真・恋姫†無双~北刀伝~   作:NOマル

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~一刀、化け物を退治せんとするのこと~

「や〜ま〜があ〜るか〜らや〜まな〜のだ〜♪か〜わ〜があって〜もき〜にし〜ない〜♪」

「おい、変な歌を大声で歌うな。恥ずかしいだろう」

 

山中にある森林に囲まれた道を、一刀達一行は歩いていた。そんな中、鈴々がよく分からない歌を歌い出し、愛紗が注意する。

 

「何言ってるのだ愛紗。山を歩く時は、熊避けのために歌を歌った方がいいのだ。じっちゃんがそう言ってたのだ」

「へぇ〜、そうなの?」

「そうだ。こんな山の中でいきなり愛紗と鉢合わせしたら、熊が驚くだろう」

「そうそう。こんなところで私にばったり会ったら熊が可哀想――――って何でだ!!」

 

星のボケに愛紗がツッコミをする。すると急に笑みを浮かべる星。

 

「な、何だ……私の顔に何か付いているか?」

「いや。公孫賛殿より、やはりお主の方が面白いと思ってな」

「ええ〜……」

「おいおい、程々にしとけよ?」

「それでは、面白くないであろう?」

 

真顔で返す星に、一刀は閉口した。何を言っても無駄だな、と。

 

「きゃあああ!!」

 

突然、森の奥から悲鳴が聞こえた。聞き付けた五人は、直ぐに音源へと急行した。

 

 

 

 

悲鳴が発せられた音源地。そこで、一人の少女が、山賊らしき三人組に囲まれていた。

 

白に近い紫の、少しウェーブがかった髪で、儚げな印象を与える少女。

 

「酷い……私を騙したのですね」

「別に騙しちゃいねぇよ」

「けど、村への近道を教えてくれると言っていたのに、こんな所に連れてきて……」

「ちゃんと近道は教えてやるよ。最も、村へのじゃなくて天国へのだけどなぁ?」

 

山賊の頭は汚い笑みを浮かべ、そう言い放った。

 

「天国……それでは、私を殺すつもりなのですね」

「そうじゃねぇよ。気持ちよくして、天にも昇る心地にしてやるつもりなんですよ」

「お前たちの連れていってくれる天国とやらは大層良い所のようだな」

「それはもちろん、最高に――――って、え?」

 

山賊が声のする方を振り向くと、そこには旅の武芸者である五人組がいた。

 

「何だおめぇら!?」

「聞いて驚け!この者こそ噂と違って、絶世の美女ではないので気づかぬかも知れぬが、黒髪の山賊狩りだ!」

「っておい!!」

 

愛紗が星にツッコむ。

 

「弱いものいじめをするやつは許さないのだ!」

「私も貴様らの様に無粋な言葉を吐く輩が嫌いでな」

「僕も、お前達みたいな奴等は大嫌いだ」

「残念ながら天国へは案内してやれぬが、この青龍偃月刀で地獄に送ってくれる!」

「そういうわけで、覚悟はいいか?」

 

五人は賊に向けて、威嚇するように言い放った。

 

「やれるもんならやってみやがれー!」

 

賊達は怯みながらも、五人に攻撃を繰り出そうとする。だが、無駄な攻撃であった。

 

「地獄へー!」

「行ってー!」

「来まーす!」

 

頭を一刀が、チビを鈴々と瑠華が、デブを愛紗と星がそれぞれ相手をし、賊達は呆気なく空へと飛んでいった。

 

「ざまあみろなのだ」

「あの、助かりました。ありがとうございます。皆さん、本当にお強いのですね」

「い、いや〜何、それほどでも」

 

賊に囲まれていた少女が、五人にお礼を言う。愛紗は満更でもない様子を見せている。

 

「あ、申し遅れました。私はと――――と、トントンです」

「鈴々と似てて、いい名前なのだ」

「そ、そうですか……」

 

名前を言う際、少し考えた後、“トントン”と名乗りだした。鈴々が名前を誉めると、トントンは苦笑いを浮かべる。

 

「私は、関羽」

「鈴々は張飛なのだ」

「趙雲です」

「僕は月読」

「俺は北郷一刀。よろしくね」

 

五人も、それぞれ自己紹介を行った。

 

「トントンちゃん。町へ行きたいのなら、俺達と一緒に行かないか?」

「よろしいのですか?」

「勿論。なっ、皆?」

「ええ、さっきみたいにまた山賊に出くわしたら、大変ですからね」

 

愛紗もそう言い、他の三人も同意した。

 

「それではよろしくお願いいたします」

 

