真・恋姫†無双~北刀伝~   作:NOマル

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~張飛、関羽と仲違いするのこと~

 

青空の下、鈴々が先頭に立ち、一刀達は森の中を進んでいた。

 

「こら鈴々、一人で先に行くな。はぐれても知らんぞ」

「そういえば、霧の中ではぐれてしまったお仲間の方、確か名前は……」

「趙雲だ」

「そう、その趙雲さんとは結局はぐれたままで、ちょっと心配ですね……」

「まあ、確かにな」

「けど、あやつも子供ではない。きっとどこかの空の下で元気にしているさ」

 

愛紗ははぐれてしまった仲間の事を思いながら、青空を見上げた。

 

 

そのまま歩いていると、二手に別れている道に出る。

 

「ん?別れ道か」

「どっちへ行きます?」

「う〜ん、そうだな……」

「こんな時は鈴々にお任せなのだ」

 

鈴々は陀矛を真っ直ぐに立て、お願いする様に手を合わせた。すると、陀矛は右へと倒れた。

 

「あっちなのだ」

「うむ、それでは行くのはこっちだな」

 

愛紗は鈴々の占いとは逆の方を指さす。

 

「なんでそうなるのだ!」

「当たり前だ。この前、お前の占い通りにしたら霧が出るわ、崖から足を滑らせるわで散々だったではないか」

「そ、それは……」

 

愛紗に色々と指摘され、口ごもる鈴々。

 

「けど、占いではあっちって――――」

「だ~か~ら~!その占いが信用できないと言ってるんだ!」

 

譲れないのか、愛紗と鈴々はお互いに睨み合う。

 

その横で、一刀と瑠華は顔を合わせ、ため息を吐く。すると、孔明が話に入ってくる。

 

「関羽さん、確かに鈴々ちゃんの占いには根拠がないと思います。でも、それなら占い通りにしたからって、必ず悪い事が起きるとは限らないはず。だから、鈴々ちゃんの言う方へ行ってみてもいいと思うんです」

「孔明殿がそう言うなら……」

 

渋々ながら、了承する愛紗。

 

「それじゃ――――」

「余計なことしなくていいのだ!」

 

鈴々が腕を組んで頬を膨らませていた。 孔明に助けられたのが気にくわなかったのか、拗ねた様にそっぽを向いている。

 

「これは鈴々と愛紗の問題なのだ!お前は関係ないから黙ってるのだ!」

「あぅ……」

 

孔明はしょんぼりと、顔を俯かせる。

 

「鈴々、そんな言い方……」

「鈴々!何てこと言うんだ!」

 

流石に黙ってられなかったのか、瑠華も会話に入る。しかし、その瑠華の声をかき消すか程の大声で、愛紗は怒鳴る。

 

「孔明殿はお前の為を思って」

「それが余計なことなのだ!」

「鈴々!」

 

鈴々は地面に倒れている陀矛を乱暴に掴み、肩に担いだ。

 

「とにかく鈴々は占い通りに行くのだ!」

「っ!勝手にしろ!」

「勝手にするのだ!」

「お、おい!待てって鈴々!」

 

鈴々の後を一刀は急いで追いかける。

 

その場には、愛紗、瑠華、孔明の三人となってしまった。

 

「いいの、愛紗?一人で行かせて」

「構わんさ。一刀がついているし、どうせ後になって“やっぱりみんなのところがいいのだ〜”とか言って追いかけるさ」

 

鈴々の物まねをしながら、そう答える愛紗。

 

「でも……」

「さあ、我々も行こう」

 

先に行く愛紗。瑠華と孔明は、一刀と鈴々が行った道を振り返る。少し顔を曇らせ、愛紗の後をついていった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

愛紗と別れ、不機嫌丸出しで歩く鈴々。その後を、一刀は追いかけている。

 

「鈴々、そんなに拗ねるなよ」

「拗ねてなんかないのだ!」

 

一刀の言葉に、鈴々はむきになって否定する。

 

(愛紗、孔明の味方ばっかり……)

 

口では否定するも、心中では、やはり拗ねていた。孔明が自分よりも愛紗の役に立っている所を見て、やきもちを焼いている。

 

しばらくすると、森を抜け、町が見えた。

 

