真・恋姫†無双~北刀伝~   作:NOマル

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~一刀、外史の世界へ行くのこと~

桃の花弁が、風に揺られて舞い上がる。

美しく咲き誇る木々を、外套を羽織った一人の旅人が歩いていた。手には、青龍を象った武器。【青龍偃月刀】を携えている。

 

「――――桃か……」

 

そう呟き、感傷に浸る。微笑んだ後、すぐに表情を引き締めた。

 

「そろそろ、出てきたらどうだ?」

 

その言葉を合図に、木々の陰から汚い笑みを浮かべた盗賊達が出てきた。四、五人程度の盗賊達の中から、頭らしき男が口を開いた。

 

「ここは俺たちの縄張りでな、通してほしかったら、金目のものを置いていきな」

 

剣先をこちらに向け、威嚇しながら追い剥ぎを行う。

 

「まったく、世も末だな……」

 

呆れながら、身に纏っていた外套のフードを外す。

長く艶やかな黒髪の、非常に整った顔立ちをした少女は、琥珀色の瞳で盗賊達を見据える。

 

「ん?アニキ。こいつ、もしかして【黒髪の山賊狩り】じゃ……」

「あん?なんだそりゃ?」

「知らねぇんですかぃ?あちこちの山で襲い掛かった山賊を返り討ちにしている黒髪の美しい武芸者がいるって。最近、(ちまた)じゃちょいと話題になってやす」

「ふん!だからってひびることはねぇ。ご自慢の黒髪、首ごと叩き斬って、兜の飾りにしてやるぜ!」

「やれやれ……」

 

またもや呆れた様にため息を吐く。その美しい武芸者は、外套を脱ぎ捨てた。

 

「我が名は関羽!乱世に乗じて無枯の民草を苦しめる悪党どもめ!これまでの悪業を地獄で詫びたくば、かかってこい!」

 

偃月刀を軽々と振り回し、盗賊達に刃を向ける。

 

関雲長、いざ参る―――

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

―――一方、時は二十一世紀。

 

昼下がりの快晴の下、一つの墓の前で手を合わせている一人の青年がいた。若干茶髪で、中々に整った顔立ちをしており、白い制服を着ている。

名を【北郷(ほんごう) 一刀(かずと)

聖フランチェスカ学園に通う高校二年生。今日は、一年前に亡くなった祖父の墓参りに来ていたのだ。

 

「久し振りだね。じいちゃん。」

 

一刀は墓に優しく手を添えた。

 

「じいちゃんが死んで、もう一年経つんだぜ?早いもんだよな~」

 

感慨深そうに言うと、表情が悲しみに染まった。

 

「やっぱ、一人ってのは辛いよ……」

 

小学生の時、両親を交通事故で早くに亡くした一刀は、父方の祖父に預けられた。

名を【北郷 斬刀(ざんと)

80代とは思えないほどの身体能力を持ち、若い頃は通称『心剣の斬刀』と呼ばれる程の剣の実力者である。

斬刀に引き取られた幼い一刀は、その祖父の剣を振るう姿に感動し、ある日突然―――

 

「おじいちゃん!僕を弟子にしてください!」

「……ほう?」

 

正座をして、『いきなり弟子にしてください』と言ってきた孫に、斬刀も正座をして一刀と向き合い、こう質問してきた。

 

「どうした?一刀。何故、弟子にしてほしいのじゃ?」

「僕…僕!強くなりたいんだ!」

「……何の為に?」

 

斬刀は睨み付ける様に聞いた。

それに臆することなく一刀は続けた。

 

「お父さんとお母さんは……僕を守って死んじゃった。だから!今度は僕が、お父さんとお母さんの様に、強くなって守りたいんだ!」

「何を守るのじゃ?」

「おじいちゃん!」

「…………はぁ?」

 

斬刀は似合わぬ声を出した。本来ならば、自分が守る側なのに、この幼い孫――自分が守るべき存在――が、自分を守りたいと言ってきたからである。

 

「何を言い出すかと思えば……はぁ」

「っ?」

 

かわいらしく首を傾ける孫。

 

「あのなぁ、ワシはお前に守られる程柔じゃないんじゃが―――」

「それでもだよ!」

 

斬刀は目を見張り、一刀はそのまま続けた。

 

「だって、おじいちゃんは、僕の…僕の“家族”なんだもん!」

「…………」

 

瞳を閉じ、斬刀は思い出していた。

 

息子夫婦が亡くなったと聞いた時、斬刀は悲しみに囚われていた。

 

『何が、心剣の斬刀だ!』

『何が人を守る剣だ!』

『儂は…儂は…何も守れていないではないか!』

 

斬刀は泣いた。道場の真ん中で膝をついて泣いていた。その時、背中に優しい衝撃が加わった。

背中を見ると、幼い孫が抱きついていた。離すまいと、ぎゅっと、顔を埋めながら。

その温もりに心癒される斬刀。肩を掴んでいる小さな手に、そっと手を添えた。

 

(ワシとしたことが、あのときから守られていたとはの)

