真・恋姫†無双~北刀伝~   作:NOマル

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~一刀と関羽、教えを乞うのこと~

桃花村の屋敷の一室。

北郷一刀は筆を手に、机と向き合っていた。傍らには、愛紗が立っており、筆を走らせる一刀の姿を見つめている。

筆を置き、試験官に書簡を渡す一刀。

 

「よしっ!愛紗、見てくれ」

「こことここ。後、ここも間違っています」

「マジでぇ……?」

 

バッサリと言われ、一刀は項垂れる。

 

これから先、この世界で生きていくには、文学も大事である。その為、先ずは文字を覚えなければならない。

前にも話した通り、一刀は愛紗から読み書きを学んでいる。最初は二人きりで優しく教えてもらえる――――かと思いきや、流石は関雲長。か~な~りのスパルタ教育で、一刀はみっちりしごかれた。

つい前まで甘い時間を想像していた馬鹿な自分をぶん殴りたい気分だ。

しかし、その甲斐あってか、一刀はこの時代の文字を学習していった。この間まで多かった間違いが、数えられる程度にまで成長したのだ。

元々から吸収力がすごかったのか、愛紗も感心していた。

 

「この調子だったら、あと少しですね」

「はぁ〜、こんな事なら学校で漢文ちゃんと聞いとけばよかったな〜」

 

学校生活での授業を少し悔いながら、愚痴をこぼす。ふと、あることに気づいた。

 

「愛紗、手怪我してるじゃないか!」

「え?あっ……」

 

一刀の言う通り、愛紗の綺麗な両手の指には、包帯が巻かれていた。一刀に指摘され、愛紗はギクッと目を泳がせる。

 

「こ、これは、別に何でも……」

「いや、そう言われても」

「そ、それより一刀!馬超の所に行かなくてもいいのか?」

「へっ?」

 

愛紗に促され、一刀はふと窓から外を見る。太陽の位置が変わっており、あれから結構な時間が経っていた事が分かる。

 

「やばいやばい!これから馬超の所へ行かないと」

「ああ、そうだな」

「今日も教えてくれてありがとな、愛紗」

「いえ、お役に立てたのなら、良かったです」

 

愛紗は笑顔で答える。この笑顔を見ると、かなり癒される。

 

「それじゃ」

「ええ」

 

一刀は、そのまま部屋を出た。部屋に残っているのは、愛紗一人。

 

「ふぅ…危ない所だった」

 

愛紗はホッと息を下ろす。

 

「よし!私も行くか」

 

そして、その場を後にした。

 

 

◇◆◇◆

 

 

一刀が走ってやって来た場所は、馬小屋。そこでは、一人の少女が待っていた。

 

「よう、一刀!」

「やあ、馬超」

 

この時代の移動手段としては、主に馬が使われる。当然、車などが存在しないこの時代においては、重宝される移動手段の一つ。戦いにおいても、必要な存在。というわけで馬に乗れない一刀は、馬超に乗馬を教えてもらうことにした。断る理由がないため、彼女も快く引き受けてくれた。

 

「よし、それじゃ早速」

「ああ、よろしく頼むよ」

 

馬超は手綱を引いて、一頭の馬を連れてきた。全身が黒で染まっており、ガッチリとした体格の馬だ。

 

「今日もよろしくな」

 

一刀が優しく撫でると、ヒヒン♪と気持ち良さそうにすり寄ってくる。

初めて乗った際、バランスを取るのが中々難しく、馬超が手綱を引いてくれたおかげで何とか乗れた。歩く度に、揺れるのなんの、慣れるのに暫し時間を費やした。

だが、今では自分一人で乗れる様になっていた。一刀は馬に誇り、そこからの景色をふと眺める。

 

「にしても、大分馬に慣れてきたよな一刀」

「最初は怖くてはらはらしたけど、今じゃあ馬とも仲良くなれたよ。ありがとな、馬超」

「よせって、なんか照れるぜ」

 

素直に礼を言われ、朱に染まった頬をかいて照れる馬超。

 

「そうだ、一刀」

「ん?」

「これから、馬を洗いに川へ行こうと思ってるんだけど、一緒にどうだ?」

「ああ、教えてもらったお礼に付き合うよ」

「助かるぜ。それじゃ行くか」

 

一刀と馬超は、馬を洗うために近くの川へと向かった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

その頃、一人の少女は、エプロン姿で屋敷の厨房に立っていた。

 

「はぁ!」

 

愛紗は手に取った大根を空中に投げ、そのまま包丁で切り刻んだ。その軌跡や切れ味は、正に神業の一言。

その様子を見ていた黄忠は、唖然としていた。

 

「あの……関羽さん?そろそろ、普通に切ってもらっても……」

「あっ!す、すまない…つい癖で……」

 