「あっ、町なのだ!鈴々の占いは正しかったのだ〜♪」

「ちょっ、待てって鈴々!」

 

上機嫌の鈴々は町に向かって走っていく。一刀も止める暇もなく、諦めてついていった。

 

 

町へと到着した二人。

しかし着いて早々、困ったことになった。

 

「お腹空いたのだ……」

「路銀は愛紗が持っているからな〜」

 

ぐぅ……と腹の虫が鳴る。空腹に困っていると、二人は人混みを見つけた。人々の前には看板が立ててある。

 

「う〜ん、読めなくもないけど難しくて読めないのだ」

「え〜っと?お……うん、やっぱ読めねぇ」

「“大食い大会本日開催!飛び入り歓迎!優勝者には賞金と豪華副賞あり!”」

 

二人が読めずにいると、後ろから声がした。

振り替えると、そこには一人の少女がいた。

 

「「馬超!?」」

「よっ、久し振りだな」

「どうして、こんなところにいるのだ?」

「西涼に帰ったんじゃないのか?」

「ああ、一度は西涼に戻ったさ。それでやることやってまた武者修行に出たんだが……」

「路銀が尽きてしまったと」

「ああ……」

 

一刀がそう答えると、馬超は後頭部を掻きながら、恥ずかしそうに答えた。

やることをやり終え、彼女なりに吹っ切れた様だ。

 

「じゃあ、もしかして」

「ああ!あれで優勝して賞金を頂こうって寸法さ!」

 

馬超は看板を指さし、堂々と答える。

 

「それなら鈴々もやってやるのだ!」

「そうか、ならば相手にとって不足はない!かかってこい!!張飛!!」

 

お互いに睨み合い、火花を散らせる二人。

 

(なんか、すんげぇヒートアップしてない?)

 

一刀は二人の炎の様な気迫におののいて――ビビって――いた。

 

 

◇◆◇◆

 

 

そして開催された、大食い大会。

 

「さあさあ、毎年恒例の大食い大会も大詰め!!決勝戦まで残った三人の勇者をご紹介いたしましょう!」

 

司会を務める、眼鏡をかけた少女、陳林は声を張り上げて大会の進行を行う。

 

「まずは遥々(はるばる)西涼からの参加!馬超選手!」

「よしっ!」

「虎の髪飾りは伊達じゃあない!猛虎もびっくりの食べっぷり!張飛選手!」

「がお~!がおがお~なのだ!」

「そして最後に、ちっちゃい体からは想像もできない驚異の食欲!許緒選手!」

「むぅ、ちっちゃいって言うな」

 

薄桃色の特徴的な髪形をした少女、許緒は、“ちっちゃい”と評され、不機嫌に頬を膨らませる。

 

「最終決戦は、甘すぎず、控えめなお味の“十万斤饅頭”を制限時間内にどれだけ食べられるかを競ってもらいます」

 

鈴々、馬超、許緒の前に、大量の十万斤饅頭が乗せられた皿が置かれる。椅子に座っている三人の姿が、前から見えなくなる程の量だ。

 

「それでは勝負開始!!」

 

試合開始の合図と共に、銅鑼が鳴り響いた。

 

三人は一斉に饅頭に手を伸ばす。

馬超は食べて飲み込み、食べて飲み込みを繰り返し、鈴々はありったけの饅頭を口内に積み込み、モゴモゴと咀嚼する。

 

一方、許緒は余裕の表情を見せ、順調に食を進めている。

 

(くっ、許緒って奴!相変わらず、すごい勢いなのだ!)

(誰よりも食べているはずなのに、まだあんな底力が!?)

「いや〜……よく食べるな、あの子」

 

観客席にいる一刀も鈴々と馬超同様、許緒の食べっぷりに驚いていた。

因みに一刀は一回戦を勝ち抜き、二回戦で棄権したのである。参加自体はタダなので、丁度良かった。

 

(でも、鈴々も負けないのだ!!)

(急いで追い上げないと――――うっ!?)

 

追い上げようとする最中、馬超は手を急停止した。

 

(ま、まずい……流石にそろそろ限界が……!)