 

フッと斬刀は笑い、真剣な面立ちになった。

 

「北郷 一刀よ」

「はいっ!」

「弟子になりたいのだな?」

「はいっ!」

「修行は厳しいぞ?それでもやる覚悟はあるか!?」

「はいっ!」

 

一刀も負けずに大声で返事をした。

 

「…………」

「…………」

 

二人は、睨み合っていた。猛者たる眼光を放つ斬刀と、幼いながらも真剣な眼差しで祖父を睨み返す一刀。

しばらく経ち、

 

「……フッ、良い瞳をしておるのぉ。」

「っ?」

「よかろう!弟子にしてやる!」

「っ!はいっ!」

 

こうして一刀は弟子入りし、10年間、斬刀の指導の下、厳しい修業に耐え続けてきた。

 

高校一年生の春、斬刀との最後の修行、真剣での一騎討ちを行い、そして…

 

「……一刀よ。」

「はいっ!」

「この10年間、よく頑張った」

「はいっ!」

「今ここに!北郷一刀よ!お前を免許皆伝とする!」

「はいっ!ありがとうございました!」

 

免許皆伝した一刀は、その実力を生かし、剣道部では、いや、その強さは遥かに越えており、全国で一位を取るほどとなった。

だからといって、一刀はその力を自慢する事なく、祖父に言ったように“守る”ために使うと決めていた。実は、剣術だけでなく“氣”も扱える様になっていた。

 

“氣”とは、人間の体内に流れる、生命エネルギー。

 

普通は何十年かかっても、会得出来ない者が多い。斬刀の場合は、10年かかった。

しかし、一刀の場合、それを5年で会得したのであった。斬刀曰く

「天性の才能かものぉ」と驚いていた。

 

凄まじい才能を開花させた一刀であった。

 

免許皆伝をもらった次の日、いつも通りの学校からの帰り道。

 

「ただいま~」

 

祖父からの声がなく、首を傾げる一刀。

 

「あれ、寝てんのかな?」

 

廊下を歩きながら、祖父を探す。しかし、どこにも見当たらない。

 

「じいちゃん?」

 

居間の襖を開け、中に入る。

そこには、愛する祖父が血を吐いて、倒れていた。

 

「じいちゃん!?」

 

すぐさま、斬刀は病院へ搬送された。病室では、斬刀が弱々しくベッドに横になっていた。顔色も悪く、瞳孔の動きも怪しい。

 

「…どうやら…年みたい…じゃ…のぅ…」

「じいちゃん!」

「死ぬ前に、お前を…免許皆伝できて…よかったわい…」

「死ぬなんていうなよ!」

 

一刀は、斬刀の手を強く握った。

 

「一刀よ…その力…必ず“守る”為に使え……!」

「そんな……じいちゃんを守れないのに、俺に守れるわけが――――」

「バカモノ……いずれ、お前にも…大切な人が…できる…筈じゃ…。その者を…お前が…守って…やるのじゃ……」

「俺…が……?」

「そう…それが…お前の…『剣』…じゃ」

 

今にも、命の灯火が消えかけている。だが、それでも祖父は孫の顔をしっかりと見据えていた。一刀も見つめ返し、決心した様に、顔を引き締める。

 

「――――うん、分かったよ……じいちゃん」

 

フッと斬刀は微笑み、そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「免許皆伝と同時にじいちゃん渡されたこの木刀で、俺は大切なものを守ってみせる」

 

祖父の墓に拳を見せ、決意の証を見せる。

 

「見ててくれよ……師匠!」

 

墓参りを済ませ、家への帰り道を歩いていた。野道を歩いていると、不思議な感覚に見舞われる。

 

「っ!」

 

奇妙な『氣』を察知した一刀は身構えた。すると突如、目の前の空間が渦巻きだした。渦巻き状に捻じ曲がり、歪んでいく。

 

「な、なんだ!?」

 

徐々に渦巻きが消え、その中から綺麗な鏡が落ちた。

外装は古ぼけてはいるものの、鏡自体は美しい光沢を放っている。一刀の姿がくっきりと見える程に。

 

「なんだ、一体……?」

 

我に帰った一刀は、戸惑いながらも近づいていく。鏡を拾うと周りを見回した。

 

「あれは、なんだったんだ?それにこの鏡は一体――――」

『――――って………』

「えっ?」

 

突然、声が聞こえた。舞台女優並みの、澄んだ声音をしている。

辺りを見渡すも、人らしき気配は感じられない。しかも、その声はまだ続く。

 

『この世界を…救っ…て………』

「ど、どういう事――――」

 

すると、両手で持っていた鏡が、急に光り始めた。太陽が天高く昇っているのにも関わらず、太陽光さえも負かす程の光だった。

 

「な、なんだなんだ!?ひ、光り始めた……って、うわ!?」

 

その光は段々と強くなり、一刀を体ごと飲み込んでいく。一刀は目映さに耐えきれず、瞼を強く閉じた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

そして…………その場には誰もいなくなった。

 

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