真・恋姫†無双~北刀伝~   作:NOマル

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~群雄、生徒会長の座を狙って相争うのこと【抗争の陣・後】~

『泣いても笑ってもこれが最後!この戦いで生徒会長が決まります!』

 

決勝は新加入のはわわ軍師、孔明を伝って強敵孫権軍を打ち破った関羽軍。

 

皮肉にもその関羽軍を裏切った張飛の活躍によって勝ち上がってきた袁紹軍。

 

初参加にも関わらず強敵達を退き、見事決勝まで上ってきた北郷軍。

 

『いよいよ、三軍の対決です!』

 

決勝競技【自由型リレー】

 

『袁紹軍は、一か八かで袁紹軍に仕えている時点で人生負けが見えている、文醜選手!』

「ちょっと!それってどういう意味ですの!?」

『男の子には見えない可憐な男の娘!みんなの期待に応えるかの如くスク水を着用しての参加!月読選手!』

「僕だって好きでこんな格好してるんじゃないよ!」

『好物はメンマの女体盛りと噂の、趙雲選手――――に代わって華蝶仮面選手!』

 

蝶をモチーフにした仮面を付けた、華蝶仮面こと“常山の昇り龍”。

 

『って、いいんですかね?華蝶仮面選手は関羽軍としてエントリーしてないんですが……』

『いいんじゃないんですか?どうせ正体は趙う――――』

 

 

〜しばらくお待ち下さい〜

 

 

『全選手、いいスタートを切りました!』

 

自由型リレーが開始。

バタフライなだけに、華蝶仮面が有利に進んでいる。他二名も後を追いかける様に泳いでいた。

 

『関羽軍の次峰は、おしっこは漏らしても決して弱音は漏らさない!馬超選手!』

「余計な事言うなよ!」

 

華蝶仮面に代わり、馬超がプールに飛び込む。

 

『北郷軍は、重度のシスコン疑惑が浮上している、五十猛選手!』

「シスコンじゃない!世界一可愛い妹が大大大好きなだけだぁっ!!」

「それをシスコンって言うんでしょ……?」

 

豪語する猛に呆れながら、瑠華はバトンタッチする。

 

『袁紹軍、次峰!夜な夜なプニプニお腹を触っては溜め息をもらす顔良選手!』

「言わないでよそんなこと!」

「いいから早く!」

「えっ?あ、うん!」

 

司会に文句を垂れるも、文醜に急かされ、急いで泳ぐ顔良。

 

「もう!なにやってますの!」

「猛〜!ファイトや〜!」

「うぅ……」

 

大声で叫ぶ及川と袁紹に対し、ビート坂を持った孔明は、不安の表情を浮かべる。

 

「ぷはっ!頑張れ孔明!」

「頼みました、先輩!」

 

ほぼ同時にバトンタッチした三人。しかし――――

 

「そういえは、麗羽様泳げないんだっけ……」

「ぶはっ!あぶっ!そういや、ワイ、カナヅチなんやったぁ!」

 

浮き輪を使っている袁紹を見て、文醜は項垂れる。孔明もビート坂を使って頑張りを見せた。

それに比べ、未だ活躍の場面を見せられない及川であった。

 

まあ、これはこれでいい勝負?なのかもしれない。

 

『ねぇ、お母さんは?』

『ちょっと、大人の事情で……』

 

カタリナ学園に通う、幼稚園児の璃々ちゃん。黄忠先生の娘であり、司会者の陳琳は尋ねられて苦笑する。

 

「孔明殿!しっかり!」

 

一生懸命泳ぐ孔明を励ます愛紗。その姿を、どこか寂しそうな眼で見つめる鈴々。

 

「――――いつまで、そのままでいるつもりだ?」

 

不意に声をかけられた。愛紗と鈴々の二人は、間にいる一刀に視線を向ける。一刀は二人を見ずに、前だけを見ている。

 

「いつまでも意地張ってないで、お互い素直になれよ。まあ、そういう意地っ張りな所も似てるからな――――やっぱり“姉妹”だよ、二人共」

「「えっ……?」」

「及川〜〜っ!!」

 