 

顔色がどんどん悪くなり、脳裏には大会で食べた料理が走馬灯の様に流れていく――餃子、焼売、麻婆豆腐、その他の中華料理等々――。

ここまでか……!と、饅頭を掴む手が微かに震えている。

 

(だが例え、溝の中で野垂れ死にするとしてもっ!あたしは、前のめりに倒れ――――」

 

そこで意識が飛び、馬超はその言葉通り、前のめりに倒れた。

 

錦馬超、ダウン。

 

(馬超が倒れたのだ……残るはこいつだけ……!)

 

鈴々は許緒の方へと目を向けた。皿には饅頭が三個残っており、許緒は今、俯いている状態。好機と見た鈴々は、ラストスパートに取り掛かる。

 

(ここから追い上げれば、逆転できるのだ!)

 

両手の饅頭を口に放り込む。ゴクン、と何とか飲み込み、苦しそうに肩を上下に揺らして、荒い呼吸をする。

 

(これを……これを……食べれば………!)

 

とてつもない満腹感に耐えながら、残り一つの饅頭に手を伸ばす。

 

すると、俯いていた筈の許緒が一瞬にして目を見開き、皿を持ち上げた。それを口の方へと傾け、残りの饅頭が口の中へと運ばれていく。

 

「ガーン!!なのだ~~!?」

「もぐもぐ……おかわり♪」

 

まだ食べ足りないのか、なんと、おかわりを要求した。鈴々は限界突破し、力絶えて、後ろに倒れた。

 

 

 

大食い大会が終わり、夕焼け空の下、馬超と鈴々の二人はトボトボと歩き、一刀は苦笑いを浮かべている。

 

「うぅ、賞金もらえなかったのだ……」

「まあまあ、とりあえず腹一杯食えたから良しとしようぜ?

「そういや、関羽と趙雲はどうしたんだ?また、どっかの店で働いているのか?」

「ああ、実は……」

 

鈴々を慰めていると、不意に馬超がそう尋ねてきた。一刀は気まずそうに、今の状況を説明した。

 

「ええっ!?関羽とは仲違いして、趙雲とは途中ではぐれた!?」

「ああ、そうなんだ」

「り、鈴々は悪くないのだ!愛紗がいじわる言うから、それで……」

 

鈴々は拗ねながら、そう呟く。

一刀と馬超は顔を見合わせ、どうしたものか、と困った表情を浮かばせる。

 

「お〜い!」

「ん?」

 

大きな声で呼び止められ、振り返る三人。先程の大食い大会で、とんでもない食べっぷりを見せつけて優勝した少女が、こちらへとやって来た。

 

「君は確か……」

「僕の名前は【許緒】字は【仲貢】全国を回って大食い修行してるんだ」

「俺は、北郷 一刀」

「鈴々は張飛、字は翼徳なのだ」

「あたしは馬超、字は孟起。西涼の出だ」

 

その場にいる四人は自己紹介を済ませる。

 

「いや〜、僕とあそこまで張り合えるなんて中々やるじゃん。二人みたいなの初めてだよ。そこの兄ちゃんは、そこそこだけど」

「はは、俺はあんなに食えないもんで」

「鈴々も、あんな化け物染みた大食いを見たのは初めてなのだ」

「いや〜それほどでも♪」

「別に褒めてないのだ」

 

鈴々が感想を述べると、許緒は“誰もが知っている春日部市在住の五歳児”の様な照れ笑いをする。

 

「なぁなぁ、こうやって知り合ったのも何かの縁。これから親睦を深めるために一緒に食べに行かない?もちろん、そこの兄ちゃんも一緒に」

「ってお前、まだ食べるつもりなのか……?」

「本当に底なしなのだ……」

「底なしどころか、ブラックホール級だな……」

 

三人は改めて、限界を知らない許緒の胃袋に驚く。

 

「ああ、お金の事なら大丈夫。大食い大会の賞金でおごるから」

「いや、そうじゃなくて……」

「――――何言ってんだよ!」

「ん?」

 

突然、路地裏の方から声が聞こえた。

 

そこには一人の少年がおり、目の前にはヒゲを生やした男、それからチビとデブの三人組がいた。

様子から見て、穏やかな空気ではなさそうだ。

 