少女、トントンは一刀達と同行する事となった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

一方、とある大きな屋敷の中、廊下を一人の少女が歩いていた。

髪は緑色で三つ編みに結んでおり、眼鏡をかけている。その奥に見える眼は若干吊り目で、その名を【賈駆】と言う。

その目付きは更に鋭くなっており、苛ついている様に見える。

 

「あの子ったら、また抜け出したのね。全くもう……」

「おや、賈駆ではないか。浮かぬ顔でどうした?」

「華雄将軍……」

 

廊下の角で、賈駆は一人の女性と鉢合わせた。銀髪のショートカットで、名を【華雄】。

 

「【(ゆえ)】が――――董卓様が、またいなくなってしまって」

「というと、また例の“アレ”か?お忍びで、下々の暮らしを見て回るという」

「ええ……はぁ〜、町の治安が悪くなっているこんな忙しい時に〜!」

「賈駆よ。心配ばかりしていると早死にするぞ?」

「華雄将軍、あなたは悩みがない分、長生きしそうねぇ?」

「ま、体は鍛えているからな♪」

 

皮肉気に言ったつもりが、華雄は胸を張りながら答えた。その様子を見て、賈駆は重い溜め息をついた。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

一刀達は山を越え、町への一本道に出た。歩いている最中、トントンは町へ行く理由を話し始めた。

 

「えっ、化け物?」

「はい。ある日、村の庄屋様の門に白羽の矢が打ち込まれ、それに結びつけられていた文に――――」

 

今宵、村の外れの御堂に食べ物を供えよ。でなければ、村に災いが降りかかるであろう。

 

「――――と書いてあったとか……。最初は、悪戯だと思い、そのままにしておいたのですが、朝になって見ると、山から運んできたのか、門前に大きな岩が忽然と置かれていて……」

 

これは、人の仕業じゃない。化け物の仕業だと……。

 

トントンが話をしている最中、横では愛紗と鈴々が少し震えていた。

 

「それで、急いでその夜、御堂に食べ物を供えたら、それから七日に一度の割合で矢文が打ち込まれるようになったとか……」

「何と奇怪な……」

「うん……」

「でも、これは町での噂。本当かどうか確かめたくて……」

「そうか……でも、トントンちゃん。どうして君がそこまでして?」

「え?そ、それは、その……」

 

一刀がそう聞くと、トントンは急に慌てだし、あたふたし始めた。

 

考える素振りを見せてから、トントンと名乗った少女。それからというもの、どこか挙動不審な部分が目立っている。自分の事が知られない様、必死に隠しているみたいだ。

 

(さっきから様子がおかしいし、この子は一体……)

「何なのだ、あれ!?」

 

突然、鈴々が村の方角を指さしながら、叫んだ。

一刀達は急いで村へと向かった。辿り着くと、屋敷の門前に巨大な岩が置いてあった。二メートルはある門が隠れる程の大きさで、重量も相当のものだと予想できる。

 

「きっと、これが化け物の置いていった岩なのですね」

 

詳しい事情を聞く為、六人は早速、村の庄屋に話を聞くことにした。客間にて、庄屋は語り出す。

 

「庄屋様。それでは、化け物が出るというのは本当だったのですね」

「はい……困り果てて、お役人様に訴えて見たのですが、“化け物などいる筈がない”と、逆にお叱りを受ける始末――――」

「そんな酷い事を!?」

 

役人の対応を耳にし、トントンは急に声を上げる。一刀達が彼女の反応に目を丸くしていると、トントンは我に帰ったのか、座り直した。

こほん、と庄屋は話を続ける。

 

「それで、村の力自慢や旅の剣客などに頼んで化け物を退治してもらおうとしたのですが、いずれも()()うの(てい)で逃げ帰って来て……」

「そ、そんなに恐ろしい化け物だったのですか?」

 

愛紗が恐る恐る聞くと、庄屋はコクリと頷いた。

 

しかと見た者はいないが、ある者は“身の丈三十で赤く光る眼をしていた”と言い、またある者は“鋭い角と牙を生やしていた”と言い、“全身毛むくじゃらで恐ろしい唸り声をあげていた”と言う者もいた。

 

「一体この村はどうなってしまうのか……」

 

困り果てた庄屋は、弱気な声を漏らす。話を聞き、愛紗と鈴々は余程恐ろしい化け物を想像していたのか、若干――否、かなり――震えていた。

 

「こんな時こそ、我らの出番だな」

「そうだな」

「うん」

「「えぇ!?」」

 

星の言葉に一刀と瑠華が同意する中、愛紗と鈴々が声を上げた。

 

