真・恋姫†無双~北刀伝~   作:NOマル

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~一刀、関羽とすれ違うのこと~

一方、愛紗は屋敷の廊下の窓の手すりにもたれ、綺麗な満月を眺めていた。

 

「関羽殿」

「劉備殿……」

 

そこへ、劉備が歩いてきた。

 

「どうしました?何か気に入らぬ事でも」

「いえ……ただ、月があまりに綺麗だったものですから」

「月?ほう、これは確かに」

 

劉備も満月を眺める。

 

「もっとも、関羽殿。あなたの美しさには敵いませぬが」

「な、何を言って……」

「関羽殿」

 

劉備は愛紗に近寄り、彼女の両手を握る。

 

「いきなりこんなことを言って、迷惑かもしれぬが、この先、ずっと私の側にいてもらえないだろうか?」

「えっ!?」

 

突然の告白に、愛紗は声を上げた。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

瑠華を部屋まで送った後、一刀は外を軽く散歩していた。涼しい夜風が、彼の髪を撫でる。

 

「瑠華の奴、大丈夫かな……ん?」

 

話し声が聞こえ、上を見上げる。窓に見えるのは愛紗。

 

「愛紗?お~い、愛――――」

 

途中、彼女の名前を呼ぶのを止めた。愛紗の所へ劉備がやって来た。会話をしていると思いきや、急に劉備が愛紗の両手を掴んだ。愛紗は顔を赤くしている。

 

「………」

 

何故だろうか。胸がざわつく。自分以外の男が、彼女と一緒にいる。

一刀は上げかけた手を下ろし、やや急ぎ足で、その場を後にする。

 

「確かに、今の私ではあなたの主に相応しくないかもしれない。しかし、私もこのままという訳ではない。賊を倒すことで名声を得て、多くの兵を集め、いずれは――――」

「お、お待ち下さい。いきなり、そんなことを申されても……」

「あ~!こんなとこにいたのだ!」

「っ!」

 

急に鈴々が乱入し、愛紗は慌てて劉備から離れる。

 

「料理があと少ししかないから早くしないとなくなっちゃうのだ」

「そ、そうかそうか」

 

愛紗は何とか平静を保ち、劉備に礼をしながら、その場を後にした。

 

一人残された劉備。そこへ、一刀が小走りでやって来た。いつもなら、どうという事のない距離だが、息切れがやや激しい。

 

「おお、北郷殿。どうされました?そんなに慌てて」

「い、いや……」

 

どうやら、近くに愛紗はいない。少し安心する一刀。息を整えた後、一呼吸置く。

 

「あの、劉備さん。さっき、愛紗と何か、話してましたよね?」

「ええ。是非、これからも私の側にいて下さいと」

 

意気揚々と、語り始める劉備。

しかし、その言葉のどれもが、今の一刀の耳には、届いていなかった。劉備と愛紗が一緒にいる場を見た瞬間、不安が募っていく。

 

「無論、北郷殿も私の同志として、共に歩んでいただきたい」

「あ、ああ……」

 

我に帰り、何とか返事を返す一刀。声が震え、嫌な汗もかいている。

 

しばらくして、劉備と別れるまでの間、何とか動揺を隠し通した一刀。溜めていた息を吐き、手すりにもたれる。

 

「……愛紗」

 

彼の姿を、満月の光が、寂しく照らしていた。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

翌日、自室に妹がやって来た。扉を破壊する程の勢いで。

 

「お兄ちゃん、一緒に山へ行くのだ」

「山へ……?」

「はい、これから薬草を摘みに行こうと思っているのですが、どうでしょうか?」

「瑠華君も行きますか?」

 

愛紗、鈴々、孔明の三人。瑠華は普段通りに対応。しかし、一刀はというと、愛紗が入ってきた途端、顔を俯かせる。

 

「うん、どうせ暇だし。一刀は?」

「ごめん……遠慮しとくよ」

 

彼らしからぬ、暗い声色。寝台の上で寝返りを打ち、背中を向ける。

鈴々と孔明は頭を傾げ、瑠華は肩を竦めた。

 

「じゃあ、一刀は留守番ってことで。というわけで、僕だけ行くよ」

「ああ……分かった」

 

結果、瑠華だけが同行することとなった。部屋を去る中、愛紗は顔だけ振り向く。

何かに怯える様に、顔を反らされた様な。顔を曇らせ、愛紗は部屋を後にした。

 

「はぁ……何やってんだろ、俺」

 

一人、部屋に残った一刀。仰向けになり、腕で顔を隠して、そう呟いた。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