「借りた分はとっくに返したはずだろ!?」

「小僧、借金には利子ってもんがつくんだよ」

「ほれ、証文もこの通り」

「くっ!」

 

ヒゲの男が、見せびらかす様に証文を懐から取り出す。この男は金貸し、借金取りの様だ。

少年は悔しげに睨み付け、証文目掛けて走り出す。しかし、すぐにデブの男に捕まってしまった。

 

「うわっ!」

「おっとぉ、危ねぇ危ねぇ」

「おい、ちょっと痛い目見せてやれ!」

「そこまでだっ!」

 

喧騒を聞き付けた一刀達は、その現場に駆け付けた。

 

「何だ、てめぇらは?」

「通りすがりの大食い修行者だ!」

「いや、それは君だけだから……」

 

許緒の台詞に、一刀は苦笑いを浮かべる。

 

「大食いだが蟻食いだが知らねぇが、下手に首突っ込むと痛い目見るぜ!」

「そうだ!とっとと失せろチビ共!」

「チビって誰のことなのだっ!!」

 

チビの男にチビと言われ、反論する鈴々。

 

「誰ってそりゃあ、おめぇとおめぇと、後これ」

「俺は入れなくていいんだよ!!」

 

デブの男は鈴々、許緒、そしてチビの男の順番に指を指しながらそう答えた。

 

「やぁ〜い!墓穴を掘ったのだ〜!」

「うるせぇ!チビ!」

「――――チビ……」

「ん?」

 

後ろを見ると、許緒が顔を俯かせ、体を震わせながら何かを呟いている。

 

「またチビって言ったな……チビって……!」

「い、言ったら、どうだってんだよ……」

 

何やら不穏な雰囲気を纏っている許緒に、チビは怯んでいる。

 

「ぶっつぶすっ!!」

 

許緒は――どこに隠していたのか分からない――自分の身長の倍の大きさはある鉄球を取り出し、一気に振り下ろす。

 

「とぉりゃあああ!!」

 

凄まじい轟音と共に、鉄球がぶつかった地面は大きく陥没していた。

許緒の体からは、何やら黒い氣の様なものが流れており、獰猛な肉食動物の様に唸りながら三人組を睨み付ける。

 

「ば、化け物だぁ〜!!」

 

凄まじい馬鹿力を目の当たりにし、三人組は尻尾をまいて逃げていった。

 

「明後日来やがれなのだ!」

「「それを言うなら一昨日来やがれだろ?」」

 

一刀と馬超は口を揃え、鈴々の言葉を訂正する。

 

それから一刀達は、助けた少年と一緒に道を歩きながら、話を聞いていた。

 

「あいつら本当にずるいんだ。借りた分はちゃんと返したはずなのに、いつのまにか変な証文作ってて、“まだ利子が残ってる。返さないなら姉ちゃんを借金の形によこせ”って」

「そうだったのか」

「何て非道な!」

「くそ〜そうと分かったらマジでペシャンコにしたのに!」

「まったくなのだ!」

 

事情を知り、一刀達は怒りを募らせる。何はともあれ、放っておけない。とりあえず、少年の住む家まで同行していく。

 

辺りはもう、夕焼け色に染まっている。

その道中、一人の旅の武芸者とすれ違った。外套を深く被り、赤い刃の槍を携えている。フードの下から覗く、水色の髪。そして赤い瞳が、一刀達を写した。

 

 

 

家へと到着した一行。

 

「姉ちゃん、ただいま」

「お帰りなさい。あら?」

 

屋内には、少年の姉らしき女性がいた。それから事の説明を受ける。

 

「まあ、そうだったのですか……。弟の危ない所を助けていただき、ありがとうございます」

 

事情を聞くと、姉はお辞儀をして礼を述べる。

 

「姉ちゃん、この人達旅の途中なんだって。まだ宿は決まってないって言うから、お礼の代わりに家に泊まってもらおうよ」

「そうね。そういうことですので是非」

「どうもすみません」

「お世話になるのだ」

「じゃあ、宿代にこれ」

 

許緒が賞金が入った袋を出すと、姉が手で制した。

 

「いけません、そんなことをしてもらっては」

「えぇ、何でだよ?これがあったら借金だっていくらか返せるのに」

「何言ってるのですか。この方達に泊まっていただくのは、あなたを助けていただいたお礼なのですよ?それなのにお金をもらっては意味がないでしょう」

 