遠慮がちに指摘され、照れ臭そうに赤くなった頬をかく愛紗。

そう、愛紗は黄忠に料理の指導を受けているのだ。この料理教室は、前々から始めており、愛紗の両手にはその証とも言える包帯が巻かれていた。

 

「では、改めて頑張っていきましょう」

「うむ、御指導宜しく頼む」

「はい、それでは――――」

 

二人は調理を開始する。まな板の上でトントンと包丁で食材などを切っていく。黄忠は流石というべきか、手慣れた包丁捌きこなしていく。一方の愛紗はというと、どこかぎこちなさを感じるものの、こちらも丁寧に仕上がっていた。黄忠の指導の賜物で、最初に比べてみればかなり上達している。最初の頃はというと……言うまでもないだろう。

 

「とりあえず、仕込みはここまでにしておきましょう」

「うむ、承知した」

「関羽さん、かなり様になってきましたよ」

「そ、そうか?」

 

黄忠に褒められ、愛紗は照れ臭そうに頬をかく。上達してきているという事実が、嬉しくて仕方ない。

 

「これで、北郷さんに手料理を振る舞う事ができますね♪」

「えっ!?」

 

黄忠に耳元で囁かれ、愛紗は顔を瞬く間に紅潮させる。

 

「ななななっ、何を!?」

「あらあら、恥ずかしがらなくてもいいですのに」

「いや、しかし……」

「北郷さん、きっと喜ぶと思いますよ」

「そ、そうか?うむ、そうだと、い、いいのだが……」

 

両手の指を絡ませて、モジモジする愛紗。先程とは打って変わって、期待している様にしている。

 

「所で、関羽さん」

「は、はい」

「北郷さんのどこがお好きですか?」

「っ!?」

 

唐突かつ、率直な黄忠の質問に、愛紗はたじろぐ。その頬に、赤みが更に増した。

 

「べ、別に!今は!そんな事を、言う必要は……」

「そう仰らずに、さあさあさあ♪」

「うっ……」

 

童心の様にわくわくとしている黄忠。避けられそうにないと悟り、観念した。

 

「その……優しい所、とか」

「ふむふむ」

「頼りに、なる所とか」

「それで?」

「後……笑顔、かな」

「あらまあ♪」

 

他にも色々とあるが、言うときりがない上、口にしたらまた顔が熱くなってしまう。そう感じ、愛紗は無理矢理話を終わらせる。

 

「〜〜〜〜っ!も、もういいではないか!」

「あらあら、もうちょっと聞こうかと思いましたのに」

 

話を遮られ、名残惜しそうにする黄忠。

 

「でも、関羽さんが北郷さんをどれ程好きでいるのかがよ〜〜く分かりました♪」

 

微笑ましそうに見ている黄忠と反比例して、愛紗は俯いてしまった。真っ赤になった頬を隠す様に。

 

「でも、確かに共感できますわね」

「えっ?」

「荒れに荒れている戦乱の渦中、あの様な殿方がいるなんて、夢にも思いませんでしたわ」

「確かに……そうですね」

 

この乱世の時代、賊の様に獣に落ちる男もいれば、私腹を肥やそうと卑劣な事をする男もいる。男尊女卑、全てとは言わないが、ほとんどの男は皆、女性を下に見るだろう。

 

しかし、“彼”は違った。

 

村で見た彼の行い。誰にでも分け隔てなく接し、積極的に向き合おうとしている。彼が行く度に、村の人達も笑顔になっている。これは、誰にでも簡単にできる事ではない。村の子供たち、娘の璃々と一緒に遊んでくれたり、村人の手伝いをする等々、そういった善行が村からの信用を得た理由だろう。

 

もしかしたら、彼はこの乱世を終わらせる“希望”かもしれない。他人から見れば、過信の様にも思われるだろうが。

 

そして、娘を誘拐したあの男に鉄槌を食らわせた――――。

 

「今のは俺の大切な仲間を苦しめた分だ……!これ以上殴られたくなかったらとっとと失せろ!!」

 

――――あの後ろ姿。まるで、“亡くなった主人”に……。

 

トクン、と心臓が跳ねる。

いつの間にか、頬がほのかに朱に染まり、少し熱くなっていた。黄忠はそれに気づき、上を見上げる。

 

(私……もう一度、恋をしてしまったかもしれないわね……)

 

その表情は清々しいものだった。

 

「黄忠殿、如何なされた?」

「いいえ、関羽さん。何でもありませんわ♪」

 

今は、心の奥に秘めておこう。そう自分に言い聞かせ、黄忠は笑みを浮かべる。

 

「さぁ、仕上げに取りかかりましょうか♪」

「うむ」

 

