そして翌日、皆で朝食をとっている。
鈴々、馬超は大食いスキルを発揮し、星はメンマを堪能している。瑠華もまだ完治していない腕で食事をしているが、たまに朱里が手伝ってくれている。
皆がそれぞれ食を進めている中、一刀だけが箸を手にしておらず、思考している。
(う〜ん、どういう風に誘ったらいいんだろ)
「一刀、どうかしたのか?」
「へぃっ!?」
横から、愛紗が問いかけてきた。咄嗟の事で、声が裏返ってしまった。
「い、いや……べ、別に?何でもないよ?う、それじゃ、いただきま〜す♪」
「そう、ですか」
一刀はごまかす様に、目の前にある炒飯を口にかきこむ。
「おっ、うまいな〜これ」
「あら、そうですか?」
パラパラとした食感、絶妙な味付けに舌鼓を打つ一刀。瞬く間に炒飯を食べ終えた。娘の璃々にご飯を食べさせてあげながら、黄忠は微笑む。
「ぶぅ、うまかった~」
「美味しかったのだ♪」
一刀と鈴々が満足げに言うと、黄忠は嬉しそうに笑う。
「あらあら、北郷さんったら」
「えっ?」
よく見ると、一刀の口元にご飯粒が付いていた。黄忠は指でご飯粒を拾うと、そのまま口にした。
「すいません黄忠さん」
「いえいえ、私もご馳走さまです♪」
黄忠が見せる妖艶な笑みに、一刀は頬を赤く染める。時折、大人の美女が見せる笑みは、中々に心臓を驚かせる。
すると、急に右足に激痛が走った。
「いづっ!?あ、愛紗、いきなり何す――――」
「はっ?何かありましたか?」
「……いや、なんでもありません」
愛紗は素っ気なく返事をする。
彼女に威圧され、小さくなった一刀は痛みが引くまで右足を擦った。黄忠はあらあら♪と微笑ましそうに見ている。
「と、所で、一刀……」
「ん?今度はどうしたんだ?愛紗」
さっきまでの態度とは違い、愛紗は言いにくそうにするも、コホン、と咳をし、質問する。
「一刀は……その、やっぱり、料理の出来る女性は、いいと思うのか……?」
「へっ?」
チラッ、と恥ずかしそうに横目で一刀に問う愛紗。美少女が羞恥している様子を目にし、ドキッとしながらも、一刀は思考する。
「まあ、料理にも、得意不得意があるからね。別にできないからって、俺は気にしないけど」
「そ、そうか……」
ホッと、安堵した様子を見せる愛紗。
「でも、出来たら、女の子の手料理は食べてみたいかな〜」
「そ、そうか……」
「それが、どうかした?」
「い、いや!な、なんでもない……」
「そうか?」
一刀は訳が分からず、頭を傾げる。
落ち着きを取り戻した愛紗は、重いため息をついていた。
道のりは、険しい……。
◇◆◇◆
朝食を食べ終え、自室に戻った一刀。寝台の上にて、腕を組んで胡座をかく。
「なんか……緊張するな」
そわそわとしていて、どこか落ち着きがない。
これから愛紗を逢い引きに誘う所なのだが、中々一歩を踏み出せずにいた。こういった恋沙汰は、全く経験がない。一度でもいいからご教授願いたいものだ。自慢話を聞かされる様で非常に癪だが、そうもいってられない。それほど、緊張感が高まっていた。
しかし、時間は早めの方がいい。ぶっちゃけ、相談の時間すら惜しい。
「よし、一回練習してみるか」
今度は畏まったかの様に、扉の前を向いて正座する。目の前に愛紗がいる事を想像し、練習を行う。
「あ~え~……ごほん!」
深呼吸し、気持ちを整える。
ーーーーこの時、一刀は気づいていなかった。この部屋に一人の少女が近づいている事を。
そして、少女は扉を開けた。
「一刀、体の調子はーーーー」
「愛紗、俺と一緒に逢い引きに行かないか!?」
「……………え?」
「ん?」
二人は対面した。しかも、偶然か運命か、目と目が合った状態で。お互い、何が起こったのかと呆けた表情を浮かべる。
一刀の方はイメージ練習の筈が、目の前に本物が現れた事によって、いつの間にか本番を行っていた事に気づく。表情は固まり、大量の冷や汗をかいてしまっている。
対して愛紗は、様子を見にきた筈が、扉を開けて突然の逢い引きのお誘い。しかも、“自分の想い人”からのお誘い。表情はそのままでも、嬉しさか、恥ずかしさからか、頬は赤くなっていた。
「か、一刀……?」
「あ、うん……」
「それは、どういう……?」
「いゃ~、つまり、その〜……」
愛紗が訪ねると、ボソボソと小さく呟きながら、歯切れの悪い口調で、しかも目が泳いでいる。
(こ、こうなったら言うしかねぇ!!)