姉は少年を叱り、少年は俯いている。

 

「そもそもあなたが軽はずみな行動をしなければ――――」

 

姉は続けて、少年を叱る。少年の身を案じての事だろう。

 

その様子をじっと見ていた鈴々。その瞳には、“義姉”の姿が重なって見えていた。

その様子に気づき、一刀が声をかける。

 

「どうした、鈴々?」

「っ!な、何でもないのだ!何でも……」

 

 

◇◆◇◆

 

 

その頃、愛紗達三人は焚き火を中心に囲んで座っていた。辺りが真っ暗闇の夜中、愛紗は物思いに耽っていた。

 

「関羽さん?関羽さん!」

「っ!な、何だ、孔明殿?」

 

孔明に呼ばれ、我に返り急いで返事を返す愛紗。

 

「……何を考えていたんですか?」

「い、いや、私は何も――――」

「鈴々の事考えてたんでしょ?」

 

側で座っていた瑠華も話に入ってくる。

 

「今から引き返すっていうのもあると思うんだけど?」

「確かに、夜通しで歩けば鈴々ちゃんに追いつけるかも」

「何を馬鹿なことを……」

「でも、このままじゃ――――」

「孔明の言う通りだよ」

 

瑠華も、孔明と同じ様に、愛紗を説得する。その声音は、どこか真剣さを増している。

 

「喧嘩別れしたまま、二度と会えなくなるかもしれないんだよ?」

「おいおい、そんな事――――」

「あるんだよ。“そんな事”が……」

 

琥珀色の瞳を、じっと見つめながら、そう答えた。金色の瞳はとても悲しい、哀愁の色に染まっている。または、深淵の闇を思わせる様な……。

 

「と、とにかく、夜も更けた。もう寝た方がいい」

「関羽さん……」

「………」

 

会話から逃げる様に、愛紗は背を向けて横になる。

 

(二度と会えなくなるかもしれないんだよ?)

 

その言葉が、脳裏に残ったまま。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

――――翌朝。

 

「ふぅ、こんなもんでいいか?」

「ご苦労様です」

 

宿泊の礼として一刀と馬超は交代で薪割りをしている。今は馬超の番で、一刀は薪を取りに山の方へと向かっている。

 

「本当にすみません。こんなことまで手伝ってもらって」

「いや〜、何もしないでいると飯がまずくなりますから」

 

照れながら答える馬超に、姉は微笑む。

すると、山菜を取りに行っていた少年と許緒が帰ってきた。

 

「姉ちゃん!ただいま!」

「まあ、こんなにいっぱい」

 

籠の中には、茸や山菜といった、山で入手可能な食材が大量に入っている。

 

「姉ちゃん、この人すっごいんだ!初めて入った山なのに茸とか山菜とか次々と見つけ出してさ」

「山で食料を見つけるのは大食い修行の基本だからな」

「そ、そういうもんなのか?」

 

胸を張りながら自慢気に言う許緒に、馬超は苦笑いを浮かべる。

 

「所で張飛はどうした?お前達と一緒じゃなかったのか?」

「え?僕はてっきり馬超と一緒だと」

「お前ら何しに来たのだ!」

 

その鈴々の声が聞こえ、外へ出る。

家の前には、昨日遭遇した三人組の男達がいた。

 

「へっ、やっぱりここにいやがったか!」

「昨日は世話になったなぁ」

「何だ、またぶちのめされにきたのか?言っとくけど、今度は手加減しないぞ!」

「おっと、今日の相手は俺たちじゃねぇ。先生!おねげぇしやす!」

 

三人組の後ろから、一人の女性が、酒瓶を片手に出てきた。

濃い紫色の髪を簪で留め、さらしを巻いており、袴で下駄を履いている。いかにも姉御肌な雰囲気を出していた。

 

「ん?なんや、ごっつい強い奴等とやらしてくれるっちゅうから用心棒引き受けたのに、相手はガキかいな」

「ガキとは何なのだ!ガキとは!」

「そうだ!張飛はともかく僕はガキじゃないぞ!」

「ちょっと待つのだ!それはどういう意味なのだ!」

「おい、仲間割れしてる場合じゃないだろ」

「はっはっは!おもろい子らやな〜」

 