二人はまた調理を開始する――――と思いきや、黄忠が不意に手を止めた。

怪訝に思う愛紗。どうしたのか?と訪ねる前に、黄忠はその場から離れ、窓を開ける。

すると、どこから取り出したのか。自らの得物である弓を引き、矢を放った

 

「なぁあっ!?」

 

更にもう一本。

 

「はぁあっ!?」

 

驚きを露にする愛紗を他所に、黄忠はやりきった様な表情を浮かべていた。

 

「こ、黄忠殿!どうなされたのだ!?」

「いえいえ、何でもありませんわ」

「だが、いきなり矢を放つなど――――」

「何でもありませんわ」

「し、しかし……」

「何でもありませんわ」

「…………」

 

これ以上は、何も言うまい。

 

どこか納得できないものの、そのまま調理実習は続行した。

 

 

◇◆◇◆

 

 

村から少し離れた位置にある河川敷。そこで、一刀と馬超はブラシで愛馬の体を洗っていく。

 

「どうだ〜?気持ちいいか?」

 

一刀が声をかけると、馬はヒヒン♪と機嫌良く返事を返す。

 

「そうかそうか、気持ちいいか」

「なんか北郷って、馬の気持ちが分かる人みたいだな」

「いやいや、馬超に比べたら俺なんて」

 

馬もすっきりしたらしく、二人は洗い終えると、砂利の所に腰かけた。

それから二人は談笑に夢中になる。

鍛練してる際、お互いの気になる点などを言い合う。日々の生活で、こんな出来事があった等々。

 

「いや〜、河の近くって涼しくて気持ちいいなぁ」

「馬を洗う為に、よくここに来るんだ」

「いつも思ってたけど、馬超って本当に馬達の事を大切にしてるんだな」

「当たり前だろ。西涼の民にとって馬は共に戦場を駆ける大切な仲間だからな。それくらい当然だぜ」

 

馬超は川の水を飲んでいる馬を優しく見守っていた。人間であれ馬であれ、仲間には変わりない。そんな思いが伝わってくる。馬超の横顔を眺めていると、彼女はそれに気づいた。

 

「ん?あたしの顔に何かついてんのか?」

「いや、なんか綺麗だなぁ〜って思ってさ」

「はっ!?な、な、何いってんだよ!」

「え?何慌ててるんだ?」

「う、うるせぇな!」

「そういえば、冀州で行ってた試験の時の馬超も可愛かったなぁ」

「い、何時の話してんだよ!」

「何時って、紀州の時だろ?」

「〜〜〜〜っ!もういい!」

「っ?」

 

湯気が出るほど顔を真っ赤にさせ、馬超は顔を反らしてしまった。何を怒っているんだろう、と一刀は自分が原因であることに全く気づいていない。

 

(ったく〜、こいつはあたしを殺す気かよ〜……)

 

真顔でこうもあっさり言えるとは。

馬超は恥ずかしさのあまり、一刀の方を向けずにいた。

 

「馬超」

「えっ?」

 

呼ばれて振り返ると、一刀が自分の目の前まで来ており、馬超の心臓が少し高鳴るとする。

 

(えっ?えっ?ええぇぇぇぇ!?)

 

すると、一刀は馬超の右頬に手を添えた。

 

(な、何?ま、まさか、こんな、人気のない所で……!?)

 

訳も分からず、顔は更に赤みを増す。結果、この状況に耐えきれず、馬超は一刀を押し退けた。

 

「ま、ま、ま、待ってくれ!そ、“そういう事”をする、ていうんなら、あ、あたしにもその、心の準備ってもんが、あってだな……」

「え?」

「そ、そもそも!あたしらはまだ、“こういう事”をするのは、早いって言うか、べ、別にお前とがい、嫌って訳じゃなくて、だからその、なんつーか、えと……」

 

急にあたふたし始め、馬超は一刀に背を向け、何故かお腹に手を添えていた。

そんな彼女を見て、一刀は目を丸くする。

 

「何の話してるんだ?」

「へっ?」

「馬超の髪に葉っぱが付いてたから、取ってたんだ」

「………………葉っぱ?」

「うん、ほら」

 

逆に今度は馬超が茫然とする。そんな彼女に、一刀は手に持っている一枚の葉っぱを見せた。

見た途端、馬超は俯き、体は小刻みにふるふると震えている。

 

「ば、馬超?」

「………ば」

「ば?」

「馬鹿ああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ぐはっ!?」

 

一刀の顎目掛け、馬超は腕を伸ばし、強烈なアッパーを繰り出した。顎に命中し、一刀はそのまま空中で何度も回転。川に落ち、水飛沫が飛び散る。

 

「ふんっ!」

「ちょ、待ってくれよ馬超!」

 

不機嫌丸出しで、馬超は馬の手綱を引いて村へと戻る。一刀はびしょ濡れになりながら、急いで追いかけた。

 

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