意を決し、一刀は言葉を発する。
「え〜っと、要するにだ!一緒に外へ散歩しに行かないかな〜なんて……」
「は?」
「いや、その、一人で外に行くのは駄目だろ?だから、愛紗と一緒だったらいいのかな〜なんて……」
ぎこちない感じで一刀はそう答える。
「あぁ……そういう事、ですか」
「あ、愛紗?」
「はぁ……分かりました。そういう事でしたら」
「えっ?い、いいの?」
「ええ、構いませんよ」
(よぉぉぉぉぉしっ!!)
一刀は後ろを向いてガッツポーズをする。当たって砕けろの精神で望んだが、功を奏した様だ。
歓喜に満ちた一刀とは正反対に、愛紗は残念そうな、やや落ち込んだ様子を見せている。
(ーーーー逢い引きじゃない、か )
◇◆◇◆
屋敷から外出し、一刀と愛紗は、村の田道を二人揃って歩いていた。
「いい天気だな〜」
「そうですね」
体を解しながら言うと、愛紗も返事をした。久々の散歩は、暖かな日光と涼しい風のおかげもあり、良い気分転換となっている。
「にしても……平和だな」
「ええ、本当に」
二人は、村を見渡す。
何処にでもある、極々普通の田舎村。村人一人一人が元気で、活気のある所だ。
当たり前の様な事だが、この時代では、とても珍しい光景であり、目指さなければならない情景でもある。
「……」
「一刀?どうかしましたか?」
「ん?いや、ちょっと思い出しててさ」
「思い出す?」
「ああ、今までの事を……ね」
物思いに耽る一刀に、愛紗は声をかける。
一刀は、自分がこの世界に来てからの出来事を思い返していた。
全ての始まりは、尊敬する祖父の墓参りの帰り道、道端に落ちていた謎の“鏡”を手にした事から始まった。鏡から発せられた謎の光に包まれ、気が付けば自分は、この世界に。
そして、最初に出会った人物。それが、隣にいる少女。軍神【関羽 雲長】、真名を愛紗。
ひょんな事から彼女と共に旅をすることになった一刀。そして理解する。
自分は、古代中国の後漢末期の時代。
【三国志】の世界に来たということを。
三国志については、小さい頃から興味を持った事もあり、それに関連する書物を読んでいた。
数々の群雄、武将、軍師が生きていたこの時代に、自分が訪れるとは夢にも思わなかったが、この世界は史実の三国志とはちょっと違う所がある。
それは、歴史上の人物が全員“美少女”になっているという事実。
最初、“どんなシチュエーションだよ”とツッコミたくなったが、今となっては“これも、アリだな!”と思っている自分がいて少し恐怖した。だが、すぐに慣れた。慣れというものも怖いものだ
加えて、この世界ならではの風習がある。それが【真名】だ。
真名とは、親から自分自身に与えられた、文字通り、“真の名”。同時に信頼の証でもある。
これは親しい人物、もしくは自分が信頼するに値する存在にしか与えられない、神聖なものだ。例え知っていても、本人の許可なしで口にすれば、首をはねられても文句は言えない。
それほど、大事なものなのである。
そして一刀の隣にいるこの黒髪の少女。【関羽 雲長】こと、【愛紗】。
一刀が最初に出会い、仲間になった人物でもある。
幼い頃に賊に襲われ、両親、そして最愛の兄を失った。それからは世を正す為の旅をしている。
一刀は、愛紗との出会いを思い出していた。
(あの時は驚いたな〜。軍神と崇められていたあの【関羽】が、まさかこんな可愛い女の子になってるんだから……)
横にいる愛紗を見ながら、心中で呟く。
長く、艶やかな黒髪。思わず、撫でたいという衝動に駆られる。琥珀色の宝石の様な瞳に、整った目鼻立ち。初めて出会った際、暫く見惚れてしまった。横顔を眺めるだけでも、充分に癒される。
そして、服の上からでも分かる、魅惑の体型。実りに実った女性の部位に、スラリとした下半身。目が行ってしまうのは、無理もないだろう。もっとも、厭らしい目で見れば、偃月刀の錆になる事間違いなし。
今のこの時間を無下にしない為にも、一刀は気づかれない様に、細心の注意を払って、横目で、眺めていた。
(……私の顔に、何か付いているのだろうか?)