言い合いをしている鈴々と許緒。それを豪快に笑い飛ばし、女性は酒瓶を一呑みする。

 

「これ預かっといて。まだ残ってるから落としなや」

「へ、へい」

 

酒瓶をデブに預けると、下駄をカランコロンと鳴らしながら前へ出た。

 

「ウチん名は【張遼】。昨日は旅から旅までの風来坊で、今日は用心棒や。あんたらに恨みはないけど、これも仕事やさかい、ちょいと痛い目に合うてもらうで」

「痛い目に合うのはお前の方なのだ!」

 

鈴々、馬超、許緒の三人は武器を構える。

 

「そう、その活きや。それぐらいやないとおもろない」

 

張遼は武器である、愛紗の青龍偃月刀によく似た【飛龍偃月刀】を構える。

 

「一匹ずつ相手にすんのは面倒や!いっぺんにかかってきぃ!!」

「どぉりゃあああ!!」

 

先手を取ったのは許緒、巨大な鉄球を降り下ろした。昨日と同じく、地面に叩きつけて地鳴りを生み出す。

 

「ど、どっからこないなもん出したんや……?」

「うりゃりゃ~!」

「おっと!」

 

次に鈴々が蛇矛を降り下ろす。張遼はその一撃を受け流した。

 

「はああ!!」

「ふん!」

 

次に馬超が槍で突撃してきた。張遼はそれを受け止める。二人はお互いに押し返さんと、得物をぶつけ合う。

 

「とりゃああ!」

「くっ!」

 

許緒はもう一度、張遼目掛けて鉄球を降り下ろした。それに気づいた張遼は馬超を押し返し、空中に飛び上がって反転しながら回避する。

 

「危ない、危ない」

「うりゃりゃ〜!!」

 

安心したのも束の間。鈴々の蛇矛が張遼に向かっていた。しかし、蛇矛をいとも簡単に防ぎ、地面に叩き落とす。そのまま、張遼は偃月刀で鈴々に斬りかかる。

 

「っ!」

「「張飛っ!」」

 

馬超と許緒の叫びを他所に、張飛に刃が近づいていく。鈴々は迫り来る刃に備え、目を瞑る。

 

 

 

しかし、その刃が鈴々に来ることはなかった。

 

鈴々がそっと目を開けると、一人の青年が木刀で張遼の斬撃を防いでいた。

 

「鈴々!無事か?」

「お兄ちゃん!」

「北郷!」

「兄ちゃん!」

「なんや、他にも仲間がおったんか」

 

一刀は張遼を押し返す。そして鈴々が無事なのを確認し、安堵する。

 

張遼は後ろに下がり、距離をとった。

 

「……ふ〜ん。あんた、中々やりそうやな」

「そいつはどうも」

「ウチん名は張遼。あんたは?」

「俺の名は、北郷 一刀」

「なら、北郷!早速やけど、ウチの相手してもらうで!」

「できれば、あまり争いたくはないんだけど……仲間がやられてるのに黙っちゃおけないからな」

 

一呼吸置き、一刀は木刀を構える。

 

次の瞬間、二人は一斉に走り出し、お互いの武器をぶつけ合う。張遼は偃月刀を大きく振り回し、大きな金属音と共に振るう。一刀も木刀で防ぎながら、隙をついて張遼の腹目掛けて薙ぎ払う。張遼は柄でそれを防いだ。

木刀と偃月刀が金属音を出しながら、交差し合う。

 

「っ!」

「ええで!ええで!その調子や!」

 

まるで戦いを楽しむかの様に張遼はそう叫ぶ。一刀は相手の素早い斬撃を、いなし、防いでいく。

そして、二人は同時に飛び退いた。

 

(このまま長引いても駄目だ……次で決める!)