「どうした?お主達から言い出すと思っていたが……」

「俺もてっきり……」

「うんうん」

 

三人は呆気にとられていた。

 

「引き受けてくれますか?」

「しかし、相手は正体不明の化け物……」

「この方たちは、恐ろしい山賊を倒すほどお強くて、自分の腕に自信がおありなのでしょう」

「おお!それなら是非!」

「い、いや、そんな勝手に決められても……」

「そうなのだ!鈴々にも色々都合があるのだ!」

「駄目……なのですか?」

 

愛紗と鈴々が断ろうとすると、トントンの瞳は涙で一杯になっていた。

 

「いや、その〜……」

「お願いします……村の方々が困っておられるのです……」

「えっと〜……」

「お願いします……」

 

まるで、捨てられた子犬の様な、うるうるとした瞳で懇願され、愛紗は口ごもる。そして、折れてしまった。

 

「そ、そういう事なら――――」

「よかった、引き受けてくださるのですね?」

「い、いや、その――――」

「ありがとうございます♪」

 

トントンは途端に笑顔になった。愛紗に駆け寄り、彼女の手を両手で握って、礼を述べる。

今更、断れない。そう考えた愛紗は溜め息を吐いた。

 

「ふふっ……」

「星、どうしたの?」

「いや、何。ちょっと面白い事をな?」

(星の奴、な~んか企んでんな?)

「っ?」

 

何か思う所があるのか、星はニヤリと笑みを浮かべる。瑠華が不思議そうに問うと、星は瑠華の頭を撫でる。

一刀が何となく感付いている中、瑠華は一人だけ訳が分からずにいた。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

予定の時間となった夜。御堂に向けての山道を、庄屋率いる村人達が荷車――食べ物が積んである――を押しており、一刀達はその後を歩いている。

 

「二人共、少し震えているようだが。もしかして、怖いのか」

「こ、怖くなんかないのだ!」

「そ、そうだ!これは、その……む、武者震いだ!」

(武者震いは無理があるような……)

 

一刀は苦笑いを浮かべた。二人は強がっているが、愛紗は一刀の制服の袖を掴み、鈴々は手を握ってもらっていた。

 

離れまいと、身を寄せ合う様にしている二人。

 

「ほう、そうか?」

「な、なんだ?」

「いや?別に。」

 

松明を持っている星は笑みを浮かべたままだ。そのまましばらく歩いていると、

 

「はっ!」

「「ひぃ!」」

「うっ……!」

「ん?」

 

星が急に立ち止まると、二人は少し悲鳴を上げ、一刀にしがみついた。星の隣にいた瑠華も立ち止まる。

一刀に至っては、愛紗が抱きついたことによって、豊かに実った果実に腕が挟まれてしまった。柔らかな感触が伝わり、体を強ばらせてしまう。

鈴々の方は、両手でギリギリ……!と握り締めていた。万力で締め付けられている様で、かなり痛い。

 

「ど、どうした!?」

「いや?折角月が綺麗だと言うのに、雲が出てきたなと思ってな」

「な、何だ……そんなことか……」

 

ホッ……と安堵し、また歩き始めた。

因みに二人は、一刀にくっついているままである。

 

「はっ!」

「「ひぃ!」」

(さ、さっきよりも……)

 

またまた星が急に立ち止まり、愛紗と鈴々は一刀にしがみつく。愛紗の方も更に密着させ、鈴々も握力を強くしてしまう。

 

右腕にむにゅっとした感触、左手にメキッ!という痛覚を体感する一刀。

 

「こ、今度は何だ!?」

「昨日、茶店で団子を食べた時、お主私より一本多く食べてなかったか?」

「ま、まあ、確かにそうだったかもしれんが。今そんなことを思い出さなくとも―――― 」

「ふふっ……」

「……お主、わざとやっているだろう?」

 

漸く気付いたのか、愛紗と鈴々はジトっと恨めしげに星を睨んでいた。

 

「はぁ……程々にしとけよ、星?」

「おやおや、だが一刀もいい思いをしたであろう?」

(こいつ、見てたな……?)