突然、一刀は溺れかけている及川を大声で呼ぶ。なんやねん、と及川は一刀に視線を向けた。一刀は、親指を立てて後方を指差す。予め待機していた瑠華と猛は、持っていたパネルを、上に掲げる。

 

際どい水着を着用した、セクシーな女性の写真。及川の眼は、釘付けとなった。

 

「おぉぉぉぉりゃあぁぁぁぁぁあっ!!!!」

 

ゴーグルをキラリと輝かせ、溺れていたのが嘘の様に、及川は二人を即座に追い抜いた。

 

『及川選手!火事場の馬鹿力が発動したか!まるでジェットスキーの如く、加速し両者を追い抜いたぁっ!!』

 

会場は驚きに満ちるも、及川は勢い余り、頭をぶつけてしまった。

 

「ぶへっ!」

「そんじゃお先♪」

「「あっ!」」

 

及川のバトンタッチにより、一刀はプールに飛び込む。クロールで、瞬く間に差を開いていった。

 

「おのれ一刀っ!」

「お兄ちゃんずるいのだ!」

「鈴々!」

「おうなのだ!」

 

愛紗と鈴々は互いに見合う。険悪な雰囲気が離散し、端から見れば、共闘し合う同志に見えた。

 

「はぁ……はぁ……!」

「よくやった!」

「うりゃりゃ〜!」

 

辿り着いた孔明を褒める愛紗。そのままプールに飛び込み、袁紹のバトンタッチで鈴々も続いてスタートする。

 

『関羽選手に張飛選手!まるで心が通じあっているかの様に、北郷選手との差を縮めていきます!』

『大きい胸が浮き輪代わりとなっている関羽選手に対して、水中ではお子ちゃま体型の張飛選手の方が若干有利に見えますね』

『えっ?』

 

意外とませたコメントを発言する璃々ちゃん。

 

(おっ、二人共なんだかんだいって息合ってるじゃないか)

 

泳いでいる最中、一刀は司会の言葉や、後方から水飛沫を出して迫ってくる二人を見て、心中で微笑む。

 

(後、もう少しで――――)

 

突然、鈴々は動きを止めてしまった。

 

(しまった……穴子サンド、一口しか食べなかったから、力が……)

 

燃料が切れてしまった様だ。力が入らず、鈴々は深く沈んでいく。

 

(愛紗、ごめんなのだ……鈴々が悪かったのだ……)

 

薄れゆく意識の中で見たものは、自分に手を伸ばす、大好きな兄と姉の姿。

 

 

◇◆◇◆

 

 

段々と、意識がはっきりとしてきた。

 

「――――しっかりしろ!鈴々!」

「……愛、紗?」

 

徐に、重い瞼を開ける。視界に飛び込んできたのは、心配そうに思いやる姉の顔。周りには同様に、こちらを気にかける仲間の姿があった。

 

「よかった……気がついたんだな!」

「でも、なんで……?鈴々、愛紗と勝負してたんじゃ――――」

「途中で溺れた張飛さんを、関羽さんと北郷さんが助けてくれたんですよ」

「お兄、ちゃん……?」

「無事で本当によかったよ……鈴々」

 

一刀は微笑み、鈴々の頭を優しく撫でる。

「どうして?鈴々の事放っておけば……」

「鈴々!本当お前は馬鹿だな!」

 

愛紗の瞳から涙が流れている。しかし、その表情は笑顔だ。

 

「私にとって、お前を犠牲にしてまで得たい勝利などあるものか……!」

「愛紗……鈴々が悪かったのだ!もう我儘言わないのだ!」

「本当か?」

 

二人は泣き、笑いながら抱き合う。

 

「姉妹っていいなぁ」

「確かに、少し妬けるな……」

 

二人の姿に心打たれ、馬超と星の瞳も、微かに濡れていた。

 

「念の為、保健室に行くか?」

「大丈夫なのだ、ちょっとお腹が空いただけなのだ」

「張飛さん」

 