(酒代目当てに引き受けた仕事やったけど、久しぶりに血ぃたぎってきよったわ)

 

暫しの沈黙の後、一斉に地を蹴り、距離を縮める。

 

「はああああ!!」

「でりゃああああ!!」

 

張遼は大きく振り上げ、一気に降り下ろす。一刀は走りながら体勢を低くし、偃月刀を受け止める。その柄を沿う様に木刀を走らせ、勢いを利用し振り上げた。

手から離れた偃月刀は、空を切りながら宙をを舞い、地面に突き刺さる。

一刀は木刀を張遼に向けた。

 

「……降参してくれるかな?」

「はあ〜……参った。ウチの負けや」

 

観念した様に、張遼は両手を上げる。

その様子を鈴々達は、じっと見ていた。

 

「す、すげぇ……」

「あの兄ちゃん、すっごく強いじゃん!」

「当たり前なのだ!兄ちゃんはすっっごく強いのだ!」

 

鈴々は自分の事の様に胸を張っていた。

 

「きゃあ!」

「っ!?」

 

突然、悲鳴が聞こえた。その方向を見ると、三人組が二人の姉弟を人質にとっていた。

 

「勝負あったな」

「くっ、卑怯な!」

「おい、武器を捨てろ!でねぇとこのガキの命はねぇぞ!」

 

チビはナイフを取りだし、刃先を少年の首に当てる。

 

「ちょお待ち!何のつもりや!?」

「悪ぃが先生よぉ。こっちにはこっちの都合があるんでな」

「ちっ!」

 

忌々しそうに、張遼は舌打ちをする。

一刀も下手に動けずにいた。

 

 

その時、何処からともなく、針の様な物が飛んできて、チビの手に刺さった。チビが怯んでいる隙に、外套を被った人物が現れ、デブを蹴り飛ばすと、姉弟を抱えて屋根に飛び上がった。

 

「な、何だぁ、てめぇは!?」

「顔を見せやがれ!」

 

全員の視線が、その武芸者に集まる。

 

「乱世を正すため、地上に舞い降りた一匹の蝶」

 

その人物は外套を脱ぎ捨てた。

 

「美と正義の使者!華蝶仮面推参!!」

 

ジャジャーン!という効果音がつきそうな登場の仕方。蝶を象った、目元が隠れる仮面を付けた、“一刀達もよく知る少女”が姿を現した。

 

「一刀、鈴々、馬超。久し振りだな」

(あれって、星……だよな……?)

 

一刀は何となく――いや確実に――華蝶仮面の正体に気づいていた。それは、馬超も同様であった。

 

「あいつ、兄ちゃん達の知り合いか?」

「いや、その〜……」

「なんていうか……」

「あんな奴知らないのだ!」

 

えっ?と同時に声が出る一刀と馬超。そんな二人とは違い、鈴々はきっぱりと言い放った。

 

「どこで鈴々の名を知ったのかしんないけど、お前みたいな奴に知り合い面されたら迷惑なのだ!!」

「………」

((お、怒ってる……あれは完全に怒っている……))

 

どうやら鈴々は気づいて気づいていない様子。

華蝶仮面――星――は目で見ても分かるように、怒りのオーラを出していた。一刀と馬超は心中で若干、そのオーラに引いている。

 

「おい!華蝶だがガチョ〜ンだが知らねぇが、降りてきやがれ!」

「降りてやってもいいが、そうするとお主らがますます不利になるが、いいのか?」

「ああ?」

 

すると、後ろからカランコロンと下駄の音が聞こえる。振り返ると、そこには怒りに燃えた張遼が偃月刀を携えて睨み付けていた。

 

「人質とるなんて、ど汚い真似してようもウチを怒らせたな……!?」

「「「ひぃぃ!!」」」

「今度こそ、ぺしゃんこにしてやる!」

 

許緒は鉄球を三人組に投げつける。しかし、張遼は偃月刀の石突きで突っつく事にやり、それを防いだ。

 

「何で邪魔するんだ!?」

「金で雇われた身とはいえ、一応ウチもこいつらの身内や。身内の始末は身内でけりつける」

 

彼女なりの考えなのだろう。張遼は偃月刀を肩に担ぎ、三人組に近づいていく。

 

「おい、借金の証文出しぃ」

「へ、へい……」

 

ヒゲは恐る恐る、懐から証文を取り出した。

 

「しっかり持っときや」

 

次の瞬間、張遼は証文を八つ裂きにした。一瞬にして、紙屑と化した。

 