 

若干、痛い思いもしていたのだが……。

星が耳元で呟くと、一刀はそれ以上言うことはなかった。

 

「月、綺麗だな……」

 

そんな中、瑠華は一人、ぼんやりと月を眺めていた。

 

 

 

目的地である御堂に到着。庄屋達は、荷車に積んであった食べ物を中へと運んでいく。

 

「これで全部だな?それでは、頼みますぞ」

「化け物退治、頑張ってくださいね」

「ああ」

「う、うむ……」

「ど、ど~んと任せるのだ……」

 

一刀が普通に返事をするのに対し、愛紗と鈴々は何とも頼りなさそうな返事を返した。

 

そして五人は、御堂の中に入る。

 

「これはまた、いかにも出そうな感じだな」

 

星は小さく、そう呟いた。

 

御堂の中は薄暗く、何本かの蝋燭に火が朧気に灯っており、ギシギシと鳴る古ぼけた床。

星の言う通り、いかにも“何かが出そうな”雰囲気を出していた。奥には仏壇があり、その周りには先程、庄屋達が置いていった食べ物が供えてある。

 

一刀達は中央で、円を組む様に並び、その場に腰かける。

 

「さて、化け物が出るまでここで待つとするか」

「そ、そうだな……」

「……そういえば、“アレ”もこんな月のない夜だったな」

 

星は声量を小さくし、何かを語り始めた。愛紗と鈴々はゴクリと喉を鳴らし、一刀と瑠華も耳を傾ける。

 

「日のある内に山を越えようと歩き始めたのだが、道に迷ったのか……行けども行けども人里に出ず、これはもう野宿するしかないかと思い始めた頃、春風にしては妙に生暖かい風が吹いてきて――――」

 

話を聞いている最中、愛紗と鈴々は徐々に一刀の方に近づき、服の裾を握った。

 

「どれ程眠ってしまったのか、何かをカリカリと引っかくような音で私はハッと眼を覚ました。最初は、天井裏に鼠がいるのかと思っていたのだが、よくよく耳を澄ましてみると、それは“真新(まあたら)しい棺”の中から聞こえてくるらしい」

 

愛紗と鈴々は完全に一刀の腕に抱きつき、星の話に恐怖し、怯えていた。一刀は若干、苦笑いを浮かべつつ、そのままにしておいた。瑠華は表情を変える事なく、話を聞いている。

 

「嫌な予感を覚えつつ、私は吸い込まれるかの様に近づき、棺の中を恐る恐る開けてみると……」

 

愛紗と鈴々は抱き着いている力を強めた…………そして、

 

「うわああああああああああああああああああ!!!!」

「「きゃああああああああああ!!!」」

「ぶふぅ!?」

「あっ……」

 

突然、大声を張り上げた星。

愛紗と鈴々は驚きの余り、両手を思いきり振り上げて悲鳴をあげた。二人の両手は一刀の顎をとらえ、ダブルアッパーを受けた一刀は宙を舞い、背中から床に落ちた――その軌跡を、瑠華は目で追った――。一刀は完全にノックダウン、愛紗と鈴々もその場に倒れてしまった。

 

「おっと、ちょっとやりすぎたか」

「ちょっとどころかな、これ……」

「一刀は……駄目か」

「完全に意識が飛んでるね」

「おい愛紗、鈴々」

「「う、うぅ〜ん」」

 

星は肩を揺すり、二人を起こした。そしてまた、

 

「目〜を〜覚〜ま〜せ〜……!」

「「きゃああああああ!!!」」

 

火の灯った蝋燭を手に、顔の下で照らす星。二人はパニックに陥り、悲鳴を上げて御堂を飛び出した。

 

「「きゃああああああ――――うっ!」」

 

凄まじい勢いで走っていると、“何か”にぶつかり、尻餅をついた。見上げてみると、そこには人間と同じ背丈の白虎が立っていた。

暗闇の中で、赤眼がギラリと威嚇するように光っていた。

 

「ば、化け物ぉ……!?」

「なのだぁ……!」

 

互いに抱き合い、目前の恐怖にガタガタと震えながら、その場で気絶してしまった。

 

「やっとお出ましか」

「そうみたいだね」

 

星と瑠華は、御堂から出てくる。

それと同時に、雲で隠れていた月が姿を現し、白虎の姿を照らした。

 

そこには化け物ではなく、白虎の毛皮を被った少女がいた。顔は隠れて見えず、肩に担いでいる武器【方天画戟(ほうてんがげき)】を片手に持ち、石突きには犬のストラップらしき物が付属している。

 

「正体を現したな。そこに倒れている二人と違って、我らはそんなものに驚きはせんぞ」

 

体勢を低くし、星と瑠華は一斉に駆け出した。直槍と撃剣を振るう二人。しかし、相手は横薙ぎに振り、二人を弾き飛ばした。ガキィン!と、甲高い金属音が鳴り、二人は二メートルほど後方に吹き飛ばされてしまった。

 

「何だ……この重い一撃は……!?」

「たった一振りで弾き飛ばすなんて……」

 

驚きながらも、二人はすぐに体勢を立て直し、二手に別れ、攻撃を仕掛ける。

対する少女は、素早く武器を振り回し、瑠華を弾き飛ばしてから、星に目掛けて戟を振り下ろした。その重い一撃を何とか受け止めるも、徐々に押されていく。

 

(こ、こいつ……強い!)