美髪公には、お見通しだった様だ。
「うりゃりゃ〜〜〜♪」
突然、前方から何かが急接近。砂煙を立ちあげながら、此方に向かって走ってくる。
「「り……鈴々?」」
「鈴々義勇軍のお通りなのだ〜♪」
豚に誇り、小さな子供達を従えた赤毛の少女が雄叫びを上げる。
名を【張飛 翼徳】。真名を【鈴々】
史実通り、愛紗とは姉妹の契りを交わした仲で、一刀の事をお兄ちゃんと呼び、慕っている。
鈴々義勇軍は、道端によけた二人の前を通りすぎ、どこかへと走り去ってしまった。
「まったく、鈴々は相変わらずだな」
「まっ、あれが鈴々の良い所でもあるからね」
頭を押さえて、やれやれと首を振る愛紗。庇うように、その横で一刀は苦笑する。何だかんだ言っても、二人にとっては、大切な仲間であり、愛する義妹でもあるのだ。
そして二人はまた歩を進める。
「ん?あれって」
「せいっ!やぁっ!たあっ!」
声のする方角を向くと、鍛練場で馬超が一人、得物の槍を手に鍛練をしていた。
「よう、馬超」
「ん?おう、北郷か」
気づいた馬超は手を止め、一刀達の方へ近寄る。
「二人で何やってんだ?」
「気分転換に外へ散歩しようと思ってね。馬超は鍛練かい?」
「ああ、こういう天気のいい日は外で体を動かさなきゃ勿体ないだろ?」
「確かにね」
一刀と馬超が楽しそうに話し合っている。他愛ない会話で場を弾ませる。とても、仲睦まじい光景だ。
だが、愛紗の表情は曇っていた。ズキッ……と、胸の奥が痛む感覚に襲われる。
「そうだ!北郷も一緒にどうだ?」
「お、いいねーーーー」
「駄目だ」
二人の間へ、やや強引に乱入する愛紗。
「体がまだ完治していないだろう。ましてや鍛練など絶対に駄目だ」
「あ、そっか!悪いな、北郷……」
「いや、気にしないでよ馬超。また今度ね」
「ああ、そうだな。体には気を付けろよ?」
「ありがとう。それじゃ」
「おう」
一刀は手を振り、その場を後にする。馬超も見送った後、鍛練を再開。
隣で歩く愛紗は、ご機嫌斜めのご様子。
「あれ?一刀」
「関羽さんも」
「ん?おう、瑠華か」
「孔明殿」
通りがかった民家。その前に置かれている長椅子にて、瑠華と朱里は読書していた。
屈んで、二人が持っている本を覗き見る一刀。漢文がずらりと、紙一面に書かれている。
「…………うん、読めねぇ」
「そういえば、一刀は字が読めないんですよね?」
「いや~、お恥ずかしながら……」
未だに、この時代の文字に不馴れな一刀。言いにくそうにしていると、愛紗は少しの思考の後、頷いた。
「よろしければ、私がお教えしましょうか?」
「えっ、いいの?」
「読み書きの一つは出来なければ、これから先不便でしょう?」
「ありがとう愛紗!助かるよ~」
「いえ、気にしないで下さい」
微笑み合う二人。
その様子を、朱里は微笑ましく見ていた。
そして、仄かに赤く染まった顔半分を本で隠し、横の方を見る。隣で、瑠華は静かに読書を嗜む。
(私も……)
「どうかした、朱里?」
「はわわっ!な、何でもないでしゅ!ぁぅ……」
「っ?」
視線に気づいたのか、こちらに視線を向ける瑠華。急に顔を見合わせてしまい、朱里の顔は更に紅潮する。
頭から湯気を出す彼女を見て、瑠華は頭を傾げるのであった。
◇◆◇◆
それから一刀と愛紗は散歩を続け、他愛ない話をしながら、笑い合う。周りから見れば、まるで幸せそうな恋人同士。
暫く歩き、二人は村の外れに位置する湖の畔に着いた。辺りは夕方で、湖には綺麗な夕焼けが写っている。
二人は地面に腰かけた。