山中を歩いている最中、瑠華に質問する愛紗。

 

「なぁ、瑠華」

「なに?」

「一刀は……一体どうしたのだ?具合でも悪いのか?」

 

愛紗は恐る恐る問いかける。それに対し、さあ?と首を傾げる瑠華。

 

「昨日、聞いてみたんだけど、何か誤魔化されてさ。結局分からなかったんだよね」

「そう、か……」

 

部屋に入り、目が合った瞬間、一刀は目を反らした。まるで、自分を避けているかの様に。それが悲しかった。いや、辛かった。

今まで、彼に対する制裁――嫉妬がらみによる――で恐れを抱かれる事は、少し……いや、かなりあった。

だが、今回は根本的に違う。それが分からず、ため息をついた。

 

三人のチビッ子達は、顔を見合わせ、困った表情を浮かべる。

 

「あれ?何だろう、この花」

 

瑠華は、ふと視界に入った、珍しい形をした花を見つける。

 

「これは、“三日草”と言って、熱を下げるのにすごく効果がある薬草なんです」

「へぇ〜、そうなんだ」

 

孔明が説明し、瑠華は三日草を珍しそうに見つめる。

 

「動物の死骸に寄生して、一日で芽を出し、二日で葉を茂らせ、三日で花を咲かせる事から“三日草”というんですけど、四日目になるとすぐに枯れてしまうため、滅多に見つからない貴重な物なんです」

 

孔明は屈んで、三日草を引き抜く。引き抜いた瞬間、愛紗、鈴々、瑠華の三人は一気に顔を青ざめる。恐怖に震えながら、根元部分を指差す。

頭を傾げる孔明もつられて、視線を落とす。

 

「はわわ〜〜〜っ!!」

 

三日草の根元には、動物ではなくミイラ化した人間がくっついていた。

三日草を手放した後、孔明は瑠華の後ろに怯えながら隠れる。

 

「お前は……」

「もしかして……」

「馬超……?」

 

ミイラと化した少女は、愛紗達の知る人物であった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

劉備と愛紗が一緒にいる所を見たあの時から、一刀はずっとこの状態だ。

一刀自身も、自分の心に蠢くこの感情を、未だ理解出来ずにいた。

 

「……散歩、でもするか」

 

気を紛らわせるためか、一刀は部屋を出る。そのまま廊下を歩いていると、客室に明かりがついていることに気づく。同時に、そこから聞き慣れた声がした。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

ガツガツモグモグゴクンッ!と咀嚼し、飲み込む大食いポニーテール。

 

「すごい勢いで食べるね…」

「なのだ…」

 

馬超は、用意された目前の料理を、瞬く間に平らげていた。横で見ていた瑠華と鈴々は呆けた表情を浮かべる。

 

「所で馬超。あんな所で行き倒れになっているとは、一体何があったのだ?」

 

愛紗が問うと、馬超は口内に残っている料理を一気に一気に飲み込む。

 

「いや〜、武者修行の途中に路銀が底をついちまって。腹ぺこで困ってた時に、ほら、あの大食いのチビ。許緒が山で食料を採ってたのを思い出してさ。そこで私も探してみたんだけど、どれが食えるかさっぱり分かんなくて」

 

とりあえず、近くに生えていた茸を適当に焼いて食べてみたら、これがある意味大当たり。

 

「すぐに目の前がぐるぐるしてきて、しばらくすると、“耳のでっかい鼠”とか“クワックワッうるさい家鴨”とかが見えてきて、そいつらと高笑いしながら山の中を歩いていたら――――バタッ!て訳」

「……それ完全に毒に当たったな」

 

いつの間にか話に加わっている一刀に気づかず、愛紗、鈴々、瑠華はウンウンと頷く。

 

「馬超さんが食べたのは、多分“彩気茸”です。幻覚作用があって、並の神経をしている人なら野垂れ死にしていたかも」

 

以上、孔明先生の豆知識でした。

腹が膨れたのか、椅子に座ったまま爆睡する馬超。

 

「まあ、確かにこいつは並の神経じゃないな……」

「ああ……」

「って一刀、いつの間に?」

「へっ!?」

 

全員の視線が一刀に向く。

そして、一刀はまた、愛紗の視線を慌てて反らす。愛紗は悲しい表情を浮かべる。

 

「あっ、雪……」

 

気まずい空気の中、窓を見てみると、初雪が降っていた。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

季節は流れ、外は雪が積もっていた。辺り一面が、真っ白な世界。

 

「うわ〜、真っ白なの――――」

 

はしゃいで出てきた鈴々の顔に、ドシャッ!と、いきなり雪がぶつけられた。

 

