聖フランチェスカ学園・生徒会長戦。
第一競技、【二人三脚五十メートル走】
ルールは簡単。チームから二名を選出し、二人三脚で五十メートルを走りきる。
互いの息が合っていないと、達成するのが難しい競技だ。
メンバーは以下の通り。
一レーン【曹操軍】夏侯惇・夏侯淵。
「華琳様の為に、頑張るぞ秋蘭!」
「そうだな、姉者」
二レーン【公孫賛軍】張遼・許緒。
「チビとじゃ、きついんとちゃうん?」
「チビって言うな!」
三レーン【関羽軍】趙雲・馬超。
「アン、ドゥー、トゥルワーを知ってるか?」
「知らね」
四レーン【董卓軍】華雄・呂布。
「いいか呂布!一で外側、二で内側の足だからな?間違えるんじゃないぞ?」
「うん……」
五レーン【北郷軍】瑠華・猛。
「せめて上位には入りたいね」
「まあ、俺たちに出来る事をするまでさ」
六レーン【孫権軍】孫尚香・甘寧。
「ちょっと、シャオ達バランス悪くない?」
「武将である我らが頑張らねばなりませんから」
七レーン【袁紹軍】文醜・顔良。
「おーしっ!気合い入れていこうぜ斗詩!」
「そうね、猪々子」
それぞれのレーンに着き、お互いの片足を紐で固定する。全ペアの準備が整い、スターターが銅鑼を手に取る。
「位置について!用〜意――――」
ドンッ!!と、銅鑼の音を合図に、全ペアが一斉に走り出した。しかし、一組だけ出遅れているペアがいる。華雄・呂布ペアだ。
「一と言ったら外側の足だと言ったろう!」
「うん……」
スタート直後、華雄が外側の足を出すのと反対に、呂布は内側の足から出してしまった。そのせいでバランスを崩してしまい、転倒してしまったのだ。
「今度は間違えるなよ……?」
「うん…」
「行くぞ!」
再びスタートをするも、
「い~ち!ん……?」
またまた間違えて転んでしまった。
「き〜さ〜ま〜!」
困った表情を浮かべる呂布を、怒りに震えながら睨む華雄。
これは、あまりにもコンビネーション能力がとれてない。
そんな事をしている内に、他のペアはどんどん差を広げていき、ゴールに段々と近づいている。ほとんどのペアが、一二、一二、と掛け声をかけながら、走っていく。今のところ順位は、夏侯姉妹、瑠華・猛、趙雲・馬超、シャオ・甘寧、張遼・許緒、文醜・顔良ペアという順番。
『おお~っと!他のチームはどんどんゴールへと近づいてきています!これはもう勝負あったか!?』
「瑠華っ!猛っ!ファイトォォッ!」
「行け〜い!後輩共〜〜!」
「星、馬超!もう少しだ!」
「頑張って下さ〜い!」
北郷軍、関羽軍と同じ様に、他の軍もランナー達に声援を送る。観客達も賑わい、ランナー達を応援していた。
「不味いわね、こうなったら……」
董卓軍の軍師。賈駆は爪を噛みながら、頭を捻る。すると、大声で叫びだした。
「あ~っ!大変だ〜!セキトが酷い目にあって〜いる〜!」
「っ?」
華雄と呂布は賈駆の指差した方を向く。ゴール付近に一匹の子犬、セキトがいた。しかも、何やら全身を紐などで括られ――何やら“変わった”縛られ方――仰向けになっている。そして、一人の少女がセキトに近づいてきた。
「え、え〜い……この卑しい雄犬め〜、ワンと鳴けぇ……」
赤いハイヒール、黒を基調としたハイレグという、なんともイヤらしい姿をした董卓。羞恥に顔を赤らめながら、手に持っている鞭をバシンッ!と地面に叩きつけた。
その様子を目にした呂布は、ギラリと目を光らせ、華雄を引き摺るようにして駆け出す。砂煙が立ち上がり、どんどん他のペアを追い抜いていった。
「一二一二一二一二一二一二………!」
「うわぁぁぁぁぁっ!」
『凄い凄い!呂布選手!凄まじい追い上げです!』
「ぶっちぎりじゃねぇか!?」
「あかん!追い抜かれた!」
司会と解説、一刀と及川は目で追いながら、呂布の力を思い知る。
そして、ゴールテープが切られた。
夏侯姉妹と同着でゴールイン。胸の差もほとんど無いように見える。他のチームも次々とゴールへと辿り着いた。
『これは実行委員の裁定が待たされます! 』
皆がゴクリと唾を飲む中、結果発表。
『厳正な審議の結果、同着ではありますが、華雄選手がノックアウト状態の為、夏侯惇選手と夏侯淵選手を一位とします!』
「よしっ!」
「やったな姉者」
「春蘭、秋蘭。御苦労様。誉めてあげるわ♪」
華琳は夏侯姉妹を称賛し、彼女らはキラキラと目を光らせる。
「くっ、ここで敗退だなんて……!」
「そんな〜、こんな恥ずかしい格好までしたのに〜〜……」
賈駆は舌打ちをし、董卓は恥ずかしさの余り、体を抱いてその場に座り込んでしまった。呂布はセキトを抱っこし、仲良く頬擦りしている。
「短命の定めなのか……ガクッ」
目を回して気絶した華雄は、担架で運ばれていった。史実では短命の身で、“こっちの世界”でもそうだった様だ。
「いや〜二人共惜しかったな」
「すいません……」
「何言うとるんや。二位をとっただけでも凄いやんけ」
「ありがとうございます」
「とりあえず、二人共お疲れさま」
