いに制服に染みないか心配になる。

 

「ミス・ヴァリエール! 丁度良いところに来ましたね」

「コルベール先生、すみません。使い魔の事で貴重な時間を割いて頂いてお礼は後日させて頂きます」

「お礼なんていりませんよ。生徒の事なのですから当然です、それより、彼女の事で少し分かった事があります」

「もうですか?!」

「精霊狂会は戦場の魔法使いにとっては……ああ、いえ! その子の教会は古くからあり色々と有名なのですよ。それに特殊な存在であるからして、文献も少なからず保管されています」

 

 コルベールが口滑りそうになったのを見逃しはしなかったけれども、ルイズはコルベールの手元にある文献のルーンがフランメの鎖骨に刻まれた印に似ている事に気付き口を閉じた。

 

「本来ならば生徒は閲覧禁止ですが、主人であるミス・ルイズは知っておいた方が良い事ですからね」

「先生。ちょっと後ろを向いてもらっても?」

「はい? 分かりました」

「ごめんね、フランメ」

「ルイズ様?」

 

 小首を傾げるフランメが理解しきる前に、ルイズは素早くフランメの祭服を紐解き鎖骨の印を睨み付ける。

 

「きゃあ!」

「ど、どうされたのです!」

「コルベール先生は見ないで下さい!」

 

 フランメの小さな悲鳴を聞きコルベールが何事かと振り向く、しかし、ルイズが止める声と同時にコルベールの眼前に火花が散った。

 

「精霊様々ね」

 

 どうせ精霊の仕業なのだろう。ルイズはこれまでの経験でそう理解する。

 ――しかしそんな事より、フランメがいつもより強めに法衣の紐を締めてルイズから二歩ほど離れた事にショックを受ける。

 誰でも受け入れてくれそうな優しい微笑みを浮かべてはいるが、真意を読み解くまでも無く、物理的な距離がフランメの心の内を表していた。

 

「こ、これが精霊の寵愛を受けた者の力ですか」

「寵愛?」

「はい。いま私が開いているページは古くから伝わる、火の精霊の寵愛を受けた者が身に宿す証だそうです。少女の肌を見て口にするのは憚れますが、ちらりと見えた火傷痕がこの印と同じでしたね」

「……見た、んですか?」

「ああ! いえ! 決して! 疚しい気持ちはありません! 学術的にはとても気になりますが、見せて欲しいなどと言うつもりはありません。ありませんよ!」

 

 ルイズは目の前で視界を遮るには十分な火花が散っていたのに、きちんと印が見えていた事に驚いたのだが、ルイズの意図していない強い口調にコルベールは完全に違う意味で捉えていた。

 

「そんなの当たり前です」

「そ、そうですね」

「聞いてもいいですか?」

「もちろんです。現段階で判明している事ですが、フランメ。この名は代々火の精霊の寵愛を受ける子に与えられる名前であるそうです。他にも三つの名が記されていましたが、どの人物も歴史を揺るがす程に大きな出来事に登場しています」

 

 コルベールの見せてくれた歴史的な出来事は戦争であったり厄病であったり、何の共通点も無い。強いて言うならば、コルベールが言った通り歴史的な書物に記されるだけの事はあるモノばかりであった。

 

「あの……どれも中途半端ですよね」

 

 フランメ達の活躍はどの文献でも大きくは描かれていない。

 理由は貴族特有の見栄なのだろうとルイズも同じ貴族として理解はしている。しかし、それにしても残そうとしているのにきちんと描写しないと言う矛盾にもやもやした気持ちを抱いてしまう。

 

「意図的にぼかしてあるのですよ」

「意図的? この著者が上級貴族に媚を売っただけではないのですか?」

「そう言う見方も出来なくはないですが、それにしては不自然さが目立ちます。それに、この著者は名のある貴族ですよ……媚を売る必要もありません」

「確かに、名前だけなら私も聞いた事があります」

 

 家柄としては決して大きくはなかったが、過去のトリステインの穀物を支え、王家に対してそれなりの発言できる立場にある者だったと記憶している。

 ただし、ルイズはこの人物に歴史的な著者と言うより、詩人としてのイメージが強かったので少しだけ意外にも思っていた。

 

「そうでしょう、貴方達の世代だと詩人としてのイメージが強いと思いますが、彼の初期作は政治の在り方を解いたモノだったのですよ」

「へぇ知りませんでした」

「オホン、まぁいまは関係ないので興味があれば講義いたしましょう」

「はい、いずれ伺います」

「断片的ではありますが、彼だからこそ断片を書けたと考えた方が正しいと私は思います。寵愛を受けし者、かの者達は歴史の分岐に現れて成して消えていきます。つまり、ミス・ヴァリエール」

「はい」

「貴方には歴史的な何かが訪れるのかも知れません。それは恐らく危険な事でしょう、ですが、私を含め学院は貴方の味方です。必要があれば……いえ、必要では無くとも幾らでも頼ってください」

「ありがとうございます」

 

 文献に書かれている事が真実でそれが我が身に起こるとしたら。例え学院を総動員しても対処が困難だとルイズは思う。そして、それがフランメ一人で左右されるとも全く思わない。

 それでも、この様な事態が起きた場合。誇り高き貴族であれ、と教育された自分は逃げる事はしないとそれだけは確信が持てた。

 

「少し、驚かせ過ぎましたかね」

「い、いえ、とても参考になりました」

 

 コルベールは冷めてしまった飲み物を変える為に一度奥に引く。

 

「思ったより、優秀な教師なのかしら? ね、フランメ」

「あの方の愛は本物ですよ、ルイズ様」

「愛?」

「はい、生徒を思いやる気持ち。それすなわち愛です!」

「つまり、真剣に悩んでくれてるって事ね」

「はい」

 

 火の精霊がフランメに纏わり付くように現れて、ルイズがフランメの真意を覗くのを妨害した。

 

「はいはい、もう気にしない事にするからフランメから離れなさい。熱いわ」

「ルイズ様?」

「精霊に言っているのよ。精霊は言語を介さないのだとばかり思っていたけれど、何と無くフランメを見ようとした時に嫉妬されてる気がするのよね」

「嫉妬、ですか」

 

 ルイズは人の感情に敏い。それは公爵家に生まれて数多く自分を利用しようとした人間に出会ってきたから、自然と身についた防衛術でその精度は少ない情報の中ではかなり信用に値すると思っている。

 

「もしくは独占欲、なるほど寵愛とは言ったものだわ」

「精霊様は命あるもの皆を愛しています」

「そう」

「なので、ルイズ様の意見には賛成できません」

「そう」

 

 素っ気無い返事をしながら現れ続ける精霊を睨む。ルイズは暫く火の精霊が弱まるまで根気強く続けて最後にはフランメの周囲から精霊は完全に姿を消した。




コミック版と睨めっこしながら執筆しているのですが、いまのところ召喚前の過去を変えないといけないと思っているのはルイズくらいです

具体的にはヴァリエール夫婦を親馬鹿にしようと考えています。なので、それに派生して変更していく形になると思います……まぁまだ構想段階なので適当に流して下さい
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