「ぶはっ!何するのだ!」

 

すると、木の陰から三人の子供達が出てきた。

 

「悔しかったらここまでおいで〜!」

「おいで〜♪」

「むき~っ!」

 

子供達の挑発に乗り、鈴々は子供達に向かって走る。

 

「覚悟する――――にゃ〜っ!?」

 

しかし、落とし穴が仕掛けられており、そのまま落ちてしまった。

 

「や~い、引っかかった♪」

「義勇軍とか行っても大したことねぇの」

「ね~の♪」

「ぐぬぬ……一生の不覚なのだ」

 

子供達の悪戯に引っかかった鈴々は、雪まみれになり、悔しがっていた。

 

冷えた体を温める為、自室に戻る鈴々。

 

「へっくし!まったく、とんでもない悪ガキなのだ!」

「そうか、とんでもない悪ガキ、か」

「むっ、なにがおかしいのだ?」

「いや、とんでもない悪ガキと聞いて、初めてお前と会った時の事を思い出してな」

 

――――鈴々山賊団のお通りなのだ〜♪

 

愛紗は、鈴々の声真似をしながらそう答える。

 

「ふ、ふん!鈴々山賊団はあんなヘナチョコじゃないのだ!」

「まあそう言うな。あの子達が悪戯してきたのは、案外お前と仲良くしたいからかも知れんぞ?」

「仲良くしたいからイタズラするなんてワケ分かんないのだ。例え、もしそうだったとしても、鈴々はぜ~ったい!あんなやつらと仲良くなんかしてやらないのだ!」

 

悪戯に引っ掛かったのが余程悔しかったのか、鈴々はそう断言をする。

 

(そういえば、一刀と出会った時は……)

 

愛紗はふと、一刀との出会いを思い出していた。

 

旅の最中、突如として発生した眩い光の中から現れた青年。それが、一刀だった。見慣れぬ服装、聞いた事のない言葉。戸惑いがなかった、といえば嘘になるだろう。出会い頭に、面と向かって、“綺麗だ”等と容姿を褒められたのは初めてだった。

しかし、彼からは、賊が持つ様な、穢れた邪な心が感じられなかった。

いつでも仲間の為、弱き人々の為に、自分を犠牲にしてでも立ち上がる。そんな優しい心が、一刀の良い所だ。

 

ほんの少しだが、鈴々よりも付き合いは長い。出会ってから今に至るまで、かなり長い年月を共に過ごしてきた。自惚れかもしれないが、誰よりも、彼の側で、彼の事を見てきた。

 

「…………」

 

頭に思い浮かべる、彼の笑顔。自分だけに、向けてくれている。

愛紗は、静かに微笑み、胸元の前で両手を握った。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

その翌日、

 

「鈴々義勇軍のお通りなのだ〜!」

「なのだ〜♪」

「行くぞ瑠華~」

「はいはい」

 

昨日の言葉はどこへ行ったのやら。鈴々は小さい豚に跨がり、悪戯してきた子供達とすっかり打ち解けていた。

因みに、鈴々に巻き込まれる形で、瑠華も参加している。嫌々かと思いきや、満更でもない様子。

 

偶々、その場を歩いていた馬超。その前を、山賊団が通り過ぎていった。尻餅をつく前に、後ろにいた一刀に支えてもらう。

 

「こら〜!この悪ガキ共〜!」

「鈴々と瑠華の奴、村の子供達とすっかり仲良くなったな」

 

鈴々達を叱るのと反対に、一刀は微笑ましく見ていた。

 

「ったく、んな事言ってる場合かよ」

「まあまあ、子供は風の子ってね」

 

横で子供達を庇う一刀に、馬超は呆れながらも、その顔は笑っていた。

 

「ん?あれは……」

 

後ろの方で廊下を歩いていた愛紗。

二人で談笑している一刀と馬超を見つける。

 

「えっ!?お前、馬に乗れねぇの!?」

「うん、お恥ずかしながら……」

 

瞳を大きく見開き、驚きを露にする馬超。一刀も恥ずかしそうに頬をかく。

すると、何かを考えた後、馬超は胸を張る。

 

「よしっ!だったら、あたしが乗馬を教えてやるよ」

「えっ、でも……」

「任せとけって!なっ?」

 

明朗快活な笑顔。彼女の明るい性格と合い、とても魅力的な印象を与える。断る理由もない。ここは、厚意に甘えるとしよう。

 

「それじゃあ、お願いするよ馬超」

「おうよ!」

「にしても、馬か……仲良く出来たらいいんだけど」

「あんまし怖がらせる様な事しなかったら、大丈夫だって」

「確か、繊細な生き物なんだもんな、馬って」

「怒らせて蹴飛ばされんなよ~?」

「そ、それは勘弁してほしいな」

 

からかう馬超に、苦笑いで答える一刀。傍から見れば、とても仲睦まじい光景だ。

 

「……」

 

愛紗の表情が曇る。

 

何故自分を避けるのか?