「っ!!」

 

相手の凄まじい強さを改めて、実感する星。すると、少女の後方から、瑠華が飛び掛かる。逆手に持った撃剣で相手の首目掛けて斬りつける。

しかし、相手は星を押し返すと、横にずれてかわした。空振ってしまい、無防備となる瑠華。それも束の間、間髪入れず、少女は戟の柄を瑠華の後頭部に叩きつけた。

 

「がはっ!?」

「瑠華!!」

 

一瞬で意識を失い、吹き飛ばされた瑠華。星は両手で抱き止めた。相手は攻撃の手を緩めず、戟を振り下ろす。龍牙を片手に持ち、防御するも耐えきれずに手放してしまう。

そして少女は、戟の石突きで星の鳩尾を打つ。その際、子犬のストラップが外れてしまった。

 

「うぐっ!………くっ――――」

 

星は瑠華を抱き抱えたまま、鳩尾を押さながら倒れた。倒れた事を確認すると、少女は御堂へ歩いていった。

 

「…………」

 

ギシギシ……と、古ぼけた床を歩くと、何かを目にした。物珍しい白い服装の青年。仰向けになりながら、大の字で倒れていた。

 

「……っ?」

 

首を傾げ、青年の近くに寄る。膝を抱えるように座り、じっと見つめた。

 

「…………」

 

何を思ったのか、ツン、ツン、と、頬を指で突っつく。しかし、青年は微動だにしない。

 

この行動に一体なんの意味があったのだろうか?

 

暫し、青年の顔を見つめた後、少女は立ち上がり、やるべき事に取りかかった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

翌朝、成果なく帰還した五人は、庄屋の屋敷にて、朝食を取りながら昨晩の一件について話し合っていた。

 

「何?化け物ではない?」

「ああ、紛れもなくあれは人間だ」

 

星の横で、瑠華も首を縦に振る。

 

「しかし、そうと分かればもう怖くはない」

「では、そうと分かるまでは怖かったのだな?」

「い、いや、その………と、とにかく!次に会った時は成敗してくれる!」

「コテンパンにしてやるのだ!」

「何も出来なかった分、俺も頑張らないとな」

「確かにあれは人間だった。だが……」

「うん、強さは化け物並みだよ」

 

星は一人、右手に持っている“子犬のストラップ”を見つめていた。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

一刀は町に残り、門の前の大岩を何とかしてから行くという訳で、御堂の前では、愛紗、鈴々、星、瑠華、トントンの五人が、手掛かりを探していた。

 

「しかし、トントン殿は村で待っておればよいのに」

「相手が人間なら、こんなことをする理由があるのかも……もしそうなら、話を聞いて――――」

「見つけた」

 

急に瑠華が声を出し、彼女達はすぐに駆け寄った。瑠華が見つけた草むらの奥、その地面に人の足跡があった。

 

「恐らく、これが奴の足跡だ」

「あっちへ続いているな」

「行ってみるのだ」

 

五人は、足跡を追って、奥へと進んでいった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

愛紗達が御堂の所へ向かった少し後、一刀は庄屋の門の所にいた。 何故なら、門前にある大岩を何とかする為に。

 

「にしても、本当にでかいなぁ……」

「村自慢の力持ちである男三人でも、持ち上がらなかったんです」

 

見上げる程にそびえ立つ大岩。上から下、左右を見渡し、コンコンと無造作にノックする一刀。すると、ある一点を集中し、見ている。

 

「……庄屋さん、少し下がってて下さい」

「えっ?」

 

庄屋を後ろに下がらせて、一刀は木刀を両手に大岩の前に立った。

肩の力を楽にし、眼を閉じ、息を吸い、ゆっくりと吐いた。

 

――――そして、一気に眼を見開いた

 

「はあっ!!」

 

木刀を引き、岩の一点目掛け、高速の刺突を繰り出した。ズドォ!!という轟音と共に、突き刺さった部分から岩全体に亀裂が走った。その割れ目を辿る様に、岩は崩れだし、結果小さな岩にばらけていった。

 

後ろにいた庄屋――様子を見に来ていた村人達――は、目と口を大きく開け、目の前の光景に驚きを隠せずにいた。

 

「ふぅ……これくらいの大きさだと、荷車を使って運びやすいと思うので、後はよろしくお願いします」

「…………………………あっ!は、はい!ありがとうございました!」

 