鈴々を気遣いながら、背負う一刀。横から孔明が声をかける。

 

「穴子サンドとってありますよ。後で食べてください」

「……成程な」

 

昼間の時の事を思いだし、一人納得する一刀。

 

「孔明……色々ごめんなのだ!鈴々は…」

「もういいですよ」

 

自分の我儘で不快な思いをさせてしまった。その事に謝罪する鈴々。孔明は優しく微笑みながら、許す。

 

「みんな、協力してくれてありがとな!」

 

一刀は振り返り、三人の仲間に礼を述べた。仲間は笑顔で答える。

 

「かめへんて、かずピー。ワイらダチやろ?」

「そうですよ、気にしないでください」

「元々生徒会長になるのが目的じゃありませんし」

 

大勢が去る中、瑠華が発した言葉が耳に届き、一人だけ反応した愛紗。

 

「瑠華、それはどういう……」

「だって、愛紗と鈴々を仲直りさせる為に参加して――――」

「はい、おしゃべりはそこまで」

「むぎゅ」

 

一刀は直ぐ様、瑠華の口を押さえる。

 

「一刀、今のは……」

「なんでもないよ、なんでもね」

 

どこか照れ臭そうにごまかす一刀。それを見て、愛紗はそれ以上言わなかった。そして、仲間と楽しそうに喋っている一刀の後ろ姿を見つめる。

 

「――――ありがとう」

 

頬を少し赤く染めながら、自分達を案じてくれる彼に、そっと感謝の言葉を口にした。

 

 

◇◆◇◆

 

 

決勝戦の判定が出た。その結果が、電光掲示板に映し出される。

 

『競技中に関羽選手と北郷選手が他のコースに入った為、それを反則行為と見なし、二名を失格!よって、袁紹軍の勝利とします!』

 

結果を知り、袁紹達は抱き合って喜びを露にする。

 

そして、閉会式が行われた。

 

『生徒会長戦を見事勝ち抜いた袁紹選手に、学園長から生徒会長の印字が授与されます!』

 

金色に輝く印字。生徒会長と証明する物で、袁紹は喜びに胸を弾ませる。それは、正に天にも昇る思い。

 

『続いて副賞として、学園長から祝福の熱〜いキスが贈られます!』

「えっ!?」

「ぶっちゅうぅぅぅぅぅぅ!!!」

「いぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

天国から地獄へ落ちた。

 

目の当たりにした北郷軍に加え、全校生徒は皆、顔を青ざめる。目を反らす、口を押さえる、項垂れている等、各々の反応を見せる。

 

「男子達ぃ〜♪優勝は残念だったけど、よく頑張ったわ〜ん♪ご褒美として、ちゅうしてあ・げ・る♪」

 

気持ちが悪い動きをする学園長。出場した男子全員ゾクゾクッ!と嫌な寒気が走った。

 

「お・こ・と・わ・り!お断りします!」

「あぁ〜ん、待ってぇ〜〜ん!」

 

脱兎の如く、一斉に逃げ出した北郷軍。それを追いかける学園長。地獄の鬼ごっこが始まった。

女子達は皆、苦笑いを浮かべ、哀れむ様に眺めている。否、それしか出来なかった。

 

「つっかま〜えた♪」

「おわぁぁぁぁっ!誰か助けてぇなぁ!」

 

学園長に捕まり、抱かれる及川。

必死に助けを求めるも、その仲間達は振り向きもせず、走る足を緩めない。

それどころか、好機と言わんばかりに、その足を早めた。

 

「こんの裏切り者ぉぉぉぉ!!」

「ぶっちゅぅぅぅぅぅぅ!!!」

「ぎゃああああああああ!!!」

 

断末魔が、空に響き渡る。

 

(許せ及川!俺達にはどうすることもできん!)

(天から俺たちを見守っていて下さい!)

(お盆には帰ってきていいから!)