 

自分が何かをしたのだろうか?

 

愛紗の心を不安が過る。理由は分からないが、馬超と楽しそうに話している一刀を見ると、何故か落ち着かない。愛紗もまた、自らの感情に戸惑いを隠せないでいた。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

村よりちょっと外れた野原。鈴々達は円を描く様に座っていた。

 

「ねえねえオヤビン」

「オヤビンじゃなくて、大将なのだ」

「大将って、また偉く出たね」

「じゃあ、大将。次は何をして遊ぶ?」

「う〜ん」

 

鈴々は胡座をかき、腕を組み、そして考える。一番年下の少女が、口を開く。

 

「お花見♪」

「バ~カ。まだ花が咲いてないのに、お花見なんてできるかよ」

「お花見?」

「この村、お花見できる所なんてあるの?」

「ここだよ、ここ」

「満開になったらすごいんだよ」

 

どうやら、鈴々達がいるその場が花見の場所らしい。その証拠に、多くの木々が群生している。

 

「桃の花がいっぱい咲いて」

「だからこの村、桃の花の村って書いて、“桃花村”って言うんだ」

「へぇ、そうなんだ」

「よ~し!それじゃ、ここの桃が咲いたら、みんなでお花見するのだ♪」

「「「お~~!」」」

(お花見、か……)

 

鈴々と子供達は、そう約束をする。瑠華も自らの真名の通り、華の様に可愛らしい笑顔を浮かべていた。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

とある茶店で、小さな女の子が団子を頬張り、母親らしき女性が、お茶を啜っている。

 

「璃々、そろそろ行きましょうか」

「うん♪」

「あらまあ、口の周りがべたべたじゃない」

 

黄忠は布巾を取りだし、璃々の口周りを拭く。

拭き終わった後、会計を済ませた。

 

「はい、確かに」

「ご主人。桃花村までは、後どのくらいかかるでしょうか?」

「桃花村?ああ、最近義勇軍が近くの賊を征伐しているっていう」

「ええ、そうです。その村です」

「そうさな……山を二つ三つは越さにゃならんから、子連れの足だと、六日はかかるかもしれんな」

 

立ち聳える山々を見て、主人は黄忠にそう答える。

 

「まさか、あんた義勇軍に?」

「ええ。以前、私に世話していただいた北郷さんと関羽さんが、将としてやっていると聞いたので、私も力を貸そうと」

 

黄忠の話を、茶店の中にいる“一人の武芸者”も耳にした。

そして、黄忠は出発し、主人は店に戻る。

 

「――――主人」

「へい、何でしょう?」

「桃花村とやらの義勇軍の話、少し詳しく聞かせてもらえぬか?」

 

外套を被った水色の髪の女性は、主人にそう質問する。

 

 

 

【光】は今、一つに集まろうとしている。

 

しかし、光が集まることにより、【影】が生まれ、それはやがて【闇】を呼ぶ。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

――――桃花村より外に位置する森の中。中でも特に目立つ、一本の大木。その上に、二人組の男達が唐突に現れた。

黒い外套を深く被っており、顔はよく見えない。

 

「……ここか」

「フ〜、ヤット着イタネ〜」

 

二人の視線は、目前の村――桃花村――に向けられている。一人は地図で村を確認、もう一人は器用に胡座をかいて眺めている。

 

「ここに“アレ”の欠片があるのか」

「ドウスル?手ッ取リ早ク、パパッ!ト盗ムカイ?」

「そう慌てるな。時間はある。それに、俺達の存在を周囲に知られてはまずいだろう」

「ジャア、ドウスンノ?」

「辺りが暗くなるのを待て。見た所、警備も薄い。これなら造作もない事さ」

「確カニ、ソノ方ガ簡単ダネ。ッテ事ハ……」

「今夜、決行だ」

「ハイハ~イ」

 

次の瞬間、二人は風の様に消え、その場には誰もいなくなった。

 




書いてみたら、あまりにも長かったので、分ける事に致しました。

それから、当分はハーメルンの方を書いていくつもりです。どうも、なろうの方で行き詰まってしまいまして……。
改めまして、これからも宜しくお願い致します。
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