精霊の愛し子   作:建宮

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今回はちょっと短めです


7話

 吸血鬼が学院に侵入した件は教師達が口止めを行っていたにも関わらず、数日の内に生徒全員に話が広がっていた。

 巻き込まれたフランメは当然の如く注目を集める。しかし、不思議とキュルケとタバサが近づいてくる貴族を率先して払っていたのでルイズが何をするまでもなくフランメが好奇にさらされる事は最低限に収められた。

 

「まさかタバサまで協力してくれるなんてね」

「貴方には期待してる」

「期待?」

 

 ルイズは自室の隅でタバサが本を読む姿が、この数日で起きた大きな変化だと思っている。そして、タバサがルイズの部屋にいる事で、いままででは想像も出来なかった事が起こる。

 

「おっはよー! あら、タバサったら、もう居たのね」

「キュルケ、貴方にはノックも無しに入ってきて良いなんて許可を出した覚えはないんだけど?」

「いまさらじゃない?」

 

 親しげに部屋に訪れるキュルケ。

 

 ツェルプストー家とヴァリエール家の人間がここまで親密な間柄になったのは始めてではないだろうか。ルイズもキュルケがフランメの為に訪れてきている事が分かって居るので無碍にはしないが、それでも何だか納得でない、と言った気持ちがルイズの中にはあった。

 

 キュルケは部屋に入ると、タバサに一声かけてフランメを構いに行く。主にオシャレに関係する事を一方的に話している。

 

「じゃーん、どんな人でも虜にするって巷で噂のマジックアイテム。魅惑の口紅! フランメちゃんにプレゼント!」

「キュルケ様。わたしは精霊様の信徒です、過度な化粧や装飾は控えておりますので」

「そうなの? むぅ、残念だわ。でも、せっかくだからもらってちょうだい……あ、ルイズ」

「なによ」

 

 谷間から取り出された手紙にルイズは拳を握って舌打ちをする。

 

「ほら、貴方によ」

「普通に出せないの?」

「ここにしまうのが楽だったのよ」

 

 乱暴に受け取り差出人を確認すると、学院長であるオールドオスマンの名前が記されていた。

 

「学院長から?」

「そうよ。フランメちゃんの事をロマリアに問い合わせたんだって」

「ああ、そう言えばお願いしてたかも」

「もう確りしてよね。で? 何て書いてあるの?」

「何でアンタに教えないといけないのよ」

「ん? だって気になるじゃない」

 

 まったく理由になってない。そう思いながらも特別隠している訳では無かったので、ルイズは軽く目を通してキュルケに向かって手紙を投げる。

 

「ん~、貴方が敬虔なブリミル教徒である事を喜ばしく思う? えぇと、早い話、フランメが貴方の使い魔になる事はロマリア的には歓迎しているって解釈していいのかしら?」

「ええ、そうよ。その子の言う精霊の教え。と言うのも、きちんとブリミル教の一部と書いてあるわ」

 

 他にも色々とロマリアが特別な計らいをすると教皇の名において約束されている。

 

「破格と言うか何というか」

「まぁ若干胡散臭いけど、聖下に信徒として褒められるのはブリミル教徒として誇り高いことだわ」

「あたしはそこまで信心深くはないから、ふぅん。で終わりね」

「ったねぇ。フランメもわたしも気にしないけど、外であんまりそう言うこと言わない方がいいわよ」

「心配してくれてありがとう。でも、他国の貴族に価値観を押し付けるなんてそうはいないでしょ」

 

 本を閉じる音で会話が止まる。

 二人の視線を集めたタバサは気にも留めずに積み重なった本から新たな一冊を抜き出す。

 

「興味があるとは言え、タバサがここまで肩入れするなんて珍しいわね」

「……ん」

「あら? 今日は偏った本が多いのね」

「吸血鬼対策」

「ああ、なるほどね。先住魔法ねぇ、ルイズルイズ」

「名前を重ねないでくれる?」

「これには精霊に強い意思はない。みたいな書き方だけど、どう考えてもフランメちゃんの周りの精霊はそうは見えないわよね」

 

 それはルイズも当初から思っていた事である。広義では精霊に意思は無い事になっているし、個人を贔屓するなんて御伽噺としか考えれない。

 

「私だって不思議に思ってるわよ」

「ねぇフランメちゃん、精霊と会話とかできるのかしら?」

「精霊様のお気持ちしだいでは可能です」

「……意思を持つ精霊は存在する」

「え?」

「ホントなの? タバサ」

 

 読んでいた本をそのままルイズとキュルケに見えるようにタバサは持ち寄る。

 

「ラグドリアン湖の水精霊」

「実在するの?」

「実在はするはずよ。王家との交流もあるみたいだし、交渉役に選ばれてるのはモンモランシ家じゃない」

 

 モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。ルイズとは同級生にあたり、以前フランメを決闘騒動に巻き込んだギーシュの恋人である。

 

「水の精霊の体の一部が強力なポーションの材料」

「詳しいのね、タバサ」

「……。」

 

 静かに本を見詰めていたタバサは徐に立ち上がりフランメと視線を合わせた。

 

「一つ、聞きたい事がある」

「はい。なんでしょう、タバサ様」

「水の精霊の涙は精神に作用する薬の材料にも使われると書いてある。これは、本当?」

「精霊様の涙ですか?」

「別称、体の一部だと言われている」

「ポーションの類は詳しくはありませんが、水の精霊様のお力であれば癒しの効果はあると思います」

 