「よう頑張った!」
「「はいっ!!」」
一刀と及川は責めず、笑顔で二人を褒め称えた。二人も先輩と同様に、笑顔で返事を返す。
――――戦績発表。
一位【曹操軍】
二位【北郷軍】
三位【関羽軍】
四位【孫権軍】
五位【公孫賛軍】
六位【袁紹軍】
以上が、第一競技の結果である。
続いて第二競技【借り物競争】。
軍の大将同士によって行われる競技。三十メートル先に設置された机の上にある紙を一枚だけ取り、それに記されたものを借りてこなければならない。
大将が、スタート地点に並び立つ。
「かずピー!男の意地を見せたれ〜!」
「先輩!気合いです!」
「せんぱ〜い!頑張って下さ〜い!」
「おう!任せとけ!」
三人の熱い声援に、一刀は拳を見せて応える。
「一刀く〜ん」
「頑張ってね〜」
「応援するからね~」
「ああ、ありがとう」
「「「きゃあ〜〜〜〜っ♪」」」
女子からのエールに、一刀は恥ずかしそうにしながら笑顔で返す。それに反応し、女子達が楽しそうに騒ぎだした。
その様子を、スタート位置から面白くなさそうに眺めている黒髪の少女。
「参ったな〜……」
「…………」
「ん?どうしたんだよ愛紗」
「ふんっ!別に……」
「……なに怒ってるんだ?」
拗ねた様にそっぽを向く愛紗。一刀は訳が分からず頭を傾げる。
その様子を、北郷軍の陣地にいる三人も見ていた。
「及川先輩、北郷先輩って……」
「言うんやない。それは分かっとる事やで」
「けど、いくらなんでもあれは……」
「諦めるんや。あれが、かずピーなんよ」
三人は、はぁ〜っと呆れ交じりにため息を吐いた。
そんなこんなで、大将全員が位置につく。
そして、開始の銅鑼が鳴った。
『さあ!先手を打ったのは、北郷選手と関羽選手!』
先頭に出たのは、一刀と愛紗。鳴ると同時に駆け出し、あっという間に机に辿り着いた。そして、お題が書かれた紙を手にする。
「ええっと……………はぁっ!?」
「私は……よし!」
急いでお題を探しに行く愛紗。紙を手にしたまま硬直する一刀。気づけばその頬は仄かに赤く染まっている。
立ち往生している内に、他の大将が紙を取り、お題を借りに向かった。
『北郷選手、微動だにしていません!一体どうしたのか!?』
「かずピー!はよせんか〜!」
「なにやってるんですか!」
「ビリになっちゃいますよ!」
「んなこと言ったって……」
焦らす様に叫ぶ三人。一刀はどうしたものかと頭をかいている。
「これは……」
「む、無理……嫌だ……」
孫権は探すものが見つかったのか、“ある場所”に向かって走り出す。一方で、顔を真っ青にした公孫賛が、震えながら紙を見ていた。
紙にはこう書かれている。
“学園長のワキ毛”…………悪夢だ。
「公孫賛殿!何をして――――ん?」
公孫賛の軍師であるゼブラ軍師が叫んでいると、孫権がこちらに向かってくる。孫権は有無を言わせず、ゼブラ軍師の手を引いて、ゴールまで走っていった。
「な、何をする!?」
『おおっと、これはどうしたことでしょう!孫権選手、敵軍の軍師を借りて走り出した〜っ!』
『“夜道で会ったら声をかけにくい人”と書いてあったのでしょうか?』
『他のチームよりも先に、孫権選手が“周”――――いや失礼!ゼブラ軍師の手を引いてゴールイン!〕
孫権はゼブラ軍師と共に、ゴールテープを切った。
「まったく、メモになんと書いてあったが知らぬが、敵軍の軍師を借りるとは非常識な……」
「仕方あるまい、真っ先に思い浮かんだのだから」
孫権は一枚の紙を手渡す。そこには“一番信頼している人”と書かれていた。それを目にし、ゼブラ軍師は微笑む。
「それでは、気づいておられたのですね?」
「ええ」
ゼブラ軍師はゼブラマスクを外した。その正体は、周瑜であった。
借りたものをチェックし、見事に合格。軍師との絆を取り戻す事に成功した。
(雪蓮、見ていますか?あなたの妹は、私が思っていたよりずっと立派に成長していたようです……)
それから、曹操は“可愛い後輩”で筍イクとゴールイン。
「一位は狙えなかったけど、まあいいでしょう」
「華琳様〜〜♪」
袁紹は“キラキラするもの”で、大量の宝石類。
「お〜〜っほっほっほっほ!袁家に不可能なものはなくってよ〜!」
「れ、麗羽様……」
「また無駄遣いしちゃって〜……」
別に本物の宝石じゃなくて良いものを。
また懐が怪しくなる袁紹に、部下二人は肩を重くする。
そして、一刀はというと。
「ああもう!やるっきゃねぇ!」
意を決したのか、一刀は走り出す。そして、一人の少女の手を掴んだ。
「愛紗!一緒に来てくれ!」
「えっ、か、一刀!?」
同じ競技に出場している愛紗の手を引き、ゴールに向かって走っていく。彼女の片方の手には“殴られたら痛いもの”と書かれてあったのか、刀用の木製の薙刀が握られている。
『おおっと、北郷選手!敵大将である関羽選手と一緒に走っています!』
『“好きな人”とでも書いてあったのでしょうか♪』
「「「ええぇぇぇぇぇっ!?」」」
(ええっ!?)