 

仲間を勝手に死んだことにする薄情な男子三名。

 

逃走中、後輩二人とはぐれてしまった一刀。目についたのが、体育倉庫。そこに身を潜めようと、一人で入る。

 

「ふぅ、ここならしばらくやり過ごせる――――」

「あら、北郷君」

「わあっ!?」

 

何故ここにいるのだろうか?

養護教諭の先生と目を合わせてしまった一刀。黄忠の体は縄できつく縛られている。それも普通の縛られ方ではなく、彼女の溢れんばかりの胸を強調させるいかにも、“アレ”な縛り方だ。

 

「黄忠先生何やってるんですか!?しかも、なんか、エ、エロ……その、変な縛られ方で!」

「あらあら、でも嫌いではないんじゃない?」

「生徒を誘惑しないでください!今ほどきますから」

 

一刀は黄忠の紐を外そうとするが、固く結ばれており、中々外れない。しかも、あろうことか更に締め付けてしまう。

 

「あん♪もう、大胆ねぇ……」

「変な事言わないでください!」

 

度々漏れる喘ぎ声。耳元に届き、心臓が高鳴る。一刀はあたふたしながら、悪戦苦闘する。そして、漸くほどけた。

 

「はぁ~……漸くほどけた」

「その様ね……それと、北郷君」

「はい?」

 

視線を向けると、黄忠は笑顔のまま固まっていた。見間違いでなければ、どこか汗をかいているようにも見える。

 

「――――」

 

縄をほどくのに集中しすぎたせいか、後ろからやってくる“一人の影”に気づかなかった。

そしてその人物は今、一刀の背後に立っている。背中から感じる、とてつもない殺気。

黄忠以上に、滝の様な汗をかきながら、一刀は徐に、後ろを振り向く。

 

「あ……あ、あ、ああああ、愛紗……!?」

 

怒りのオーラを纏った“軍神”が仁王立ちで見下ろしていた。口は笑っているのだが、明らかに目は笑っていない。

 

「え……えと、その、あ、か、関羽さん?ち、違うんだ、これは、その」

「ほう…………何が?」

「ご、誤解してるかも知れないけど、決して、疚しい事じゃぁなくてですね……わたくしは、えと、助けようとして――――」

「養護教諭の先生を縄で卑しい結び方をして更に更にきつく締め付けて悲鳴を聞いて楽しんでいるこの状況を見て何が違うと言うのだ?」

「誤解ですってぇ~……」

 

いつの間にか正座して向かい合っており、呼び方も“愛紗”から“関羽”に。これは、相当ヤバイ、という意味だ。

後ろの黄忠は、助け船を出そうとする。

 

「あの、関羽さん?北郷君は別に悪いことは――――」

「黄忠先生は口を挟まないでいただきたい」

「あ、はい」

 

生徒の迫力に押され、小さくなる先生。

 

愛紗は肩に担いでいる、木製の薙刀の石突きを地面に叩きつける。ガンッ!と大きく鳴り、一刀と黄忠の肩がビクッ!と震えた。

 

「借り物競争でもそうだったが、お前というやつはそれほど女の胸が好きで好きでたまらないようだなぁ……?」

「いや、あれはお題だから仕方なく……」

「言い訳無用!」

「はいぃっ!」

 

有無を言わせない怒声に怯む一刀。そして、軍神の裁きが、今、執行されようとしていた。

 

「あ、愛紗さん?か、関羽さん?薙刀をゆっくりと振り上げないで!なんか怖いよ!?ちょ、本当に待って!?ねえっ!?死刑を執行するような動作やめて!?」

「天・誅っっっっっ!!」

「ぎゃあああああああああああああああ!!!」

 

関雲長の豪雨の様な制裁を食らう羽目となった一刀。

 

「嫉妬って、怖いものなのよ……」

「みたい、ですね……」

「怖ぁ……!」

 

一人だけ、何とか外に避難した黄忠先生。気づいたら後輩二人も扉に隠れており、先生に同意する。

体育倉庫から聞こえてくる悲鳴に、三人はガタガタと身を寄せあって震えていた。

 

 

 

 

群雄の学園生活は、まだまだ続く――――。

 


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