 俯いたタバサの表情は正面にいるフランメにも見えない。けれど、片時を放さない杖を握る力が強まった事をキュルケを心配そうな視線を送り、ルイズはキュルケのその様子で事の重大さを理解する。

 

「そう、ありがと」

 

 タバサはそのまま顔を見せずに、フランメに礼を言って部屋から出て行った。

 

「あんなタバサ、珍しいわね」

「そうね」

 

 静かなキュルケの様子にルイズは調子が狂うと思いながら、タバサが置いていった本を拾ってページに目を通す。

 

「ふぅん、吸血鬼の血も強い秘薬の材料になるのね」

 

 隷属の秘薬。その効果は精神を封じ込めて人形の様に操れると書かれている。他にも伝説級の材料も必要であり、禁止するまでもなく調合できるとは思えない。

 

「そうだ!」

 

 部屋の空気を切り替えるようにキュルケが明るい声を出した。

 

「なによ、突然大きな声で……」

「ちょっと前に城の騎士だって言う貴族と酒屋で一緒になったんだけどね。なんでも最近この辺で土くれのフーケって言う貴族専門の泥棒が暴れているらしいのよ」

「暴れてる?」

「既に四件ほど秘宝クラスのマジックアイテムを盗られてるらしいわよ」

「秘宝クラスって、辺境なら城が建つものが殆どよ。それを四つも奪われるなんて……」

 

 一言でフーケが凄いと言ってしまえれば楽だろうけど、話を聞けば相手は所詮一人。組織だって動いている訳でも無いのに、騎士は何をしているのだろう。と言うのがルイズの正直な気持ちであった。

 

「幸いなのは、どれもが芸術的な意味のモノで危険な代物じゃないって事くらいかしらね」

「そりゃあ、学院に保管してるって言う破壊の杖みたいなマジックアイテムだったら、のんきを噂で楽しめないわよ」

「破壊の杖?」

「知らないの? 何でも、オールドオスマン個人のモノらしいけど、一撃で火竜を屠るほどの魔法を放てるマジックアイテムなんだって」

「眉唾ね」

 

 キュルケの感想に、ルイズも同意するように頷く。

 竜種はどれも硬い鱗によって身を守っているが、火竜は他の竜に比べてその鱗が一段と硬いと言われている。

 

「ま、いちおう学院は貴族の子弟子女が集まる場所だし、そこを狙おうなんて命知らずな泥棒はいないでしょ」

「吸血鬼に警備を突破されたばかりだけどね」

「……そうね」

 

 吸血鬼と巷を賑わす泥棒。比べるならば、当然として吸血鬼が格上なのだけど、一度抱いた学院警備への不審は拭えない。

 

 気付けばフランメが祈りを捧げていた。

 

 ルイズとキュルケは邪魔にならないように湧き出る精霊を避けてベットの上に避難した。

 

「綺麗ね」

「そうね。だけど、どうせなら独り占めしたいのだけど?」

「あんまり独占欲が過ぎると嫌われちゃうわよ」

「そ、そんなのじゃないわよっ! 確かに、フランメの付き合いを私が決めるのはおかしいと思ってるけど、それでも、ツェルプストーとは駄目なの!」

「はぁ~柔軟なのか頭でっかちなのか」

「なによ」

「なんでもないわー。そうね、そろそろタバサも落ち着いてるだろうし、あたしも帰るわ」

 

 律儀に見送りをするルイズにキュルケは笑いを堪えるようにして出て行った。

 

 祈りが終わったのは、夕食の時間を過ぎて眠りの準備を行う前ほどの時間だった。自然に終わったと言うよりは、フランメの体力が尽きて強制的に祈りが途切れたと言う印象をルイズは受ける。

 

 ルイズは事前に控えさせていたシエスタをマジックアイテムで呼び出す。

 

「ご夕食をお持ちいたしました。ミス・ヴァリエール」

「ありがと、シエスタ」

「では、準備をさせて頂きます」

「分かったわ、フランメ。ちょっと辛いかも知れないけど、私の傍まできてくれるかしら?」

 

 シエスタはてきぱきとその場を整える。精霊のいたずらなのか、焦げの付いてしまっている調度品はなるべく見えない位置に移動して後日交換する為にメモを取っていく。

 

「今回の祈りはやけに長かったわね、何かあったの?」

「えと、精霊様におしかりをうけまして」

「お叱り?」

 

 フランメの様子から見て大変な状況でないのは分かるけれど、信仰している対象からの叱責は修道女として一大事では無いのか。とルイズは困った表情で首を傾げる。

 

「あの子にチをあたえたのはダメだと」

 

 まるで、母親に怒られた子供みたいに縮こまるフランメ。

 

 ――あの子――血――与える。

 

 あの子。と言う言い方に疑問は覚えるけど、血を与える。と言っている時点で吸血鬼の事だろう、とルイズは結論付ける。そして、フランメの言い方から察すると、フランメの意思で吸血を受け入れた事になる。

 

「吸血鬼のことね」

「はい」

「どうしてフランメは血をあげようと思ったの?」

「……おなじだったから、です」

「同じ?」

「ミス・ヴァリエール。準備が整いました」

 

 答えを聞き終わる前にシエスタから声がかかる。

 夕食よりフランメの理由を聞く方が大切だと思ったルイズではあったけれど、長時間の祈りで疲れきっている事も同時に理解していたので、ひとまず溜息で誤魔化してテーブルに向かった。




完璧な三人称を目指していたのですが、やはり自分の書き方には合わなかったのか早々に諦めました

前の作品で一人称を書いていたせいか、どうしても主観で物語りを進めてしまうみたいです
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