黄忠先生の発言によって、その場は全校生徒の叫びに包まれた。ある者は羨ましそうに見つめたり、嫉妬の眼差しを浴びせたりなど。
連れられている愛紗はというと、心中穏やかではなかった。
手から伝わってくる彼の体温。“好きな人”という言葉に反応して、高鳴る心臓の鼓動。頬はたちまち紅潮し、必死になっている後ろ姿を見つめている。
一刀は走っているのに集中しているのか、周りの歓声が全く耳に届いていなかった。
「そして、北郷選手と関羽選手!同時にゴールイン!」
ゴールして、すぐに審査が始まった。愛紗は薙刀を見せて承諾を得たのだが、問題は一刀である。
すると、何故か審査員が愛紗の“ある部分”をじ〜っと凝視している。うん、と頷く――羨望の視線を向けていた――と旗を上げた。
『OKのサインが出ました!両者ともお題を達成致しました!』
「よしっ!一時はどうなるかと――――」
「所で、一刀……」
安堵の息を吐いていると、急に愛紗に呼び止められた。振り返ると、もじもじと顔を赤にしながらこっちを見ている。その恥じらう様な姿に不意を突かれ、少し胸が高鳴る。
「な、何だ?」
「その……お題の紙を見せてくれないか?」
「へっ!?」
その瞬間、一刀は大量の汗をかき、狼狽えている。
「い、いや、終わったんだから、見せなくて、いい、じゃないか?なっ?別に、なぁ?」
「いいから!」
「あ、ちょ……!」
慌て出した一刀から無理矢理奪い取ると、愛紗は微かな期待を乗せ、紙を開いた。
――――お題“巨乳”
「この変態が〜〜〜っ!!」
「ぐはぁっ!」
愛紗は手に持っている薙刀で、一刀に軍神の一撃を食らわした。刀用なので、当たったら痛いなんてもんじゃない。何回もぐるんぐるんと空を翔び、一刀は地面に突き刺さる。
「ふんっ!」
「うぅ……」
愛紗は不機嫌丸出しで、背を向けてその場を去っていった。上半身が地面に埋もれた一刀は、ピクピクと痙攣している。
「かずピー……」
「先輩……」」
ドンマイ……と、憐れむ様な表情で見つめていた。
「………痛い」
その同情が心にチクチクと刺さる一刀であった。
『若いって、いいですね〜♪』
『は、はぁ……』
微笑ましそうに見ている黄忠先生に、司会の陳琳は苦笑いを浮かべていた。
一方、公孫賛軍はというと……。
「さあさあ♪遠慮せず、思う存分抜き抜きしていいわよん♪」
くねくねと腰をうねらせる学園長。脇に生えている無数の毛。公孫賛は思いっきり頬を引きつらせる。
「あの……」
「さあ♪」
「その……」
「さあ!」
「うぅ……」
「うらあぁぁぁぁ!!」
「ひいぃぃぃぃぃ〜〜!?」
学園長の毒気に当てられ、公孫賛ダウン。借りられず、その結果、敗けが確定となった。
「あ〜あ、負けちゃった……」
「やっぱあれやな〜。影の薄い大将に仕えたら、それが移ってしまうんちゃうか?」
「私か!?私のせいなのか!?」
最後まで虚しい公孫賛であった。
公孫賛軍、ここで敗退。
『次の競技は、お昼の後に行います!』
『璃々、ちゃんと待っているかしら……』
――――ここから、お昼休憩へと入る。