「はぁ〜、久しぶりの外はいいな〜♪」
「ふふっ、まるで子供みたいですね」
「だってさ、体を動かすのって結構楽しいじゃん?誰かと一緒だったら尚更だよ」
「そうですか」
地面に寝そべる一刀を、愛紗は優しく微笑みながら、見つめていた。
「それに、今日は愛紗と一緒で楽しかったしな」
「私の様な、無骨者と一緒でですか?」
「何いってんだよ。愛紗はとっても可愛い女の子じゃないか」
「なっ!?」
面と向かって言われ、愛紗は顔を真っ赤にする。
「な、馬鹿な事を言わないで頂きたい!」
「何で?ホントの事でしょ?」
「〜〜〜〜っ!!」
真顔で言う一刀に、愛紗は目を反らす。世辞などではない、本心からの言葉。夕焼けのせいか、彼女の顔が更に赤く見える。
「どうしたんだよ?」
「な、何でもない!」
「いや、なんか顔が赤いけど、熱でもあるのか?」
「熱はない!」
「じゃあ……何でだろ?」
誰のせいでこうなってると思っているのだ、と言いたい所だが、何とか我慢する。原因である本人は分からずに、首を傾げる。
それでも気になってしまったのか、一刀は上半身を起き上がらせ、愛紗に近づく。
「愛紗、心配だから、ちょっと顔見せて」
「なっ!か、構うな!」
「そういう訳にもいかないだろ?ほら」
「い、いいからーーーーきゃっ!」
「うおっ!?」
一刀が愛紗の肩を掴むと、赤くなった顔を見られたくないのか、愛紗は抵抗する。
すると、愛紗はバランスを崩し、後ろに倒れる。一刀も勢い余って、前のめりに倒れる。二人はそのままぶつかってしまった。
「いって〜愛紗、大丈夫か?」
「あ、ああ。私は大丈夫」
《っ!?》
そして、二人の顔は同時に羞恥の色に染まった。そう、お互いの顔の距離がかなり近い事に気がついたのである。今の二人の状況は、地面に横たわる愛紗に一刀が上から覆い被さっており、ちょっと前に動かしただけで唇と唇が触れあう、正にギリギリの状態である。
何もすることはなく、二人は見つめあっている。聞こえてくるのは、森の木々の葉を鳴らす風の音。そして、自分の心臓の鼓動である。ドクン、ドクンと耳に鳴り響いている。
一刀は覆い被さったまま、動けずにいた。愛紗は目が微かに震えており、同様に硬直している。
「「……」」
二人の口元が、ゆっくりと近づく。
◇◆◇◆
がさがさっ、と、草が揺れる。その方角から声が聞こえ、二人は即座に離れた。
「お兄ちゃんと愛紗、こんな所にいたのだ」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。見ぃつけた♪」
二人を探しに来たのか。鈴々と璃々は手を繋ぎ、二人の元に歩み寄る。
一刀は明後日の方向を向いており、愛紗はモジモジと俯いていた。共通して言えるのは、二人とも顔を真っ赤にしているという事。
「ど、どうしたんだ鈴々?」
「ご飯が出来たから、呼びに来たのだ」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。一緒に帰ろ?」
「そ、そっかそっか……愛紗、帰ろっか」
「え、ええ、そうですね!……はい……」
状況が状況なだけ、目を合わせる事が出来ず、二人は顔を反らす。どこかぎこちない二人を見て、小さな子供二人は首を傾げるのであった。
◇◆◇◆
それから四人は屋敷に戻り、仲間達全員と夕食をとった後、皆それぞれの部屋へと戻った。
「黄忠殿」
「あら?関羽さん」
部屋へ戻ろうと、廊下を歩いている黄忠を愛紗が呼び止めた。
「どうしました?」