木刀を腰に携え、一刀は庄屋に頭を下げ、御堂のある山の方へと向かった。庄屋は我に帰り、こちらも深々と頭を下げて礼を述べた。

 

(俺も手伝いたいけど、あれくらいの大きさにしといたら、数人でも片付けられると思うし、大丈夫か。星と瑠華から聞いた限りでは、相当な奴に違いない。急ごう)

 

一刀は走る速度を速め、愛紗達の元へと急行した。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

愛紗達は奥へと向かう。すると、小川の近くに洞穴を見つけた。足跡は、そこに続いている。

 

「ねぇ、あれ………」

「うむ。恐らくあれが奴の住み処だ」

 

そう予想し、愛紗達は歩み始めた――――その時。草むらの方から、白虎の毛皮を被った少女が出現。飛び出して早々に戟を振るった。

愛紗は、咄嗟に青龍偃月刀で防ぎ、押し返した。

 

「下がってるのだ!」

「は、はい!」

「気をつけろ!奴だ!」

 

トントンを安全な場所に避難させ、四人は、警戒を怠らない。

 

相対する白虎の少女が、その口を開いた。

 

「――――昨日、勝手に気絶した二人……」

「ゆ、昨夜は不覚をとったが、今日はそうはいかんぞ!」

「鈴々の強さを思い知らせてやるのだ!」

「お主、化け物でないなら名があろう?」

 

その問いに、少女は白虎の毛皮を脱いだ。

瞳、髪の色が共に真紅に染まっており、頭の上には二本のアホ毛が触覚の様に生えている。若干、褐色肌で刺青が彫ってある。無垢な印象を与えるその少女は、名を呟いた。

 

「呂布……奉先……」

 

少女――――【呂布】は四人に向かって駆け出した。四人も攻撃を仕掛けるも、いとも簡単に弾き返された。たった一振りで後退し、手が微かに痺れている。

 

「くっ!な、何だ!これは!?」

「こんなの、初めてなのだ……」

「だから言ったであろう……強さは化け物並だと」

「行くよ!」

 

四人は、一斉に走り出した。

しかし呂布は、無表情でそれをいなしていく。まず片手に持った得物で星を弾き飛ばし、愛紗を蹴り飛ばし、鈴々を弾いて、最後は瑠華に振り下ろした。瑠華は撃剣で何とか受け止める。だが力の差か、刃が迫り、ジリジリと後方に押されていく。

 

「くっ、うぅ……!」

「瑠華!!」

「今、行くのだ!」

 

星と鈴々は瑠華を助けに行く。それに気づき、呂布は瑠華の腹に蹴りを入れて吹き飛ばす。それから戟を高速で振り回し、二人を弾いた。

 

「くっ!」

「うわっ!」

「鈴々!星!」

 

呂布は休む暇を与えず、愛紗に高速の斬撃を繰り出す。愛紗も歯を食い縛り、必死に耐えるが、呂布の重い斬撃により、手が痺れてきた。

しかし突然、攻撃が止んだ。よく見ると、戟の刃の部分に、クナイがついた紐が巻き付いていた。紐の先を見ていると、瑠華が全身の力を使って紐を引っ張り、呂布の戟を止めていた。

呂布は戟を振り下ろそうとするも、瑠華も負けじと全身の力を振り絞って耐えている。

 

「愛紗!今の内に――――うわっ!?」

「瑠華!!」

 

呂布は紐の部分を片手で掴み、上へ向けて大きく振り回した。地面から足が離れた瑠華はそのまま振り回され、勢いよく木にぶつかった。背中全体をぶつけ、瑠華はその場に落ちる。

 

「かはっ……!」

「しまっ――――」

 

時すでに遅し、目の前で呂布が戟を大きく振りかぶり、一気に振り下ろす。刃が愛紗目掛けて迫ってくる――――その時、ガキィン!という金属音と共に、刃が食い止められた。

 

「大丈夫か、愛紗!」

「一刀殿!」

「お兄ちゃん!」

「「一刀!」」

 

呂布の戟を一刀は木刀で受けとめ、押し返すと、愛紗に駆け寄った。

 

「遅くなってごめん、愛紗」

「いえ……一刀殿、奴は」

「ああ、分かってる。後は任せてくれ」

「ま、待ってください!あなた一人では!」

「大丈夫、俺に任せてくれ」

 

安心させるように、笑顔で言うと、呂布の方へと向かった。

相対する両者。呂布は一瞬、眼を見開く。すぐ元に戻り、今度は両手で構えだした。

すると、彼女の体から凄まじい氣が流れ始めた。その気迫に、他全員が驚きを隠せない。

 