「ええか?今後一切あの姉弟に近づくんやないで――――分かったかっ!!」

「は、はいぃぃぃ!」

「ほんならとっとと行け!」

「し、失礼しました〜!!」

 

恐れをなし、三人組は尻尾をまいて逃げていった。

 

「めでたしめでたしなのだ」

「ほんなら、ウチも消えるとするか」

「これからどうするつもりなんだい?」

「さぁて、風の向くまま気の向くまま。これまで通りの風来坊や」

 

そう言うと、張遼は立ち去る。その去り際、一刀の方を向く。

 

「北郷、とか言うたな?その名、覚えとくで。いつかまたやる時は、ウチが勝たせてもらうで」

 

好戦的な、それでいて明るい笑みを浮かべ、張遼は一刀に宣戦布告する。これには、頬をかいて、苦笑するしかなかった。ほなな~、と張遼は今度こそ、旅立っていった。

 

「なんか変わった奴なのだ」

「変わった奴といえば、あの妙な仮面野郎は――――」

 

思い出し、振り返ってみる。そこに華蝶仮面の姿はなかった。

 

「う〜ん、最初から最後まで怪しい奴なのだ」

「張飛の奴、本当に気づいてないんだ……」

「……みたいだな」

 

若干、呆れた様に、ため息をつく二人だった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

一方――――

 

「――――かっこいいと思うんだけどな」

 

蝶を象った仮面を見つめながら、少女はそう呟いた。

 

 

◇◆◇◆

 

 

問題を解決し、旅に出る一刀達一行。

 

「本当にありがとうございました〜!」

「さようなら〜!」

 

姉弟に見送られながら、一刀達は家を後にした。

 

「所で許緒。お前はこの先どうするんだ?」

「とりあえず、洛陽かな。そこならもっとすごい大食い大会があるだろうし」

「そっか、だとするとこの先でお別れだね」

 

一刀は前を向く。

 

すると、何かを見つけた。目を見開き、優しい笑みを浮かべる。

 

「さて、鈴々。俺たちも戻るとするか」

「えっ?」

「ほら」

 

一刀は前を指差す。鈴々もそれにつられ前を向く。

 

小さめの岩に腰を下ろし、俯いている黒髪の少女がいた。鈴々は見つけるや否や黒髪の少女の方に走り出し、抱きついた。

 

「愛紗〜!」

「こ、こら!何だ急に」

「どうしてこんな所にいるのだ?」

「昨日の朝に引き返して、夕方前に町に着いて、それで町中の宿屋を探しても見つからなくて……」

 

愛紗は終始、気まずそうに説明する。

 

「孔明はどうしたのだ?瑠華も」

「もしかしたら引き返すかも知れないと、町の反対側の所で二人共、待っている」

「愛紗は、何で引き返したのだ?」

「何でって……お前を探す為に決まっているだろう」

 

鈴々と顔を合わせ、そう答えた。

 

「私は姉で、お前は妹だ。だから、どこへ行くのも一緒だ!いいな?」

「っ!うん!」

 

満面の笑顔で鈴々は愛紗に抱きつく。愛紗も恥ずかしそうにしながらも、満更ではない様子。

 

「あの黒髪の人、誰なんだ?」

「名を関羽。張飛の姉だ」

「姉?」

「ああ、血の繋がりはないけど、正真正銘の姉妹さ」

 

許緒の質問に馬超と一刀はそう答える。

 

一刀はそんな姉妹を、遠くから優しく見守っていた。

 

 

◇◆◇◆

 

 

村の反対側では、瑠華と孔明が並んで岩に座っていた。

 

「はぁ……」

「その溜め息、何回目?」

「だ、だって、お二人が仲直りできたのか心配で……」

「――――孔明、その心配はないみたいだよ」

「えっ?」

 

瑠華は自信満々に微笑みながら、向こうを見る。孔明も振り返り、その瞬間、笑顔になる。

 

二人の視線の先には、楽しそうに笑い合う姉妹――――そしてそれを見守る兄の姿がいた。

 




どうもです!

色々と文字修正や、台詞を考えたりして遅くなりました。暇潰しに、他の小説も手掛けているので、相も変わらずマイペースであります。

次回もよろしくお願い致します。
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