「そ、その〜…頼みが、あるのだが…」
「頼み?」
下を向いて、言いにくそうにする愛紗。黄忠が頭を傾げていると、愛紗は顔を引き締めて黄忠の方を向いた。
「私に、料理を教えてくれ!」
それから夜になった頃、一刀は寝台に寝転びながら、あの時の事を思い出していた。
(もし、鈴々が来ていなかったら、俺…愛紗と…)
その後の事を想像すると、一刀は顔を紅潮させる。そして振り払う様に頭を左右に振る。
「はぁ〜……」
「散歩するか」
気持ちを落ち着かせる為に、一刀は外へ出た。今夜は満月が綺麗に映えている。
「…ん?あれって」
屋敷を囲んでいる高台の方へと向かうと、そこには先客がいた。
夜風が水色の髪を揺らし、彼女が身に付けている白い着物を満月の光が照らしている。彼女は、酒の入った酌をくいっと口にやる。
「誰かと思ったら、星か」
「おやおや、一刀ではないか」
「隣いいか?」
「ああ、構わんよ」
「一人もいいが、二人で飲む酒もうまいからな」
「そっか」
一刀は星の横に腰かける。
「どうしたんだ?こんな所に」
「ちょっと、落ち着かなくてね。星は?」
「うむ。今宵は満月が綺麗だからな。折角だから月見酒でも、と」
「あ〜、確かに綺麗だな」
二人は一緒に月を見る。すると、星がもうひとつの酌を渡してきた。
「どうだ?一刀も」
「えっ?う〜ん、俺未成年なんだけど…」
「私の酒が飲めないとでも?」
「……ちょっと位なら、いいかな?」
「うむ」
星は一刀に渡した酌に酒を注ぐ。
「それじゃ、乾杯」
「乾杯」
チンと音を鳴らし、二人は飲み干す。
初めて飲む酒は喉を熱くし、そして、うまかった。
「で?どうだったのだ。愛紗との逢い引きは」
「えっ!?…あ〜うん、まあ、楽しかった、よ?」
「ほほう…ついに一線を越えたか」
「ぶふっ!?」
一刀は口に含んだ酒を霧状に吐き出した。
「げほっ!げほっ!な、何いってんだよ!?」
「おや?違うのか。まさか、もう愛紗をはら…!」
「違うって!愛紗とはまだやってないよ!」
「…なんと、面白くない」
「面白かったらいいのかよ……」
「しかし、まだ、ということは、いずれは…」
「うっ…」
小悪魔な笑みを浮かべる星。これ以上言ったら余計にからかわれると察した一刀は、押し黙った。一呼吸し、一刀は星の方を向く。
「…なぁ星」
「ん?」
「相談にのってくれたり、心配してくれて、ありがとう。これからもよろしくな」
「別にいいさ。礼を言われるまでもない」
「それでもだよ。星みたいな可愛い女の子に話を聞いてもらえて、俺嬉しかったからさ」
「だから、な?」
「………」
優しい笑顔
星は頬を赤く染める。
「あれ?顔が赤いぞ星」
「…う、うむ、ちょっと酔ってしまったかな?」
「そうか?」
「ああ……」
一刀が聞くと、星は顔を反らしてそう返す。
(まったく……一刀はずるい…)
星はそっぽを向き、胸に手を置く。微かだが、やや早く聞こえる。
もしかしたら、幽州で初めて出会った時に一刀が見せたあの笑顔。あの時から自分は虜になっていたのかもしれない。
そう思うと、星はくっくっと笑った。
星は顔を上げると、後ろにいる一刀に体を預けた。
「星?」
「すまんすまん。やはり酔ってしまった様だ。少し…このままでいていいか?」
「えっ?別にいいけど」
「ふふふっ♪」
(まあ、嘘なんだけどな…)
一刀と背中合わせに座り、彼にもたれている星。一刀の体温を感じながら、子供の様な無邪気な笑みを浮かべる星。
そんな二人を、満月の光が青く照らしていた