「お前、強い……【(れん)】本気出す……」

「君、名前は?」

「呂布……奉先……」

「呂布……成る程。なら、こっちも本気でいかせてもらう……!」

 

彼女の名を耳にし、心中で驚く。

三国志最強の武人、【呂布 奉先】。人中の呂布とも言われ、後世まで名を残している、その武人が自分の目の前にいる。その事実にやや興奮しながら、一刀は木刀を構えた。

 

二人は無言のまま、一切動かない。

二人の凄まじい氣によって、一本の木の枝が折れ、ゆっくりと地面に落ちてゆく。

 

 

 

――――木の枝が地面についた。

 

「「ッ!!!」」

 

二人の姿が一瞬にして消えた――――かと思えた。次の瞬間、山全体に響くかの如く、武器と武器がぶつかり合う轟音が発生した。二人は睨み合い、鍔迫り合いをしている。後ろに飛び退き、同時に目にも止まらぬ速さでお互いの武器をぶつけていた。

 

「こ、これは……」

「お兄ちゃん、すごいのだ」

「これほどとは……」

「あの方は一体……」

「…………」

 

二人の戦いを見ていた彼女達は、目の前の光景に驚くしかなかった。

 

戟をかわし、刀を振り上げる一刀。体を反らし、そのまま捻って再度切りかかる。またも刀で受け止め、流れる様に戟の柄を刃が走る。

力を込め、一刀を弾き飛ばす呂布。一刀は何とか勢いを殺し、体勢を整える。得物を構え直し、二人はぶつかり合う。

 

しばらく打ち合っていると、二人は動きを止めた。

 

(流石は呂奉先……力は本物だ――――でも、次で決める!)

「………」

 

意を決した二人は同時に駆け出した。

呂布は戟を素早く振り下ろし、一刀は木刀でその斬撃を反らした。反らされた斬撃は、一本の大木を斬り倒した。

 

そこへ突然、一匹の赤いスカーフを巻いた子犬が介入してしまう。

 

「あっ……!」

「しまった!!」

「危ない!」

 

斬り倒された大木が、子犬のいる方に倒れていく。すかさず、トントンは子犬を抱き抱える。大木はそのまま、トントンと子犬に倒れていく。

だが、大木目掛けて一本のクナイが突き刺さり、そのまま巻き付いた。大木の下では、愛紗と鈴々がそれぞれの武器で受けとめていた。瑠華と星は紐を掴んで引いており、必死で食い止めていた。トントンはすぐに逃げ、子犬共々何とか助かった。

子犬はくぅ~ん、と鳴き、トントンの顔を舐めている。

 

「きゃっ、くすぐったい♪」

「何とか無事だな」

「よかったのだ」

「やれやれだ……」

「はあ……はあ……お、重かった…」

 

息を切らせている瑠華の頭にポンと手を乗せ、星も安堵の息をつく。

一刀も一安心していると、呂布は武器を降ろした。

 

「お前達、良い奴。良い奴とは戦わない」

 

戦いは、この様にして幕を閉じた。

 

一刀達は、洞穴の所へ案内され、星は呂布に子犬のストラップを渡した。

そして、今回の件の理由を問い掛ける。

 

「村人達に食料を貢がせていたのは、犬の餌にするためだったのですか」

「自分で餌代を稼ごうとしたことはあったけど……」

 

 

◇◆◇◆

 

 

とある飲食店に、数人の客が入店する。

 

「あ、あの〜……」

「いらっしゃい、ませ……ご主人、様………」

 

メイド喫茶で働く、エプロンドレスに身を包んだ呂布。しかし、その挨拶には、無表情かつ感情がこもっていない――これはこれで良いかもしれない――。

 

「え〜っと、俺は炒飯と餃子で」

「俺も、同じのを。但し、炒飯は大盛りで」

「俺は、担々麺。後、春巻きも」

「俺は回鍋肉に白飯、それから卵スープ」

 

注文を聞き、呂布は厨房にオーダーを報告した。

 

「…………拉麺四丁」

「「「「何でぇ!?」」」」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「全然、駄目なのだ」

「お前が言うな」

 

ごもっともで。

 

「しかし、子犬一匹の為に、あれだけの食料は要らんだろう?」

「確かに、あの量は……」

「一匹じゃない」

「え?」

 

呂布は指笛を吹いた。すると、洞穴の中から数十匹もの犬が出てきた。大きさ、種類、様々な犬が何十匹もいる。

 

「これは、確かに……」

「あれ位じゃないとな……」

「友達、たくさん。みんな、怪我してたり、捨てられたり、可哀想で放っとけなかった……」

「そうだったのか」

「――――あっ、月!」

 

すると、上の方から声がした。

聞こえた方向を見てみると、眼鏡をかけた少女が馬に乗っており、側には護衛らしき兵士が数人いた。

 

「あら、詠ちゃん♪」

「あら、詠ちゃん♪じゃない!僕がどれだけ心配したか」

「ごめんなさい……」

 

どうやら、トントンと見知った関係。それも、真名を呼べる間柄でもあるようだ。

 

「全く……ん?」

「あ、この人達は危ない所を助けていただいたの」

「って危ない目にあってたの!?」

「あの〜……お取り込み中、申し訳ないが、お主は一体?」

 

愛紗は間に入り、気まずそうに質問した。

 

「我が名は賈駆、字は文和。こちらにおられる太守の董卓様にお仕えしている者だ」

「「「「ええええっ!?」」」」

(この子が……董卓!?)

 

一刀はまたまた驚いた。それもその筈。

董卓(とうたく)】――――三国志の世界では、帝の威光を盾に権力を掌握。悪政を敷き、残虐非道の限りを尽くしたと言われる暴君。その暴君が、この可憐な少女だと言うことに、一刀は驚きを隠せない。

 

「所で、化け物の件は?」

「もう解決しちゃった♪」

「そ、そう……」

 

可愛らしい笑みを浮かべるトントン――――改め董卓を見て、賈駆はガクッと肩を下ろした。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

一刀達と庄屋は、董卓の屋敷に招き入れられた。そして今、謁見の間にて待機している。

 

「みなさん、お待たせしました」

 

正装に着替えた董卓が、入室した。

君主に相応しいその姿は、可憐な彼女をもっと輝かせていた。そして、庄屋に今回の出来事の全てを話した。

 

「成程、そういう事でしたか」

「確かに、呂布さんのしたことは良くないことです。ですが、それは傷つき、捨てられた犬達を救うため。決して、悪心から出たわけではないのです。これから出来る限りの償いはするつもりです。そうですね?呂布さん」

 

優しく問う董卓に、呂布はコクリ、と頷いた。

 

「いや、分かりました。すでに本人から謝ってもらってる事ですし、岩に関してはこちらの北郷様に助けて頂きました。村人には、私の方から話をしてみましょう」

「そうして頂けると助かります」

 

すると、董卓は賈駆の方へ顔を向けた。

 

「所で詠ちゃん。役所では化け物が出て困っているという訴えを取り合わなかったとか」

「えと、その……」

「董卓様、その事はもう済んだ事ですので――――」

「いいえ、よくありません。どんな些細なものであれ、民の訴えを疎かにしないのが政の基本なのですから」

 

民の平和を心から願う、董卓の言葉。良き太守の鑑だと、一刀達は感嘆する。

 

「畏まりました。今後、そのような事がない様、全ての役人に厳しく申し付けます」

「いいでしょう。それから……」

 

董卓は気まずそうに、犬達の方を向いた。

 

「あの子達、私の所で飼ってあげる訳にはいかないかしら?」

「って、あの犬全部を!?」

「ねぇ、詠ちゃん。最近、街の治安が悪くて、警備に兵士の手が回らなくなっているでしょ?だから、あの子達をしつけて、街の警備の手助けをしてもらうの。どう?いい考えでしょ?」

「そりゃあ、ちゃんとしつければ、泥棒避けになるかもしれませんが……」

「それなら大丈夫。呂布さん、犬達の躾、お願い出来るかしら?」

 

呂布は再度、首を縦に振る。

 

「待って月、僕はまだ飼っていいとは――――」

「詠ちゃん…お願い…」

 

捨てられそうなチワワの如く、うるうるとした瞳。呂布と犬達も同様、懇願する様に目で訴えた。潤んだ視線を浴びせられ、観念した賈駆。

諦めて、大きなため息を吐いた。

 

「うぅ…………分かった、飼うよ」

「詠ちゃん大好き♪」

「も、もう!今回だけだからね?」

 

すると、急に呂布が抱きついて頬をすりついてきた。

 

「って、ちょっと何だ!?」

「きっと、お礼の気持ちを表しているのだ♪」

「だ、だったら口で言え〜!なつくな〜!」

 

こうして、全てが丸く収まった。

 

史実通り、呂布は董卓の元につき、一刀達はまた、旅を続けるのであった。

 

 




またまた遅れて申し訳ないです。

これからもどうぞ、よろしくお願い致します。
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